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第6章 白昼夢の存在証明
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夏休み最終日。
8月31日、現在時刻は8時。
「おぅ! 待たせたかッ」
「いや、私も今来たところ」
俺と栞菜は行きつけの喫茶店で待ち合わせをしていた。
今日、俺たちは“3人”で夏休みの宿題を終わらせる約束をしている。
その目的地は図書館の自習コーナーだった。
だが、前日に少し早く集まる提案を、栞菜からされたのだった。
喫茶店に集まったのは別の目的だ。
”残る1人”を置いて、俺たちは喫茶店に入店する。
「腹が減っては戦はできん~ッ」
「ちょっと。あまり大きな声は出さないようにね」
「多少は大丈夫だろ。わざわざ一番奥の四人席を取っているわけだしさ」
「私たちは確かにそうだろうけど、アナタは自重してようやく同等って感じだから」
「おいッ! 誰が“生きた爆竹”だッ!」
「そこまでは言ってないけど!?」
俺たちはメニューを手に取り、モーニングを店員に注文する。
ちょうどその時に”最後の1人”も到着した。
「――まっ、待たせてごめんねぇ~ッ!」
灯里が慌ただしくやってきて、栞菜を奥の座席に詰める。栞菜はそれに全くイヤな顔をしなかった。灯里は走ってきたようで、息が荒かった。
タイプの違う女子2人が並ぶと、なんだか照れ臭いな。
「ううん~、待ってないよ~。今ちょうどモーニングを頼んだところ~♪」
「えっ、ほんとぉ? よかったぁ~! 灯里も同じヤツ、お願いしまぁ~す!♪」
店員が注文を受けて下がる間、栞菜と灯里はニコニコと笑顔で会話をしていた。
出会ったばかりの頃はぎこちなかったのに、“あの夏の白昼夢”をきっかけに交遊が始まり、すっかり仲良くなっていた。
どうやら2人きりで遊びに行くこともあったらしい。……俺に内緒で。
別に妬いていないが、誘ってくれても良かったんじゃないかなぁって思うけど、口にしない俺。
別に置いてけぼりを喰らって寂しいわけでもないからな。
閑話休題。
「――お前、なんか荷物多くね?」
「ごめぇ~ん。課題、まだ結構残っててぇ~。今日一日でギリギリ終わらせられる量だけどぉ、思いの外、大量になっちゃったぁ~」
「運動部は他校との合同練習や練習試合、合宿とかもあって忙しいからね、仕方ないよ」
「……栞菜。お前最近、露骨に灯里に甘くねぇか?」
「そう?」
「うぅん、全然。栞菜ちゃんは最初からこんな感じだよぉ」
「「ねー♪」」
「…………」
そろそろツッコミを入れた方がいいのか……?
3人分のモーニングが届き、腹ごしらえを始める俺たち。
それと同時に、予定よりも早く集まった本題について、切り出した。
「――で、結局何の用だよ、栞菜」
「そうだねぇ、聞いても会うまで内緒の一点張りだったもんねぇ」
俺と灯里に質問され、栞菜はふと言いにくそうに目を泳がせ、モーニングで出された牛乳をストローでゴクリと飲む。
「――夏休みが今日で終わるじゃない? 明日から新学期が始まる。お互いの生活が始まると、部活動や委員会、普段の仲良しグループで行動することになって、あまり集まれなくなるんじゃないかなって思って、この場を設けさせてもらったの」
ほう。
「俺たち、クラスもバラバラだしな」
「土日はそれらに加えて、他の友達との遊びの約束も入るとなると、3人揃うのは目に見えて減るねぇ」
「もともと、俺と灯里でもこうして遊ぶ回数は、ほぼなかったよな?」
「そうだねぇ。極たま~に、会話して……くらいかなぁ。けいちゃんとは割と連絡とってるけど」
「……そうなのか?」
「うん、今年受験だしぃ、応援しないとねぇ」
「…………」
俺より年上の先輩してやがる。
栞菜はそんな俺たちを気にせずに続ける。
「最後に総括というか……区切りを付けたくてさ」
「区切り? なんの?」
「――“あの夜に見た白昼夢”でしょぉ?」
灯里がそう言って、バタートーストを頬張る。
栞菜が無言でうなずいた。
――“あの夜に見た白昼夢”。
俺たちがそう呼ぶのは、8月15日の深夜に起きた、”ローズ”と名付けた神獣に3つの願い事を叶えてもらったときのことを指す。
はぁ、と俺は溜め息を吐く。それと同時に、栞菜がギクリと肩を震わす。
「お前はまだあの時を気にしているのかよ」
「だ、だって気になるんだものッ。今の気持ちのままじゃ、学校生活を送れないッ」
栞菜は俺の目線を避けるように、テーブルを見ている。
