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1-6 部屋割り

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「さて食事も終わった所で……」

 神妙な顔をして食器類の片付いたテーブルにつく桔梗。その肩には桔梗の真似をし、ムムムと必死に真剣な顔を浮かべるラティアナがいる。
 そんな彼らの向かいにはリウ、シア、ルミアの3人が、つられるように緊張感のある面持ちで座っている。

 訪れる静寂。

 家内に響くのは、カチカチと鳴る時計の針が刻む音だけ。

 そんな中、張り詰めた空気からか誰かのゴクリと喉を鳴らす音がリビングに響き──それが合図となったのか、桔梗がその重苦しい口を開く。

「──部屋割りを決めようか」

 瞬間、膨らんだ風船が破裂するかの如く、少女達が一斉に声を上げる。

「ご主人と同じ部屋!」「桔梗様と同じ部屋ですわ!」「桔梗と……同じ部屋!」「らてぃはね、ごしゅじんたまと、おなじへやがいい!」

 重なる4人の声と、その後空虚に響くラティアナの声。

 ムーっと睨み合った後、真っ先に口を開いたのはラティアナであった。

「らてぃはね、ごしゅじんたまがすきなの! だから、いっしょのへやにするの!」

「ラティは良いっすよ!」
「ラティは……良い……」
「ラティは良いですわ」

「やったーー!!」

 ラティアナの事はハナからライバルとは思っていない。どちらかと言うと、皆彼女を自分の娘のような、妹のような存在として認識している為、ノータイムで了承。ウンと頷いた。

 皆ラティアナには甘いのである。

 ……勿論、ラティアナならば確実に間違いが起きる事はなく、また場所を占領しないという事前提の容認ではあるが。

 と、ラティアナの部屋が決まり、彼女が3歳児サイズになり桔梗に飛びついた所で話は再開となった。

「──さて。スペース的に考えると、ご主人と同室になれるのは、ラティを除いてあと1人っすね」

 神妙な顔でリウとルミアを見るシア。
 その視線に晒されながら、2人はウンと頷く。

「……因みに、辞退する人は──勿論いないっすよね」

「当然ですわっ。今後を左右する大事な決定ですもの!」

 立ち上がり、ルミアは力強くグッと拳を握る。

「……誰にも……譲れない闘い……」

 座ったままではあるが、リウも力強く頷く。

 そんな2人の熱量を受けてか、シアは先程よりも熱の篭った瞳で続ける。

「まずはそれぞれのアピールっす!」

 その言葉を受け、ルミアが身振り手振りを交えながら声を上げた。

「……では私から! 皆様もご存知の通り、私の特技は家事。つまり! もしも私が同室になれたのならば、桔梗様には毎日快適な日々を送って頂ける事間違い無しですわ!」

 ふんすと腰に手を当てドヤ顔を浮かべる。

 これは私以外ありえないですわ! とでも言いたげなルミアに、シアは呆れたようなジト目を向ける。

「ご主人の世話をするって事っすか?」

「そうですわ! それはもう甲斐甲斐しくッ!」

 グッと力強く宣言するルミアに、リウがまるで当然の事とばかりにさらりと言葉を挟む。

「……桔梗が……それを望むと……思う?」

「……ううっ。そ、それは──」

 言われてみれば、桔梗は自分の事は自分で行う、寧ろ他人の世話までしてしまうような人間だ。
 仮に世話を提案したとしても、間違いなく拒否する事だろう。

 リウの言葉を受け、確かにと納得してしまった為か、ルミアは口籠もる。
 しかしこのままでは覆せない程の劣勢になってしまうと理解した彼女は、負けじと声を上げる。

「で、でも……朝が弱いお2人よりは桔梗様の負担が少なくなるのは確かですわ!」

 ルミアの言葉から、今までを想起した2人。
 時間になっても目覚められず、桔梗達に起こされた経験が幾度となくあった事を思い出したリウとシアは汗をたらりと流す。

「……それは……否めない……」

 言ってガクリと項垂れるリウ。

「リウッ!? 負けちゃだめっすよ! ……た、確かに朝は弱いっす。けど、これは今後いくらでも改善出来る事っす! しかーし! ルミアには変えようのない懸念材料があるっす!」

「懸念……材料?」

 思い当たる節がなく、首を傾げるルミア。
 そんな彼女に、シアはピシッと指を指すと、

「そう! ルミアは……なんかえっちぃっす! ご主人と同じ部屋になったら絶対間違いが起きるっすよ!」

「シアには私がどう見えてますの!? 健全ですわ! 健全ですわ!」

 予想外の指摘に声を上げるルミアであるが、ここで追撃が。

「……確かに……ルミアは……危険」

「リウまで!? 何故ですのぉ……」

 想定外の評価に崩れ落ちるルミア。
 それを相変わらずの感情の読めない瞳で見つめたあと、リウはシアの方へと視線を向ける。

「……その点……リウは……大丈夫。……リウは……9歳。……まだ……幼い。……だから……桔梗も……安心して……眠れる」

 言ってドヤ顔を浮かべるリウ。

 どうだ、反論できないだろとでも言いたげなリウに、しかしシアは勢いよく首を横に振ると、

「いーや! リウも危険っす!」

「……どこが?」

 首を傾げるリウ。

「そーいう自分の魅力に気づいて無い所っすよ!」

「……魅力?」

「成熟した身体と純真無垢な心! その無自覚な魔性さは、男を獰猛な狼にしてしまうっす!」

 言ってピシッとリウを指差すシア。
 が、そんな力説も齢9歳(人間換算)である彼女には理解できないようで、

「……よくわからない」

 と、更に首をコテンと傾げる。
 そんな彼女へ、シアはとどめとばかりに声を上げる。

「要するに……リウもえっちぃって事っすよ!」

 ガーンという音が聞こえてきそうな、衝撃を受けたような表情になった後、

「……そんな……リウは……まだ9歳……なのに……」

 と言うと、ガクリとその場に崩れ落ちる。

 これにより、立ち上がっているのはシアだけになった。

 シアはニヤリとイヤらしい笑みを浮かべた後、勝ち誇ったような表情になると、

「ふっふっふ。……と、いう事で! ご主人と同じ部屋には私が──」

「いやそういうシアが1番ありえないですわ──ッ!」

 ルミアがシアに向けて言い、それに続くように、ずっと静観していた桔梗がここではじめて声を上げた。

「うん、そもそも僕と同じ部屋なんて選択肢無いからね!?」

 結局、桔梗の右の部屋にシア、左の部屋にリウ、向かいの部屋にルミア、桔梗の部屋の机上にラティアナが住む事になるのであった。
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