23 / 37
第1章 楽園は希望を駆逐する
第3話 崖っぷちの平穏(3日目) その6
しおりを挟む
翌朝、朝食を摂りに食堂に向かう廊下で、織田流水と空狐が出会った。
「「おはよう」」
2人は横に並んで一緒に食堂に向かう。
空狐は取るに足らない話を振る。
「織田が時間通り来るの久しぶりだな。人質になって初か?」
「うん、そうだね。色々あって参加できなかったなぁ。皆と朝から顔を合わせるの、楽しみだよ」
織田流水のセリフを受けて、空狐は顔ごと動かし、目を丸くして彼の顔を見る。
「え、な、何かな? 僕の顔に何か付いてる?///」
織田流水が空狐に真正面から見られて照れる。
空狐はお目目がパッチリしていて、睫毛が長くて可愛いなと、織田流水は呑気に思う。
そんな織田流水の気持ちを知らずに、空狐が告げる。
「……改めて思うが、お前も大概図太い神経しているな」
「えっ、急にどうしたの?」
空狐は顔を前に向ける。
「人質生活も4日目――いかに自由行動を認められているとはいえ、施設の中に籠り切り、見張りの監視も変わらずある毎日。そろそろ”心”が悲鳴を上げる頃だ」
「……あぁ、言われてみればそうだね」
織田流水はまるで考えていなかったようで、軽い返事をする。
「――さすがは、和泉の助手を長いこと続けているだけはある」
空狐の発言に織田流水が苦笑する。
「そんな、和泉さんはそこまでは……いや、うん……でも、そう言う空狐さんだって平気そうじゃん。それはどうなの」
織田流水は和泉忍のフォローをしようとしたが、フォローできず話題を変える。
「ウチはいいんだよ。ウチはどんな状況だろうと決してウチを裏切らない”モノ”があるからな」
「えっ、それってな――」
空狐と織田流水が雑談しながら食堂に入室する時――、
――ガシャーンッッ!!
と、[食堂]とは違う場所から大きな物音が聞こえた。
「えっ!? な、なになにっ!?」
「……[医務室]の方から聞こえてきたな。何かあったのか」
織田流水と空狐が[医務室]に向かう。
[医務室]に入室すると、怒鳴り声が聞こえた。
「お前、いい加減にしろッ!」
「……チッ」
――深木絵梨と美ヶ島秋比呂の2人がいた。
深木絵梨は仁王立ちで拳を固めている。普段被っている大きい帽子も、丸椅子に置かれている。彼女の綺麗な長い金髪が、怒りに逆立っているようだった。
美ヶ島秋比呂はタンスにもたれかかるように座り込んでいた。彼の頬は赤く腫れている。
状況から見て、深木絵梨が美ヶ島秋比呂を殴り倒したようだ。
「な、何があったのッ!?」「おいおい、リアルファイトは野蛮だぜ?」
穏やかじゃない雰囲気を感じ取った織田流水と空狐が、同時に2人の間に割って入る。
織田流水が美ヶ島秋比呂に駆け寄る。
「大丈夫ッ!? どうしたの、美ヶ島くんッ!?」
美ヶ島秋比呂は織田流水と目を合わせない。
「……いや、なんでもねぇよ。ズッコケただけだ」
「どんなコケ方なのッ!? 頬っぺた赤くなってるよッ!」
美ヶ島秋比呂が織田流水の肩を借りずに自分で立ち上がる。
空狐が深木絵梨に近づいた。
「どうしたんだよ、深木。お前が誰かとモメるなんて珍しいな」
「…………」
「残念ながら、ウチは南北と違ってテレパシーは履修していないぜ?」
「わかってる!」
深木絵梨はその大きい胸を持ち上げるように腕を組み、空狐から顔を逸らす。見るからに不機嫌だ。
「…………」
「…………」
外野が来たことで冷静になったのか、不自然なほど深木絵梨と美ヶ島秋比呂は口を閉ざす。
空狐と織田流水がそんな2人の態度に不満を表す。
「おいおい、お前ら、あれだけ険悪になっていたのにウチらに内緒か? 喧嘩の原因が分からなければ仲裁もできないぜ。お前ら、また喧嘩したいのか?」
