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佐々村涼子
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宗介が猛の話を聞いていると、キヨと入れ替わるようにして、家の中から二人の女性が出てきた。
一人は、黒のロングスカートに白の半袖ブラウスを着た長身の婦人。年齢は四十歳前後といったところだろうか。美人なのだが、目がつり上がっており、化粧も濃いためちょっとキツい印象を受ける。
もう一人は、和服の上に白の割烹着を着た小柄な少女。見た感じは、宗介よりもいくつか年下に思える。おかっぱ頭で整った綺麗な顔をした女の子なのだが、どこか影があるように感じられた。
少女を付き従える形で、長身の婦人が宗介たちの元へ歩み寄ってくる。
「あら、猛さん。確か、除霊師の先生をお迎えに行ったはずじゃありませんか?」
「そうですよ。あ、お二人に紹介しますね。こちらは佐々村涼子(ささむらりょうこ)さん。亡くなった兄の妻です。涼子さん、このお二人が今回除霊してくださる先生です」
「初めまして。御堂光と言います。今回はよろしくお願いします」
猛に紹介された光は、愛想よく挨拶をして頭を下げる。
しかし、涼子はそんな光を値踏みするような目で見つめていた。
「本当に大丈夫なの? てんで子供じゃないか。遊びじゃないんだよ! こっちは高いお金を払っているんだから!」
「え、あ、その……」
見下すようにして棘のある物言いをする涼子。
高圧的な態度に光はしどろもどろになる。おそらく、こういった経験はあまり無いのだろう。慌てる光を見て、涼子は一層不信感を強めた様子だった。
だが、宗介にしてみれば、このような依頼者の反応はいつものこと。故に、対処法も十分心得ている。
「心配すんなよ。この間来た除霊師と俺じゃ格が違うんだ。払った金の分はちゃんと祓ってやるから、黙って見てろ!」
「そ、宗介君! さっきから、どうしてあなたは……」
宗介が口を挟むと、涼子はムッとした表情で宗介を睨んだ。
そんな涼子に宗介が不敵な笑みを返してやると、涼子は「ふん」と目を逸らす。
「まあいいわ。美守を助けてくれるなら、相手が誰でもね」
まだ不満そうな顔をしていたが、涼子の言葉から刺々しさが消える。
結局、宗介の元までやって来る依頼者というのは、不安で仕方がないのだ。だから、下手に機嫌を窺うよりは、自信を見せつけてやった方が安心する。
「ほら、あんたは何をぐずぐずしてるの! さっさとお客様を応接間に案内して、お義父様をお連れしなさい!」
会話に区切りがつくと、涼子は後ろに控えていた少女にキツイ口調で命令した。
「は、はい、申し訳ありません、涼子様!」
涼子に怒鳴られた少女は、慌てて宗介たちの元へ歩み寄ってきた。
「それではお客様、こちらへ」
「あっ、乃恵(のえ)ちゃん! 父さんには僕が伝えておくから」
「……ありがとうございます、猛様」
少女はぎこちない笑顔を浮かべて猛に頭を下げる。気のせいかもしれないが、宗介は二人の間に何か不自然な空気を感じた。
涼子は「では、また後ほど」と言い残し、家の中へと入っていく。しかし、涼子が振り返る瞬間、憎々しげに唇を噛みしめたことを宗介は見逃さなかった。
一人は、黒のロングスカートに白の半袖ブラウスを着た長身の婦人。年齢は四十歳前後といったところだろうか。美人なのだが、目がつり上がっており、化粧も濃いためちょっとキツい印象を受ける。
もう一人は、和服の上に白の割烹着を着た小柄な少女。見た感じは、宗介よりもいくつか年下に思える。おかっぱ頭で整った綺麗な顔をした女の子なのだが、どこか影があるように感じられた。
少女を付き従える形で、長身の婦人が宗介たちの元へ歩み寄ってくる。
「あら、猛さん。確か、除霊師の先生をお迎えに行ったはずじゃありませんか?」
「そうですよ。あ、お二人に紹介しますね。こちらは佐々村涼子(ささむらりょうこ)さん。亡くなった兄の妻です。涼子さん、このお二人が今回除霊してくださる先生です」
「初めまして。御堂光と言います。今回はよろしくお願いします」
猛に紹介された光は、愛想よく挨拶をして頭を下げる。
しかし、涼子はそんな光を値踏みするような目で見つめていた。
「本当に大丈夫なの? てんで子供じゃないか。遊びじゃないんだよ! こっちは高いお金を払っているんだから!」
「え、あ、その……」
見下すようにして棘のある物言いをする涼子。
高圧的な態度に光はしどろもどろになる。おそらく、こういった経験はあまり無いのだろう。慌てる光を見て、涼子は一層不信感を強めた様子だった。
だが、宗介にしてみれば、このような依頼者の反応はいつものこと。故に、対処法も十分心得ている。
「心配すんなよ。この間来た除霊師と俺じゃ格が違うんだ。払った金の分はちゃんと祓ってやるから、黙って見てろ!」
「そ、宗介君! さっきから、どうしてあなたは……」
宗介が口を挟むと、涼子はムッとした表情で宗介を睨んだ。
そんな涼子に宗介が不敵な笑みを返してやると、涼子は「ふん」と目を逸らす。
「まあいいわ。美守を助けてくれるなら、相手が誰でもね」
まだ不満そうな顔をしていたが、涼子の言葉から刺々しさが消える。
結局、宗介の元までやって来る依頼者というのは、不安で仕方がないのだ。だから、下手に機嫌を窺うよりは、自信を見せつけてやった方が安心する。
「ほら、あんたは何をぐずぐずしてるの! さっさとお客様を応接間に案内して、お義父様をお連れしなさい!」
会話に区切りがつくと、涼子は後ろに控えていた少女にキツイ口調で命令した。
「は、はい、申し訳ありません、涼子様!」
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「それではお客様、こちらへ」
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「……ありがとうございます、猛様」
少女はぎこちない笑顔を浮かべて猛に頭を下げる。気のせいかもしれないが、宗介は二人の間に何か不自然な空気を感じた。
涼子は「では、また後ほど」と言い残し、家の中へと入っていく。しかし、涼子が振り返る瞬間、憎々しげに唇を噛みしめたことを宗介は見逃さなかった。
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