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全てが終わり解放された後も、玲菜は床に横たわり嗚咽を漏らし続けた。
綾乃はそんな玲菜を満足そうに見下ろす。
最高の形で終えた復讐。
その余韻を楽しむかのように。
けれど、それを邪魔するように弘志たちが綾乃に近づく。
「はあはあ……こ、これでいいんだよね、三崎さん? これで僕は助かるんだよね?」
「わ、私たちもよね? ちゃんと言う通りにしたんだから」
彼らは安堵した表情で綾乃に話し掛ける。
そんな彼らに、綾乃は少しムっとした顔を向けた。
「そうね。あなたたちはちゃんと私の言う通りに動いてくれた」
「じゃ、じゃあ……」
「だから助けてあげる。あなたたちを支配している恐怖からね! エヴィル!」
「えっ!? ぶぼっ!!」
エヴィルの髪が鞭のようにしなり、弘志の身体を打ち払った。派手に弾き飛ばされた彼は、掃除ロッカーに激しく激突。彼の頭からは、血が流れ落ちた。
他の三人も次々に薙ぎ払われる。
教室内で立っているのは、あっという間に久遠と綾乃の二人だけになった。
地に伏した四人は、意識こそあるものの、皆一様に苦悶の表情で呻き声を上げている。久遠は「いっそのこと気を失った方が楽だったろうに」と思う。
「あんたたちも大概馬鹿だね。友達を裏切ったり、クラスメイトをレイプしたりするゴミを私が許すとでも思っているの? 私は何があってもクラスメイト全員許さない! まあ、優子ちゃんだけは例外だけど」
言い終えた綾乃は、目を閉じて一度大きく深呼吸をする。
それから晴れ晴れとした顔を久遠に見せた。
「いい顔だね」
「一つ大きな目標だったからね。玲菜への復讐は。一番嫌いだった奴に復讐できて、胸にあったモヤモヤが吹き飛んだ感じ」
「それは何より」
「でも、少し気が抜けちゃったっていうのも本音かな。これで直接私をいじめていた連中には、ほとんど復讐を果たしちゃったわけだから。まあ、まだ夜は長いんだし、適当に小物を狩って飽きたらまた玲菜で遊べばいいかな」
綾乃の言葉を聞いて、久遠は窓の外へ視線を移す。夜空を見上げると、月が先ほどよりもかなり高い位置に来ていた。
とはいえ、まだまだ折り返し地点。綾乃の言う通り、夜はまだ長い。
「そうだね。それじゃあ、そろそろ移動する?」
「うん。これ以上ここにいても意味が無いし――」
「ふふ……ははは、はははははははは!」
久遠たちが教室を出ようとすると、急にけたたましい笑い声が響いた。
声の主は玲菜だ。
髪はぼさぼさ。衣服もはだけたまま。顔も涙でぐちゃぐちゃだが、口元だけは久遠たちを馬鹿にするように歪んでいた。
「何がおかしいの、玲菜? それとも、あまりにショックで頭が変になっちゃった?」
「バーカ、そんなんじゃねえよ。あんたがあまりにオメデタイ考えをしてるから、それが面白くて笑っているだけ」
「オメデタイ考え?」
「ちょっと大きな力を手に入れたからって、手当たり次第に復讐? そんなのナイフ振り回してる小学生と一緒じゃん」
「玲菜、あまり私のことを挑発しない方がいいよ。それがとても危険なことだって、玲菜にも分かっているはずだよね? そこまで玲菜の頭も悪くないって信じてるんだけど」
綾乃の忠告を聞いても、玲菜は笑うのを止めない。
そんな彼女を見て、久遠も「本当に壊れてしまったか?」と不安になる。
だが、そうではなかった。
「挑発とかじゃなくてさ、私から見たらあんたは小学生並みに単純なんだって。だから、いじめられるんだよ」
「そろそろ口を閉じなよ。じゃないと、今度は自慢の顔に一生消えない傷を残すことになるよ」