「そ、そうだよ! 二人とも、お願いだから説明してよ! こんな状況だし、協力しよう?」
「おいおい、お前ら、本当に“おいおい”だな。まったく、“おいおい”だぜ」
「空狐さん! 茶化さないの!」
軽口を叩く空狐と懸命な織田流水の姿に絆されてか、2人が語りだす。
「――ソイツがいつまでもここに来るからだ」
「俺が毎日ここにいるのが気に食わないらしい」
どうやら話を聞くと、メディカル三姉妹で当番制を組んだ結果、深木絵梨は1日のうち2回、計およそ6時間の看護をしているらしい。交代制であるため間に6時間近くの休憩を挟んではいるが、慣れない看護生活に嫌気が差している様子。
そんな時に、ろくにやることもない“暇人”が折角の自由時間を同じ看護に割いてくるのが、嫌味に感じて酷く苛立たせるのだそうだ。
「み、美ヶ島くんは大浜くんを心配して……なのに、そんな言い方――」
「まあまあ、深木の言い分は分かる」
空狐は織田流水の肩をポンポンと叩き、彼のセリフを遮る。
“仲裁する”と言った手前、どんな理由であれ、どっちかに肩入れすることは“双方”に対する裏切りだということを、空狐は知っていた。
「うんうん、睡眠時間と合わせると、1日24時間あるうち半分以上を行動制限されてるもんな。お前の気持ちもウチなら分かるよ」
空狐の同意を受け、深木絵梨が美ヶ島秋比呂を指差す。
「そうよ! なのに、コイツは私よりも長く[医務室]にいるくせに何もせずウジウジと、ただただウジウジウジウジするだけで1日を終える“贅沢”な過ごし方が、目障りで仕方がないのよ!」
非常に珍しく、目を吊り上げて怒る深木絵梨に、織田流水は口をポカンと開けるだけだった。
「だ、そうだが、美ヶ島は何か反論はあるか?」
空狐に話を振られた美ヶ島秋比呂は――、
「…………しかたねぇだろ。俺は何もできねぇんだから。でも、大浜を放っぽって過ごす気分にもなれねぇよ」
――弱弱しく言い返す。
「だ、そうだぞ? 深木はそれを承知の上で怒るってことだよな?」
「……そうね。アナタの気持ちも理解できる。後悔や罪悪感は人を蝕むもの。でも……仏の顔も三度まで。私の堪忍袋も限度があるわ」
深木絵梨は再び腕を組み、彼女の大きな胸が主張する。
そんな彼女の様子に空狐は溜め息を吐く。
「やれやれ、こりゃ梃子でも動かねぇな。もう諦めよう、解散」
「ちょっと!? 空狐さん、ふざけないで真面目にやってよ!」
「わかったわかった。はいはい、やれやれだぜ」
織田流水に怒られた空狐は頭を掻く。
「ん~、美ヶ島は深木の言い分を受け入れて、ここに来ないってのはどうだ?」
「…………分かった。たしかに、言われてみれば不毛だったかもしれん…………もうここには来ないようにs――」
「んにゃ、ムリそうだな」
「――なっ!?」
空狐にバッサリ切られた美ヶ島秋比呂は、彼女に真意を問う目を向ける。
「行動を改められる人は、そんな辛い顔をして言わないものさ。無理な行動は心身が穢れるぞ? ちなみに、深木は彼の心情を慮って寛容になる可能性は――」「ない」「――あるのか? って、ないのね、はいはい。食い気味に言われるとはな、やれやれ」
空狐は少し思案して妥協案を出す。
「正直、ウチらの間でも美ヶ島の“自虐的な献身”は健康を害するのではないかと話しをしていたんだ。だから、これを機に行動は改めた方がいいと思う。でも、美ヶ島の気持ちも分かる。だから、お互いに歩み寄ろう」
「歩み寄る?」
「ああ。美ヶ島、いつぞやの晩御飯も食べに来ていなかっただろう? 食事を抜くほどの付き添いはやめよう。だから、深木が当番している時は[医務室]に来ないこと。深木も、自分がいないときの美ヶ島の行動は見逃してやれ」
深木絵梨は、美ヶ島秋比呂の同席を許さない代わりに、彼の行動を完全には制限しない。
