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シリアスなハゲ王
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「あんたはたぶん間違ってないよ。あんたが抱いた憎しみと怒りは、それだけ強かったってことなんだろ」
「クク、お前ならそう言うと思っていた。俺と来い。俺ならお前の痛みを分かってやれる。もう我慢する必要はないんだ。お前の不満を――」
「でも、俺はあんたと同じ道は歩まない!」
ヴァルが断言すると、ミルザの目つきが変わった。
それを見て、ヴァルはゆっくりと腰の剣を抜く。
「ほう、俺に剣を構えるか」
「勘違いすんなよ。別に王様を守って点数稼ぎをしようってわけじゃないぜ。王様のことは正直好きじゃねえし、あんたには同情する部分も大きい」
「ならば、なぜ俺に逆らおうとする」
「俺は……この街が好きだからだ」
ヴァルの素直な気持ちだ。
この街で道具屋を営み、その中で触れ合ってきた人々の想いがヴァルに剣を抜かせた。今は純粋にこの街を守りたいと思う。それは勇者として旅立つことよりも強い想いだった。
「この城は、街に住む人々の中心であり支えだ。そんな場所をあんたたちのような人間に好き勝手させるわけにはいかない!」
「そうか……残念だ。お前とは分かり合える気がしたんだがな」
ミルザも剣を抜き、ヴァルに構えた。その瞬間、二人の間にある空気がぴたりと止まる。
僅かな静寂の後、二人が動いたのはほぼ同時だった。
二つの刃が交差し、甲高い金切音が玉座の間に響く。
ヴァルもこれで剣の扱いには、そこそこ自身がある。冒険の旅に出られなくても、訓練を欠かしたことはない。
それでも、ミルザの腕はヴァルを遥かに凌駕していた。
(く……やっぱこいつ強え……)
そもそもの勇者としての経験値が、冒険に旅立っていないヴァルと、曲がりなりにも幾多の死線を潜り抜けてきたであろうミルザでは雲泥の差。剣がぶつかり合う度に、ヴァルは少しずつミルザに押されていく。そして――。
「うあっ!!」
つばぜり合いで押し負けたヴァルは、地面に倒れこむ。
「無駄だ。力も経験も信念もないお前が、俺に勝つことなどできない。俺の下につかぬのなら、とっとと消えろ。これ以上は、ただでは済まんことになるぞ」
「くそっ、俺が言ってみたい台詞を……」
完全に雑魚扱いされるヴァル。
悔しいが、実力差は歴然だ。
(大人しくあいつの言うことを聞くつもりはねえが……どうする? このままじゃ歯がたたな――)
ヴァルがそんなことを考えていると――。
「ヴァル=ブルーイット! これを使うのじゃ!」
王様が叫び声を共に、小さな小袋を投げて寄越した。
ヴァルの心に希望の光が灯る。
王様からのサポートアイテムだ。きっと起死回生の一品に違いない。
「あ、ありがてえ! じゃあ、遠慮なく使わせて――!?」
袋の中に入っていたのは緑のアレ――薬草だった。
「おい……なんだよ、コレ」
「何って、見ての通り薬草じゃ。遠慮なく使って体力を回復するが良い」
「そうじゃねえだろうが!!」
ヴァルは薬草を床に叩きつけた。
「お前、王様だろ!? だったらさ、もっとこうゴージャスなアイテムなり武器なりを寄越せよ! 国宝級のがあんだろ? なんで薬草なんだよ! お前のせいでシリアスな雰囲気が台無しだよ!」
「馬鹿者! せっかくのワシのサポートを無駄にするでない!」
「うるせえ! だったら、てめえの頭皮にでも塗ってろ!」
「えっ? 薬草ってハゲに効くの? そんなに万能なの? まさしく魔法のアイテムじゃん!」
おおはしゃぎする王様を見て、ヴァルは「やっぱりこいつをアテにした自分が愚かだった」と思う。
「クク、お前ならそう言うと思っていた。俺と来い。俺ならお前の痛みを分かってやれる。もう我慢する必要はないんだ。お前の不満を――」
「でも、俺はあんたと同じ道は歩まない!」
ヴァルが断言すると、ミルザの目つきが変わった。
それを見て、ヴァルはゆっくりと腰の剣を抜く。
「ほう、俺に剣を構えるか」
「勘違いすんなよ。別に王様を守って点数稼ぎをしようってわけじゃないぜ。王様のことは正直好きじゃねえし、あんたには同情する部分も大きい」
「ならば、なぜ俺に逆らおうとする」
「俺は……この街が好きだからだ」
ヴァルの素直な気持ちだ。
この街で道具屋を営み、その中で触れ合ってきた人々の想いがヴァルに剣を抜かせた。今は純粋にこの街を守りたいと思う。それは勇者として旅立つことよりも強い想いだった。
「この城は、街に住む人々の中心であり支えだ。そんな場所をあんたたちのような人間に好き勝手させるわけにはいかない!」
「そうか……残念だ。お前とは分かり合える気がしたんだがな」
ミルザも剣を抜き、ヴァルに構えた。その瞬間、二人の間にある空気がぴたりと止まる。
僅かな静寂の後、二人が動いたのはほぼ同時だった。
二つの刃が交差し、甲高い金切音が玉座の間に響く。
ヴァルもこれで剣の扱いには、そこそこ自身がある。冒険の旅に出られなくても、訓練を欠かしたことはない。
それでも、ミルザの腕はヴァルを遥かに凌駕していた。
(く……やっぱこいつ強え……)
そもそもの勇者としての経験値が、冒険に旅立っていないヴァルと、曲がりなりにも幾多の死線を潜り抜けてきたであろうミルザでは雲泥の差。剣がぶつかり合う度に、ヴァルは少しずつミルザに押されていく。そして――。
「うあっ!!」
つばぜり合いで押し負けたヴァルは、地面に倒れこむ。
「無駄だ。力も経験も信念もないお前が、俺に勝つことなどできない。俺の下につかぬのなら、とっとと消えろ。これ以上は、ただでは済まんことになるぞ」
「くそっ、俺が言ってみたい台詞を……」
完全に雑魚扱いされるヴァル。
悔しいが、実力差は歴然だ。
(大人しくあいつの言うことを聞くつもりはねえが……どうする? このままじゃ歯がたたな――)
ヴァルがそんなことを考えていると――。
「ヴァル=ブルーイット! これを使うのじゃ!」
王様が叫び声を共に、小さな小袋を投げて寄越した。
ヴァルの心に希望の光が灯る。
王様からのサポートアイテムだ。きっと起死回生の一品に違いない。
「あ、ありがてえ! じゃあ、遠慮なく使わせて――!?」
袋の中に入っていたのは緑のアレ――薬草だった。
「おい……なんだよ、コレ」
「何って、見ての通り薬草じゃ。遠慮なく使って体力を回復するが良い」
「そうじゃねえだろうが!!」
ヴァルは薬草を床に叩きつけた。
「お前、王様だろ!? だったらさ、もっとこうゴージャスなアイテムなり武器なりを寄越せよ! 国宝級のがあんだろ? なんで薬草なんだよ! お前のせいでシリアスな雰囲気が台無しだよ!」
「馬鹿者! せっかくのワシのサポートを無駄にするでない!」
「うるせえ! だったら、てめえの頭皮にでも塗ってろ!」
「えっ? 薬草ってハゲに効くの? そんなに万能なの? まさしく魔法のアイテムじゃん!」
おおはしゃぎする王様を見て、ヴァルは「やっぱりこいつをアテにした自分が愚かだった」と思う。
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