陛下、おかわり頂いても良いでしょうか?

石動なつめ

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第十二話「生きていれば、誰しも少しは悪意ってのは持ちますから」

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 洞窟内を歩き出した二人は、ひとまず川を辿って進んでみる事にした。青白く光る水晶が照らしているため、思ったほど暗くない。
 ただ、少し冷えた。
 洞窟内という事もあるが、恐らく夕方過ぎくらいの時間になっているからだろう。
 目を覚ますまでに時間が経っていたようだ。

 砂の国ヴュステベルクは昼は暑く、夜は寒い。この国のほとんどを占める砂漠は、熱を溜め込めないからだ。
 昼間にいくら熱されても、その熱は夜までもたない。
 水のあるオアシス付近なら、それもまだマシなのは幸いだった。

 その寒暖の差に、砂の国を訪れて体調を崩す者はそこそこいる。
 バーガンディーは慣れているがシャルトルーズはどうだろうか。

「シャルトルーズ殿、寒くはないか?」
「はい。このくらいなら、まだ大丈夫です」

 とは言え、見ていればたまに袖のあたりを手でさすっているのが見える。
 寒いことは寒いのだろう。
 バーガンディーは魔法でフッと小さな光の球体を呼び出した。
 魔法で呼び出した火を、同じく魔法で作った光の膜で包んだものだ。
 バーガンディーが母から教わった、名称の無い魔法だ。複数の魔法を合わせるのは、少々複雑なので、やろうとする者は少ない。
 便利なのだがな、とバーガンディーは思っている。

 まぁ、それはともかく。
 その光の球体を、バーガンディーはシャルトルーズの近くへ浮かばせた。これなら温かいはずだ。
 彼女は興味深そうに球体を見ながら「あったかい……」と呟く。それからバーガンディーを見上げ、

「ありがとうございます、陛下」

 と笑った。柔らかな笑顔だった。
 バーガンディーも「いや」と首を振って、つられて笑顔になる。

「そう言えばシャルトルーズ殿。君の感知は、どのくらいまで行けるんだい?」
「気合を入れれば城下町全体くらいは行けますが、確実に分かるのは王宮くらいの広さですね」
「なるほど。今はどうだ?」
「マダーさんの悪意は感じませんね。近場にいくつか別の悪意を感じますが」

 進行方向に目を向けてシャルトルーズは言う。
 なるほど、とバーガンディーは頷く。恐らくマダーらの仲間らしき者はいるようだ。
 転移の魔法で飛ばした以上は、そこから簡単に逃がしはしないだろう。

「君の力は有難いな」
「フフ。ごちゃごちゃしていると判別がし辛いのと、対象が眠っていたり意識がなかったりすると、分からないんですけどね。――――ん?」

 そんな話をしていると、シャルトルーズが足を止めた。

「どうした?」
「今、一瞬、オーカーさんと同じ色が見えた気が。近いです」
「!」

 彼女の言葉にバーガンディーは目を見開いた。

「どの方向だ?」
「こちらです、案内します」

 そう言うとシャルトルーズは足早に歩きだす。
 バーガンディーがついていくと、途中で道が二手に分かれた。シャルトルーズは迷う事なく左を選ぶ。

「オーカーにも悪意があるのか」
「ありますよ。でも、私達に対してですね。そもそも生きていれば、誰しも少しは悪意ってのは持ちますから。あ、オーカーさんはごくごく僅かですけどね」

 そんなやり取りをしながら進んでいくと、ひそひそと小さな声が聞こえる。
 二人は足を止め、光の球体を隠し、物陰に隠れて様子を伺う。
 その先は、少し開けた空間だ。そこに縛られて血を流し、ぐったりとしたオーカーと、見張りらしき男が二人座っていた。

「おい、本当にこのまま放置していて良いのか? オーカー様、死んじまうだろう」
「マダー様が構わないと仰ったんだ。どうせ和平賛成派のお偉いさん達は、皆、無事じゃ済まねぇんだから」

 ひそひそ、と声を潜めて二人は話している。
 多少気にしている風ではあるが、何かしようという気配は感じられなかった。

「どうしますか」
「気付いていない内に奇襲をかけよう」
「承知しました」

 バーガンディーがチャクラムを取り出すと、シャルトルーズはにこりと笑い、上着の内側から魔導具の人形を飛ばす。
 そしてタイミングを見計らい、

「フッ!」

 二人同時に踏み込んで、見張りに攻撃を仕掛けた。
 彼らは音に気が付いて振り返る。

「何――――陛下!?」

 驚愕に目を見開き、武器を手に取る二人。
 だが、何かするよりバーガンディー達の方が早かった。
 武器をチャクラムで弾き、魔道具の人形で視界を奪い。
 無防備になった二人を、バーガンディーとシャルトルーズはそれぞれ殴って昏倒させた。
 油断はあっただろうが、あっと言う間の事だった。
 軽く息を吐くと、バーガンディーはオーカーに駆け寄り、縄を解く。

「オーカー、分かるか!?」
「…………陛下?」

 呼びかけると、ぼうっとした様子でオーカーは顔を上げる。
 服の前に斬られた跡があり、べったりと血で染まっている。
 酷い怪我だ。

「止血する、少し待て」

 そう言うとバーガンディーは手のひらをオーカーの傷口に向ける。
 呪文を唱えれば、手の周りにふわりと金の光が浮かび始めた。
 治癒の魔法だ。と言っても、効果は応急処置くらいだが。
 だが、それでも多少は効いたらしく、脂汗を浮かべていたオーカーの表情が僅かに落ち着いた。
 血を失い過ぎているのか、顔色は青いままではあるが。

「ありがとうございます、陛下」
「いや、無事でよかった。何があったのだ、オーカー」
「……マダーです」

 オーカーの話によれば、彼はマダーを追っていた最中に襲われたらしい。
 恐らく途中で気づかれていたのだろう、とオーカーは話す。

「場所は、西のオアシスです。その近くの岩場に、巨大な魔法陣と、大量の魔法の媒介が隠されていました」
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