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後日談 藤の花祭り 下
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「お前、立待と何かあったのか?」
藤の花祭り当日。
もうまもなく祭りが始まるという頃、仕事がひと段落した雪花がひと息ついていると、近くでくつろいでいた氷月からそう聞かれた。
「例えば喧嘩とか」
「いえ、特にそんな事はないですが……。どうしてですか?」
「なーんか、立待の様子がちょっと変なんだよなぁ」
そう言いながら氷月は、少し離れた所で妖達と打ち合わせをしている立待へ目を向けた。雪花も釣られて立待を見る。
いつも通りのようにも見えるのだけど、と雪花が首を傾げていると、
「喧嘩じゃねぇんなら……ん~、じゃあ、あれかぁ、たぶん」
なんて一人納得した様子で頷いていた。
「氷月様。あれとは何ですか?」
「ん? 嫉妬」
「えっ!」
さらっとそう言われ雪花は目を丸くした。すると氷月はその反応を見て口の端を上げてにんまり笑う。
「お、当たったっぽいな?」
「いえ、あの……」
「ははは。いいよ、答え辛いだろ」
氷月は笑いながら前をかき上げる。さらさらと白い美しい髪が揺れた。
「立待が蛇の妖だってのは知っているだろ。あいつら結構なぁ、執着心が強いんだよ」
「執着心……ですか?」
「そうそう。立待は蛇の妖にしては穏やかな方なんだが、気に入ったものに執着する面があってなぁ。前に俺が藤棚から藤の花をもらって来た時に立待へやったら、枯れてもずっと捨てようとしないんだよ。俺がまた花をもらって来てやるからって言っても、絶対に手放そうとしないんだ」
そう言いながら氷月は懐かしそうに目を細めて言った。
話を聞いていて雪花はふと、そう言えば立待はドライフラワーを作るのが好きだと聞いたのを思い出す。
「もしかして立待様がドライフラワー作りを始めたのは、それが関係していますか?」
「ああ。どうしたもんかなと考えて、俺が提案してみた」
「ふふ、そうだったのですね。素敵な趣味だと思いました。今度立待様から教えてもらう約束をしているのです」
「そうか、良かったなぁ」
立待を見つめる氷月の眼差しは優しい。親が子に向けているような、そんな温かさが込められているように雪花には感じられた。
二人の関係は単なる主従というだけではなく、きっともっと深いものなのだろう。
深くて、長くて、そして雪花が知らないような――。
(……あれ?)
その時、何故か胸がちくりと痛んだ。そしてそこに、ほんの少しだけ苦しい気持ちが広がる。
雪花は胸に手を当てて首を傾げた。
(何だろう、今の)
今までに感じた事のない不思議な感覚だ。それと、ほんの少しだけ嫌な気持ちになる。
氷月と立待を見ていて、そんな風に感じたのは初めてだ。
雪花が頭に疑問符を浮かべていると、
「氷月様、準備が整いました」
そう言って立待が戻って来た。
「そうか。いつもありがとな、立待」
「いえ。今年の藤の花祭り、妖達もだいぶ気合いが入っていますよ。新しい神使が増えたからって」
「ははは、そうだな。皆、雪花が神使になったって言ったら喜んでいたからなぁ。あと、お前も話しやすくなって嬉しいってよ。いやぁ、お前が褒められて俺も嬉しいぞ~?」
「――っ、そ、それは、関係がないと思います」
「照れるな照れるな」
氷月に褒められて立待が照れて頬を赤くする。
それを見て雪花の胸がまたちくりと痛んだ。
(――あ、また)
ちくり、ちくり。今度は一度だけではない。
(……これ、もしかして)
そこで雪花は、先日立待とした会話を思い出し、そして。
(嫉妬……だ)
そう心の中で呟いた。
◇
藤の花祭りが開始して、しばらく。
満月が浮かんだ空の下で、氷月や妖達がお酒や美味しい料理に舌鼓を打ちながら、ご機嫌に盛り上がっていた。
雪花はその様子を立待と並んで、少し離れた場所から眺めていた。
神使の仕事として、お酒を飲んで羽目を外し過ぎる妖がいないか見ているのである。
