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第1章 楽園は希望を駆逐する
第2話 無為に帰す(2日目) その6
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おやつ時の15時頃。
織田流水が食器洗いを済ませて厨房から食堂に戻った頃、食堂にいた面子が変わっていた。
人数が3名。花盛清華は変わらずいたが、<泥棒>の峰隅進と<軍人>の狗神新月が新たにその場にいた。どうやら丁度、食堂に訪れた様子だ。深木絵梨と風間太郎、美ヶ島秋比呂がいなくなっていた。
織田流水が目に入った2人はすぐに反応してくれた。
「えー、もう完治したのー? じゃあこれでもうサボれないんだねー、残念だったねー」と、峰隅進がすかさず悪態をつく。
「発言に気をつけろ、峰隅。あの惨劇を目の当たりにして、そんな戯言はやめろ」と、狗神新月が彼女を注意する。
「うん、無事に完治しました。お騒がせしました」と、織田流水がペコリと頭を下げる。
花盛清華は自分がいるテーブルに3人を呼ぶ。
「おいーッ! 人が既に座ってんのに、立ち話すんなよなーッ!」
彼女の野次を受け織田流水は彼女のいるテーブルにつくが、峰隅進は聞こえなかったふりをして別のテーブルに向かう。そんな彼女を狗神新月が咎める。
「……おい、峰隅。呼ばれているぞ」
「聞こえてるって……アタシは別のテーブルにつこうと思っていたから、放っておいt――」
「そうはいかん。友の好意を無下にする行動は私が許さん。軍隊で和を乱す行為をする者がいたら折檻だぞ」
「アタシは軍人じゃないってのッ!」
峰隅進を羽交い締めにした狗神新月が無理やり彼女を連れてきた。
「べ、別にイヤなら――」
「よくやったッ、狗神ッ! 俺様の誘いを断るとは、ふてぇ野郎だなッ!」
場を取り成そうとした織田流水を遮り、花盛清華が狗神新月を称え、峰隅進の顔を両手でウリウリとイジくり回す。
「ちょっと!? 機械油にまみれた手でアタシの顔を触るなーーッ!!」
「ちゃんと洗っとるわッ! 失礼なッ!」
峰隅進のクレームに反論する花盛清華の絵面に、自然と笑みがこぼれた。
さて。
峰隅進は<泥棒>の<再現子>だ。
鼠耳や鼠尻尾がある黒いパーカーを着た少女だ。小柄な体躯で可愛らしい小動物のようである。寒色を基調としたハーフパンツにハイソックス、運動靴を着用しており、黒のショートヘアも相まってチョコマカと軽快な動きをしそうな風貌だ。将来の夢は、<ブリーダー>だ。
狗神新月は<軍人>の再現子だ。
彼女は”軍人”を擬人化したような正統派な軍人姿の麗人だ。黒みを帯びた紺色の軍服だ。その軍帽や軍服には可愛らしくあしらわれた動物のワッペンや缶バッジがいくつも付けられている。意外にも可愛いものに目がない。
常備しているショルダーバッグの中身は誰にも教えていないが、曰く、危険物が満載とのこと。先の戦闘でも火薬類や銃器を使用していたことから、何が入っているかは想像に難くない。将来の夢は、<軍人>――自身の再現子と一致した幸運な<再現子>である。
織田流水、花盛清華、峰隅進、狗神新月の4名は一つのテーブルにつき間食を楽しんでいる。
どうやら深木絵梨と美ヶ島秋比呂は大浜新右衛門の看護当番のために移動して、風間太郎もそれに付いていったようである。峰隅進と狗神新月はその3名とすれ違わずに食堂に来たようだ。
「――風間……アイツ、”あの時”アタシを盾にしやがったからな~。この、トウガラシ入りのパンを食らわせてやろうとしたのに……ちぇ、チャンスを逃したか」
峰隅進がどこからかパンを取り出した。
「峰隅、過ぎたことを引き摺るのは――それ、色がおかしくないか?」
トウガラシたっぷりの真っ赤なパンに、目を見張る狗神新月。
「そんなの食べたらケツが悲惨なことになるぞッ!?」
花盛清華が顔を振袖で隠す。
「……風間くんにはあとで座薬を差し入れないとね……」
織田流水は彼の未来の不幸に同情する。
こんな状況ではあるが、明るい雑談をしてくれる心強い仲間たちに、織田流水は感謝していた。
