上 下
13 / 64

1-12 自己紹介

しおりを挟む
「さて、じゃあまずは自己紹介でもしようか」

 ルティアが席についてすぐに、この中で唯一2人と親交のあるルトが、そう話しかけた。

「良いですね。そう致しましょう!」

「お、おおおう」

 アロンのあまりの緊張具合に、ルトは苦笑いを浮かべる。

「えっと、じゃあ僕から。2人とも知ってると思うけど、ルトです。改めてよろしくね」

 楽しげに笑うルティアが拍手をし、アロンもそれに続く。
 そして一拍開け、アロンの様子を伺うと、ルティアは、では次は私がと話を続けた。

「ルティア・ティフィラムと申します。趣味は読書に、剣術ですわ。よろしくお願いします」

「え、剣術が趣味なの?」

「はい。実は幼少の頃から剣というものに憧れがありまして。元々剣術を嗜んでいた母によく色々と教わっていますわ」

 あれだけの纏術を使えて、剣術も習っているのかと、ルトは目を丸くする。
 アロンも、どこか驚いた様子であった。

「今度剣さばきを見せてほしいな」

「えっと……人にお見せできる程大層な技術は持っていませんが……わかりました。また今度お見せ致しますね」

「ありがとう。楽しみにしてるよ」

「はい!」

 と、ここでルティアの自己紹介の途中だという事を思い出したルトは、どこか申し訳なさげに、

「あ、話の流れを断ってごめんね。……改めてよろしくね、ルティアさん」

「はい、よろしくお願いします」

 ルトが拍手をし、アロンがそれに続く。
 そして再び一拍開け、2人の視線がアロンへと向いた。

 緊張からか、汗が凄かった。

「だ、大丈夫ですか?」

 ルティアが様子のおかしいアロンを気遣い、彼の方を見ながら話しかける。
 アロンは、ビクッと反応すると、

「は、はい! 全く問題ございません!」

 と言った。全く大丈夫そうに見えなかった。
 しかし、ここで流れを止めては迷惑がかかると思ったのだろう。テンパりながらも、はっきりとした声音で、

「アロンです。魔術師やってます! よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします、アロンさん」

 言ってルティアが微笑む。

「よ、よよよろしくお願いします!」

「…………」

 流石にこのままだとアロンがやばいと思ったルトは、苦笑いを浮かべながら彼の方へと視線を向けた。

「……えっと、アロンちょっと緊張し過ぎじゃないかな?」

 アロンは、ルトの方に目をやると、言葉を捲し立てる。

「だってよ! 目の前にあのルティアちゃんが居るんだぜ!? 一度は話したい女子ランキング1位のあのルティアちゃんが!」

「何そのランキング!?」

 言いながらも、少し気になったルト。当の本人であるルティアは、よくわからなかったのか、首を傾げている。

「知らん! 何か噂で流れてきた!」

「信憑性が薄い!」

 まぁ、実際ルティアが1位になるだろうとはルトも思ったが。

「……とにかくよ、ルティアちゃんの前で緊張するなって方が無理だわ! 男子の憧れの的だぞ。……てか、逆にルトは何でそんなに落ちついてるんだよ! お前もテンパれや!」