(…………嫉妬、かぁ)
そんな彼らを眺めながら雪花は先ほどの事を思い出していた。
自分がまさか尊敬している氷月に、嫉妬の感情を抱くなんて思わなかったからだ。
(困りました……)
自分を救ってくれた恩人に、こんな感情を抱くのは失礼だ。なんて自分は恩知らずなのだろうか。
そう思ったら自分で自分が情けなくなって来てしまった。
「……雪花。先ほどからあまり元気がないですが、疲れてしましたか?」
「え?」
すると立待からそんな事を聞かれた。
目を瞬いて彼の顔を見上げると、心配そうな眼差しを向けられている。
「い、いえ! まだ全然、大丈夫です!」
「そうですか? ですが、あまり顔色が良くありませんよ」
立待はそう言うと雪花の頬に手を添えた。温かくて大きい雪花の好きな手だ。
「本当に、具合が悪いのではないのです。ただ……」
「ただ?」
「……自分自身に落ち込んでいたのです」
雪花がそう答えると立待は目を丸くした。それから不思議そうに首を傾げる。
「今日、何かありましたか? あなたはちゃんと与えられた仕事をこなしていましたよ?」
「いえ、仕事ではなくて……」
雪花は軽く首を横に振る。それから少しだけ間を開けて、
「立待様と氷月様の仲がとても良くて」
「はい」
「……ずっと長い時間を共に過ごして、深い絆で結ばれているのだなと思ったら、その」
言うべきか、言わないべきか。雪花は迷って、迷って。
それでも立待に隠し事はしたくないと思い、言葉を続ける。
「…………胸が、痛くなったのです」
ぎゅっと目を閉じながら雪花は言った。
「…………雪花」
立待からは驚いたような声が返って来る。
ああ、呆れさせてしまっただろか。雪花が何だか泣きたくなっていると立待が自分に近付くのを感じた。
目を開けると至近距離に立待の顔がある。
「……もしかして、嫉妬してくださったのですか?」
恐る恐ると言った様子で聞く立待に、雪花は躊躇いがちにこくんと頷いた。
すると立待の顔が、ぱぁっと明るくなって、雪花に抱き着いて来る。そしてすりすりと顔を摺り寄せられた。
「雪花、雪花。ああ、嬉しい……! あなたが私のために嫉妬なんて」
「え、え、あの、立待様……!?」
「ああ、すみません。嬉しさのあまり、つい」
雪花の声に、ハッと我に返ったらしい立待は、慌てて身体を離した。
それから少し照れながら、コホン、と咳をして、
「……私も、以前に氷月様と出かけるあなたを見て、同じ気持ちになりました」
と言った。雪花は目を見開く。
「そうなのですか?」
「はい。雪花と一緒にいられる氷月様が羨ましいと」
「…………」
立待の告白に雪花の身体から力が抜けた。
「……氷月様にそう思うのは失礼だと思って、不安で」
「氷月様は怒ったりしませんよ。からかいはするでしょうが」
「…………良かったぁ」
「元気がなかった理由はそれだったのですね」
「はい」
雪花が頷くと、立松はくすくすと微笑む。
その笑顔が優しくて、ホッとして、雪花もつられて笑う。
「……この間の立待様の気持ちが、少しだけ分かりました」
「私の?」
「立待様の全部を私のものにしたいなって」
「…………!」
すると立待の顔がボンッと音が聞こえそうなほどに、一瞬で真っ赤になった。
「あ、あ、あなた、意味が分かって……。ああ、いえ。その辺りは教えていませんから、ええ。分かってはいませんよね、ええ……」
「もっと仲良くなる……というお話ではないのですか?」
「いえ、あの、確かにそうなんですけれど。……うう、薮蛇でした」
立待は真っ赤な顔で唸った後、雪花の肩に手を置いて、
「……三年後。あなたが二十歳になったら、その意味を教えます。ですから、その時は……あなたの全部を私のものにさせてください」
熱御帯びた眼差しで立待は言う。雪花の胸がどきりと鳴った。
真剣な瞳で見つめられてだんだんと顔が熱くなって来る。
「……はい、立待様」
雪花が頷くと立待はふわりと笑う。そして雪花の背中に手を回すと、再びぎゅうと抱きしめて来た。
……ああ、この温もりは何て落ち着くのだろう。