ここ数日の付き合いで、栞菜が意外と強情で頑固で思い込みが強い性格だと知った。
これまでにも何回か、話題にされてきたので、またか、という気持ちがある。
こうしてわざわざ俺たちを一ヶ所に呼び集めたのは初めてだが。
――区切りを付ける、か。
俺はソーダをグビリと飲む。
「気になるってぇ、具体的にはぁ?」
灯里が話題を掘り下げる。
「うん……どう話したらいいのか」
栞菜はうまく喋れないようで、困った顔をしている。
俺は助け舟を出すことにした。
「会話ってのはキャッチボールだしな。いきなり結論から話すってのも舌が回らないだろ。もう2週間以上も前の話だし、少し復習しながら話してみるか?」
「ああ、いいねぇ」
俺の提案に灯里が共感する。
「あ」
栞菜はそんな俺に驚いた表情を浮かべるが、それも束の間、すぐに唇を一文字に引き絞り、何か強い意志を秘めた目で頷いた。
「そうしましょう。お願い」
彼女の真摯な目線に怯みつつも、俺は話始める。
「最初は8月上旬――”夜に見た白昼夢”の1週間前だったから、たしか8日か? 正午ごろに校舎に行き、その帰り道で小犬を拾ったんだったな」
「私と克樹くんの2人で拾ったね。まさか道端で拾った捨て犬が神獣だったとは、現実は小説よりも奇なりね」
「へぇ、そんな出会いだったんだ」
「そういえば、灯里は途中参加だったな。なんだか最初からいた気がするぜ」
「ものすごく馴染んでいるし、“夜に見た白昼夢”も一緒に過ごしたしね」
「えへへ~、それほどでもぉ~」
栞菜が灯里の頭を撫でる。
俺が灯里の頭を撫でようとしたら、彼女の頭に触れる前に腕を掴まれて防御された。痛い。
「そのあと、灯里の家に来てからの数日はぁ、平和な日々だったのよねぇ」
「まったくだ。家族が増えたようで一層賑やかになって、幸せな日々だったな」
「ね。今にして思えば多分私たちだけの“信仰”じゃないよね、きっと」
「たしかに。過去に戻れるほどの神通力って、よくよく考えるととんでもないよな」
「……今さらだけどさぁ、もっと過去に戻って、アインシュタイン博士や藤子・F・不二雄先生に会って、タイムマシンの可能性についてお話しするのもありだったかなぁ?」
「あっ、科学の力ではなくオカルトの力でタイムマシンしてきましたってか? ハハハハッ! 21世紀前半時点で、科学だけではまだまだ実現できないので、オカルトの力を借りましたってか! 傑作だな! その2人はどんな反応するんだろうなッ!」
「H・G・ウェルズやロバート・ゼメキス監督にも言ってみたいねぇ」
「そ、それは…………想像するだけで空恐ろしいよ」
栞菜が身震いする。
歴史が間違いなく変わるな。
そういえば――歴史を変えるような願い事は、禁止にされていないな……。
とはいえ、直接明言していないだけで、いざ願っても却下されるか。
「そして――8月15日、か」
つい、感慨深く言ってしまった。
過去に戻ったり、交通事故で死にかけたり、さすがに……な。
「夜の神社に集められて願いを言えって言われたんだよねぇ」
「ほんと、何度振り返っても通報ものだわ」
「二転三転した結果、過去に戻ったんだったな」
「そしてなんだかんだあって、克樹が自分でけいちゃんを助けて大怪我を負ったのよねぇ」
「それで――”現代に戻り”、”怪我を治し”、”事故の痕跡を無くした”、と」
俺はニヤリと笑う。
「あの時の灯里の慌てようったら、口調も変わってたよな」
「なっ!? そ、それはすごく心配したからでッ!? もう少しで克樹が、取り返しのつかないことになってたんだよッ!?」
「わかってるって――ありがとな。改めて言うけどよ、本当に助かったぜ」
「べ、別に気にしないでよ。当たり前のことをしただけだしぃ」
俺と灯里は少し気まずくなって、飲み物を飲む。
――なんだか、改めてお礼を言うのって、結構恥ずかしいな。顔も少し熱い。
灯里の顔を見ると、少し赤らんでいた。
少しの間、沈黙が下りる。
「お、おい。これで復習は終わりだぞ。さすがにどうするか決めろよな」
「そ、そうだよぉ。栞菜ちゃん、どうするのぉ?」
俺と灯里は互いのリアクションに困り、栞菜に話題を振る。
栞菜は、うん、と頷く。
「ありがとう。2人とも。検証したかったこともできたし、本題に入ろうか」
俺と灯里は栞菜に注目する。
「あれは――あの時の“夜に見た白昼夢”は、すべて夢だったのではないか、て思ってるの」
「「――は?」」
俺と灯里の声が一致する。
栞菜がそんな俺たちのリアクションを知ってか知らずか、話を始める。
「神獣に願いを叶えてくれた結果、5年の月日を遡り、過去の恩人に会いに行った」
栞菜はゴクリと唾を飲む。
