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白雲の遺跡
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「ハイネル、あそこを!」
セイルの指さした場所を見たハイネルが目を張る。
ウッドゴーレムをあそこにおびき寄せれば川に落とせるかもしれない。
だが、この高さでは大した衝撃を与える事は出来ないだろう。
「あの程度では恐らく無理ですよ!?」
「大丈夫、わたしに考えがあります!」
「…………分かりました!」
もはやヤケクソである。
制御盤の事を思いついたのもセイルだ。何か考えがあるというのなら、それに乗ってやろうじゃないか。
二人は必死の形相で走り出すと、上手くその場にウッドゴーレムを追い込めるように角度を調整する。
今度は逃げるのではなく、待ちである。
ドシーン、ドシーンと体に響く重い音にセイルとハイネルの顔色は青ざめていた。
「あと少し……もう少し……」
鞄から『火トカゲ』を取り出し手でいじりながら、ハイネルは自分を落ち着けるようにぶつぶつと呟く。
そしてウッドゴーレムがひびわれた石の床に差し掛かった時、
「今だ!」
掛け声と共に『火トカゲ』を投げた。
今度はウッドゴーレムではなく、それが立つ床を狙ってである。
床にぶつかった瞬間、けたたましい音と火柱を上げ『火トカゲ』は爆発する。
同時にピシピシッと何かが崩れる音が聞こえ、次いで重い物が落ちる音と、水しぶきが上がった。
煙が晴れて行くと、川の中にウッドゴーレムが落ちているのが見えた。
だがやはりその程度の衝撃ではゴーレムを停止させるダメージに足りないようで、ウッドゴーレムは直ぐに起き上がった。
「駄目か……!」
「大丈夫です!」
セイルは水音の杖の底で地面を突く。
ポーン、と、まるでピアノの鍵盤を弾いたような音が辺りに響いた。
静かで澄んだ音の波が波紋のように自分の体を通り抜けた事をハイネルは感じて、思わずセイルを見る。
先程聞こえた音と同じだ。
セイルは視線を逸らさず、ウッドゴーレムが川から上がり、崖を登って来るのをじっと待った。
杖を握った手は緊張の汗でじっとりと濡れている。
「――――来た」
頭から足の先までずぶ濡れのウッドゴーレムの目は、相変わらず警戒色の赤が爛々と光っている。
ずるり、ずるりと、崖を上がると、地面に水溜まりを作りながらゆっくりと、セイルとハイネルに一直線に向かって来る。
身構えるハイネルの隣で、セイルは杖の先をウッドゴーレムに向けた。
「行きます」
するとセイルの体から金色の砂のような光が現れた。
そしてそれはセイルの杖の先に向かってさらさらと集まり始める。
「"ログティア"セイル・ヴェルスより、ウッドゴーレムへ。ログの名は"太陽"――――照らし、熱せよ。衣よ乾け!」
ゴーレムが回廊まで登りきった時だ。
セイルが言葉を言い終えると、金色の砂がウッドゴーレムに向かって飛び、その頭上で弾ける。
その瞬間、熱を伴った強い光がウッドゴーレムに降り注ぐ。
あまりの眩しさにハイネルは反射的に腕で顔を隠した。セイルも同様だ。
その眩しさの向こう側で、じゅわっと、水が蒸発する音が聞こえた。
光は数十秒で収まり、恐る恐る腕を下ろしたセイルとハイネルの視線の先には、体から湯気を立てたウッドゴーレムが立っている。
ウッドゴーレムはまだ動かない。
ごくりと喉を鳴らした瞬間、その大きな足に、ピシリ、と亀裂が入るのがはっきりと見えた。
「ハイネル!」
「くらいなさい!」
セイルがハイネルの名を呼んだとほぼ同時だ。
ハイネルは鞄から最後の『火トカゲ』を取り出すと、ウッドゴーレムに向かって思い切り投げつけた。
ドオンと激しい音を立てて『火トカゲ』は爆発する。
セイルとハイネルは煙から身を守るように体を低くした。
「…………どうだ?」
ゆっくりと煙が晴れて行く。
そこには変わらずウッドゴーレムが立っていた。
ごくりと喉が鳴る。
すると、足に入った亀裂からピシピシと小さな亀裂が広がり始めるのが見えた。
祈るように二人が見つめている二人の耳にバキッと音がしたが届いたかと思うと、ウッドゴーレムは膝をつき、地面へと倒れ込んだ。
しばらくその大きな腕をを動かしていたが、やがて目から光を消し、動かなくなった。
「か、勝った……」
倒れたウッドゴーレムを見て緊張の糸が切れたのか、セイルとハイネルはへなへなとへたり込む。
走って出た汗とは別の汗がドッと出てきた。
「うわ、汗でびしょびしょですよ。ああ、死ぬかと思った……」
「あー上手く行って良かったぁ……」
両手をつくと、ぽたぽたと汗が落ちた。
「それにしても良く思いつきましたね、アレ」
「やー、ははは。うちの近所に住んでいる大工のおじさんが、前にあんな事言っていたなぁって」
セイルとハイネルは「ははは」とお互いに笑いあうと、倒れたウッドゴーレムを見て大きく息を吐いた。
「ログティアだったのですね」
「はい。黙っていてすみません」
「いえ、助かりました」
セイルとハイネルは動けるようになるまで休憩すると立ち上がる。