そう思いながら二人は、祭りの灯りと藤の花の香りに包まれながら、しばらく抱きしめ合ったのだった。
藤の花祭り当日。
もうまもなく祭りが始まるという頃、仕事がひと段落した雪花がひと息ついていると、近くでくつろいでいた氷月からそう聞かれた。
「例えば喧嘩とか」
「いえ、特にそんな事はないですが……。どうしてですか?」
「なーんか、立待の様子がちょっと変なんだよなぁ」
そう言いながら氷月は、少し離れた所で妖達と打ち合わせをしている立待へ目を向けた。雪花も釣られて立待を見る。
いつも通りのようにも見えるのだけど、と雪花が首を傾げていると、
「喧嘩じゃねぇんなら……ん~、じゃあ、あれかぁ、たぶん」
なんて一人納得した様子で頷いていた。
「氷月様。あれとは何ですか?」
「ん? 嫉妬」
「えっ!」
さらっとそう言われ雪花は目を丸くした。すると氷月はその反応を見て口の端を上げてにんまり笑う。
「お、当たったっぽいな?」
「いえ、あの……」
「ははは。いいよ、答え辛いだろ」
氷月は笑いながら前をかき上げる。さらさらと白い美しい髪が揺れた。
「立待が蛇の妖だってのは知っているだろ。あいつら結構なぁ、執着心が強いんだよ」
「執着心……ですか?」
「そうそう。立待は蛇の妖にしては穏やかな方なんだが、気に入ったものに執着する面があってなぁ。前に俺が藤棚から藤の花をもらって来た時に立待へやったら、枯れてもずっと捨てようとしないんだよ。俺がまた花をもらって来てやるからって言っても、絶対に手放そうとしないんだ」
そう言いながら氷月は懐かしそうに目を細めて言った。
話を聞いていて雪花はふと、そう言えば立待はドライフラワーを作るのが好きだと聞いたのを思い出す。
「もしかして立待様がドライフラワー作りを始めたのは、それが関係していますか?」
「ああ。どうしたもんかなと考えて、俺が提案してみた」
「ふふ、そうだったのですね。素敵な趣味だと思いました。今度立待様から教えてもらう約束をしているのです」
「そうか、良かったなぁ」
立待を見つめる氷月の眼差しは優しい。親が子に向けているような、そんな温かさが込められているように雪花には感じられた。
二人の関係は単なる主従というだけではなく、きっともっと深いものなのだろう。
深くて、長くて、そして雪花が知らないような――。
(……あれ?)
その時、何故か胸がちくりと痛んだ。そしてそこに、ほんの少しだけ苦しい気持ちが広がる。
雪花は胸に手を当てて首を傾げた。
(何だろう、今の)
今までに感じた事のない不思議な感覚だ。それと、ほんの少しだけ嫌な気持ちになる。
氷月と立待を見ていて、そんな風に感じたのは初めてだ。
雪花が頭に疑問符を浮かべていると、
「氷月様、準備が整いました」
そう言って立待が戻って来た。
「そうか。いつもありがとな、立待」
「いえ。今年の藤の花祭り、妖達もだいぶ気合いが入っていますよ。新しい神使が増えたからって」
「ははは、そうだな。皆、雪花が神使になったって言ったら喜んでいたからなぁ。あと、お前も話しやすくなって嬉しいってよ。いやぁ、お前が褒められて俺も嬉しいぞ~?」
「――っ、そ、それは、関係がないと思います」
「照れるな照れるな」
氷月に褒められて立待が照れて頬を赤くする。
それを見て雪花の胸がまたちくりと痛んだ。
(――あ、また)
ちくり、ちくり。今度は一度だけではない。
(……これ、もしかして)
そこで雪花は、先日立待とした会話を思い出し、そして。
(嫉妬……だ)
そう心の中で呟いた。
◇
藤の花祭りが開始して、しばらく。
満月が浮かんだ空の下で、氷月や妖達がお酒や美味しい料理に舌鼓を打ちながら、ご機嫌に盛り上がっていた。
雪花はその様子を立待と並んで、少し離れた場所から眺めていた。
神使の仕事として、お酒を飲んで羽目を外し過ぎる妖がいないか見ているのである。
(…………嫉妬、かぁ)
そんな彼らを眺めながら雪花は先ほどの事を思い出していた。
自分がまさか尊敬している氷月に、嫉妬の感情を抱くなんて思わなかったからだ。
(困りました……)