雑談を掘り進めていくうちに、気になる話題になる。
「――今後の行動方針について、当面の方向性は決まったの?」
織田流水が聞く。
「ああ、結論からいうと人質らしく、おとなしくすることになった」と、狗神新月が答える。
「現状、おとなしくすれば本当に“自由”と“身の安全”を保障してくれてるしねー。あの武力に逆らうのも、無謀と思えるし……ある意味、日を跨いだからこそ皆頭が冷えて現実を見たというか……有り体に言えば、政府が何とかしてくれるでしょう、って感じだったよ」と、峰隅進が言葉とは裏腹に不満そうに言った。
「…………まあ、僕ら一個人が集まっただけじゃあ、どうしようもないもんね」
織田流水が納得の声を出したが――。
「――言っておくが、俺様はまだ納得してねぇからなッ!?」
――と、花盛清華が声を荒げた。
「またその話ぃ? えーと、なんだっけ、狗神? 過ぎたことを引き摺るのは――?」
「――脳のリソースの無駄、だ」
峰隅進と狗神新月がバッサリと斬り捨てる。
「な、なにかあったの?」
織田流水の疑問に3名が説明してくれた。
どうやら“今後の行動方針”に関する議論の最中、意見が割れたようなのだ。
『人質らしくおとなしくする』静観派と、『テロリストの命令は聞けない』反発派だ。
“静観派”は、文字通り、政府とテロリストの交渉を見守り、静観する立場だ。解決するまで何日かかろうが、付け入る隙を与えないように、敵に余計な交渉カードを作らせないように、事態を悪化させないように安全策を取る意思である。
“反発派”は、政府に一任せず、自分たちでもやれるだけのことはやるべきとの意見だ。自分たちに手出しできないのは敵側の本音であり、それを逆手に取って味方に有利になるように裏工作をする意思だ。
云わば――“静観派”は守り、“反発派”は攻めだ。
紆余曲折あった末、多数決が採用され、結果は前述した通り――”静観派”だ。
――しかし。
多数決で決めたことは、全員が納得するわけではなく、内部に反対意見がくすぶり続ける。
その不満は自然消滅することはなく、必ず向かい合わねばならならい。且つ、その反対意見を説得することができないことが往々にしてある。
なぜなら、既に少数派は”否定された”からだ。その上で、さらにその意見を捨てさせることは――容易ではない。
多数決とは、そういう決なのだ。それに気が付かないと、問題の芽を摘むことができない。
そして、それはここでも――、
「――だぁかぁらぁっ! 結局、一テロリスト集団が国家を相手にして無事に済むわけがねぇんだからよッ! こっちも内部でいつでも反乱を起こせるように準備をだなッ!」と、花盛清華。
「――だから、施設の中で人質が武器や兵器を用意していたら、おかしいでしょッ!? どう考えても敵が首を突っ込んでくるじゃんッ! というか、もう敵地のど真ん中なんだから、せっせと敵に武器や兵器を用意してあげるようなものだよッ!? 敵に奪われたらどうすんのッ!? アンタの作った武器や兵器がムガムゴっ!?」と、峰隅進。
織田流水に説明をしている最中、不意に熱くなる2人を抑える狗神新月。
「そこまでにしよう。花盛、この話はもう終わっただろう? 話題にするのはいいが、皆の決定したことを蒸し返すのはトラブルの元だ。峰隅、怒るなとは言わん。だが、少数派になったコイツらの心境は察してやれ」
狗神新月に口を塞がれた峰隅進は抵抗を見せたが、狗神新月の手はビクともしなかったためすぐにおとなしくなった。口が達者な峰隅進に押されていた花盛清華は食い下がる。
「け、けどよぉ! オレ様は」
「――これ以上手荒な方法だと、今日の晩御飯が食べられなくなるぞ」
「……わ、わかったよ」
狗神新月に睨まれた花盛清華は、おずおずと引き下がり峰隅進に謝罪した。
「峰隅、悪かった。もう言わねぇ」
「…………ごめん、アタシも言い過ぎた」
峰隅進は謝罪の受け取りを拒否しようとした沈黙があったが、狗神新月の圧力を感じたのか、素直に謝罪した。
「…………」
事の成り行きを見守っていた織田流水は冷や汗を流した。
きっと、午前中の議論はもっと凄まじかったのだろう、と今更ながら肝を冷やした。