「そんなことってあると思う――?」
栞菜は堰を切ったように話す。
「“夜に見た白昼夢”のことを知っているのは私たちだけ。過去に会った人の中で、克樹くん本人が当時を詳細に覚えてなかった以上、弟くんが覚えていないのは明白。公園で会った人たちはもちろん、事故車の運転手だった男性も探すのは不可能。あの日のことを知っている人は私たち以外に他にはいない」
「「…………」」
「もちろん分かってる! 私たちが拾ってお世話をした早太郎はいなくなっているし、灯里ちゃんのご両親やご兄弟には早太郎の記憶がしっかり残っている! でも――でも、やっぱり、過去に戻ったことの証明には何ら関係のないことなのよッ。日を経る毎に思いが強まってくるの……あの、刹那的で衝撃的な未知の体験は、自分は特別な体験ができる特別な人間なんだって気持ちが起こした、”夢”なんじゃないかって……」
「「…………」」
「本当は私たちは、集団催眠というか、幻覚を見ていたんじゃないかって思うのッ。だって――私たちが過去に戻って、現代に帰ってきたときと、世界は何一つ変わっていないものッ」
「「…………」」
「克樹は変わらず弟さんと折り合いが上手くいかず、灯里は変わらず部活動に励む日々を送ってる。私も同じ。夏休みが始まる前と、終わりを迎える今。仮に――タイムマシンで中間を省略してきたとしても、矛盾が生まれない。平和で、平凡で――幸福な夏休み」
栞菜はそう言い終わると表情が見えなくなるくらい顔を下げる。もはや、テーブルを挟んで謝罪をされているようだ。
「…………」「…………」
俺と灯里は互いに顔を見合わせる。
灯里は眉を顰め、怪訝な目をしていた。何か言おうか悩んでいるように、口元をプルプル震わせている。
「…………」
――“夜に見た白昼夢”は夢……または幻だったのでは? というのが栞菜の俺たちに言いたかったことらしい。
俺は落ち着くために、ソーダをグイッと飲み干した。
気持ちのいい炭酸が口の中で弾け、友人の心の悩みを見て困惑する脳をクリアにしていく。
正直な感想を言うと、”何を言っているんだ?” が俺の第一印象だった。
起こったことは起こっているのだから、それを疑う栞菜の感性が、俺には理解できなかった。
ただ、それをそのまま言ったところで、何の解決にもなりゃしないのは、IQ5000の俺には分かる。
なぜなら、その程度のことは栞菜にも分かってることだからだ。
曲がりなりにも我が校で1,2を争うほどの秀才――そんな彼女が夏休みの最終日というギリギリのタイミングで俺たちにそのココロを曝け出したのには、何か理由があるのだろう。
思えば――過去に戻り、現代に帰る間の出来事である”夜に見た白昼夢”に関して、栞菜は完全に蚊帳の外だった。
自分とは何の関係もない過去に関して、常に外野――いや、観客の立場だったと云える。
その反動が今の栞菜の苦悩に繋がっているのだとしたら――多少の責任感や同情を持つのも禁じ得ない。
謂わば、俺の我が儘のせいなのだから。
なので、俺の感想は変わらない――「何を言っているんだ?」 ではあるのだが、俺は“夜に見た白昼夢”は夢まぼろしではないのか? ではなく、栞菜のココロのモヤモヤを取っ払うにはどうしたらいいか? と考えることにした。
「――さっき言っていた“検証”って、何のことだったのぉ?」
俺が考えをまとめている間に、灯里が口を開いた。
栞菜がそれを受けて顔を上げる。心情を吐き出したからか、表情は想像よりも曇ってはいなかった。
「私たちの間で記憶違いがないかの検証なの。事前に言って意識させるとよくないかなぁと思ってて……無意識に、自然にやれて良かった」
「検証結果はどうだったぁ? 問題なかったでしょぉ?」
「うん」
「――夢と断定する前に、俺たちが見ているのか、自分だけが見ているのかを判別したかったってことか?」
「まあ、そんなところ」
「検証結果としては、俺たち3人の共通の夢、というわけか」
栞菜が無言で頷く。
「――神獣はたしかにいたぞ。俺はあいつの背中を上に乗って移動したからな」
「……それは、私たちは経験していない」
「ん、ちょっと待ってぇ。たしかそれは、克樹は気絶していたから、厳密に言えば経験していないよねぇ?」
「え。あ、ああ、気絶はしていたが……じゃあ、俺はどうやって神社に移動したんだ?」
「普通に連れてこられた……ってのが、私の推測」
そうくるか。
別の方法でも可能な事実だと否定される形か。
「分かった。これ以上は水掛け論だから止めておこう。それなら、過去に戻った時の昼間の日差し、公園の賑やかさ、夏の蒸し暑さ……あれは?」
