5 / 6
本当の親
しおりを挟む
全国ニュースに『4人殺しの暴力団組員 逮捕』と報じられたのは南 佳子の第一審の判決が言い渡される日であった。一課の刑事たちが河村を捕まえるまで色々と彼との攻防があったらしいのだが、今は置いておこう。
家庭裁判所にて、
「主文、被告人を懲役6ヶ月、執行猶予3年に処する」
彼女に言い渡されたのは有罪判決だった。窃盗に関しては彼女自身の自白のみが証拠だったので、証拠不十分で不起訴。詐欺罪で1件だけが起訴となっていた。余罪に関してはこれも証拠不十分で不起訴であった。
南家にて、
和義は娘の有罪判決を受け、選挙活動を辞めようとしていた。そこへ、妻である佳恵は折りたたまれた一枚の紙を和義に渡した。
「佳恵、これはなんだ」
「もう、あなたにはうんざりだわ」
和義がその紙を広げると半分の空白がすでに埋められていた。その紙の上部には緑で『離婚届』と書かれていた。
「佳子が有罪になったからなのか」
「いいえ、あなたの幸せって一体、何なの」
和義は長い間、佳恵と寄り添ってきたはずなのだが、こんなに冷徹な佳恵を見たことはなかった。そんな佳恵の様子に和義は怯えてしまった。
「えっと、それは、家族、が、幸せに暮らせる、こと?」
「よくもまぁ、そんなことが言えましたね」
「ご、ごめんなさい」
「あなたは娘を道具としか思っていない、家族が幸せに暮らせる?佳子がどんなにあなたに怯えて毎日を過ごしてきたのか知らないでしょ」
和義が何か言いたげな様子であったが、佳恵はそれを無視して荷物を持ち、家を出た。佳恵と佳子の部屋はすでに何もない。残されたのは放心状態の和義だけだった。
一年後、
佳恵は刑務所の前に車を停めた。佳恵は外に出ようかと思ったが、外の暑さにやられそうになのでクーラーの効いている車の中で待つことにした。5月にも関わらずこの異様な暑さに佳恵は目が少し潤った、太陽も佳子の出所を待っているのだと。そこへ、二人の人影が向かってくる、女性と男性だ。
「南 佳子さんのお母様ですか」
こんな暑い日にも関わらずスーツ姿の女性が尋ねてきた。
「はい、そうです」
「私、南 佳子さんの取り調べを行った佐味と申します」
「あぁ、刑事さんですか」
佳恵は車のエンジンを切り、外に出た。暑さで立ち眩みがおき、倒れそうになったがなんとか耐えた。
「一年前の暴力団組員連続殺人事件って覚えていらっしゃいますか」
暑さというのは人に物事を考えることを諦めさせようとする。それでも懸命に記憶を掘り起こす。
「えー、そうですねぇ、あっ、覚えてます、覚えてます、栄生組の人が殺った事件ですよね」
「そうです、その事件の犯人の情報提供者が南 佳子さんなんです」
佳恵の目が点になる。言葉がうまく出てこない。
「そのお礼が言いたいので、私達も同伴してもよろしいですか」
「はい、どうぞ、、」
佳恵は思った、佳子はもっと私の知らないところへ行ってしまうのだろう。再び、佳恵の目が潤い始めた。笑って迎えようとしたいのだが、溢れるものが止まらない。佳子に家を出ますと言われたら私はどうなるのだろう。色々な思いが頭の中で錯綜する。だが、涙は真っ直ぐ、頬を伝って落ちていく。
佳子には母親らしいことを何もしてあげられなかった。元夫に暴力を振るわれていたのは知っていた。止めることができなかった。佳子を犯罪の道に進ませてしまった。気づくことができなかった。本当の母親だったらどうしていただろう。私は本当の母ではないことで佳子に対して躊躇していた。私も今まで佳子がどんな辛い気持ちで毎日過ごしていたのかわからない。
「佳恵さん、あなたは頑張りました、あなたは本当に佳子さんのお母さんです」
一緒に佳子を待っている佐味が佳恵に向かって言った。佐味の付き添いの男性が佳恵に一枚の紙を渡した。
わたしのお母さん
わたしのお母さんはとても優しいリッパなお母さんです。私が失敗して、お父さんに怒られたあと、お母さんはいつも私に優しくギューとしてくれます。それに、町を歩いているとすれ違う人全員にあいさつをしています。わたしもお母さんのマネをして、みんなにあいさつをするとみんな笑顔で返してくれて心が幸せな気持ちでいっぱいになります。お母さんはわたしに幸せをかんじる方法を教えてくれた本当に優しいリッパなお母さんです。
「これは佳子さんが小学校のとき、母の日の作文で書いたものだそうです」
佳恵は泣き崩れた。高温のアスファルトを忘れるぐらい泣いていた。
「和義さんの暴力は佳子さんの心を傷つけていましたが、この心を癒やしていたのはあなたが佳子さんに教えたあいさつです」
高温のアスファルトの上には2つの小さな水溜りができていた。
家庭裁判所にて、
「主文、被告人を懲役6ヶ月、執行猶予3年に処する」
彼女に言い渡されたのは有罪判決だった。窃盗に関しては彼女自身の自白のみが証拠だったので、証拠不十分で不起訴。詐欺罪で1件だけが起訴となっていた。余罪に関してはこれも証拠不十分で不起訴であった。