「綾乃さあ、自分がいじめられている理由……知ってる?」
「え?」
綾乃は目を見開いて硬直する。
久遠も、その言葉には反応せずにはいられなかった。
玲菜が負け惜しみで適当な嘘を言っている可能性は勿論ある。
だが、彼女の言葉が真実だとすれば――綾乃のイジメには、久遠たちの知らない事実が隠されているということになる。
「一弥は『システム』とか言ってたっけ。でも、あれは一弥が自分を納得させるために考えた理由付けなんだよ。少なくとも、私はそう思ってる。あいつは、元々イジメに参加すること自体渋っていたからね。ふふふ……まあ、あいつにはあいつなりの事情っていうか思惑があったんだろうけどさ」
「ちょ、ちょっと待って! 全然意味が分からない! 第一、玲菜だって自分は楽しいからやってるだけだって言ってたじゃない! それが理由なんでしょ?」
「そういうところがオメデタイって言ってんの。まあ、楽しいからやってたっていうのは、確かにあるんだけどさ。でも……それだけじゃない」
玲菜は意味深に唇を歪ませる。
「……玲菜は何を知ってるの? 隠してること全部話して!」
「ふふふ……本当は黙ってないといけないんだけど、あんたなんかにここまでされて、もうどうでもいい気分だわ。壊れるなら全部まとめて壊れちゃえって感じ。だから、いいよ。教えてあげる。私があんたをいじめてたのは――」
玲菜の口から語られたのは、綾乃は勿論、久遠すら驚愕せざるを得ないイジメの真相だった。
話を聞き終えた綾乃は、完全に言葉を失う。
そんな綾乃を見て、玲菜はまたクスクスと笑う。
まるで小さな仕返しが出来た子供のように。
だが、玲菜の告白が久遠たちに与えた衝撃は『小さな仕返し』どころではなかった。
物語は今、大きな転換点を迎えようとしていた。
綾乃はそんな玲菜を満足そうに見下ろす。
最高の形で終えた復讐。
その余韻を楽しむかのように。
けれど、それを邪魔するように弘志たちが綾乃に近づく。
「はあはあ……こ、これでいいんだよね、三崎さん? これで僕は助かるんだよね?」
「わ、私たちもよね? ちゃんと言う通りにしたんだから」
彼らは安堵した表情で綾乃に話し掛ける。
そんな彼らに、綾乃は少しムっとした顔を向けた。
「そうね。あなたたちはちゃんと私の言う通りに動いてくれた」
「じゃ、じゃあ……」
「だから助けてあげる。あなたたちを支配している恐怖からね! エヴィル!」
「えっ!? ぶぼっ!!」
エヴィルの髪が鞭のようにしなり、弘志の身体を打ち払った。派手に弾き飛ばされた彼は、掃除ロッカーに激しく激突。彼の頭からは、血が流れ落ちた。
他の三人も次々に薙ぎ払われる。
教室内で立っているのは、あっという間に久遠と綾乃の二人だけになった。
地に伏した四人は、意識こそあるものの、皆一様に苦悶の表情で呻き声を上げている。久遠は「いっそのこと気を失った方が楽だったろうに」と思う。
「あんたたちも大概馬鹿だね。友達を裏切ったり、クラスメイトをレイプしたりするゴミを私が許すとでも思っているの? 私は何があってもクラスメイト全員許さない! まあ、優子ちゃんだけは例外だけど」
言い終えた綾乃は、目を閉じて一度大きく深呼吸をする。
それから晴れ晴れとした顔を久遠に見せた。
「いい顔だね」
「一つ大きな目標だったからね。玲菜への復讐は。一番嫌いだった奴に復讐できて、胸にあったモヤモヤが吹き飛んだ感じ」
「それは何より」
「でも、少し気が抜けちゃったっていうのも本音かな。これで直接私をいじめていた連中には、ほとんど復讐を果たしちゃったわけだから。まあ、まだ夜は長いんだし、適当に小物を狩って飽きたらまた玲菜で遊べばいいかな」