「――夢まぼろし」
栞菜は小声で呟いた。上目遣いで俺の様子を伺うように見る。
「…………俺の怪我は?」
まさか、死の淵目をさ迷ったアレを、気のせいとは言うまいな。
「――不快な思いをさせたり、反感を持たれる覚悟で言うけれど、私たちが夢を見ている間に神獣が傷つけたんじゃないかなって……考えてみた」
灯里が絶句していた。
ふー、これは重症だな。
「お前の言いたいことはよぉく分かった」
栞菜と灯里が2人揃って俺を見る。
「お前が、”常識からかけ離れた過去の経験”と、”それでも否定できない本心”の板挟みになっていることは、よぉく分かった」
「…………」
「――“怖い”んだな。過去の自分の経験を、今の自分が証明できないことが。ある意味その“悩む元凶”となった“証拠隠滅”の願いをしたのは、お前だったか……当の本人がそれで頭を悩ませているのは皮肉なことだな」
「…………」
灯里は俺の発言を受けて、もの悲しい目を栞菜に向ける。
「お前は”全て”繋がっているんだな。過去の自分も、今の自分も、未来の自分も、すべて同一なんだ」
「…………」
「はっきり言うと、俺たちが何を言ってもお前には響かないと思うぞ。俺たちは既に受け入れている。俺たちは過去の自分は“過去”として捉えているから、今回の件は消化済みだ。これからの俺も灯里も、それは変わらない。ふと”あの夜に見た白昼夢”を思い出した時でも、俺たちは違和を感じたりはしない。過去は過去、今は今、未来は未来だ」
「…………」
栞菜は納得のいっていない顔をするだけだ。
俺は溜め息を吐く。
「……ふと、『世界5分前仮説』ってヤツを思い出したよ」
「「え?」」
栞菜と灯里が俺の顔を見る。
「『世界は実は5分前に始まったのかもしれない』っていう仮説だ」
哲学における懐疑主義的な思考実験のひとつで、20世紀にバートランド・ラッセルによって提唱されたものである。
この仮説は、確実に否定する事ができない。世界は5分前に出来たのではない、と証明することができないのだ。
つまり――過去というものが存在すると示す事が不可能という内容だ。
記憶とは何なのか? という今回の栞菜の疑問も、当てはまりそうだった。
「…………」
「へぇ、相変わらず、妙ちきりんなことを知っているねぇ」
栞菜は無言のまま、灯里は野次を飛ばす。
「まあ、俺の言いたいことはだな。昔の偉い哲学者でも、導き出せてない問いかけってことだ。俺たち中学生じゃ、スタートラインにも立てやしない」
「…………」
「だからよ――今すぐ解決しなくてもいいんじゃねぇかな?」
栞菜が驚愕に目を見張る。
「――問題の先送りってこと?」
「昭和後期に石油があと40年程度でなくなるという風説があったけれど、平成30年を経て、令和になった今でも石油がなくなる気配はないだろう? それは、平成期間に技術進歩による資源回収率の向上や新たな石油資源の発見があったからで、石油生産量は今後も増加していく見込みらしい。つまりは、そういうことだ。」
「時間が解決するとまでは言わないけどぉ、時間と共に人類の英知は進んでいるってことねぇ」
「ああ。あらゆる問題がすぐに解決するわけじゃない。フェルマーの最終定理だって、350年掛かったんだ。お前の疑問も、きっと”それ”と同等の価値があるよ」
「…………」
「俺もそういうモヤモヤを5年抱えていたが、今回無事に解消できた。俺はそんなこと、想像だにしていなかった。同じように、今のお前の苦悩も、ひょんなことで解決の糸口が見つかるかもしれん」
「…………」
「焦っても視野が狭くなるだけだ。気長にいこうぜ」
「気楽に、か……」
「そうそう、灯里もいつだって協力するからさぁ。時々こうして会って話してもいいしねぇ」
「そうそう、他人のカネで食う飯はウマいしな」
「えぇ!? 栞菜ちゃんに奢らせる気ぃ!?」
「当然だ! 栞菜のためだけに集まるんだから!」
「……ハァ、だから友達がいないんだよぉ?」
「いるわ!」
栞菜がクスリと笑う。
「そうね。今すぐ解かないといけないわけでもないし……肩の力抜いてもいいかもね」
栞菜はふと、店内を眺める。
俺たちも釣られて視線を追った。
老人が新聞紙を拡げていたり、俺たちより年上の学生が英単語帳を眺めている。サラリーマンらしい人がパソコンで作業をしている横で、店員たちが井戸端会議をしている。
「――もしこの夏休みを振り返りたくなったときは、俺が付けてる日記を貸してやるぜ」
「ヘンなこと書いてないでしょうねぇ?」
「書かないでかッ!」
栞菜は優しく微笑んだ。
「そのときは、ありがたく借り受けるわ」
