11 / 18
第十話「これ以上ないくらい、良い的ですよねぇ」
しおりを挟む
オーカーが運ばれた部屋へ駆けつけると、彼は満身創痍な様子でベッドに寝かされていた。
傷の手当は済んでいるようだったが、血を多く失っているのか顔色が悪い。
彼はバーガンディー達の足音に気が付くと、薄っすらと目を開けた。
「……陛下」
「オーカー、大丈夫か!?」
声をかければ、彼は困ったように笑って「申し訳ありません、油断、しました」と掠れた声で言う。
オーカーは剣術と魔法、両方の使い手だった。それがこんなにもボロボロにされてしまうとは。
バーガンディーはオーカーに、和平反対派の監視と、マダーの調査を頼んでいた。
その過程でこうなったという事は、犯人はその関係者だ。一番近いならマダーだが……。
「私が、不甲斐ないばかりに、奴を取り逃がすばかりか、このような無様な姿を……ああ、先代にどうお詫びすれば……」
オーカーはそう呟く。
その言葉にバーガンディーは違和感を感じた。呼び方だ。
(……先代?)
オーカーは、バーガンディーの父の事を名前で呼ぶ。
彼は前王の側近で補佐役であったが、同時に友人でもあった。父の頼みもあって、基本的には名前で呼んでたのだ。
小さな疑惑が胸に浮かび上がる。
この状態を見れば、落ち着いた後で話を聞く方が良いのだろうが、嫌な予感がした。
とりあえず、怪我の理由を聞きながら様子をみるかと、そう思った時。
「その人が、オーカーさんですか?」
シャルトルーズにそう聞かれた。
振り返れば、彼女は不可解そうな表情を浮かべている。
彼女の言葉にバーガンディーの中の違和感が、より色を増していく。
服の下に隠した武器をいつでも出せるようにしながら、バーガンディーはその言葉に乗った。
「君も何度も会っているだろう?」
「はい、ええ。会ってはいますが。ですが彼の“色”とは違います」
そうシャルトルーズが言ったとたん、一緒にいたサックスが懐から筒のようなものを取り出し、オーカーの額につきつけた。
魔導具で分類としては『銃』と呼ばれるものだ。
「さ、サックスさん!? どうしたでありますか!?」
「マルベリー。大丈夫だ、落ち着け」
ぎょっとするマルベリーにそう言うと、バーガンディーはサックスを見る。
「速いな、サックス殿」
「特技でしてね。さて、陛下。俺達が会ったオーカー殿、どっちか偽物みたいですよ」
サックスは銃を突きつけた相手から目を反らさずに言う。
バーガンディーは「ああ」と頷く。マルベリーは「偽物!?」と驚いた声を上げた。
しかし、一番目を剥いているのは満身創痍で寝かされている『オーカー』だ。
「こちらが偽物だ」
「へ、陛下、何を……」
そう言うと、バーガンディーは両手をパン、と合わせる。
そして小さく言葉を――魔法を発動するための呪文を唱えながら、ゆっくりと手を放す。
すると手と手の間に、キラキラとした光の粒が生まれた。
変装や、偽装を解く魔法だ。
バーガンディーは右手でそれを掴むと『オーカー』のに振りかける。
パラパラと光の粒は『オーカー』の身体に落ちて行き。
触れたそこから、燃えて広がるように『オーカー』の姿が、作り物それらに穴が開いていく。
やがて現れたのは、オーカーとはまるで違う男のそれだった。
歳は二十代ほど。彼は武人であったカージナルの父の部下だ。
「馬鹿な、どうして……」
「調べが足りないな。彼は私の父を、ボルドー様、と呼ぶのだよ。――――シャモア」
