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1-18 第1回桔梗のベッド争奪じゃんけん大会(?)

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 じゃんけん──それは手を使い勝敗を決する遊戯の1つである。

 江戸時代から明治時代にかけて成立したと言われている遊戯であり、道具を用いる事無く、簡便に、そして偶然──勿論、心理学等を駆使したり、理論的に考えたりすれば勝率を上げる事が可能な為、必ずしも運によるとは言えないが──によって何らかの物事における決着をつける事ができる。

 そんなじゃんけんによる決戦が、一ノ瀬家のリビングにおいて、今まさに起ころうとしていた。

 4人の少女が円を作る様に立ち、一様に真剣な表情を浮かべている。

 辺りに漂う緊張感。誰かの唾を飲み込む音がコクリと響き、それがより息苦しいまでの緊迫感を助長する。

「行くっすよ」

 と。そんな中で、先程までの静寂を破るかの様にシアが重々しい口を開く。
 その言葉に、皆表情をより神妙なものへと変えると、ゆっくりと、力強くギュッと握った右手を、手の甲を上にして前に出した。

 4つの、白魚の様に滑らかで真っ白な、しかし生気の感じられる健康的な手が微かに触れ、中心に四角形が出来上がる。

 そしてそれは、まもなく一瞬で勝敗の決する少女達の対決が始まるという合図であり──その通りに、たった1人の勝者を決めるべく、少女達の拳が振り上げられる。

「「「「じゃん──」」」」

 声を揃えて言い、ここで4人の周囲の緊張感が爆発的に強まり、

「「「「けん──」」」」

 声を上げながら、
 彩姫の赤茶の髪が真紅に染まり、
 ルミアの碧眼が金色に輝き、
 シアの頬に黒いアザの様なものが浮かび、
 リウの黒目が赤く染まり、額からはツノがチラリと覗き始め──

「「「「ぽ──」」」」

「──ちょーっと待った!」

 堪らずと言った様相で、桔梗が声を上げた。

「何よ桔梗。良い所で」

 真剣勝負の真っ只中、それもあと数瞬で勝者が決定していたあのタイミングで、突如割り込む様に声を上げられた為、少しだけ不機嫌そうに口を尖らせる彩姫。

 その姿は先程までとは大幅に変わっており、髪は見るだけで燃やされてしまいそうな情熱的な真紅に染まり、彼女の周囲には何やら言いようの無いオーラの様なものが漂っている。

 そんな彩姫とは裏腹に、桔梗は酷く困惑した様子でキョロキョロと少女達を見回す。

「いや……えっ? 皆さん今からじゃんけんをするんですよね?」

「そうっす。さっき言ったっすよね?」

 両頬に、見方によっては狼の髭の様な黒い痣を浮かばせたシアが、何を当たり前の事を言っているんだとばかりにけろっとした様子で声を上げ、他の少女達が頷く。

 ……え、違和感感じてるの僕だけ?

「……じゃんけんをするのに、何故皆さんは今にも戦闘を始めそうな出で立ちになっておられるのですか?」

 混乱し過ぎて丁寧な口調になっている桔梗の問いに、ルミアはさも当然とばかりに、

「勿論、皆様が出す手をキッチリと把握する為ですわ」

「いや、じゃんけんってそういうものじゃないから!」

 神々しさの感じられる金色の瞳のままうんと頷くルミアに、桔梗は思わずツッコむ。

 なる程、確かに常人であれば把握出来ない手の動きも、超人である彼女達──ましてやそれぞれがそれぞれの強化を施した状態の彼女達ならば把握、対応する事が可能であろう。そしてこれが可能となれば、じゃんけんにおいて大きなアドバンテージとなる事だろう。

 が、最早これをしてはじゃんけんをする意味が無くなってしまう。

 何故じゃんけんをするのか。それは偶然により勝敗を決する為だ。

 だからこそ彼女達の行動を認める訳にはいかない。

 という事で、

「とりあえず能力の使用は禁止! 後みんなには視覚遮断含め幾つかの魔法を掛けさせて貰うね」

 なるべく運の勝負になる様にと思い言う桔梗に、リウが不満気な声を漏らす。

「んぅ……それだと……運に……なる。やるからには……実力で……勝ち取りたい……」

「うーん熱い! けどダメ!」

 グッと力強く拳を握り、何やらカッコ良い事を言うリウであったが、桔梗としては実力では無く運で決めて欲しかった為、即却下。

 という事で完全な運勝負になる様、あらゆる魔法を駆使し、彼女達の感覚を遮断。桔梗の声だけが脳内に聞こえる状態にし、じゃんけんをする事に。

『じゃあみんな準備は良い?』

「「「「…………っ!?」」」」

『念話』という魔法により、桔梗の声が脳内で響いた瞬間、少女達がピクリと反応を示す。

 ……念話なんて異世界で何度もしているのに。

 少女達の反応に桔梗は首を傾げる。
 仮に念話を始めて経験する人間であれば、脳内に声が響くという状況に戸惑いを覚えるかもしれないが、彼女達は幾度と無く経験しており、この様に全員が困惑と言うべきか何とも言えない反応を示す事は無い筈なのだ。

 疑問に思いつつ、再度念話をする。

『えっと、大丈夫……?』

「「「「…………っ!?!?」」」」

 再度少女達がピクリと反応をし、桔梗は首を傾げる。

 そんな中、少女達は内心気が気でなかった。

『……な、なんすかこれっ! 頭に、ご主人の声だけが響いてくるっす……ッ!』
『……ちょっ! これ、やばい。やばいわ!』
『……んぅ……ぞくぞく……する……』
『……!? ……!?』

 あらゆる感覚を遮断され、桔梗の声だけが響く。今までの念話とはまるで違い、桔梗の声だけが響く状況に、得も言えぬ感覚を覚える少女達。まるで麻薬の様な妖しい魅力を醸すそれに、

 ──これは、やばい!

 少女達は皆一様にそう思った。そして同時に、『再度桔梗の声が響けば堕ちてしまう』と、そう思ったのだろう、ルミアがプルプルと震える手を挙げた。

 それを目にし、桔梗は魔法を解除、あらゆる感覚が少女達に戻った。

 少女達がドキドキと強く鼓動する心臓を宥める様に、ハァハァと荒い息を吐く。

 そして数瞬の後、ある程度息が整った所で、最早あの念話には耐えられないと思ったのか、ルミアがおずおずと口を開く。

「あの……提案なのですが……」

 皆の視線が自身に向いた所で、言葉を続ける。

「……もし皆様が宜しければですが、4人で桔梗様のベッドをお借りするというのは如何でしょうか」

「えっ……?」

 突然の提案に、彼女達の事情を何も知らない桔梗は困惑するが、少女達は間髪入れずに、

「それっす!」「それよ!」「……それ」

 と同調し──結局桔梗のベッドで4人が寝て、

「……っ! やりましたわ!」

 シンプルくじ引きで当たりを引いたルミアのベッドで桔梗が寝る事となった。

 ……うん、何だこれ。
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