美ヶ島秋比呂は、深木絵梨の神経を逆撫でしないように配慮する代わりに、自身の健康を害さない程度にはお見舞いすることができる。
そういった妥協案だった。
「「…………」」
まだ何か言いたげな2人に、空狐が”魔法の言葉”を掛ける。
「これでダメなら、もう鬼之崎と狗神に処遇を一任するしかないな」
「「……分かった」」
2人は渋々といった様子だが、了承した。
「とりあえず、これで仲裁、できた?」と、織田流水がおずおずと尋ねる。
「やはり暴力! 暴力をちらつかせば全て解決する! 話し合いで解決できない以上、無理やり解決させるしかない、拳で!」と、空狐が得意げな顔をする。
深木絵梨と美ヶ島秋比呂はお互いの顔を見ず、若干の気詰まりな雰囲気があるが、これ以上の仲裁はお節介か。
空狐がフッと笑う。
「まあ、冗談は置いておいて。応急処置だけど、解決してよかった。根本的な解決は、やはり大浜が目覚めないとムリだからな」
織田流水が彼女を労った。
「いや、よかったよ! さすがの手際だよ、空狐さん! ありがとう!」
「そう褒めんなよ、<外交官>! お前には負けるって!」
「…………」
空狐に皮肉を言われた織田流水は複雑な胸中を抱き、黙る。
キンコーン!
ちょうどひと段落したところでチャイムが鳴り響く。
『あー、マイクテス、マイクテス』
[医務室]にいた4名は、天井に備え付けられたスピーカーを見上げる。
『朝食の時間だというのに、キミたちいなさすぎだよ! 今すぐ食堂に集合だよ! 8時ダヨ、全員集合! ルールを破った子がいます! 至急! 集合! 至急ッ! 集合ッ!』
ブツリと切れる放送。顔を見合わせる一同。
「……行くか」「ええ、行きましょう」
「あっ、でも大浜くんが……」
「“むい”を無視する方が危険だわ。多少の席外しは仕方ないわよ」と、深木絵梨。
「……うん、そうだね」と、織田流水。
「やれやれ、本当に“やれやれ”だぜ、まったく。朝っぱらから“やれやれ”だ」と、空狐。
「……空狐さん、ふざけてないで行くよ……」と、織田流水。
一行は[医務室]を出て、食堂に向かう。
「「おはよう」」
2人は横に並んで一緒に食堂に向かう。
空狐は取るに足らない話を振る。
「織田が時間通り来るの久しぶりだな。人質になって初か?」
「うん、そうだね。色々あって参加できなかったなぁ。皆と朝から顔を合わせるの、楽しみだよ」
織田流水のセリフを受けて、空狐は顔ごと動かし、目を丸くして彼の顔を見る。
「え、な、何かな? 僕の顔に何か付いてる?///」
織田流水が空狐に真正面から見られて照れる。
空狐はお目目がパッチリしていて、睫毛が長くて可愛いなと、織田流水は呑気に思う。
そんな織田流水の気持ちを知らずに、空狐が告げる。
「……改めて思うが、お前も大概図太い神経しているな」
「えっ、急にどうしたの?」
空狐は顔を前に向ける。
「人質生活も4日目――いかに自由行動を認められているとはいえ、施設の中に籠り切り、見張りの監視も変わらずある毎日。そろそろ”心”が悲鳴を上げる頃だ」
「……あぁ、言われてみればそうだね」
織田流水はまるで考えていなかったようで、軽い返事をする。
「――さすがは、和泉の助手を長いこと続けているだけはある」
空狐の発言に織田流水が苦笑する。
「そんな、和泉さんはそこまでは……いや、うん……でも、そう言う空狐さんだって平気そうじゃん。それはどうなの」
織田流水は和泉忍のフォローをしようとしたが、フォローできず話題を変える。
「ウチはいいんだよ。ウチはどんな状況だろうと決してウチを裏切らない”モノ”があるからな」
「えっ、それってな――」
空狐と織田流水が雑談しながら食堂に入室する時――、
――ガシャーンッッ!!
