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1-35 作戦会議
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ということで早速今後の行動指針を決めるため、作戦会議を行うことにした。
差し当たって僕たちが目指すべき目標は、過去を超えるほどにまごころに人を集めること。賑やかな場所にすることである。
そのために現状関係ないとは言いながらも、まずは借金について情報を共有してもらうことになった。
「それで……100万リルでしたか」
「はい。少しずつ返しているので、今は73万リルですが……」
「毎月の返済額はおいくらですか?」
「1万リルになります」
「それは……結構な額ですね」
「そう……ですね。現状は貯金があるのでそれを切り崩してなんとかしています。ただそれもそろそろ……」
言って視線を下げるアナさん。僕は続けて問う。
「返済が滞ったらどうなります?」
「契約ではすべての資産を没収されて、それでも足りなければ……その、私自身を……」
「春を売るか、もしくは別の何かをさせられる。その詳しい内容は不明ってところでしょうか」
「そうなります」
「なるほど……」
まったく聞けば聞くほど嫌になる。なぜ何の関係もないアナさんが借金を負わなければならないのか。それも自らの身を担保にしながら。
正直そう憤る気持ちはあるが、その怒りを向ける相手が今はいないため、内に秘めながら会話を続ける。
「ちなみに100万もの大金、それも本人のいない所で勝手に交わされる契約となると、お金の借りた先はやはり……」
「はい。正規の場所ではなくて、闇ギルドからですね」
「闇ギルド……その、あまり詳しくはないのですが、具体的に何かわかることはありますか」
「闇ギルド全体についてはわかりませんが、現在借金をしている先については多少は──」
その後彼女が語ってくれた内容はこうだ。
借金の先は、貧しいものに富を与え、一部貴族から盗みを働くいわゆる義賊的行動を行う闇ギルドだという。世間からは闇とは言われるが、実際には一部層から英雄視されている集団のようだ。
そして何よりも一度決めた約束は違えないのが信条らしい。
これだけ聞けば一概に悪だとは言えない気もするが、結局他人名義で勝手に借金ができる時点で僕からすれば普通に悪である。
正直現状の僕たちにはその義賊的活動のことははっきりいってどうでもいい。重要なのは、約束を違えないということである。
実際アナさんがしっかりと返済している間は、別段こちらに不都合となる行動はとっていないようだ。
つまり今後も毎月1万リルきちんと返済できれば、彼女が借金以外で被害を受けることはないということである。
……まぁ、正直そう簡単な話でもない気はするが、一旦はそういうことにしておこう。
とりあえず現状それがわかっただけでもいい。なぜならこれで借金に関しては深く考える必要が無くなったからだ。
それに今から僕たちが目指す先自体が、借金返済に繋がる事柄でもある。
「では具体的な今後について話していきましょうか」
「はい。まごころの大繁盛……ですよね」
「そうです。そのためにまずは現状のまごころについて整理していきましょうか」
言葉の後、アナさんを中心にまごころの情報が開示されていく。
かなり簡潔に纏めると、宿屋で1泊20リル、全部で8部屋。1階には4人掛けのテーブルが複数並んでおり、希望者はプラス5リルで朝食か夕食を付けることができる。
アナさんが1人で経営するようになってからは、このようなスタイルで運営しているようだ。
つまり現状では毎日全ての部屋が埋まり、その全員が朝食と夕食の両方を付けてようやく利益が1万リルの半分、5000リル程度ということか。それも経費が必要最低限しかかからない想定で。
……ようするに今のスタイルでは、まごころの運営だけで借金を支払い、ある程度安定した生活を送るのは間違いなく不可能というわけだ。
中々厳しいなと思いつつも、今考えるべきは借金をどうするかではなく、いかにしてまごころを人で溢れる場所にするかである。
ということでどうしてもチラついてしまう借金のこと、売上のことは頭の片隅にやり、人を集める方法について話していくことにする。
「とりあえず僕が2部屋使っているので、残りの部屋数は6つ。あとは1階にテーブルや椅子が複数と。そういえば1階の席ってどの程度使われてますか?」
「最近はまったく。その、お客様が食事を付けることがあまりありませんので……」
「そうなると1階のスペースがかなり勿体無いのが現状と。ただ宿屋を経営する中で、食事以外でこのスペースを使うとなると中々難しい……」
そう呟きながらうーんと頭を悩ませていると、ここでアナさんが遠慮がちに口を開く。
「あの……」
「…………?」
「えっと、そこそこ長い間宿屋を経営している私がこんなことを言うのはおかしいかもしれませんが……正直今でも宿屋であることにこだわりはないんです」
「あれ、そうなんですね」
「はい。たくさんの人が集まって賑わう場なら、たとえば飲食店でもいい。私の生活魔法を活かせる仕事として宿屋を選んだだけですから」
てっきり続ける中で宿屋という形態であることにこだわりを持つようになったのかと考えていたのだが、どうやらそういうわけではないようだ。
……あくまでも夢は人の役に立つこと、人の笑顔が溢れる場所を作ることというわけか。あと加えるなら、生活魔法が活かせる仕事であることと。
ここで僕はふと疑問を口にした。
「ちなみに生活魔法って具体的にどんなことができるんですか?」
「ええっと、その名の通り生活に役立つことができます。たとえばモノを綺麗にしたり、水の温度を変えたり、あとは洗濯物を瞬時に乾かせたりもできますね」
「随分と汎用性が高い魔法ですね」
「確かに使い勝手はいいのですが、その、魔力が少ないので、部屋全体を一瞬で綺麗にしたりだとか、そういう大きなことは……」
言って苦笑を浮かべるアナさん。
なるほど、確かに今までの話を聞く限りでは、宿屋が最適に思える。
しかしそうなると問題がある。彼女が以前話していたようにここは中心から少し離れており、態々宿泊をする人がいない。
名物があれば泊まる人が出てくるという話もあり、現にマッサージきっかけで宿泊する人も何人か現れるようにはなった。
ただそれでは今と何ら変わらないし、現状POPPYは僕しか稼働できないため、1日のキャパを考えれば、これ以上の集客は見込めない。
これではとてもではないが、まごころを賑やかな場になんてできない。いや、そもそも仮にこれ以上宿泊客が増えては、アナさんの手が回らなくなってしまうか。
それに1階のスペースの問題だって何一つ解決しない。
……となるとアナさん本人が形式にこだわりがないというなら、いっそのこと宿屋をやめる? その上でアナさんの力を活かせて、集客を増やす方法……か。そんなものあるか?
僕が1人頭を悩ませていると、ここでアナさんがふと何かに気がついたとばかりに声を上げる。
「そういえば、ソースケさんがPOPPYを始めてから、一部のお客様の中で、まごころのあり方が少しだけ変わった気がします」
「ほう?」
「なんと言えばいいのでしょうか。宿を確保するというよりも、POPPYの待ち時間を過ごす場を確保するためであったり、施術を受けた後にその余韻に浸るために部屋を取る方も何名かいらっしゃいました」
言葉の後「やはり多少裕福な方に限りますが」と続ける。
「確かに一部富裕層のみとはいえ、普通の宿ではあまりない使い方ですね……」
……なんとなく、これはかなりのヒントな気がするぞ。
僕がそう考えた所で、アナさんが呟くように声を上げる。
「その時間だけお部屋を貸す……?」
「それだ!」
「……ひゃっ」
「あ、すみません突然大声を」
「い、いえ。それで、何か閃きましたか?」
「はい! 宿屋を休憩所へとシフトするというのはいかがでしょうか?」
「休憩所?」
そう休憩所だ。……決してラブホのことではない。
例えるならネカフェが近いだろうか。ほとんどアナさんの言葉通りだが、時間単位で料金を設定し、部屋を貸し出すのだ。
そうすればまずPOPPYの客が待ち時間として借りやすくなる。
これまではまごころを待機場として利用しようにも一律で20リルかかってしまっていた。だから一部富裕層しか利用できなかった。だが時間単位で部屋を借りられるのならどうだ。
きっとこれまで待機場としてまごころの部屋を取りたくても20リルの値段を見て躊躇していた人が、簡単に部屋を借りられるようになる。つまりまごころの利用者が増えるというわけだ。
それに僕が知る限り、時間単位で部屋を借りられる場所なんてこの町には存在しない。ようするに現時点では、このスタイルをまごころが独占できる。
きっとこの町に訪れた人の中には、数時間だけ部屋を借りたいという人もそれなりにいるはずだ。
確かにまごころの位置は中心部から離れてるかもしれない。しかし離れているといっても十分歩いていける距離である。
ならば宿屋という形式ではダメでも、時間単位で部屋を借りられる休憩所なら利用してくれるのではないだろうか。
その辺りの話を、僕は興奮しながらアナさんへと伝えていく。彼女は楽しげにその話を聞いた後「それいいですね! 絶対成功しますよ!」と太鼓判を押してくれた。
こうしてひとまずまごころを宿屋から休憩所へと変更するという方針で話を進めていくことになった。
差し当たって僕たちが目指すべき目標は、過去を超えるほどにまごころに人を集めること。賑やかな場所にすることである。
そのために現状関係ないとは言いながらも、まずは借金について情報を共有してもらうことになった。
「それで……100万リルでしたか」
「はい。少しずつ返しているので、今は73万リルですが……」
「毎月の返済額はおいくらですか?」
「1万リルになります」
「それは……結構な額ですね」
「そう……ですね。現状は貯金があるのでそれを切り崩してなんとかしています。ただそれもそろそろ……」
言って視線を下げるアナさん。僕は続けて問う。
「返済が滞ったらどうなります?」
「契約ではすべての資産を没収されて、それでも足りなければ……その、私自身を……」
「春を売るか、もしくは別の何かをさせられる。その詳しい内容は不明ってところでしょうか」
「そうなります」
「なるほど……」
まったく聞けば聞くほど嫌になる。なぜ何の関係もないアナさんが借金を負わなければならないのか。それも自らの身を担保にしながら。
正直そう憤る気持ちはあるが、その怒りを向ける相手が今はいないため、内に秘めながら会話を続ける。
「ちなみに100万もの大金、それも本人のいない所で勝手に交わされる契約となると、お金の借りた先はやはり……」
「はい。正規の場所ではなくて、闇ギルドからですね」
「闇ギルド……その、あまり詳しくはないのですが、具体的に何かわかることはありますか」
「闇ギルド全体についてはわかりませんが、現在借金をしている先については多少は──」
その後彼女が語ってくれた内容はこうだ。
借金の先は、貧しいものに富を与え、一部貴族から盗みを働くいわゆる義賊的行動を行う闇ギルドだという。世間からは闇とは言われるが、実際には一部層から英雄視されている集団のようだ。
そして何よりも一度決めた約束は違えないのが信条らしい。
これだけ聞けば一概に悪だとは言えない気もするが、結局他人名義で勝手に借金ができる時点で僕からすれば普通に悪である。
正直現状の僕たちにはその義賊的活動のことははっきりいってどうでもいい。重要なのは、約束を違えないということである。
実際アナさんがしっかりと返済している間は、別段こちらに不都合となる行動はとっていないようだ。
つまり今後も毎月1万リルきちんと返済できれば、彼女が借金以外で被害を受けることはないということである。
……まぁ、正直そう簡単な話でもない気はするが、一旦はそういうことにしておこう。
とりあえず現状それがわかっただけでもいい。なぜならこれで借金に関しては深く考える必要が無くなったからだ。
それに今から僕たちが目指す先自体が、借金返済に繋がる事柄でもある。
「では具体的な今後について話していきましょうか」
「はい。まごころの大繁盛……ですよね」
「そうです。そのためにまずは現状のまごころについて整理していきましょうか」
言葉の後、アナさんを中心にまごころの情報が開示されていく。
かなり簡潔に纏めると、宿屋で1泊20リル、全部で8部屋。1階には4人掛けのテーブルが複数並んでおり、希望者はプラス5リルで朝食か夕食を付けることができる。
アナさんが1人で経営するようになってからは、このようなスタイルで運営しているようだ。
つまり現状では毎日全ての部屋が埋まり、その全員が朝食と夕食の両方を付けてようやく利益が1万リルの半分、5000リル程度ということか。それも経費が必要最低限しかかからない想定で。
……ようするに今のスタイルでは、まごころの運営だけで借金を支払い、ある程度安定した生活を送るのは間違いなく不可能というわけだ。
中々厳しいなと思いつつも、今考えるべきは借金をどうするかではなく、いかにしてまごころを人で溢れる場所にするかである。
ということでどうしてもチラついてしまう借金のこと、売上のことは頭の片隅にやり、人を集める方法について話していくことにする。
「とりあえず僕が2部屋使っているので、残りの部屋数は6つ。あとは1階にテーブルや椅子が複数と。そういえば1階の席ってどの程度使われてますか?」
「最近はまったく。その、お客様が食事を付けることがあまりありませんので……」
「そうなると1階のスペースがかなり勿体無いのが現状と。ただ宿屋を経営する中で、食事以外でこのスペースを使うとなると中々難しい……」
そう呟きながらうーんと頭を悩ませていると、ここでアナさんが遠慮がちに口を開く。
「あの……」
「…………?」
「えっと、そこそこ長い間宿屋を経営している私がこんなことを言うのはおかしいかもしれませんが……正直今でも宿屋であることにこだわりはないんです」
「あれ、そうなんですね」
「はい。たくさんの人が集まって賑わう場なら、たとえば飲食店でもいい。私の生活魔法を活かせる仕事として宿屋を選んだだけですから」
てっきり続ける中で宿屋という形態であることにこだわりを持つようになったのかと考えていたのだが、どうやらそういうわけではないようだ。
……あくまでも夢は人の役に立つこと、人の笑顔が溢れる場所を作ることというわけか。あと加えるなら、生活魔法が活かせる仕事であることと。
ここで僕はふと疑問を口にした。
「ちなみに生活魔法って具体的にどんなことができるんですか?」
「ええっと、その名の通り生活に役立つことができます。たとえばモノを綺麗にしたり、水の温度を変えたり、あとは洗濯物を瞬時に乾かせたりもできますね」
「随分と汎用性が高い魔法ですね」
「確かに使い勝手はいいのですが、その、魔力が少ないので、部屋全体を一瞬で綺麗にしたりだとか、そういう大きなことは……」
言って苦笑を浮かべるアナさん。
なるほど、確かに今までの話を聞く限りでは、宿屋が最適に思える。
しかしそうなると問題がある。彼女が以前話していたようにここは中心から少し離れており、態々宿泊をする人がいない。
名物があれば泊まる人が出てくるという話もあり、現にマッサージきっかけで宿泊する人も何人か現れるようにはなった。
ただそれでは今と何ら変わらないし、現状POPPYは僕しか稼働できないため、1日のキャパを考えれば、これ以上の集客は見込めない。
これではとてもではないが、まごころを賑やかな場になんてできない。いや、そもそも仮にこれ以上宿泊客が増えては、アナさんの手が回らなくなってしまうか。
それに1階のスペースの問題だって何一つ解決しない。
……となるとアナさん本人が形式にこだわりがないというなら、いっそのこと宿屋をやめる? その上でアナさんの力を活かせて、集客を増やす方法……か。そんなものあるか?
僕が1人頭を悩ませていると、ここでアナさんがふと何かに気がついたとばかりに声を上げる。
「そういえば、ソースケさんがPOPPYを始めてから、一部のお客様の中で、まごころのあり方が少しだけ変わった気がします」
「ほう?」
「なんと言えばいいのでしょうか。宿を確保するというよりも、POPPYの待ち時間を過ごす場を確保するためであったり、施術を受けた後にその余韻に浸るために部屋を取る方も何名かいらっしゃいました」
言葉の後「やはり多少裕福な方に限りますが」と続ける。
「確かに一部富裕層のみとはいえ、普通の宿ではあまりない使い方ですね……」
……なんとなく、これはかなりのヒントな気がするぞ。
僕がそう考えた所で、アナさんが呟くように声を上げる。
「その時間だけお部屋を貸す……?」
「それだ!」
「……ひゃっ」
「あ、すみません突然大声を」
「い、いえ。それで、何か閃きましたか?」
「はい! 宿屋を休憩所へとシフトするというのはいかがでしょうか?」
「休憩所?」
そう休憩所だ。……決してラブホのことではない。
例えるならネカフェが近いだろうか。ほとんどアナさんの言葉通りだが、時間単位で料金を設定し、部屋を貸し出すのだ。
そうすればまずPOPPYの客が待ち時間として借りやすくなる。
これまではまごころを待機場として利用しようにも一律で20リルかかってしまっていた。だから一部富裕層しか利用できなかった。だが時間単位で部屋を借りられるのならどうだ。
きっとこれまで待機場としてまごころの部屋を取りたくても20リルの値段を見て躊躇していた人が、簡単に部屋を借りられるようになる。つまりまごころの利用者が増えるというわけだ。
それに僕が知る限り、時間単位で部屋を借りられる場所なんてこの町には存在しない。ようするに現時点では、このスタイルをまごころが独占できる。
きっとこの町に訪れた人の中には、数時間だけ部屋を借りたいという人もそれなりにいるはずだ。
確かにまごころの位置は中心部から離れてるかもしれない。しかし離れているといっても十分歩いていける距離である。
ならば宿屋という形式ではダメでも、時間単位で部屋を借りられる休憩所なら利用してくれるのではないだろうか。
その辺りの話を、僕は興奮しながらアナさんへと伝えていく。彼女は楽しげにその話を聞いた後「それいいですね! 絶対成功しますよ!」と太鼓判を押してくれた。
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