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長い夜のはじまり
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大きな爆発音と共に、地震のような揺れが起こる。
「な、なんだ!? ど、どうしたんだ!?」
一瞬にして、店内が騒然となる。
近くで何かが起こったことは明らかだ。
客たちが戸惑っていると、店の奥からオーナーと思しき男性が現れ、
「みなさん、すぐにここから避難してください!」
と、大声で叫んだ。
「お城からすごい量の煙が上がっています。何があったのかは分かりませんが、火災の場合はここも危険です! 一刻も早く非難を!」
その指示で、店にいた客たちは我先にと外へ出ていく。
ヴァルもアメリアの手を取り、一緒に店の外へ出た。
すると、確かにお城の方から大量の黒煙が上がっていることに気付く。先ほどの爆発音から考えても、城の中で何かが起こっていることは間違いない。
人々はお城から離れるように逃げていく。
ヴァルはその中の一人を捕まえて事情を聞いた。
「お城で何があったんだ?」
「お、俺も分からねえよ! 急に爆発が起きて、城の中からも人が逃げてきて……」
お城は街の中央だ。
故に、魔物が攻めてきたならば、先に城下町が襲われているはず。騒ぎになっているのは、この王城区だけのようだし、お城の中で何かが起こったのだろう。
ヴァルは人々が逃げてくる先――お城の方角に目を向ける。
正直、あのお城には良い印象を全く持っていない。むしろ、トラウマ級の苦い思い出がある場所だ。あの王様と兵士には、言葉では言い表せぬほどの憎しみがある。
それでも、ヴァルが生まれ育ったこの街の中心だ。放っておくことはできない。
「アメリア、悪い。せっかくの晩餐だったけど、俺はお城の様子を見に行ってくる。一応、これでもこの街の勇者だしな」
「そ、それなら私も――」
「つっても、お前はその恰好じゃ満足に動けないだろ?」
アメリアの服装は動きづらいドレス姿。いくら紅蓮の勇者を名乗る彼女でも、歩くこともおぼつかない恰好では何かあった時に対処できないだろう。しかし――。
「問題ない。服や靴が邪魔なら、こうするまでだ!」
「あ、おい!」
ヴァルが止めるより早く、アメリアはドレスの裾を引きちぎり、履いていた靴のヒールをへし折った。相変わらず行動に一切の迷いがない奴である。
「これで少しは動きやすくなった」
アメリアは、短くなった裾から綺麗な脚線美を惜しげもなく晒しながら言う。
「相変わらず覚悟を決めるのがはええな」
「ロイドさんには少し悪い気がするが、事情が事情だ。後でちゃんと謝るとして、今はお城へ急ごう」
「そうだな」
ヴァルはアメリアと共に、人々の流れに逆らうようにしてお城へと向かう。
その間も、お城からは何度か大きな爆発音が聞こえてきた。
非常に嫌な予感がする。
そして、その予感は、お城へ続く橋の前へ来た時に確信へと変わった。
「な、なんだ!? ど、どうしたんだ!?」
一瞬にして、店内が騒然となる。
近くで何かが起こったことは明らかだ。
客たちが戸惑っていると、店の奥からオーナーと思しき男性が現れ、
「みなさん、すぐにここから避難してください!」
と、大声で叫んだ。
「お城からすごい量の煙が上がっています。何があったのかは分かりませんが、火災の場合はここも危険です! 一刻も早く非難を!」
その指示で、店にいた客たちは我先にと外へ出ていく。
ヴァルもアメリアの手を取り、一緒に店の外へ出た。
すると、確かにお城の方から大量の黒煙が上がっていることに気付く。先ほどの爆発音から考えても、城の中で何かが起こっていることは間違いない。
人々はお城から離れるように逃げていく。
ヴァルはその中の一人を捕まえて事情を聞いた。
「お城で何があったんだ?」
「お、俺も分からねえよ! 急に爆発が起きて、城の中からも人が逃げてきて……」
お城は街の中央だ。
故に、魔物が攻めてきたならば、先に城下町が襲われているはず。騒ぎになっているのは、この王城区だけのようだし、お城の中で何かが起こったのだろう。
ヴァルは人々が逃げてくる先――お城の方角に目を向ける。
正直、あのお城には良い印象を全く持っていない。むしろ、トラウマ級の苦い思い出がある場所だ。あの王様と兵士には、言葉では言い表せぬほどの憎しみがある。
それでも、ヴァルが生まれ育ったこの街の中心だ。放っておくことはできない。
「アメリア、悪い。せっかくの晩餐だったけど、俺はお城の様子を見に行ってくる。一応、これでもこの街の勇者だしな」
「そ、それなら私も――」
「つっても、お前はその恰好じゃ満足に動けないだろ?」
アメリアの服装は動きづらいドレス姿。いくら紅蓮の勇者を名乗る彼女でも、歩くこともおぼつかない恰好では何かあった時に対処できないだろう。しかし――。
「問題ない。服や靴が邪魔なら、こうするまでだ!」
「あ、おい!」
ヴァルが止めるより早く、アメリアはドレスの裾を引きちぎり、履いていた靴のヒールをへし折った。相変わらず行動に一切の迷いがない奴である。
「これで少しは動きやすくなった」
アメリアは、短くなった裾から綺麗な脚線美を惜しげもなく晒しながら言う。
「相変わらず覚悟を決めるのがはええな」
「ロイドさんには少し悪い気がするが、事情が事情だ。後でちゃんと謝るとして、今はお城へ急ごう」
「そうだな」
ヴァルはアメリアと共に、人々の流れに逆らうようにしてお城へと向かう。
その間も、お城からは何度か大きな爆発音が聞こえてきた。
非常に嫌な予感がする。
そして、その予感は、お城へ続く橋の前へ来た時に確信へと変わった。
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