と、[食堂]とは違う場所から大きな物音が聞こえた。
「えっ!? な、なになにっ!?」
「……[医務室]の方から聞こえてきたな。何かあったのか」
織田流水と空狐が[医務室]に向かう。
[医務室]に入室すると、怒鳴り声が聞こえた。
「お前、いい加減にしろッ!」
「……チッ」
――深木絵梨と美ヶ島秋比呂の2人がいた。
深木絵梨は仁王立ちで拳を固めている。普段被っている大きい帽子も、丸椅子に置かれている。彼女の綺麗な長い金髪が、怒りに逆立っているようだった。
美ヶ島秋比呂はタンスにもたれかかるように座り込んでいた。彼の頬は赤く腫れている。
状況から見て、深木絵梨が美ヶ島秋比呂を殴り倒したようだ。
「な、何があったのッ!?」「おいおい、リアルファイトは野蛮だぜ?」
穏やかじゃない雰囲気を感じ取った織田流水と空狐が、同時に2人の間に割って入る。
織田流水が美ヶ島秋比呂に駆け寄る。
「大丈夫ッ!? どうしたの、美ヶ島くんッ!?」
美ヶ島秋比呂は織田流水と目を合わせない。
「……いや、なんでもねぇよ。ズッコケただけだ」
「どんなコケ方なのッ!? 頬っぺた赤くなってるよッ!」
美ヶ島秋比呂が織田流水の肩を借りずに自分で立ち上がる。
空狐が深木絵梨に近づいた。
「どうしたんだよ、深木。お前が誰かとモメるなんて珍しいな」
「…………」
「残念ながら、ウチは南北と違ってテレパシーは履修していないぜ?」
「わかってる!」
深木絵梨はその大きい胸を持ち上げるように腕を組み、空狐から顔を逸らす。見るからに不機嫌だ。
「…………」
「…………」
外野が来たことで冷静になったのか、不自然なほど深木絵梨と美ヶ島秋比呂は口を閉ざす。
空狐と織田流水がそんな2人の態度に不満を表す。
「おいおい、お前ら、あれだけ険悪になっていたのにウチらに内緒か? 喧嘩の原因が分からなければ仲裁もできないぜ。お前ら、また喧嘩したいのか?」
「そ、そうだよ! 二人とも、お願いだから説明してよ! こんな状況だし、協力しよう?」
「おいおい、お前ら、本当に“おいおい”だな。まったく、“おいおい”だぜ」
「空狐さん! 茶化さないの!」
軽口を叩く空狐と懸命な織田流水の姿に絆されてか、2人が語りだす。
「――ソイツがいつまでもここに来るからだ」
「俺が毎日ここにいるのが気に食わないらしい」
どうやら話を聞くと、メディカル三姉妹で当番制を組んだ結果、深木絵梨は1日のうち2回、計およそ6時間の看護をしているらしい。交代制であるため間に6時間近くの休憩を挟んではいるが、慣れない看護生活に嫌気が差している様子。
そんな時に、ろくにやることもない“暇人”が折角の自由時間を同じ看護に割いてくるのが、嫌味に感じて酷く苛立たせるのだそうだ。
「み、美ヶ島くんは大浜くんを心配して……なのに、そんな言い方――」
「まあまあ、深木の言い分は分かる」
空狐は織田流水の肩をポンポンと叩き、彼のセリフを遮る。
“仲裁する”と言った手前、どんな理由であれ、どっちかに肩入れすることは“双方”に対する裏切りだということを、空狐は知っていた。
「うんうん、睡眠時間と合わせると、1日24時間あるうち半分以上を行動制限されてるもんな。お前の気持ちもウチなら分かるよ」
空狐の同意を受け、深木絵梨が美ヶ島秋比呂を指差す。
「そうよ! なのに、コイツは私よりも長く[医務室]にいるくせに何もせずウジウジと、ただただウジウジウジウジするだけで1日を終える“贅沢”な過ごし方が、目障りで仕方がないのよ!」
非常に珍しく、目を吊り上げて怒る深木絵梨に、織田流水は口をポカンと開けるだけだった。
「だ、そうだが、美ヶ島は何か反論はあるか?」
空狐に話を振られた美ヶ島秋比呂は――、
「…………しかたねぇだろ。俺は何もできねぇんだから。でも、大浜を放っぽって過ごす気分にもなれねぇよ」
――弱弱しく言い返す。
「だ、そうだぞ? 深木はそれを承知の上で怒るってことだよな?」
