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伊達に酔狂 5
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「魔獣も神雷結界も、何もかも俺一人で対処出来ればと思うくらいには、恐ろしいさ」
「……若様」
独楽だけではなく、その場にいたイナカマチ区画の住人達もそれぞれに小さく呟いた。
彼らの様子を見る限り、恐らく若利は「そういう事」をあまり口にはしないのだろう。
そんな若利の足元では、信太がぴょんと跳ねて、
「信太はお化けが恐ろしいです」
と言った。お化け、と聞いて独楽は目を瞬く。
信太の言葉を聞くと、小夜や住人達も、
「わたしもお化け怖い……」
「わしは母ちゃんだなぁ」
「お前は飲みすぎて怒られるんじゃろうが」
「あたしは毒蛇ねぇ」
「お前がすでに毒蛇みたいじゃねぇか」
「何ですって!」
などと、あれが怖い、これが怖い、と口にし始めた。
やがて「いやいや俺の方が」「何を言うのよ、あたしの方が」などと競い始める。
流れで始まった怖い物合戦に、独楽はただただ目を丸くするばかりだ。その呆けた顔が面白かったのか、若利はくつくつと笑う。
「皆、恐ろしいものがあるだろう?」
「……ですが」
「――ああ、まどろっこしい」
煮え切らない言葉を繰り返す独楽に、業を煮やしたの天津だった。
「独楽殿は少々、自意識が過剰なのではござるか?」
天津は、フン、と鼻を鳴らして話に割り込む。心なしか顔が赤くなっているようにも見えた。
「某と勝負するでござるよ、独楽殿」
「しょ、勝負ですか?」
「某が勝てば独楽殿など恐れるに足らん! と皆にはっきりと分かるであろう? 独楽殿が勝てば、某が何でも好きな物を作ってやろう」
「はい!?」
唐突に持ち出された勝負に、独楽が目を白黒させる。意味が分からない、と慌てる独楽だったが、
「ああ、それは良いな、許す」
と若利が面白そうに頷いて承認してしまった。独楽はぎょっとして目を剥く。
「何が良いと!? っていうか、甘栗さん、ちょっと酔っぱらっていませんか!?」
「某はあんなちょびっとの酒くらいで酔っぱらったりなどせぬ!」
「え? さっき一升くらい開けてたような……」
「完全に酔っ払いじゃないですか!」
明らかに『ちょびっと』ではない酒の量を聞いて独楽が頭を抱えた。若利は「まぁ祭りだからな」とカラカラ笑う。
「独楽の恐れの正体がそれならば、別に良い事ではないか。それに、きみが勝てば何でも食べ放題だぞ?」
「うぐう」
若利の言葉に独楽は言葉に詰まる。そしてどう断ろうかと考えている内に、
「勝負です?」
「なら、村の広場が、ちょうど空いてるなぁ」
「ギャラリーいっぱいでござるな、やる気が出るでござる!」
と、あれよあれよと場所まで確保されてしまった。外堀を埋められて独楽と方に暮れた顔になる。
「いや、あの、ちょっ、あれ? 何でこんな話に?」
「いいから」
あたふたとする独楽の口に、若利はイカ焼きを躊躇なく突っ込んだ。
「あふい!」
「焼きたてだからな」
涙目になる独楽の肩を、若利はポンと叩く。
「今日は祭りだ、めいっぱい楽しめ、独楽」
そうしてニッと笑う。
鬼がいると独楽は思った。
「……若様」
独楽だけではなく、その場にいたイナカマチ区画の住人達もそれぞれに小さく呟いた。
彼らの様子を見る限り、恐らく若利は「そういう事」をあまり口にはしないのだろう。
そんな若利の足元では、信太がぴょんと跳ねて、
「信太はお化けが恐ろしいです」
と言った。お化け、と聞いて独楽は目を瞬く。
信太の言葉を聞くと、小夜や住人達も、
「わたしもお化け怖い……」
「わしは母ちゃんだなぁ」
「お前は飲みすぎて怒られるんじゃろうが」
「あたしは毒蛇ねぇ」
「お前がすでに毒蛇みたいじゃねぇか」
「何ですって!」
などと、あれが怖い、これが怖い、と口にし始めた。
やがて「いやいや俺の方が」「何を言うのよ、あたしの方が」などと競い始める。
流れで始まった怖い物合戦に、独楽はただただ目を丸くするばかりだ。その呆けた顔が面白かったのか、若利はくつくつと笑う。
「皆、恐ろしいものがあるだろう?」
「……ですが」
「――ああ、まどろっこしい」
煮え切らない言葉を繰り返す独楽に、業を煮やしたの天津だった。
「独楽殿は少々、自意識が過剰なのではござるか?」
天津は、フン、と鼻を鳴らして話に割り込む。心なしか顔が赤くなっているようにも見えた。
「某と勝負するでござるよ、独楽殿」
「しょ、勝負ですか?」
「某が勝てば独楽殿など恐れるに足らん! と皆にはっきりと分かるであろう? 独楽殿が勝てば、某が何でも好きな物を作ってやろう」
「はい!?」
唐突に持ち出された勝負に、独楽が目を白黒させる。意味が分からない、と慌てる独楽だったが、
「ああ、それは良いな、許す」
と若利が面白そうに頷いて承認してしまった。独楽はぎょっとして目を剥く。
「何が良いと!? っていうか、甘栗さん、ちょっと酔っぱらっていませんか!?」
「某はあんなちょびっとの酒くらいで酔っぱらったりなどせぬ!」
「え? さっき一升くらい開けてたような……」
「完全に酔っ払いじゃないですか!」
明らかに『ちょびっと』ではない酒の量を聞いて独楽が頭を抱えた。若利は「まぁ祭りだからな」とカラカラ笑う。
「独楽の恐れの正体がそれならば、別に良い事ではないか。それに、きみが勝てば何でも食べ放題だぞ?」
「うぐう」
若利の言葉に独楽は言葉に詰まる。そしてどう断ろうかと考えている内に、
「勝負です?」
「なら、村の広場が、ちょうど空いてるなぁ」
「ギャラリーいっぱいでござるな、やる気が出るでござる!」
と、あれよあれよと場所まで確保されてしまった。外堀を埋められて独楽と方に暮れた顔になる。
「いや、あの、ちょっ、あれ? 何でこんな話に?」
「いいから」
あたふたとする独楽の口に、若利はイカ焼きを躊躇なく突っ込んだ。
「あふい!」
「焼きたてだからな」
涙目になる独楽の肩を、若利はポンと叩く。
「今日は祭りだ、めいっぱい楽しめ、独楽」
そうしてニッと笑う。
鬼がいると独楽は思った。
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