空気の悪さを変えようと、織田流水は再び質問する。
「狗神さんはどっちだったの?」
「恥ずかしながら、”中立派”だ」
「”中立派”?」
「私は皆の決定に委ねることにしたのだ。私は<軍人>。命令や決定に従ってこそ本懐だ。そこに私の意思は必要ない」
「……それだと、狗神さんだけが辛い思いをしない?」
「心配してくれてありがとう。だが、気にするな。本当にイヤだったら進言する。今回は“静観派”にも“反発派”にも共感するところがあった」
「そっか」
「”中立派”も色々だった。判断を保留にした者も、行動方針について興味がない者もいた」
「……あっ、もしかして、誰がどの派閥かって、全部分かるの?」
「ああ、意見を聞けなかった織田と大浜を除いた17名分ある。南北と白縫にも直接確認している。空狐が簡潔かつ分かりやすくまとめてくれた」
狗神新月が携帯端末でそのデータを織田流水に渡した。
「ははぁ、さすがは<プロゲーマー>志望だね。まるで攻略本だ」
織田流水は目を通す。
“静観派”は9票。内訳は、美ヶ島秋比呂、臼潮薫子、空狐、峰隅進、鬼之崎電龍、矢那蔵連蔵、深木絵梨、葉高山蝶夏、そして風間太郎。
“反発派”は4票。内訳は、花盛清華、時時雨香澄、白縫音羽、そして和泉忍。
“中立派”は4票。内訳は、狗神新月、中川加奈子、西嶽春人、そして南北雪花。
ところで、多数決で注意しなければいけない点が一つある。
同じ意見になったからといって、考えてることまで同じとは限らない。
きっと、色々な思惑が入り混じった結果が、コレなのだろう。
「なるほど、これで“静観派”になったわけね――ん?」
あれ? と首をかしげる織田流水。
行動方針として、”静観派”に従うことになったのなら。
――なら、どうしてあの3名は非常口を探していたのだろうか。
「ところで織田流水」
「え?」
「これまで通り、各種データの最新版は南北のサーバーのクラウド上にあるが……この状況だ。データ類はこまめに携帯端末に保存するようにとの、南北からの提言だ。さて、ついでに聞いておくが、お前はどの派閥なんだ? せっかくだから、お前の意見を反映させておこう」
「……ん~とね」
織田流水は、花盛清華と峰隅進の視線を感じつつ、今後のことを考えてから答えた。
織田流水が食器洗いを済ませて厨房から食堂に戻った頃、食堂にいた面子が変わっていた。
人数が3名。花盛清華は変わらずいたが、<泥棒>の峰隅進と<軍人>の狗神新月が新たにその場にいた。どうやら丁度、食堂に訪れた様子だ。深木絵梨と風間太郎、美ヶ島秋比呂がいなくなっていた。
織田流水が目に入った2人はすぐに反応してくれた。
「えー、もう完治したのー? じゃあこれでもうサボれないんだねー、残念だったねー」と、峰隅進がすかさず悪態をつく。
「発言に気をつけろ、峰隅。あの惨劇を目の当たりにして、そんな戯言はやめろ」と、狗神新月が彼女を注意する。
「うん、無事に完治しました。お騒がせしました」と、織田流水がペコリと頭を下げる。
花盛清華は自分がいるテーブルに3人を呼ぶ。
「おいーッ! 人が既に座ってんのに、立ち話すんなよなーッ!」
彼女の野次を受け織田流水は彼女のいるテーブルにつくが、峰隅進は聞こえなかったふりをして別のテーブルに向かう。そんな彼女を狗神新月が咎める。
「……おい、峰隅。呼ばれているぞ」
「聞こえてるって……アタシは別のテーブルにつこうと思っていたから、放っておいt――」
「そうはいかん。友の好意を無下にする行動は私が許さん。軍隊で和を乱す行為をする者がいたら折檻だぞ」
「アタシは軍人じゃないってのッ!」
峰隅進を羽交い締めにした狗神新月が無理やり彼女を連れてきた。
「べ、別にイヤなら――」
「よくやったッ、狗神ッ! 俺様の誘いを断るとは、ふてぇ野郎だなッ!」
場を取り成そうとした織田流水を遮り、花盛清華が狗神新月を称え、峰隅進の顔を両手でウリウリとイジくり回す。
「ちょっと!? 機械油にまみれた手でアタシの顔を触るなーーッ!!」
「ちゃんと洗っとるわッ! 失礼なッ!」
峰隅進のクレームに反論する花盛清華の絵面に、自然と笑みがこぼれた。
さて。
峰隅進は<泥棒>の<再現子>だ。
