ログティア~忘却の大地と記録の旅人~

石動なつめ

文字の大きさ
上 下
27 / 44
ウッドゴーレム

しおりを挟む
 白雲の群生地に、白雲の花の甘い香りに混ざって、ふんわりとスープの香りが広がる。

「「うま!」」
「そうだろうそうだろう」

 コップに入ったスープを飲んだセイルとハイネルが目を輝かせると、ストレイは得意げに笑った。三人は今食事中である。
 そんな三人の隣では、ウッドゴーレムが膝を抱えて座っていた。ウッドゴーレムは食事を必要とはしないので食べはしないが、一緒に食事を楽しんでいるかのようにそこにいた。

「いや、本当にストレイ料理上手ですね」
「まぁ冒険者生活も長いからな」

 セイルが褒めると、ストレイは満更でもなさそうに笑った。
 鶏肉のサンドイッチと白雲の花のサラダ、そしてスープ。サンドイッチ自体はライゼンデの屋台で購入したものだが、それ以外はストレイの手料理だった。
 まずはこのサンドイッチだが、これは出発前にライゼンデの屋台で購入したものである。カリカリに焼かれた甘辛い鶏肉がレタスと一緒に少し硬めのパンでサンドされている。値段も安くボリュームもあるので、冒険者達に人気のメニューだった。
 次いではこのサラダ。摘んだ白雲の花を適当に切って、オリーブオイルと混ぜたら、その上から塩とレモンの粉末を振りかける。白雲の花をサラダにして食べると聞いた時はセイルとハイネルは驚いたが、冒険者の間ではそれほど珍しい事でもないらしい。
 白雲の花は、もともと薬にも使われる薬草だから、食べても問題がないのだそうだ。僅かに甘味のある白雲の花はシャキシャキとした歯ごたえで、味付けもさっぱりとしてセイルは気に入っていた。
 最後にスープ。干したトマトとキノコ、タマネギを入れて、水と塩、胡椒で味付けをして鍋で煮込んである。野菜が柔らかくなったらサラダの余りの白雲の花をぱらぱらと上に振りかけて完成だ。このスープはまず香りがいい。ワクワクしながら口に入れると、野菜とキノコの旨みがじゅわりと口の中に広がって、ハイネルは至福そうに息を吐いた。

「ハイネル、ハイネル。次の依頼で報酬を貰ったら鍋買いましょう」
「いいですね、鍋。料理にも盾にも使えます」

 セイルがそう提案すると、ハイネルも力強く頷いた。

「その前に、お前さん達は前衛職の仲間を探しとけ。傍から見てるとすげぇ心配」
「いやぁ」
「褒めてないぞ」

 そんな賑やかな食事を終え、後片付けをした後。
 セイルは満腹特有のまったりとした満足感を感じながら白雲の花畑の中に寝転んだ。
 ストレイは先程の資料を鞄から出して興味深そうに読んでいる。
 ハイネルはハイネルで、先程書いていたメモ帳を取りだし、ストレイに話しかけていた。

「ストレイ、少し良いですか? あの部屋の壁に書かれていた設計図に関してなのですが……」
「ああ、いいぞ。俺の方も見せて貰いたい所があったんだ」

 どうやらウッドゴーレムの修理に関しての事らしい。
 二人は資料を広げて、ハイネルのメモと見比べていた。
 セイルが少しばかり疎外感を感じていると、ふと、座っているウッドゴーレムが何かをしている事に気が付いた。
 ウッドゴーレムは大きな指で白雲の花を一輪ずつ器用に摘んでいる。
 セイルは目を瞬くと、ごろりと転がって立ち上がると、ウッドゴーレムの所へと近寄った。

「おお、たくさん摘みましたねー」

 セイルが話かけると、ウッドゴーレムは少し首を傾げ、その内の一輪をセイルへと差し出した。
 セイルは目をぱちぱちとさせると、両手でその花を受け取って嬉しそうに胸に抱く。

「ありがとうございます。いやぁ、わたし、誰かから花を貰ったのって初めてです」

 少し照れながらお礼を言うと、ウッドゴーレムは再び白雲の花摘みを再開した。
 セイルはウッドゴーレムから貰った白雲の花を嬉しそうに見つめたあと、髪に挿した。
 そうしてしゃがみこんでその様子をのんびりと眺めていると、ふとストレイに呼ばれた。

「そう言えばセイル」
「はいはい?」
「ここに来ていた冒険者っぽい奴のログって追えるのか?」
「そうですねー……うーん。遺跡の方のログは前に見たので限界だと思いますが。人のログを許可なく見るのって、基本的にNGなんですよ」
「ゴーレムはどうだ?」
「ギリギリ……ゴーちゃん、いかがです?」

 セイルがうーんと唸ってウッドゴーレムに尋ねると、少し首を傾げた後「どうぞ」と言うように、セイルの方に体を向けて、膝を抱えて座った。
 セイルはハイネルとストレイを見て頷いた後、水音の杖の底で地面を軽く叩いた。
 ポーン、と澄んだ音の波が広がる。
 セイルが目を閉じて集中すると、ウッドゴーレムから、さらさらと金色の砂のような光が現れ、セイルに吸い込まれていく。
 ハイネルは、ほう、と息を吐き、ストレイは少しだけ目を張ってその光景を見つめる。

「ログとは綺麗なものですね」
「そうだな。俺もしっかりと見た事はなかったが……」

 自分の中にログが吸い込む感覚を感じながら、セイルは自分の中に入って来るログを整理していく。
 その中に目的のログがあった。
 それを手繰り寄せるように意識を集中すると、セイルの瞼の裏にゆっくりとウッドゴーレムのログの光景が浮かび始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...