ウッドゴーレムを気にしながらも、一先ずは白雲の花の採取が先だと、遺跡の一番奥にある白雲の花の群生地へと向かって歩き出した。
セイルの指さした場所を見たハイネルが目を張る。
ウッドゴーレムをあそこにおびき寄せれば川に落とせるかもしれない。
だが、この高さでは大した衝撃を与える事は出来ないだろう。
「あの程度では恐らく無理ですよ!?」
「大丈夫、わたしに考えがあります!」
「…………分かりました!」
もはやヤケクソである。
制御盤の事を思いついたのもセイルだ。何か考えがあるというのなら、それに乗ってやろうじゃないか。
二人は必死の形相で走り出すと、上手くその場にウッドゴーレムを追い込めるように角度を調整する。
今度は逃げるのではなく、待ちである。
ドシーン、ドシーンと体に響く重い音にセイルとハイネルの顔色は青ざめていた。
「あと少し……もう少し……」
鞄から『火トカゲ』を取り出し手でいじりながら、ハイネルは自分を落ち着けるようにぶつぶつと呟く。
そしてウッドゴーレムがひびわれた石の床に差し掛かった時、
「今だ!」
掛け声と共に『火トカゲ』を投げた。
今度はウッドゴーレムではなく、それが立つ床を狙ってである。
床にぶつかった瞬間、けたたましい音と火柱を上げ『火トカゲ』は爆発する。
同時にピシピシッと何かが崩れる音が聞こえ、次いで重い物が落ちる音と、水しぶきが上がった。
煙が晴れて行くと、川の中にウッドゴーレムが落ちているのが見えた。
だがやはりその程度の衝撃ではゴーレムを停止させるダメージに足りないようで、ウッドゴーレムは直ぐに起き上がった。
「駄目か……!」
「大丈夫です!」
セイルは水音の杖の底で地面を突く。
ポーン、と、まるでピアノの鍵盤を弾いたような音が辺りに響いた。
静かで澄んだ音の波が波紋のように自分の体を通り抜けた事をハイネルは感じて、思わずセイルを見る。
先程聞こえた音と同じだ。
セイルは視線を逸らさず、ウッドゴーレムが川から上がり、崖を登って来るのをじっと待った。
杖を握った手は緊張の汗でじっとりと濡れている。
「――――来た」
頭から足の先までずぶ濡れのウッドゴーレムの目は、相変わらず警戒色の赤が爛々と光っている。
ずるり、ずるりと、崖を上がると、地面に水溜まりを作りながらゆっくりと、セイルとハイネルに一直線に向かって来る。
身構えるハイネルの隣で、セイルは杖の先をウッドゴーレムに向けた。
「行きます」
するとセイルの体から金色の砂のような光が現れた。
そしてそれはセイルの杖の先に向かってさらさらと集まり始める。
「"ログティア"セイル・ヴェルスより、ウッドゴーレムへ。ログの名は"太陽"――――照らし、熱せよ。衣よ乾け!」
ゴーレムが回廊まで登りきった時だ。
セイルが言葉を言い終えると、金色の砂がウッドゴーレムに向かって飛び、その頭上で弾ける。
その瞬間、熱を伴った強い光がウッドゴーレムに降り注ぐ。
あまりの眩しさにハイネルは反射的に腕で顔を隠した。セイルも同様だ。
その眩しさの向こう側で、じゅわっと、水が蒸発する音が聞こえた。
光は数十秒で収まり、恐る恐る腕を下ろしたセイルとハイネルの視線の先には、体から湯気を立てたウッドゴーレムが立っている。
ウッドゴーレムはまだ動かない。
ごくりと喉を鳴らした瞬間、その大きな足に、ピシリ、と亀裂が入るのがはっきりと見えた。
「ハイネル!」
「くらいなさい!」
セイルがハイネルの名を呼んだとほぼ同時だ。
ハイネルは鞄から最後の『火トカゲ』を取り出すと、ウッドゴーレムに向かって思い切り投げつけた。
ドオンと激しい音を立てて『火トカゲ』は爆発する。
セイルとハイネルは煙から身を守るように体を低くした。
「…………どうだ?」
ゆっくりと煙が晴れて行く。
そこには変わらずウッドゴーレムが立っていた。
ごくりと喉が鳴る。
すると、足に入った亀裂からピシピシと小さな亀裂が広がり始めるのが見えた。
祈るように二人が見つめている二人の耳にバキッと音がしたが届いたかと思うと、ウッドゴーレムは膝をつき、地面へと倒れ込んだ。
しばらくその大きな腕をを動かしていたが、やがて目から光を消し、動かなくなった。
「か、勝った……」
倒れたウッドゴーレムを見て緊張の糸が切れたのか、セイルとハイネルはへなへなとへたり込む。
走って出た汗とは別の汗がドッと出てきた。
「うわ、汗でびしょびしょですよ。ああ、死ぬかと思った……」
「あー上手く行って良かったぁ……」
両手をつくと、ぽたぽたと汗が落ちた。
「それにしても良く思いつきましたね、アレ」
「やー、ははは。うちの近所に住んでいる大工のおじさんが、前にあんな事言っていたなぁって」
セイルとハイネルは「ははは」とお互いに笑いあうと、倒れたウッドゴーレムを見て大きく息を吐いた。
「ログティアだったのですね」
「はい。黙っていてすみません」
「いえ、助かりました」
セイルとハイネルは動けるようになるまで休憩すると立ち上がる。
ウッドゴーレムを気にしながらも、一先ずは白雲の花の採取が先だと、遺跡の一番奥にある白雲の花の群生地へと向かって歩き出した。
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