「ありがとう」
栞菜が小声で言ったお礼を、俺たちは静かに受け取った。
8月31日、現在時刻は8時。
「おぅ! 待たせたかッ」
「いや、私も今来たところ」
俺と栞菜は行きつけの喫茶店で待ち合わせをしていた。
今日、俺たちは“3人”で夏休みの宿題を終わらせる約束をしている。
その目的地は図書館の自習コーナーだった。
だが、前日に少し早く集まる提案を、栞菜からされたのだった。
喫茶店に集まったのは別の目的だ。
”残る1人”を置いて、俺たちは喫茶店に入店する。
「腹が減っては戦はできん~ッ」
「ちょっと。あまり大きな声は出さないようにね」
「多少は大丈夫だろ。わざわざ一番奥の四人席を取っているわけだしさ」
「私たちは確かにそうだろうけど、アナタは自重してようやく同等って感じだから」
「おいッ! 誰が“生きた爆竹”だッ!」
「そこまでは言ってないけど!?」
俺たちはメニューを手に取り、モーニングを店員に注文する。
ちょうどその時に”最後の1人”も到着した。
「――まっ、待たせてごめんねぇ~ッ!」
灯里が慌ただしくやってきて、栞菜を奥の座席に詰める。栞菜はそれに全くイヤな顔をしなかった。灯里は走ってきたようで、息が荒かった。
タイプの違う女子2人が並ぶと、なんだか照れ臭いな。
「ううん~、待ってないよ~。今ちょうどモーニングを頼んだところ~♪」
「えっ、ほんとぉ? よかったぁ~! 灯里も同じヤツ、お願いしまぁ~す!♪」
店員が注文を受けて下がる間、栞菜と灯里はニコニコと笑顔で会話をしていた。
出会ったばかりの頃はぎこちなかったのに、“あの夏の白昼夢”をきっかけに交遊が始まり、すっかり仲良くなっていた。
どうやら2人きりで遊びに行くこともあったらしい。……俺に内緒で。
別に妬いていないが、誘ってくれても良かったんじゃないかなぁって思うけど、口にしない俺。
別に置いてけぼりを喰らって寂しいわけでもないからな。
閑話休題。
「――お前、なんか荷物多くね?」
「ごめぇ~ん。課題、まだ結構残っててぇ~。今日一日でギリギリ終わらせられる量だけどぉ、思いの外、大量になっちゃったぁ~」
「運動部は他校との合同練習や練習試合、合宿とかもあって忙しいからね、仕方ないよ」
「……栞菜。お前最近、露骨に灯里に甘くねぇか?」
「そう?」
「うぅん、全然。栞菜ちゃんは最初からこんな感じだよぉ」
「「ねー♪」」
「…………」
そろそろツッコミを入れた方がいいのか……?
3人分のモーニングが届き、腹ごしらえを始める俺たち。
それと同時に、予定よりも早く集まった本題について、切り出した。
「――で、結局何の用だよ、栞菜」
「そうだねぇ、聞いても会うまで内緒の一点張りだったもんねぇ」
俺と灯里に質問され、栞菜はふと言いにくそうに目を泳がせ、モーニングで出された牛乳をストローでゴクリと飲む。
「――夏休みが今日で終わるじゃない? 明日から新学期が始まる。お互いの生活が始まると、部活動や委員会、普段の仲良しグループで行動することになって、あまり集まれなくなるんじゃないかなって思って、この場を設けさせてもらったの」
ほう。
「俺たち、クラスもバラバラだしな」
「土日はそれらに加えて、他の友達との遊びの約束も入るとなると、3人揃うのは目に見えて減るねぇ」
「もともと、俺と灯里でもこうして遊ぶ回数は、ほぼなかったよな?」
「そうだねぇ。極たま~に、会話して……くらいかなぁ。けいちゃんとは割と連絡とってるけど」
「……そうなのか?」
「うん、今年受験だしぃ、応援しないとねぇ」
「…………」
俺より年上の先輩してやがる。
栞菜はそんな俺たちを気にせずに続ける。
「最後に総括というか……区切りを付けたくてさ」
「区切り? なんの?」
「――“あの夜に見た白昼夢”でしょぉ?」
灯里がそう言って、バタートーストを頬張る。
栞菜が無言でうなずいた。
――“あの夜に見た白昼夢”。
俺たちがそう呼ぶのは、8月15日の深夜に起きた、”ローズ”と名付けた神獣に3つの願い事を叶えてもらったときのことを指す。
はぁ、と俺は溜め息を吐く。それと同時に、栞菜がギクリと肩を震わす。
「お前はまだあの時を気にしているのかよ」
「だ、だって気になるんだものッ。今の気持ちのままじゃ、学校生活を送れないッ」
栞菜は俺の目線を避けるように、テーブルを見ている。
ここ数日の付き合いで、栞菜が意外と強情で頑固で思い込みが強い性格だと知った。
これまでにも何回か、話題にされてきたので、またか、という気持ちがある。
こうしてわざわざ俺たちを一ヶ所に呼び集めたのは初めてだが。
――区切りを付ける、か。
俺はソーダをグビリと飲む。
「気になるってぇ、具体的にはぁ?」
灯里が話題を掘り下げる。
「うん……どう話したらいいのか」
栞菜はうまく喋れないようで、困った顔をしている。
俺は助け舟を出すことにした。
「会話ってのはキャッチボールだしな。いきなり結論から話すってのも舌が回らないだろ。もう2週間以上も前の話だし、少し復習しながら話してみるか?」
「ああ、いいねぇ」
俺の提案に灯里が共感する。
「あ」
栞菜はそんな俺に驚いた表情を浮かべるが、それも束の間、すぐに唇を一文字に引き絞り、何か強い意志を秘めた目で頷いた。
「そうしましょう。お願い」
彼女の真摯な目線に怯みつつも、俺は話始める。
「最初は8月上旬――”夜に見た白昼夢”の1週間前だったから、たしか8日か? 正午ごろに校舎に行き、その帰り道で小犬を拾ったんだったな」
「私と克樹くんの2人で拾ったね。まさか道端で拾った捨て犬が神獣だったとは、現実は小説よりも奇なりね」
「へぇ、そんな出会いだったんだ」
「そういえば、灯里は途中参加だったな。なんだか最初からいた気がするぜ」
「ものすごく馴染んでいるし、“夜に見た白昼夢”も一緒に過ごしたしね」
「えへへ~、それほどでもぉ~」
栞菜が灯里の頭を撫でる。
俺が灯里の頭を撫でようとしたら、彼女の頭に触れる前に腕を掴まれて防御された。痛い。
「そのあと、灯里の家に来てからの数日はぁ、平和な日々だったのよねぇ」
「まったくだ。家族が増えたようで一層賑やかになって、幸せな日々だったな」
「ね。今にして思えば多分私たちだけの“信仰”じゃないよね、きっと」
「たしかに。過去に戻れるほどの神通力って、よくよく考えるととんでもないよな」
「……今さらだけどさぁ、もっと過去に戻って、アインシュタイン博士や藤子・F・不二雄先生に会って、タイムマシンの可能性についてお話しするのもありだったかなぁ?」
「あっ、科学の力ではなくオカルトの力でタイムマシンしてきましたってか? ハハハハッ! 21世紀前半時点で、科学だけではまだまだ実現できないので、オカルトの力を借りましたってか! 傑作だな! その2人はどんな反応するんだろうなッ!」
「H・G・ウェルズやロバート・ゼメキス監督にも言ってみたいねぇ」
「そ、それは…………想像するだけで空恐ろしいよ」
栞菜が身震いする。
歴史が間違いなく変わるな。
そういえば――歴史を変えるような願い事は、禁止にされていないな……。
とはいえ、直接明言していないだけで、いざ願っても却下されるか。
「そして――8月15日、か」
つい、感慨深く言ってしまった。
過去に戻ったり、交通事故で死にかけたり、さすがに……な。
「夜の神社に集められて願いを言えって言われたんだよねぇ」
「ほんと、何度振り返っても通報ものだわ」
「二転三転した結果、過去に戻ったんだったな」
「そしてなんだかんだあって、克樹が自分でけいちゃんを助けて大怪我を負ったのよねぇ」
「それで――”現代に戻り”、”怪我を治し”、”事故の痕跡を無くした”、と」
俺はニヤリと笑う。
「あの時の灯里の慌てようったら、口調も変わってたよな」
「なっ!? そ、それはすごく心配したからでッ!? もう少しで克樹が、取り返しのつかないことになってたんだよッ!?」
「わかってるって――ありがとな。改めて言うけどよ、本当に助かったぜ」
「べ、別に気にしないでよ。当たり前のことをしただけだしぃ」
俺と灯里は少し気まずくなって、飲み物を飲む。
――なんだか、改めてお礼を言うのって、結構恥ずかしいな。顔も少し熱い。
灯里の顔を見ると、少し赤らんでいた。
少しの間、沈黙が下りる。
「お、おい。これで復習は終わりだぞ。さすがにどうするか決めろよな」
「そ、そうだよぉ。栞菜ちゃん、どうするのぉ?」
俺と灯里は互いのリアクションに困り、栞菜に話題を振る。
栞菜は、うん、と頷く。
「ありがとう。2人とも。検証したかったこともできたし、本題に入ろうか」
俺と灯里は栞菜に注目する。
「あれは――あの時の“夜に見た白昼夢”は、すべて夢だったのではないか、て思ってるの」
「「――は?」」
俺と灯里の声が一致する。
栞菜がそんな俺たちのリアクションを知ってか知らずか、話を始める。
「神獣に願いを叶えてくれた結果、5年の月日を遡り、過去の恩人に会いに行った」
栞菜はゴクリと唾を飲む。
「そんなことってあると思う――?」
栞菜は堰を切ったように話す。
「“夜に見た白昼夢”のことを知っているのは私たちだけ。過去に会った人の中で、克樹くん本人が当時を詳細に覚えてなかった以上、弟くんが覚えていないのは明白。公園で会った人たちはもちろん、事故車の運転手だった男性も探すのは不可能。あの日のことを知っている人は私たち以外に他にはいない」
「「…………」」
「もちろん分かってる! 私たちが拾ってお世話をした早太郎はいなくなっているし、灯里ちゃんのご両親やご兄弟には早太郎の記憶がしっかり残っている! でも――でも、やっぱり、過去に戻ったことの証明には何ら関係のないことなのよッ。日を経る毎に思いが強まってくるの……あの、刹那的で衝撃的な未知の体験は、自分は特別な体験ができる特別な人間なんだって気持ちが起こした、”夢”なんじゃないかって……」
「「…………」」
「本当は私たちは、集団催眠というか、幻覚を見ていたんじゃないかって思うのッ。だって――私たちが過去に戻って、現代に帰ってきたときと、世界は何一つ変わっていないものッ」
「「…………」」
「克樹は変わらず弟さんと折り合いが上手くいかず、灯里は変わらず部活動に励む日々を送ってる。私も同じ。夏休みが始まる前と、終わりを迎える今。仮に――タイムマシンで中間を省略してきたとしても、矛盾が生まれない。平和で、平凡で――幸福な夏休み」
栞菜はそう言い終わると表情が見えなくなるくらい顔を下げる。もはや、テーブルを挟んで謝罪をされているようだ。
「…………」「…………」
俺と灯里は互いに顔を見合わせる。
灯里は眉を顰め、怪訝な目をしていた。何か言おうか悩んでいるように、口元をプルプル震わせている。
「…………」
――“夜に見た白昼夢”は夢……または幻だったのでは? というのが栞菜の俺たちに言いたかったことらしい。
俺は落ち着くために、ソーダをグイッと飲み干した。
気持ちのいい炭酸が口の中で弾け、友人の心の悩みを見て困惑する脳をクリアにしていく。
正直な感想を言うと、”何を言っているんだ?” が俺の第一印象だった。
起こったことは起こっているのだから、それを疑う栞菜の感性が、俺には理解できなかった。
ただ、それをそのまま言ったところで、何の解決にもなりゃしないのは、IQ5000の俺には分かる。
なぜなら、その程度のことは栞菜にも分かってることだからだ。
曲がりなりにも我が校で1,2を争うほどの秀才――そんな彼女が夏休みの最終日というギリギリのタイミングで俺たちにそのココロを曝け出したのには、何か理由があるのだろう。
思えば――過去に戻り、現代に帰る間の出来事である”夜に見た白昼夢”に関して、栞菜は完全に蚊帳の外だった。
自分とは何の関係もない過去に関して、常に外野――いや、観客の立場だったと云える。
その反動が今の栞菜の苦悩に繋がっているのだとしたら――多少の責任感や同情を持つのも禁じ得ない。
謂わば、俺の我が儘のせいなのだから。
なので、俺の感想は変わらない――「何を言っているんだ?」 ではあるのだが、俺は“夜に見た白昼夢”は夢まぼろしではないのか? ではなく、栞菜のココロのモヤモヤを取っ払うにはどうしたらいいか? と考えることにした。
「――さっき言っていた“検証”って、何のことだったのぉ?」
俺が考えをまとめている間に、灯里が口を開いた。
栞菜がそれを受けて顔を上げる。心情を吐き出したからか、表情は想像よりも曇ってはいなかった。
「私たちの間で記憶違いがないかの検証なの。事前に言って意識させるとよくないかなぁと思ってて……無意識に、自然にやれて良かった」
「検証結果はどうだったぁ? 問題なかったでしょぉ?」
「うん」
「――夢と断定する前に、俺たちが見ているのか、自分だけが見ているのかを判別したかったってことか?」
「まあ、そんなところ」
「検証結果としては、俺たち3人の共通の夢、というわけか」
栞菜が無言で頷く。
「――神獣はたしかにいたぞ。俺はあいつの背中を上に乗って移動したからな」
「……それは、私たちは経験していない」
「ん、ちょっと待ってぇ。たしかそれは、克樹は気絶していたから、厳密に言えば経験していないよねぇ?」
「え。あ、ああ、気絶はしていたが……じゃあ、俺はどうやって神社に移動したんだ?」
「普通に連れてこられた……ってのが、私の推測」
そうくるか。
別の方法でも可能な事実だと否定される形か。
「分かった。これ以上は水掛け論だから止めておこう。それなら、過去に戻った時の昼間の日差し、公園の賑やかさ、夏の蒸し暑さ……あれは?」
「――夢まぼろし」
栞菜は小声で呟いた。上目遣いで俺の様子を伺うように見る。
「…………俺の怪我は?」
まさか、死の淵目をさ迷ったアレを、気のせいとは言うまいな。