自分を救ってくれた恩人に、こんな感情を抱くのは失礼だ。なんて自分は恩知らずなのだろうか。
そう思ったら自分で自分が情けなくなって来てしまった。
「……雪花。先ほどからあまり元気がないですが、疲れてしましたか?」
「え?」
すると立待からそんな事を聞かれた。
目を瞬いて彼の顔を見上げると、心配そうな眼差しを向けられている。
「い、いえ! まだ全然、大丈夫です!」
「そうですか? ですが、あまり顔色が良くありませんよ」
立待はそう言うと雪花の頬に手を添えた。温かくて大きい雪花の好きな手だ。
「本当に、具合が悪いのではないのです。ただ……」
「ただ?」
「……自分自身に落ち込んでいたのです」
雪花がそう答えると立待は目を丸くした。それから不思議そうに首を傾げる。
「今日、何かありましたか? あなたはちゃんと与えられた仕事をこなしていましたよ?」
「いえ、仕事ではなくて……」
雪花は軽く首を横に振る。それから少しだけ間を開けて、
「立待様と氷月様の仲がとても良くて」
「はい」
「……ずっと長い時間を共に過ごして、深い絆で結ばれているのだなと思ったら、その」
言うべきか、言わないべきか。雪花は迷って、迷って。
それでも立待に隠し事はしたくないと思い、言葉を続ける。
「…………胸が、痛くなったのです」
ぎゅっと目を閉じながら雪花は言った。
「…………雪花」
立待からは驚いたような声が返って来る。
ああ、呆れさせてしまっただろか。雪花が何だか泣きたくなっていると立待が自分に近付くのを感じた。
目を開けると至近距離に立待の顔がある。
「……もしかして、嫉妬してくださったのですか?」
恐る恐ると言った様子で聞く立待に、雪花は躊躇いがちにこくんと頷いた。
すると立待の顔が、ぱぁっと明るくなって、雪花に抱き着いて来る。そしてすりすりと顔を摺り寄せられた。
「雪花、雪花。ああ、嬉しい……! あなたが私のために嫉妬なんて」
「え、え、あの、立待様……!?」
「ああ、すみません。嬉しさのあまり、つい」
雪花の声に、ハッと我に返ったらしい立待は、慌てて身体を離した。
それから少し照れながら、コホン、と咳をして、
「……私も、以前に氷月様と出かけるあなたを見て、同じ気持ちになりました」
と言った。雪花は目を見開く。
「そうなのですか?」
「はい。雪花と一緒にいられる氷月様が羨ましいと」
「…………」
立待の告白に雪花の身体から力が抜けた。
「……氷月様にそう思うのは失礼だと思って、不安で」
「氷月様は怒ったりしませんよ。からかいはするでしょうが」
「…………良かったぁ」
「元気がなかった理由はそれだったのですね」
「はい」
雪花が頷くと、立松はくすくすと微笑む。
その笑顔が優しくて、ホッとして、雪花もつられて笑う。
「……この間の立待様の気持ちが、少しだけ分かりました」
「私の?」
「立待様の全部を私のものにしたいなって」
「…………!」
すると立待の顔がボンッと音が聞こえそうなほどに、一瞬で真っ赤になった。
「あ、あ、あなた、意味が分かって……。ああ、いえ。その辺りは教えていませんから、ええ。分かってはいませんよね、ええ……」
「もっと仲良くなる……というお話ではないのですか?」
「いえ、あの、確かにそうなんですけれど。……うう、薮蛇でした」
立待は真っ赤な顔で唸った後、雪花の肩に手を置いて、
「……三年後。あなたが二十歳になったら、その意味を教えます。ですから、その時は……あなたの全部を私のものにさせてください」
熱御帯びた眼差しで立待は言う。雪花の胸がどきりと鳴った。
真剣な瞳で見つめられてだんだんと顔が熱くなって来る。
「……はい、立待様」
雪花が頷くと立待はふわりと笑う。そして雪花の背中に手を回すと、再びぎゅうと抱きしめて来た。
……ああ、この温もりは何て落ち着くのだろう。
そう思いながら二人は、祭りの灯りと藤の花の香りに包まれながら、しばらく抱きしめ合ったのだった。
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