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相馬玲菜

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「あははははははは!」
 

 突如として、けたたましい笑い声が辺りに響いた。
 
 声のした方へ視線を移すと、相馬玲菜がお腹を抱えて笑っていた。


「何がおかしい、相馬」
 

 癪に触ったのか、一弥がすごい目つきで玲菜を睨む。
 
 だが、彼女は全く意に介した様子もなく笑い続けた。


「一弥って『コウリツ』とか『しすてむ』とか、そんな小難しいこと考えてイジメやってんだ~。超ウケルんだけど~、あははははは」
「……お前が馬鹿なだけだろうが」
 

 一弥は憎々しげに言葉を吐き捨て、玲菜から視線を切った。こいつは相手にするだけ無駄。そんな態度にも見える。


「馬鹿でわるうございましたね。ねえ、皆月君。私は一弥と違って頭スッカラカンだから、もっとシンプルだよ」
 

 玲菜は綾乃に近づきながら言葉を続ける。


「私は楽しいからやってるだけ。つか、みんなだって本音は同じっしょ? イラつく奴をイビったり、ボコったりするのって、最高にスカっとするじゃん! それに遊ぶお金も手に入るし。あっ、そういえば、今日コイツいくら持ってた?」
 

 倒れた綾乃の前まで来ると、玲菜は後ろにいた女子生徒に尋ねる。


「全然持ってなかったよ。千円だけ」
「ああ? 千円?」
 

 玲菜の顔が急に不機嫌になる。
 
 だが、すぐに何かを思いついたようで、近くに置いてあった鞄を手に取った。


「一弥、ちょっとソレから足どけてよ。どうもまだ躾が足りなかったみたいだわ」
「躾なあ……。あれを躾って言うのなら、生まれ変わってもお前の子供にだけは絶対なりたくねえもんだ」
「嫌味はいいんだよ! 気が立ってるから、さっさとどけ!」
 

 一弥は肩をすくませながら綾乃から身を引いた。
 
 代わりに玲菜が綾乃の傍らに立つ。


「綾乃ぉ、私言ったよね? 無いなら無いで、パンツ売るなりエンコーするなりして金作ってこいって!」
「……」
 

 玲菜は怒気を孕んだ声を綾乃にぶつけるが、彼女は無反応を貫く。


「ふ~ん、そういう態度取るんだ。こりゃ本格的にお仕置きが必要だね。ねえ、コイツ押さえてパンツ脱がしちゃってよ」
「――!?」
 

 無表情だった綾乃に、強い恐怖の色が浮かぶ。だが、抵抗する間もなく、玲菜の取り巻きである女子生徒三人に押さえ込まれ、下着を剥ぎ取られた。一人が後ろから綾乃を羽交い絞めにし、残りの二人は足を押さえて股を開かせる。周りで見ていた男子生徒からは、色めき立ったはやし声が上がった。


「綾乃さあ、皆月君にヤってもらえなくてアソコが寂しいんでしょ? 大丈夫、綾乃の大好きなアレを今からやってあげるから」
 

 意味深な玲菜の言葉を聞いた瞬間、文字通り綾乃の顔が青ざめた。そして――。


「やめて! あれだけはやめてください! 本当に痛いから!」
 

 これまでになく声を張り上げる綾乃。
 
 目には涙も浮かんでいる。
 
 そんな様子を楽しげに眺めながら、玲菜は鞄の中から何かを取り出した。


「この間、ワサビを塗り込んだ時は綾乃泣いて喜んでたもんね~。だから、今日はもっと刺激の強そうなものを用意してあげたよ。ほら」
 

 玲菜が取り出したのは、赤い液体の入った小瓶――タバスコだった。
 
 それを見た瞬間、綾乃は目を大きく見開き必死に身体をよじらせる。しかし、三人がかりで押さえつけられていては、その抵抗も意味を為さなかった。


「あはは、そんなに興奮してよっぽど嬉しいんだね~。ドMだな~、綾乃は。じゃあ、そんな綾乃の期待に応えて、溢れるまで注いであげるね。真っ赤に腫れあがったアソコをみんなに見てもらおうよ~」
 