名を呼べば、男は悔し気にぐっと歯を噛みしめる。
彼を見下ろしながら、バーガンディーは問う。
「姿を偽装する魔法は、対象の血がなければ出来ない。オーカーをどうした」
「……ハ。どうしたって? 死んじゃいませんでしたよ。生きているかも分かりませんけどね」
鼻で笑って、シャモアは言う。その言葉に、バーガンディーとマルベリーの顔が険しくなった。
「カージナルといい、お前達は何をしようとしている!」
「ああ、その言い方だと……お嬢、失敗しちゃったんですか。やっぱりなぁ。向いてないからなぁ、あの子。こういう事には」
ぜえぜえと、肩で息をしながら、シャモアは卑屈に笑う。
どうやら姿形こそ偽ってはいたものの、怪我自体は本物らしい。
自分達を騙すためにここまでやるのかとバーガンディーは苦く思った。
「砂も、森も。今の世論は和平賛成。大半がそうですよ。ですけどね、陛下」
シャモアの目が、ギロリ、と光る。
「死んでいった仲間を俺達は忘れない。あいつらの無念を忘れない。砂に勝利を、その言葉が今も俺の頭の中で響いてる」
目はバーガンディーに向けたまま。
怨嗟のような声で、彼は言う。
「あなたは良い王様だ。だけど。あんたは俺達にとって酷い王様だ」
「カージナルにも言われたよ」
「そうですか。……そうですか、ああ。ああ、本当に。――――あなたは酷い人だなぁ」
ハハハ、と声を上げてシャモアは笑い出す。
「――――俺達が何をしているか。そんなもんは単純です。時間稼ぎですよ、陛下」
「時間稼ぎだと?」
「ええ。今は和平の会議中。使者が滞在しているのもここで、賛成派のお偉いさん達も大多数はここにいる」
まさか、とバーガンディーの背中に冷たいものが走る。
シャモアはにんまり笑った。
「これ以上ないくらい、良い的ですよねぇ。――――ねぇ、マダーさん!」
シャモアはそう叫ぶと、突きつけられた銃を手で掴み。
体を起こし、力任せにサックスを放り投げた。その先にマルベリーがいる。咄嗟にサックスは体をよじり、マルベリーを辛うじて避けた。だが、そのせいで受け身をうまく取れず、棚に思い切りぶつかってしまった。
「師匠、マルさん!」
「貴様ッ!」
バーガンディーは袖からチャクラを滑り落とす。
だが、それより早く。シャモアの足元に、ぐるりと回転しながら魔法陣が広がった。
「他はいらない。だけどあなたは、生きていてもらわなきゃ困るんですよ、ねぇ、陛下!」
シャモアの口が半月を描く。
その魔法陣はスウとバーガンディーの下に移動し、
(転移の……ッ!)
そのままバーガンディーと、近くにいたシャルトルーズを巻き込んで、目が眩むほどの強い光を放った。
傷の手当は済んでいるようだったが、血を多く失っているのか顔色が悪い。
彼はバーガンディー達の足音に気が付くと、薄っすらと目を開けた。
「……陛下」
「オーカー、大丈夫か!?」
声をかければ、彼は困ったように笑って「申し訳ありません、油断、しました」と掠れた声で言う。
オーカーは剣術と魔法、両方の使い手だった。それがこんなにもボロボロにされてしまうとは。
バーガンディーはオーカーに、和平反対派の監視と、マダーの調査を頼んでいた。
その過程でこうなったという事は、犯人はその関係者だ。一番近いならマダーだが……。
「私が、不甲斐ないばかりに、奴を取り逃がすばかりか、このような無様な姿を……ああ、先代にどうお詫びすれば……」
オーカーはそう呟く。
その言葉にバーガンディーは違和感を感じた。呼び方だ。
(……先代?)