「……そうね。アナタの気持ちも理解できる。後悔や罪悪感は人を蝕むもの。でも……仏の顔も三度まで。私の堪忍袋も限度があるわ」
深木絵梨は再び腕を組み、彼女の大きな胸が主張する。
そんな彼女の様子に空狐は溜め息を吐く。
「やれやれ、こりゃ梃子でも動かねぇな。もう諦めよう、解散」
「ちょっと!? 空狐さん、ふざけないで真面目にやってよ!」
「わかったわかった。はいはい、やれやれだぜ」
織田流水に怒られた空狐は頭を掻く。
「ん~、美ヶ島は深木の言い分を受け入れて、ここに来ないってのはどうだ?」
「…………分かった。たしかに、言われてみれば不毛だったかもしれん…………もうここには来ないようにs――」
「んにゃ、ムリそうだな」
「――なっ!?」
空狐にバッサリ切られた美ヶ島秋比呂は、彼女に真意を問う目を向ける。
「行動を改められる人は、そんな辛い顔をして言わないものさ。無理な行動は心身が穢れるぞ? ちなみに、深木は彼の心情を慮って寛容になる可能性は――」「ない」「――あるのか? って、ないのね、はいはい。食い気味に言われるとはな、やれやれ」
空狐は少し思案して妥協案を出す。
「正直、ウチらの間でも美ヶ島の“自虐的な献身”は健康を害するのではないかと話しをしていたんだ。だから、これを機に行動は改めた方がいいと思う。でも、美ヶ島の気持ちも分かる。だから、お互いに歩み寄ろう」
「歩み寄る?」
「ああ。美ヶ島、いつぞやの晩御飯も食べに来ていなかっただろう? 食事を抜くほどの付き添いはやめよう。だから、深木が当番している時は[医務室]に来ないこと。深木も、自分がいないときの美ヶ島の行動は見逃してやれ」
深木絵梨は、美ヶ島秋比呂の同席を許さない代わりに、彼の行動を完全には制限しない。
美ヶ島秋比呂は、深木絵梨の神経を逆撫でしないように配慮する代わりに、自身の健康を害さない程度にはお見舞いすることができる。
そういった妥協案だった。
「「…………」」
まだ何か言いたげな2人に、空狐が”魔法の言葉”を掛ける。
「これでダメなら、もう鬼之崎と狗神に処遇を一任するしかないな」
「「……分かった」」
2人は渋々といった様子だが、了承した。
「とりあえず、これで仲裁、できた?」と、織田流水がおずおずと尋ねる。
「やはり暴力! 暴力をちらつかせば全て解決する! 話し合いで解決できない以上、無理やり解決させるしかない、拳で!」と、空狐が得意げな顔をする。
深木絵梨と美ヶ島秋比呂はお互いの顔を見ず、若干の気詰まりな雰囲気があるが、これ以上の仲裁はお節介か。
空狐がフッと笑う。
「まあ、冗談は置いておいて。応急処置だけど、解決してよかった。根本的な解決は、やはり大浜が目覚めないとムリだからな」
織田流水が彼女を労った。
「いや、よかったよ! さすがの手際だよ、空狐さん! ありがとう!」
「そう褒めんなよ、<外交官>! お前には負けるって!」
「…………」
空狐に皮肉を言われた織田流水は複雑な胸中を抱き、黙る。
キンコーン!
ちょうどひと段落したところでチャイムが鳴り響く。
『あー、マイクテス、マイクテス』
[医務室]にいた4名は、天井に備え付けられたスピーカーを見上げる。
『朝食の時間だというのに、キミたちいなさすぎだよ! 今すぐ食堂に集合だよ! 8時ダヨ、全員集合! ルールを破った子がいます! 至急! 集合! 至急ッ! 集合ッ!』
ブツリと切れる放送。顔を見合わせる一同。
「……行くか」「ええ、行きましょう」
「あっ、でも大浜くんが……」
「“むい”を無視する方が危険だわ。多少の席外しは仕方ないわよ」と、深木絵梨。
「……うん、そうだね」と、織田流水。
「やれやれ、本当に“やれやれ”だぜ、まったく。朝っぱらから“やれやれ”だ」と、空狐。
「……空狐さん、ふざけてないで行くよ……」と、織田流水。
一行は[医務室]を出て、食堂に向かう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる