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2-10 カンナ
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それから少しして、ヴィオラさんは後方に1人連れながら部屋へと戻ると、再び定位置へと腰掛けた。その横で、奴隷の子が立ちながらこちらへと視線を向ける。
ヴィオラさんが口を開く。
「この子はカンナよ。カンナ、ご挨拶なさい」
「はい。カンナ、16歳です。よろしくお願いします」
カンナと呼ばれた少女は、感情のほとんどこもっていない、されど可憐な声でそう名乗る。
……この子が。
身長はおよそ150cmほどだろうか。ダボッとした貫頭衣に身を包んでいるため、そのスタイルはわからない。
オレンジの髪はかなり長く、腰元まで伸びているのだが、髪質が良くないのかあるいは意図的か、その髪はボサボサでお世辞にも綺麗とはいえない。
また容姿については、これも意図的か長く伸びた前髪で顔を隠しているため、全く判断がつかない。
と、ここでヴィオラさんが付け加えるように声を上げる。
「ちなみにカンナの顔は見せられないわ。それがこの子の提示した条件の1つなの。ただ安心してちょうだい。傷や欠損があるから隠しているわけではないわ」
……であれば容姿で購入判断されないようにだろうか。
今回の目的からすれば容姿は特に重要ではない。ただ接客業である以上、やはり清潔感というか、とにかく今の髪型はあまりよろしくない。……ただそこはまぁ、仮に彼女を従業員とした時に、信用を重ねてどうにかするしかないか。強要はしたくないしね。
「ヴィオラさんこの後の流れは?」
「そうね……まずはこの子の提示する条件や契約まわりの情報を伝えて、双方が納得したのならすぐにでも購入に移るわ。もう少し知りたいことがあるのなら、質問してもらって、この子の条件を考慮した上で回答する感じかしら」
「なるほど……では条件を聞いた後、いくつか質問させてください」
「もちろん、構わないわよ」
立ったままこちらへと視線を向けるカンナさん。
「えっと、彼女はずっと立ったままですか?」
「そこはお客様次第ね」
「では座っていただいて」
カンナさんは頷き「失礼いたします」と腰掛ける。
……この独特の緊張感、何だか就活を思い出すなぁ。
なんてことを考えていると、ヴィオラさんが口を開いた。
「さて、まずはこの子の条件をお伝えするわね」
「はい、お願いします」
言葉と共にうんと頷くと、ヴィオラさんは1枚の紙をこちらへとよこしてきた。その紙にはなにやらびっしりと文字が書かれている。
まさかと思いつつその内容に目を通していくと、案の定これがカンナさんの提示する条件のようである。
その数は定かではないが、およそ50項目程度あるだろうか。
髪型といい、この条件といい、どうしても買われたくないという意志を彼女から感じる。
それはある意味では当然の感情か。借金奴隷でも不法奴隷でも、きっと彼女は望んで奴隷という立場を選んだわけではないのだろうから。
しかしずっとこのままというわけにもいかないだろう。不幸にも奴隷に堕とされた彼女にとってはあまりにも酷なことではあるが、きっとこのまま買い手が付かなければ条件を緩めるか、もしくは他の奴隷商館へと移ることになる。
いくらヴィオラさんが優しかろうと、彼女にとってこれは商売。言い方は悪いが、不動在庫を長期間抱えていることをよしとはしないはずだ。
つまりカンナさんにとってはどこかで妥協するか、条件を全て飲むことのできる買い手と出会うしかないわけだ。
さて、その上で改めて条件に目を通してみる。
大きなものでいえば、性的、暴力的等不要な接触の禁止などが条件として設定されている。
これは彼女が自身の身を守るための手段として正当な条件だと言える。それ以外に目をやれば、中には奴隷の購入目的によっては厳しい条件もあるが──
……正直、僕ならこれらの条件を定められてもたいして問題ないんだよな。
あえて言うのならば、この不要な接触にマッサージが入っていたら少々困るくらいか。
しかしヴィオラさんはこちらの要望を踏まえた上で彼女を紹介してくれたのだ。さすがにその辺りはある程度考慮してくれているはず……いや、そこは僕の説明と信用次第ということだろうか。
「どうかしら?」
とりあえず一通り条件を見て、ついでにアナさんにも確認してもらって特に問題ないという判断になったため、僕はうんと頷いた。
「この条件であれば問題ありません」
言葉の後、カンナさんへと視線をやると、彼女は長い前髪の隙間から驚きでまるくした目をチラリと覗かせた。
彼女が幾日この商館にいるのかはわからないが、この条件で頷いたのは僕が初めてだったのかもしれないな。
眼前のカンナさんは目線をキョロキョロとさせながら動揺した様子を見せる。時折口を小さく開いたりしているのは、彼女の迷いの表れだろうか。
このまま回答を待ってもいいが、僕にはどうしても伝えておきたいことがあったため、彼女が言葉を発する前に、ヴィオラさんへと視線をやった。
「ヴィオラさん、カンナさんと直接会話してもいいですか?」
「もちろん。先ほど伝えたように条件の範囲内であれば可能よ」
「ありがとうございます」
言葉の後、僕はカンナさんへと向き直った。
ヴィオラさんが口を開く。
「この子はカンナよ。カンナ、ご挨拶なさい」
「はい。カンナ、16歳です。よろしくお願いします」
カンナと呼ばれた少女は、感情のほとんどこもっていない、されど可憐な声でそう名乗る。
……この子が。
身長はおよそ150cmほどだろうか。ダボッとした貫頭衣に身を包んでいるため、そのスタイルはわからない。
オレンジの髪はかなり長く、腰元まで伸びているのだが、髪質が良くないのかあるいは意図的か、その髪はボサボサでお世辞にも綺麗とはいえない。
また容姿については、これも意図的か長く伸びた前髪で顔を隠しているため、全く判断がつかない。
と、ここでヴィオラさんが付け加えるように声を上げる。
「ちなみにカンナの顔は見せられないわ。それがこの子の提示した条件の1つなの。ただ安心してちょうだい。傷や欠損があるから隠しているわけではないわ」
……であれば容姿で購入判断されないようにだろうか。
今回の目的からすれば容姿は特に重要ではない。ただ接客業である以上、やはり清潔感というか、とにかく今の髪型はあまりよろしくない。……ただそこはまぁ、仮に彼女を従業員とした時に、信用を重ねてどうにかするしかないか。強要はしたくないしね。
「ヴィオラさんこの後の流れは?」
「そうね……まずはこの子の提示する条件や契約まわりの情報を伝えて、双方が納得したのならすぐにでも購入に移るわ。もう少し知りたいことがあるのなら、質問してもらって、この子の条件を考慮した上で回答する感じかしら」
「なるほど……では条件を聞いた後、いくつか質問させてください」
「もちろん、構わないわよ」
立ったままこちらへと視線を向けるカンナさん。
「えっと、彼女はずっと立ったままですか?」
「そこはお客様次第ね」
「では座っていただいて」
カンナさんは頷き「失礼いたします」と腰掛ける。
……この独特の緊張感、何だか就活を思い出すなぁ。
なんてことを考えていると、ヴィオラさんが口を開いた。
「さて、まずはこの子の条件をお伝えするわね」
「はい、お願いします」
言葉と共にうんと頷くと、ヴィオラさんは1枚の紙をこちらへとよこしてきた。その紙にはなにやらびっしりと文字が書かれている。
まさかと思いつつその内容に目を通していくと、案の定これがカンナさんの提示する条件のようである。
その数は定かではないが、およそ50項目程度あるだろうか。
髪型といい、この条件といい、どうしても買われたくないという意志を彼女から感じる。
それはある意味では当然の感情か。借金奴隷でも不法奴隷でも、きっと彼女は望んで奴隷という立場を選んだわけではないのだろうから。
しかしずっとこのままというわけにもいかないだろう。不幸にも奴隷に堕とされた彼女にとってはあまりにも酷なことではあるが、きっとこのまま買い手が付かなければ条件を緩めるか、もしくは他の奴隷商館へと移ることになる。
いくらヴィオラさんが優しかろうと、彼女にとってこれは商売。言い方は悪いが、不動在庫を長期間抱えていることをよしとはしないはずだ。
つまりカンナさんにとってはどこかで妥協するか、条件を全て飲むことのできる買い手と出会うしかないわけだ。
さて、その上で改めて条件に目を通してみる。
大きなものでいえば、性的、暴力的等不要な接触の禁止などが条件として設定されている。
これは彼女が自身の身を守るための手段として正当な条件だと言える。それ以外に目をやれば、中には奴隷の購入目的によっては厳しい条件もあるが──
……正直、僕ならこれらの条件を定められてもたいして問題ないんだよな。
あえて言うのならば、この不要な接触にマッサージが入っていたら少々困るくらいか。
しかしヴィオラさんはこちらの要望を踏まえた上で彼女を紹介してくれたのだ。さすがにその辺りはある程度考慮してくれているはず……いや、そこは僕の説明と信用次第ということだろうか。
「どうかしら?」
とりあえず一通り条件を見て、ついでにアナさんにも確認してもらって特に問題ないという判断になったため、僕はうんと頷いた。
「この条件であれば問題ありません」
言葉の後、カンナさんへと視線をやると、彼女は長い前髪の隙間から驚きでまるくした目をチラリと覗かせた。
彼女が幾日この商館にいるのかはわからないが、この条件で頷いたのは僕が初めてだったのかもしれないな。
眼前のカンナさんは目線をキョロキョロとさせながら動揺した様子を見せる。時折口を小さく開いたりしているのは、彼女の迷いの表れだろうか。
このまま回答を待ってもいいが、僕にはどうしても伝えておきたいことがあったため、彼女が言葉を発する前に、ヴィオラさんへと視線をやった。
「ヴィオラさん、カンナさんと直接会話してもいいですか?」
「もちろん。先ほど伝えたように条件の範囲内であれば可能よ」
「ありがとうございます」
言葉の後、僕はカンナさんへと向き直った。
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