「――不快な思いをさせたり、反感を持たれる覚悟で言うけれど、私たちが夢を見ている間に神獣が傷つけたんじゃないかなって……考えてみた」
灯里が絶句していた。
ふー、これは重症だな。
「お前の言いたいことはよぉく分かった」
栞菜と灯里が2人揃って俺を見る。
「お前が、”常識からかけ離れた過去の経験”と、”それでも否定できない本心”の板挟みになっていることは、よぉく分かった」
「…………」
「――“怖い”んだな。過去の自分の経験を、今の自分が証明できないことが。ある意味その“悩む元凶”となった“証拠隠滅”の願いをしたのは、お前だったか……当の本人がそれで頭を悩ませているのは皮肉なことだな」
「…………」
灯里は俺の発言を受けて、もの悲しい目を栞菜に向ける。
「お前は”全て”繋がっているんだな。過去の自分も、今の自分も、未来の自分も、すべて同一なんだ」
「…………」
「はっきり言うと、俺たちが何を言ってもお前には響かないと思うぞ。俺たちは既に受け入れている。俺たちは過去の自分は“過去”として捉えているから、今回の件は消化済みだ。これからの俺も灯里も、それは変わらない。ふと”あの夜に見た白昼夢”を思い出した時でも、俺たちは違和を感じたりはしない。過去は過去、今は今、未来は未来だ」
「…………」
栞菜は納得のいっていない顔をするだけだ。
俺は溜め息を吐く。
「……ふと、『世界5分前仮説』ってヤツを思い出したよ」
「「え?」」
栞菜と灯里が俺の顔を見る。
「『世界は実は5分前に始まったのかもしれない』っていう仮説だ」
哲学における懐疑主義的な思考実験のひとつで、20世紀にバートランド・ラッセルによって提唱されたものである。
この仮説は、確実に否定する事ができない。世界は5分前に出来たのではない、と証明することができないのだ。
つまり――過去というものが存在すると示す事が不可能という内容だ。
記憶とは何なのか? という今回の栞菜の疑問も、当てはまりそうだった。
「…………」
「へぇ、相変わらず、妙ちきりんなことを知っているねぇ」
栞菜は無言のまま、灯里は野次を飛ばす。
「まあ、俺の言いたいことはだな。昔の偉い哲学者でも、導き出せてない問いかけってことだ。俺たち中学生じゃ、スタートラインにも立てやしない」
「…………」
「だからよ――今すぐ解決しなくてもいいんじゃねぇかな?」
栞菜が驚愕に目を見張る。
「――問題の先送りってこと?」
「昭和後期に石油があと40年程度でなくなるという風説があったけれど、平成30年を経て、令和になった今でも石油がなくなる気配はないだろう? それは、平成期間に技術進歩による資源回収率の向上や新たな石油資源の発見があったからで、石油生産量は今後も増加していく見込みらしい。つまりは、そういうことだ。」
「時間が解決するとまでは言わないけどぉ、時間と共に人類の英知は進んでいるってことねぇ」
「ああ。あらゆる問題がすぐに解決するわけじゃない。フェルマーの最終定理だって、350年掛かったんだ。お前の疑問も、きっと”それ”と同等の価値があるよ」
「…………」
「俺もそういうモヤモヤを5年抱えていたが、今回無事に解消できた。俺はそんなこと、想像だにしていなかった。同じように、今のお前の苦悩も、ひょんなことで解決の糸口が見つかるかもしれん」
「…………」
「焦っても視野が狭くなるだけだ。気長にいこうぜ」
「気楽に、か……」
「そうそう、灯里もいつだって協力するからさぁ。時々こうして会って話してもいいしねぇ」
「そうそう、他人のカネで食う飯はウマいしな」
「えぇ!? 栞菜ちゃんに奢らせる気ぃ!?」
「当然だ! 栞菜のためだけに集まるんだから!」
「……ハァ、だから友達がいないんだよぉ?」
「いるわ!」
栞菜がクスリと笑う。
「そうね。今すぐ解かないといけないわけでもないし……肩の力抜いてもいいかもね」
栞菜はふと、店内を眺める。
俺たちも釣られて視線を追った。
老人が新聞紙を拡げていたり、俺たちより年上の学生が英単語帳を眺めている。サラリーマンらしい人がパソコンで作業をしている横で、店員たちが井戸端会議をしている。
「――もしこの夏休みを振り返りたくなったときは、俺が付けてる日記を貸してやるぜ」
「ヘンなこと書いてないでしょうねぇ?」
「書かないでかッ!」
栞菜は優しく微笑んだ。
「そのときは、ありがたく借り受けるわ」
「ありがとう」
栞菜が小声で言ったお礼を、俺たちは静かに受け取った。
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