オーカーは、バーガンディーの父の事を名前で呼ぶ。
彼は前王の側近で補佐役であったが、同時に友人でもあった。父の頼みもあって、基本的には名前で呼んでたのだ。
小さな疑惑が胸に浮かび上がる。
この状態を見れば、落ち着いた後で話を聞く方が良いのだろうが、嫌な予感がした。
とりあえず、怪我の理由を聞きながら様子をみるかと、そう思った時。
「その人が、オーカーさんですか?」
シャルトルーズにそう聞かれた。
振り返れば、彼女は不可解そうな表情を浮かべている。
彼女の言葉にバーガンディーの中の違和感が、より色を増していく。
服の下に隠した武器をいつでも出せるようにしながら、バーガンディーはその言葉に乗った。
「君も何度も会っているだろう?」
「はい、ええ。会ってはいますが。ですが彼の“色”とは違います」
そうシャルトルーズが言ったとたん、一緒にいたサックスが懐から筒のようなものを取り出し、オーカーの額につきつけた。
魔導具で分類としては『銃』と呼ばれるものだ。
「さ、サックスさん!? どうしたでありますか!?」
「マルベリー。大丈夫だ、落ち着け」
ぎょっとするマルベリーにそう言うと、バーガンディーはサックスを見る。
「速いな、サックス殿」
「特技でしてね。さて、陛下。俺達が会ったオーカー殿、どっちか偽物みたいですよ」
サックスは銃を突きつけた相手から目を反らさずに言う。
バーガンディーは「ああ」と頷く。マルベリーは「偽物!?」と驚いた声を上げた。
しかし、一番目を剥いているのは満身創痍で寝かされている『オーカー』だ。
「こちらが偽物だ」
「へ、陛下、何を……」
そう言うと、バーガンディーは両手をパン、と合わせる。
そして小さく言葉を――魔法を発動するための呪文を唱えながら、ゆっくりと手を放す。
すると手と手の間に、キラキラとした光の粒が生まれた。
変装や、偽装を解く魔法だ。
バーガンディーは右手でそれを掴むと『オーカー』のに振りかける。
パラパラと光の粒は『オーカー』の身体に落ちて行き。
触れたそこから、燃えて広がるように『オーカー』の姿が、作り物それらに穴が開いていく。
やがて現れたのは、オーカーとはまるで違う男のそれだった。
歳は二十代ほど。彼は武人であったカージナルの父の部下だ。
「馬鹿な、どうして……」
「調べが足りないな。彼は私の父を、ボルドー様、と呼ぶのだよ。――――シャモア」
名を呼べば、男は悔し気にぐっと歯を噛みしめる。
彼を見下ろしながら、バーガンディーは問う。
「姿を偽装する魔法は、対象の血がなければ出来ない。オーカーをどうした」
「……ハ。どうしたって? 死んじゃいませんでしたよ。生きているかも分かりませんけどね」
鼻で笑って、シャモアは言う。その言葉に、バーガンディーとマルベリーの顔が険しくなった。
「カージナルといい、お前達は何をしようとしている!」
「ああ、その言い方だと……お嬢、失敗しちゃったんですか。やっぱりなぁ。向いてないからなぁ、あの子。こういう事には」
ぜえぜえと、肩で息をしながら、シャモアは卑屈に笑う。
どうやら姿形こそ偽ってはいたものの、怪我自体は本物らしい。
自分達を騙すためにここまでやるのかとバーガンディーは苦く思った。
「砂も、森も。今の世論は和平賛成。大半がそうですよ。ですけどね、陛下」
シャモアの目が、ギロリ、と光る。
「死んでいった仲間を俺達は忘れない。あいつらの無念を忘れない。砂に勝利を、その言葉が今も俺の頭の中で響いてる」
目はバーガンディーに向けたまま。
怨嗟のような声で、彼は言う。
「あなたは良い王様だ。だけど。あんたは俺達にとって酷い王様だ」
「カージナルにも言われたよ」
「そうですか。……そうですか、ああ。ああ、本当に。――――あなたは酷い人だなぁ」
ハハハ、と声を上げてシャモアは笑い出す。
「――――俺達が何をしているか。そんなもんは単純です。時間稼ぎですよ、陛下」
「時間稼ぎだと?」
「ええ。今は和平の会議中。使者が滞在しているのもここで、賛成派のお偉いさん達も大多数はここにいる」
まさか、とバーガンディーの背中に冷たいものが走る。
シャモアはにんまり笑った。
「これ以上ないくらい、良い的ですよねぇ。――――ねぇ、マダーさん!」
シャモアはそう叫ぶと、突きつけられた銃を手で掴み。
体を起こし、力任せにサックスを放り投げた。その先にマルベリーがいる。咄嗟にサックスは体をよじり、マルベリーを辛うじて避けた。だが、そのせいで受け身をうまく取れず、棚に思い切りぶつかってしまった。
「師匠、マルさん!」
「貴様ッ!」
バーガンディーは袖からチャクラを滑り落とす。
だが、それより早く。シャモアの足元に、ぐるりと回転しながら魔法陣が広がった。
「他はいらない。だけどあなたは、生きていてもらわなきゃ困るんですよ、ねぇ、陛下!」
シャモアの口が半月を描く。
その魔法陣はスウとバーガンディーの下に移動し、
(転移の……ッ!)
そのままバーガンディーと、近くにいたシャルトルーズを巻き込んで、目が眩むほどの強い光を放った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる