異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

1-10 気絶の原因と信頼

　僕の目前で、アナさんは取り繕うように言葉を続ける。

「って、そんなことはいいんですよ。それよりも体調の方はいかがですか？」

「あぁ、体調ですか。それはもう、すっかり元気になりましたよ」

「ふふっ、よかったです。……それにしても本当、あの時は生きた心地がしませんでしたよ」

「あはは、その説はご迷惑をおかけしました……」

「でも本当、安心しました。何かの病気ではなくて、単なる魔力不足が原因で……」

　……今なんて？

「……魔力不足？」

「えっと、はい」

　言いながらアナさんはキョトンとした表情になる。
　その顔を見ながら、僕の脳内にはハテナが浮かんでいた。

　……魔力不足？　いや、そんなはずはないよね。だってオイルを実体化した以外、魔力は一切使っていないはず……ってあの光か！

　美肌(極小)、リラックス(小)の2つの効果が発生するあの淡い光。考えればあれもスキルの力なのだから、魔力を消費するのは当然か。

　そこまで意識が回っていなかった自身のアホさに呆れながら、僕は苦笑と共に声を上げる。

「……ハハハ、ちょっと無理をしてしまったようです」

　頭を掻きながらそう言う僕の姿を見て、アナさんは眉根を寄せながら呟く。

「もしかして後天的にスキルを獲得された……？」

　その声に僕はふと思い出す。

　……そういえばその辺りのことは神様の手紙に書いてあったな。確かスキルを先天的に有する人と後天的に手に入れる人がいるんだっけ？　だからスキルについては後天的に手に入れたと言えばある程度乗り切れると。

　僕は脳内で神様に改めて感謝をしつつ口を開く。

「あ、そうです。それで使い方を間違えて──」

「ということはやはりマッサージは魔法ですか！？」

　やっぱり回復魔法に準ずるものなのでは！？　といったニュアンスが含んでそうな表情である。

　僕は悩みながらもそれを否定する。

「あー、それは違うんですよ。……うーんと、そうですね」

　腕を組み、どう説明しようかと悩む。

　マッサージは魔法ではない。これ自体には決して間違いはない。

　だがそれでは、僕が昨日マッサージ後に倒れた説明がつかない。

　あの時にスキルの能力を使用した、でもマッサージにそれを使っていない？　なら、一体なんの魔法を使ったのか──アナさんがそう訝しむ可能性が生まれてしまうのだ。

　……うーん、やっぱりスキル『エステ』について明かすべきだろうか。

　いまだ1日しか一緒にいないが、現状彼女が悪い人には全く思えない。それどころか、前世含めてもここまで信頼に値する人はいないとすら思える程度には人が良い。

　そんな彼女にもしも疑われ、関係が絶たれるようなことになってしまえば、今後の異世界生活に不安が生じるのは想像に難くない。

　……うん、この際だから教えてしまおうか。

　正直異世界に1人が寂しく、誰かと共有したいという女々しい気持ちもあったのかもしれないが、僕はスキルのことを彼女に伝える方向で考えることにした。

　ということで僕は心の中でステータスと唱え、目前にホログラムを表示させる。

「……ステータス、ご覧になります？」

「えっと、よろしいのですか？」

「はい。その方が魔力不足で倒れてしまった理由や、僕のスキルについて説明しやすいですし。あとは……アナさんにステータスを見せてもらっといて、こちらだけ秘匿しとくのもなんだか申し訳ないなぁという思いもずっとあったので」

　その声に、アナさんは少し悩むような素振りを見せた後、呟くような声音で言葉を漏らした。

「……そうですね、正直気にならないと言えば嘘になります。……でもやっぱりステータスに関しては、秘密にした方がいいと思いますよ。特に貴重なスキルとなれば尚更……」

　こちらを気遣ってか、アナさんはそう言った後、なんとも言えない笑みを向けてくる。
　その表情に相変わらず優しい人だなぁと素直に思いつつ、僕は口を開く。

「可能な限り秘密にした方がいいというのはその通りだと思います。だからこそ、申し訳ないという思いを抱きながらも、僕はこの時までアナさんにステータスを明かそうとはしませんでしたし……」

　静かに聞くアナさん。僕は言葉を続ける。

「これでも僕は、疑い深い性格なんですよ。……まぁ、アナさんと出会った時、男に連れていかれそうになっていたあの姿を考えると、あまり説得力がないかもしれませんが」

　言って苦笑いを浮かべた後、僕はさらに言葉を続ける。

「そんな僕が、ステータスを明かしてもいいと思ったのは、今この時もこちらを気遣ってくれているそんなあなたの姿を見て、心の底から信頼できる相手だと思ったからなんです」

「信頼……」

「普通1日足らずで抱く感情ではないと思うんですけどね、それでもこの思いは確かです」

「ソースケさん……」

　そう言葉を漏らしながら、アナさんは更に悩むような素振りを見せた後、こちらへと向き直りながら再度口を開いた。

「……わかりました。それではソースケさんのステータスを私に教えてください」

「はい、もちろんです」

　言葉の後、僕はステータスを開示しながら、スキル『エステ』の詳細を彼女へと伝えていった。