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オワラ様1
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それから一時間ほどして、応接間で待機していた宗介と光は、夕食のためにお座敷へと通された。
食事の席は、宗介、光、源一郎、猛、涼子、そしてキヨの計六人。
乃恵は配膳係として忙しそうに座敷を出入りしていた。
テーブルの上に並べられた料理は、御馳走と呼ぶに相応しい品々。土地柄か海鮮類は少なかったが、山の幸はどれも新鮮だ。
しかし、ふと隣に座る光を見ると、全く箸が進んでいない。目の前に置かれた料理は一切減っていなかった。
「どうした? 食べないのか?」
「うん……食欲が無くて。てか、宗介君はよくアレを見た後で食べられるね……」
光の顔には全く覇気が感じられない。座敷牢での出来事がまだ効いているのだろう。
「ああ、そういえば吐いてたな、お前。でも、それなら余計に出した分は入れておけよ。身体がもたないぞ」
「しょ、食事の席でそんな話は止めて!」
気分の優れない光を除けば、食事の席はとても和やかな雰囲気だった。黙ったまま食事を摂っているキヨ以外は、皆一様に表情が明るい。特に、涼子の態度は、明らかに初対面の時とは変わっていた。
「あら、宗介君、グラスが空じゃない? それに、光さんも全然食が進んでいないわね。あっ、そうだわ! アルコールを用意しましょうか。せっかくの晩餐ですし、食欲も出ると思うから」
宗介たちにお酒を勧めてくる涼子の顔は「別人か?」と思うほど柔和で優しいものだった。その豹変ぶりに宗介だけでなく、隣の光も戸惑いを隠せない様子だ。
「涼子義姉さん、未成年にお酒を勧めちゃダメですよ」
口ではそう言っているが、猛も本気で涼子の提案を否定する気はないらしい。彼の顔にも、今は笑顔が浮かんでいる。
「少しくらいいいじゃない。大切なお客様なんだし、ちゃんとおもてなしをしないと。ねえ、お義父様?」
「うむ、そうだな。二人ともご希望があれば、遠慮なく言ってくれて構わんよ」
話を振られた源一郎も、宗介たちに優しい言葉をかけてくる。彼の表情からも応接間で感じた硬さが消失していた。
「お二人はどんなお酒が……ってまだ分からないわよね。あっ、乃恵! 適当に何種類かお酒を用意して、お二人にお出ししなさい」
「は、はい、かしこまりました!」
空いた皿を片付けていた乃恵は、涼子に言われ飛び上がるようにして座敷を出ていった。
掌を返したような涼子の態度。それに、猛や源一郎から漂う弛緩した雰囲気。それらはおそらく、宗介が美守の除霊を引き受けたことが原因だろう。
彼らにとっても変わり果てた美守の存在は、大きな精神的負担だったはずだ。原因も治療法も分からず不安だけが募っていく中で、ようやく「救える」と言う人間が現れた。彼らが喜び浮かれる気持ちも理解できなくはない。
だが、美守の現状を考えると、宗介には彼らの態度が癪に障った。美守は今この瞬間も苦しんでいる。そんな高校生の女の子を座敷牢に閉じ込め、挙句にその世話は他人任せ。そう思うと、目の前にある笑顔が醜く汚いものに感じられる。
もっとも、そうは言っても他人の家のこと。部外者である宗介が、それに口を挟むのは流石にマナー違反だろう。短気で口が悪いことを自覚している宗介だが、ここは込み上げてくる言葉をぐっと堪えた。
そんな中、乃恵がお盆に複数の瓶と氷を持って戻ってくる。お酒には全く精通していない宗介だが、見た感じではウィスキーや日本酒、ワインなどのように思えた。
乃恵は、その場で栓を抜きお酒を作り始める。
そして、出来あがったお酒を、各人の前に置いていると――。
食事の席は、宗介、光、源一郎、猛、涼子、そしてキヨの計六人。
乃恵は配膳係として忙しそうに座敷を出入りしていた。
テーブルの上に並べられた料理は、御馳走と呼ぶに相応しい品々。土地柄か海鮮類は少なかったが、山の幸はどれも新鮮だ。
しかし、ふと隣に座る光を見ると、全く箸が進んでいない。目の前に置かれた料理は一切減っていなかった。
「どうした? 食べないのか?」
「うん……食欲が無くて。てか、宗介君はよくアレを見た後で食べられるね……」
光の顔には全く覇気が感じられない。座敷牢での出来事がまだ効いているのだろう。
「ああ、そういえば吐いてたな、お前。でも、それなら余計に出した分は入れておけよ。身体がもたないぞ」
「しょ、食事の席でそんな話は止めて!」
気分の優れない光を除けば、食事の席はとても和やかな雰囲気だった。黙ったまま食事を摂っているキヨ以外は、皆一様に表情が明るい。特に、涼子の態度は、明らかに初対面の時とは変わっていた。
「あら、宗介君、グラスが空じゃない? それに、光さんも全然食が進んでいないわね。あっ、そうだわ! アルコールを用意しましょうか。せっかくの晩餐ですし、食欲も出ると思うから」
宗介たちにお酒を勧めてくる涼子の顔は「別人か?」と思うほど柔和で優しいものだった。その豹変ぶりに宗介だけでなく、隣の光も戸惑いを隠せない様子だ。
「涼子義姉さん、未成年にお酒を勧めちゃダメですよ」
口ではそう言っているが、猛も本気で涼子の提案を否定する気はないらしい。彼の顔にも、今は笑顔が浮かんでいる。
「少しくらいいいじゃない。大切なお客様なんだし、ちゃんとおもてなしをしないと。ねえ、お義父様?」
「うむ、そうだな。二人ともご希望があれば、遠慮なく言ってくれて構わんよ」
話を振られた源一郎も、宗介たちに優しい言葉をかけてくる。彼の表情からも応接間で感じた硬さが消失していた。
「お二人はどんなお酒が……ってまだ分からないわよね。あっ、乃恵! 適当に何種類かお酒を用意して、お二人にお出ししなさい」
「は、はい、かしこまりました!」
空いた皿を片付けていた乃恵は、涼子に言われ飛び上がるようにして座敷を出ていった。
掌を返したような涼子の態度。それに、猛や源一郎から漂う弛緩した雰囲気。それらはおそらく、宗介が美守の除霊を引き受けたことが原因だろう。
彼らにとっても変わり果てた美守の存在は、大きな精神的負担だったはずだ。原因も治療法も分からず不安だけが募っていく中で、ようやく「救える」と言う人間が現れた。彼らが喜び浮かれる気持ちも理解できなくはない。
だが、美守の現状を考えると、宗介には彼らの態度が癪に障った。美守は今この瞬間も苦しんでいる。そんな高校生の女の子を座敷牢に閉じ込め、挙句にその世話は他人任せ。そう思うと、目の前にある笑顔が醜く汚いものに感じられる。
もっとも、そうは言っても他人の家のこと。部外者である宗介が、それに口を挟むのは流石にマナー違反だろう。短気で口が悪いことを自覚している宗介だが、ここは込み上げてくる言葉をぐっと堪えた。
そんな中、乃恵がお盆に複数の瓶と氷を持って戻ってくる。お酒には全く精通していない宗介だが、見た感じではウィスキーや日本酒、ワインなどのように思えた。
乃恵は、その場で栓を抜きお酒を作り始める。
そして、出来あがったお酒を、各人の前に置いていると――。
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