 玲菜はタバスコの蓋を取り、それを綾乃の性器へと近づける。満面の笑みを浮かべる玲菜と、泣き叫びながら許しを請う綾乃。そして、周りでショーを見るように笑いながら盛り上げるクラスメイトたち。まさに地獄絵図。久遠は眩暈を覚えた。


「お願いします! それだけはやめてください! お願いします!」
「ねえ、何か勘違いしてない? これは私との約束を破ったことへのお仕置きと躾なんだよ。ここで私がやめたら、綾乃はまた悪いことを繰り返しちゃうじゃん。私は、綾乃がちゃんと言うことをきく良い子になってほしいの」
 

 悪魔のような顔で玲菜はゆっくりとタバスコの瓶を傾けていく。


「わ、分かりました! やります! エンコーでも何でもしますから!」
「なんかそれだと、私が無理やりやらせてるみたいに聞こえるな~」
「や、やりたいです! やらせてください! お願いします!」
 

 その言葉を聞いた玲菜はニヤっと笑い、手を止めた。


「そっか~、綾乃がそこまでエンコーしたいっていうなら仕方ないね。ココで稼がなきゃいけないわけだし、これは勘弁してあげる。商品を傷つけるわけにはいかないもんね」
 

 玲菜はタバスコに蓋をして、綾乃を立ち上がらせた。


「それじゃあ行こっか、綾乃。なるべく金持ってそうなキッモイおっさんを選んであげるからさ~。ん――?」
 

 そこで玲菜は地面に落ちていた綾乃の下着を拾い上げる。


「どうせこれから股開くんだから、これはいらないよね~。そうだ! 皆月君、ここまで来て手ぶらで帰るのもあれでしょ? これ、あげようか?」
「必要ないよ」
「はは、お前のパンツなんていらないってさ、綾乃。ヤってももらえなかったし、皆月君にはトコトン嫌われちゃってるね~。あっ、私、イイこと思いついた! 誰かさ、優子が写ってる画像持ってない?」
「私持ってるけど、何に使うの?」
 

 取り巻きの一人が玲菜に訊き返す。


「あいつさ、今日も学校で私の邪魔してくれて、ちょっとムカついてんだよね。だからさ、このパンツ、優子のだって言って売ってやろうかと思って。案外、ああいう地味な奴の方が売れる――」
「やめて! 優子ちゃんは関係ない!」
 

 綾乃が急に声を張り上げた。死人のようだった瞳にも、今は強い光が宿っている。


「びっくりした~。あんた、なに大声出してんの?」
「優子ちゃんには何もしないで!」
 

 強い意思の籠もった声で、綾乃は叫ぶ。
 
 考えてみれば、優子はクラスで唯一綾乃に優しく接してくれる存在だ。そんな彼女が自分のせいで傷つくのは我慢できないのだろう。綾乃にとって優子の存在は、久遠が思っていたよりずっと大きいらしい。


「ふ~ん、優子には迷惑かけたくないってわけだ。それなら、綾乃がその分頑張りなよ。そうすれば、優子には何もしないから。つーわけで、早速場所を移そうか~」
 

 玲菜は綾乃の肩に腕を回して、倉庫の入り口へ歩いていく。
 
 後を追うようにして、クラスメイトたちもぞろぞろと続いた。
 
 久遠だけは動かない。
 
 そんな久遠に、最後一弥が近づいてきて――。


「これは駄賃だ。じゃあな」
 

 久遠のポケットに何かを入れて去っていった。
 
 薄暗い倉庫内に一人残された久遠は、ポケットに手を入れる。
 
 そこに入っていたのは、しわのついた千円札。
 
 彼らが綾乃から巻き上げた額と同じだ。
 
 久遠は、その千円札を見ながら溜息を吐く。
 
 その時だった――。




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