鼠耳や鼠尻尾がある黒いパーカーを着た少女だ。小柄な体躯で可愛らしい小動物のようである。寒色を基調としたハーフパンツにハイソックス、運動靴を着用しており、黒のショートヘアも相まってチョコマカと軽快な動きをしそうな風貌だ。将来の夢は、<ブリーダー>だ。
狗神新月は<軍人>の再現子だ。
彼女は”軍人”を擬人化したような正統派な軍人姿の麗人だ。黒みを帯びた紺色の軍服だ。その軍帽や軍服には可愛らしくあしらわれた動物のワッペンや缶バッジがいくつも付けられている。意外にも可愛いものに目がない。
常備しているショルダーバッグの中身は誰にも教えていないが、曰く、危険物が満載とのこと。先の戦闘でも火薬類や銃器を使用していたことから、何が入っているかは想像に難くない。将来の夢は、<軍人>――自身の再現子と一致した幸運な<再現子>である。
織田流水、花盛清華、峰隅進、狗神新月の4名は一つのテーブルにつき間食を楽しんでいる。
どうやら深木絵梨と美ヶ島秋比呂は大浜新右衛門の看護当番のために移動して、風間太郎もそれに付いていったようである。峰隅進と狗神新月はその3名とすれ違わずに食堂に来たようだ。
「――風間……アイツ、”あの時”アタシを盾にしやがったからな~。この、トウガラシ入りのパンを食らわせてやろうとしたのに……ちぇ、チャンスを逃したか」
峰隅進がどこからかパンを取り出した。
「峰隅、過ぎたことを引き摺るのは――それ、色がおかしくないか?」
トウガラシたっぷりの真っ赤なパンに、目を見張る狗神新月。
「そんなの食べたらケツが悲惨なことになるぞッ!?」
花盛清華が顔を振袖で隠す。
「……風間くんにはあとで座薬を差し入れないとね……」
織田流水は彼の未来の不幸に同情する。
こんな状況ではあるが、明るい雑談をしてくれる心強い仲間たちに、織田流水は感謝していた。
雑談を掘り進めていくうちに、気になる話題になる。
「――今後の行動方針について、当面の方向性は決まったの?」
織田流水が聞く。
「ああ、結論からいうと人質らしく、おとなしくすることになった」と、狗神新月が答える。
「現状、おとなしくすれば本当に“自由”と“身の安全”を保障してくれてるしねー。あの武力に逆らうのも、無謀と思えるし……ある意味、日を跨いだからこそ皆頭が冷えて現実を見たというか……有り体に言えば、政府が何とかしてくれるでしょう、って感じだったよ」と、峰隅進が言葉とは裏腹に不満そうに言った。
「…………まあ、僕ら一個人が集まっただけじゃあ、どうしようもないもんね」
織田流水が納得の声を出したが――。
「――言っておくが、俺様はまだ納得してねぇからなッ!?」
――と、花盛清華が声を荒げた。
「またその話ぃ? えーと、なんだっけ、狗神? 過ぎたことを引き摺るのは――?」
「――脳のリソースの無駄、だ」
峰隅進と狗神新月がバッサリと斬り捨てる。
「な、なにかあったの?」
織田流水の疑問に3名が説明してくれた。
どうやら“今後の行動方針”に関する議論の最中、意見が割れたようなのだ。
『人質らしくおとなしくする』静観派と、『テロリストの命令は聞けない』反発派だ。
“静観派”は、文字通り、政府とテロリストの交渉を見守り、静観する立場だ。解決するまで何日かかろうが、付け入る隙を与えないように、敵に余計な交渉カードを作らせないように、事態を悪化させないように安全策を取る意思である。
“反発派”は、政府に一任せず、自分たちでもやれるだけのことはやるべきとの意見だ。自分たちに手出しできないのは敵側の本音であり、それを逆手に取って味方に有利になるように裏工作をする意思だ。
云わば――“静観派”は守り、“反発派”は攻めだ。
紆余曲折あった末、多数決が採用され、結果は前述した通り――”静観派”だ。
――しかし。
多数決で決めたことは、全員が納得するわけではなく、内部に反対意見がくすぶり続ける。
その不満は自然消滅することはなく、必ず向かい合わねばならならい。且つ、その反対意見を説得することができないことが往々にしてある。
なぜなら、既に少数派は”否定された”からだ。その上で、さらにその意見を捨てさせることは――容易ではない。