「いや、そりゃ初めて会うわけではないし。僕も初めて会った時は、アロンと同じような感じだったよ」

「……? ルトさんはごく普通に話しかけてくれましたわ」

「ルティアさん!? いやいや! 圧倒されて感情があまり表に出なかっただけで、実は物凄く緊張してたからね!」

 何度も会った今でさえも、やはり内心少し緊張しているぐらいだ。

「とにかく! これは並の男子なら仕方がない緊張なんだよ、ルト!」

「う、うん。わかったよ、アロン。ゆっくりと慣れていこう」

 ルトは普段のアロンとの違いから、彼が心から緊張している事を感じ、どこか優しげに笑った。

 と、ここで。一連の話をニコニコと聞いていたルティアが、その表情のままに、コクリと頭を横に傾けると、頭上にハテナを浮かべる。

「……えっと、どうしてアロンさんは私と話す時にそこまで緊張するのでしょうか?」

「えぇ!? 俺、今言わないっけ!?」

 思わずアロンが声を漏らす。
 ルトは、ああまたかと思いつつ、アロンへ手招きすると、苦笑いを浮かべながら小声で話した。

「何かルティアさんってさ、自分が人気者って自覚がないみたいなんだ」

「まじで!? いつもあれだけギャラリー集めたり、どこに行っても視線を向けられるのに!?」

 実際毎度あれだけ騒ぎになるのだ。普通ならば自覚していておかしくないだろう。

「うん。だから、人気ランキングがどうこうとか、あまり理解できないみたい」

「……やっぱ大物だな、ルティアちゃん」

「うん、大物だね」

「……どうかなさいましたか?」

「「いや、なんでもないよ!」」

「…………?」

 再びルティアがハテナを浮かべる。
 そんなある意味で純粋な彼女に、ルトとアロンはそのままの君で居てと、心の内に思った。

「……っと、そろそろ食べないと時間が無くなっちゃうね」

「あ、そうですわ! では、いただきましょうか」

 言って、ルティアがバスケットに手をかける。
 その様子を、ルトとアロンはちらりと見た。

 彼女は上流階級の人間だ。さぁ果たして、どれ程豪華絢爛な弁当が出てくるのかと思いながら。

 ルティアがバスケットを開く。そして中に手を入れると、食べやすい大きさの、どこか暖かみのあるサンドイッチが出てきた。

「…………!」

 思わずルトが反応する。

「……どうかなさいましたか?」

 サンドイッチ片手に、ルティアが首を傾げる。

「いや、ごめん。その、美味しそうなサンドイッチだなと思って」

 正確には思っていた弁当とは違った事に反応をしたのだが、それをそのまま口にするのは良くないとルトは思った。

 しかし実際、ルティアが手に持つサンドイッチが具沢山でとても美味しそうだと思ったのは紛う事なき事実であった。

 と、そんなルトの言葉を受け、ルティアはどこか嬉しそうに微笑むと、

「ふふっ。いつも私のお弁当は、うちの母が作ってくださいますの。とても美味しいんですわよ」

 一拍開け、

「……もしよかったら、お一つどうですか?」

 そう言ってルトとアロンの顔を見る。
 とても魅力的な提案であった。
 しかしルトは優しく笑うと、

「気持ちは嬉しいけど、遠慮しておくよ。……だって、僕たちが貰ったら、ルティアさんの食べる物が無くなっちゃうでしょ?」

 バスケットのサイズを見るに、精々サンドイッチ2つが限界だろう。
 アロンも、これには強く頷き、

「めっちゃ食べたいけど、それでルティアちゃんの食べる物が無くなっちゃうのは、やだな」

 言って、未だ緊張はあるのだろう、ぎこちなく笑った。

 その2人の言葉を受け、ルティアは少し残念そうに、

「……そうですね。では、また今度食事を共に出来る時がございましたら、その時は」

「うん、頂くよ」

「だな」

 言って、2人が笑う。
 対しルティアは、ふふっと楽しそうに微笑んだ。

 その後、3人は食事を始めた。

 序盤はルトとルティアが会話をし、アロンが時折そこへ入るという感じであったが、終盤にはアロンも緊張がマシになったのだろう、スムーズに会話に参加していた。

 そんなこんなであっという間に時間が過ぎ、昼休み終了10分前。

 と、ここでアロンが慌てて立ち上がった。
 何でも、次の教室が遠いのを忘れていたらしい。

 荷物をまとめ、2人へと一言断りを入れる。
 そして、「またな!」と言うと、教室へと走っていった。

「行ってしまいました」

「相変わらず慌ただしいな」

 言ってルトがアハハと笑う。
 そして一拍開けると、

「さて、じゃあ僕たちもそろそろ片付けするか」

「はい、そうしましょうか」

 言って、2人は片付けをした。
 そして別れようとして……そこでルティアがあっと声を上げた。

「そうでした。……ルトさん、本日の午後はお忙しいでしょうか」

「いや、大丈夫だよ」

「本当ですか! でしたら、講義終了後に一度こちらに来ていただけませんか?」

 言ってルティアが先程座っていた席を指す。

「ここ? うん、わかった」

「よろしくお願いします。では、ルトさん。午後の講義も頑張りましょうね」

「うん、頑張ろうね」

 その言葉の後、ルティアは控えめに手を振りながら、食堂を離れていく。

 ルトはそんなルティアの姿を目に収めながら、先程の会話を思い出し、フフッと笑うと、どこか楽しげに次の講義へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

近接魔導騎士の異世界無双~幼馴染の賢者と聖女を護る為、勇者を陰から支えます!!~

華音 楓
ファンタジー
惑星【イグニスタ】にある魔導王国【エルファラント】で、モンスタースタンピードが発生した。 それを対処するために魔導王国から軍が派兵される。 その作戦の途中、劣化龍種の強襲を受け、隊長のフェンガーのミスにより補給部隊は大ピンチ。 さらにフェンガーは、負傷兵を肉の盾として撤退戦を行う。 救出の要請を受けた主人公のルーズハルトは、自身の小隊と共に救出作戦に参加することに。 彼は単身でスタンピードの発生地へと急ぐ。 そしてルーズハルトが戦場に駆け付けると、殿部隊は生死の窮地に追い込まれていた。 仲間の小隊と共に竜種を鎮圧したルーズハルトは、乞われて自分の強さを明かす…… 彼は長馴染みの桜木綾と蓮田伊織と共に異世界召喚に巻き込まれた転生者だった。 転生した葛本真一はルーズハルトとなり、彼の妹に転生してしまった桜木綾……後に聖女として勇者パーティに加わるエミリアを守るため、勇者の影となって支え続けることを決意する。

処理中です...