綾乃の言葉を聞いて、久遠は窓の外へ視線を移す。夜空を見上げると、月が先ほどよりもかなり高い位置に来ていた。
とはいえ、まだまだ折り返し地点。綾乃の言う通り、夜はまだ長い。
「そうだね。それじゃあ、そろそろ移動する?」
「うん。これ以上ここにいても意味が無いし――」
「ふふ……ははは、はははははははは!」
久遠たちが教室を出ようとすると、急にけたたましい笑い声が響いた。
声の主は玲菜だ。
髪はぼさぼさ。衣服もはだけたまま。顔も涙でぐちゃぐちゃだが、口元だけは久遠たちを馬鹿にするように歪んでいた。
「何がおかしいの、玲菜? それとも、あまりにショックで頭が変になっちゃった?」
「バーカ、そんなんじゃねえよ。あんたがあまりにオメデタイ考えをしてるから、それが面白くて笑っているだけ」
「オメデタイ考え?」
「ちょっと大きな力を手に入れたからって、手当たり次第に復讐? そんなのナイフ振り回してる小学生と一緒じゃん」
「玲菜、あまり私のことを挑発しない方がいいよ。それがとても危険なことだって、玲菜にも分かっているはずだよね? そこまで玲菜の頭も悪くないって信じてるんだけど」
綾乃の忠告を聞いても、玲菜は笑うのを止めない。
そんな彼女を見て、久遠も「本当に壊れてしまったか?」と不安になる。
だが、そうではなかった。
「挑発とかじゃなくてさ、私から見たらあんたは小学生並みに単純なんだって。だから、いじめられるんだよ」
「そろそろ口を閉じなよ。じゃないと、今度は自慢の顔に一生消えない傷を残すことになるよ」
「綾乃さあ、自分がいじめられている理由……知ってる?」
「え?」
綾乃は目を見開いて硬直する。
久遠も、その言葉には反応せずにはいられなかった。
玲菜が負け惜しみで適当な嘘を言っている可能性は勿論ある。
だが、彼女の言葉が真実だとすれば――綾乃のイジメには、久遠たちの知らない事実が隠されているということになる。
「一弥は『システム』とか言ってたっけ。でも、あれは一弥が自分を納得させるために考えた理由付けなんだよ。少なくとも、私はそう思ってる。あいつは、元々イジメに参加すること自体渋っていたからね。ふふふ……まあ、あいつにはあいつなりの事情っていうか思惑があったんだろうけどさ」
「ちょ、ちょっと待って! 全然意味が分からない! 第一、玲菜だって自分は楽しいからやってるだけだって言ってたじゃない! それが理由なんでしょ?」
「そういうところがオメデタイって言ってんの。まあ、楽しいからやってたっていうのは、確かにあるんだけどさ。でも……それだけじゃない」
玲菜は意味深に唇を歪ませる。
「……玲菜は何を知ってるの? 隠してること全部話して!」
「ふふふ……本当は黙ってないといけないんだけど、あんたなんかにここまでされて、もうどうでもいい気分だわ。壊れるなら全部まとめて壊れちゃえって感じ。だから、いいよ。教えてあげる。私があんたをいじめてたのは――」
玲菜の口から語られたのは、綾乃は勿論、久遠すら驚愕せざるを得ないイジメの真相だった。
話を聞き終えた綾乃は、完全に言葉を失う。
そんな綾乃を見て、玲菜はまたクスクスと笑う。
まるで小さな仕返しが出来た子供のように。
だが、玲菜の告白が久遠たちに与えた衝撃は『小さな仕返し』どころではなかった。
物語は今、大きな転換点を迎えようとしていた。
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