多数決とは、そういう決なのだ。それに気が付かないと、問題の芽を摘むことができない。
そして、それはここでも――、
「――だぁかぁらぁっ! 結局、一テロリスト集団が国家を相手にして無事に済むわけがねぇんだからよッ! こっちも内部でいつでも反乱を起こせるように準備をだなッ!」と、花盛清華。
「――だから、施設の中で人質が武器や兵器を用意していたら、おかしいでしょッ!? どう考えても敵が首を突っ込んでくるじゃんッ! というか、もう敵地のど真ん中なんだから、せっせと敵に武器や兵器を用意してあげるようなものだよッ!? 敵に奪われたらどうすんのッ!? アンタの作った武器や兵器がムガムゴっ!?」と、峰隅進。
織田流水に説明をしている最中、不意に熱くなる2人を抑える狗神新月。
「そこまでにしよう。花盛、この話はもう終わっただろう? 話題にするのはいいが、皆の決定したことを蒸し返すのはトラブルの元だ。峰隅、怒るなとは言わん。だが、少数派になったコイツらの心境は察してやれ」
狗神新月に口を塞がれた峰隅進は抵抗を見せたが、狗神新月の手はビクともしなかったためすぐにおとなしくなった。口が達者な峰隅進に押されていた花盛清華は食い下がる。
「け、けどよぉ! オレ様は」
「――これ以上手荒な方法だと、今日の晩御飯が食べられなくなるぞ」
「……わ、わかったよ」
狗神新月に睨まれた花盛清華は、おずおずと引き下がり峰隅進に謝罪した。
「峰隅、悪かった。もう言わねぇ」
「…………ごめん、アタシも言い過ぎた」
峰隅進は謝罪の受け取りを拒否しようとした沈黙があったが、狗神新月の圧力を感じたのか、素直に謝罪した。
「…………」
事の成り行きを見守っていた織田流水は冷や汗を流した。
きっと、午前中の議論はもっと凄まじかったのだろう、と今更ながら肝を冷やした。
空気の悪さを変えようと、織田流水は再び質問する。
「狗神さんはどっちだったの?」
「恥ずかしながら、”中立派”だ」
「”中立派”?」
「私は皆の決定に委ねることにしたのだ。私は<軍人>。命令や決定に従ってこそ本懐だ。そこに私の意思は必要ない」
「……それだと、狗神さんだけが辛い思いをしない?」
「心配してくれてありがとう。だが、気にするな。本当にイヤだったら進言する。今回は“静観派”にも“反発派”にも共感するところがあった」
「そっか」
「”中立派”も色々だった。判断を保留にした者も、行動方針について興味がない者もいた」
「……あっ、もしかして、誰がどの派閥かって、全部分かるの?」
「ああ、意見を聞けなかった織田と大浜を除いた17名分ある。南北と白縫にも直接確認している。空狐が簡潔かつ分かりやすくまとめてくれた」
狗神新月が携帯端末でそのデータを織田流水に渡した。
「ははぁ、さすがは<プロゲーマー>志望だね。まるで攻略本だ」
織田流水は目を通す。
“静観派”は9票。内訳は、美ヶ島秋比呂、臼潮薫子、空狐、峰隅進、鬼之崎電龍、矢那蔵連蔵、深木絵梨、葉高山蝶夏、そして風間太郎。
“反発派”は4票。内訳は、花盛清華、時時雨香澄、白縫音羽、そして和泉忍。
“中立派”は4票。内訳は、狗神新月、中川加奈子、西嶽春人、そして南北雪花。
ところで、多数決で注意しなければいけない点が一つある。
同じ意見になったからといって、考えてることまで同じとは限らない。
きっと、色々な思惑が入り混じった結果が、コレなのだろう。
「なるほど、これで“静観派”になったわけね――ん?」
あれ? と首をかしげる織田流水。
行動方針として、”静観派”に従うことになったのなら。
――なら、どうしてあの3名は非常口を探していたのだろうか。
「ところで織田流水」
「え?」
「これまで通り、各種データの最新版は南北のサーバーのクラウド上にあるが……この状況だ。データ類はこまめに携帯端末に保存するようにとの、南北からの提言だ。さて、ついでに聞いておくが、お前はどの派閥なんだ? せっかくだから、お前の意見を反映させておこう」
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