南家にて、
和義は娘の有罪判決を受け、選挙活動を辞めようとしていた。そこへ、妻である佳恵は折りたたまれた一枚の紙を和義に渡した。
「佳恵、これはなんだ」
「もう、あなたにはうんざりだわ」
和義がその紙を広げると半分の空白がすでに埋められていた。その紙の上部には緑で『離婚届』と書かれていた。
「佳子が有罪になったからなのか」
「いいえ、あなたの幸せって一体、何なの」
和義は長い間、佳恵と寄り添ってきたはずなのだが、こんなに冷徹な佳恵を見たことはなかった。そんな佳恵の様子に和義は怯えてしまった。
「えっと、それは、家族、が、幸せに暮らせる、こと?」
「よくもまぁ、そんなことが言えましたね」
「ご、ごめんなさい」
「あなたは娘を道具としか思っていない、家族が幸せに暮らせる?佳子がどんなにあなたに怯えて毎日を過ごしてきたのか知らないでしょ」
和義が何か言いたげな様子であったが、佳恵はそれを無視して荷物を持ち、家を出た。佳恵と佳子の部屋はすでに何もない。残されたのは放心状態の和義だけだった。
一年後、
佳恵は刑務所の前に車を停めた。佳恵は外に出ようかと思ったが、外の暑さにやられそうになのでクーラーの効いている車の中で待つことにした。5月にも関わらずこの異様な暑さに佳恵は目が少し潤った、太陽も佳子の出所を待っているのだと。そこへ、二人の人影が向かってくる、女性と男性だ。
「南 佳子さんのお母様ですか」
こんな暑い日にも関わらずスーツ姿の女性が尋ねてきた。
「はい、そうです」
「私、南 佳子さんの取り調べを行った佐味と申します」
「あぁ、刑事さんですか」
佳恵は車のエンジンを切り、外に出た。暑さで立ち眩みがおき、倒れそうになったがなんとか耐えた。
「一年前の暴力団組員連続殺人事件って覚えていらっしゃいますか」
暑さというのは人に物事を考えることを諦めさせようとする。それでも懸命に記憶を掘り起こす。
「えー、そうですねぇ、あっ、覚えてます、覚えてます、栄生組の人が殺った事件ですよね」
「そうです、その事件の犯人の情報提供者が南 佳子さんなんです」
佳恵の目が点になる。言葉がうまく出てこない。
「そのお礼が言いたいので、私達も同伴してもよろしいですか」
「はい、どうぞ、、」
佳恵は思った、佳子はもっと私の知らないところへ行ってしまうのだろう。再び、佳恵の目が潤い始めた。笑って迎えようとしたいのだが、溢れるものが止まらない。佳子に家を出ますと言われたら私はどうなるのだろう。色々な思いが頭の中で錯綜する。だが、涙は真っ直ぐ、頬を伝って落ちていく。
佳子には母親らしいことを何もしてあげられなかった。元夫に暴力を振るわれていたのは知っていた。止めることができなかった。佳子を犯罪の道に進ませてしまった。気づくことができなかった。本当の母親だったらどうしていただろう。私は本当の母ではないことで佳子に対して躊躇していた。私も今まで佳子がどんな辛い気持ちで毎日過ごしていたのかわからない。
「佳恵さん、あなたは頑張りました、あなたは本当に佳子さんのお母さんです」
一緒に佳子を待っている佐味が佳恵に向かって言った。佐味の付き添いの男性が佳恵に一枚の紙を渡した。
わたしのお母さん
わたしのお母さんはとても優しいリッパなお母さんです。私が失敗して、お父さんに怒られたあと、お母さんはいつも私に優しくギューとしてくれます。それに、町を歩いているとすれ違う人全員にあいさつをしています。わたしもお母さんのマネをして、みんなにあいさつをするとみんな笑顔で返してくれて心が幸せな気持ちでいっぱいになります。お母さんはわたしに幸せをかんじる方法を教えてくれた本当に優しいリッパなお母さんです。
「これは佳子さんが小学校のとき、母の日の作文で書いたものだそうです」
佳恵は泣き崩れた。高温のアスファルトを忘れるぐらい泣いていた。
「和義さんの暴力は佳子さんの心を傷つけていましたが、この心を癒やしていたのはあなたが佳子さんに教えたあいさつです」
高温のアスファルトの上には2つの小さな水溜りができていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。
『悪魔飯!夏子と陽菜のこども食堂&福祉配食奮闘記!~ハイカロリー「めしテロ」日誌~』【こども食堂応援企画参加作品】
あらお☆ひろ
現代文学
今回は、年末に向けた地元門真の「こども食堂応援企画」に乗っかっての参加です!
「稀世ちゃん」みたいに「ドーン!」と大きな寄付をしてくれる人は「小説」の中だけなので、ボランティアはみんなコツコツ頑張ってます!
この3年の「物価高」、「水光熱費高」に加えて、今年の夏前からの「米不足」&「価格高騰」で「こども食堂」&「高齢者配食」は「大ピンチ!」です。
大きなことはできませんが、今年の春の「頑張ろう石川!」メンバーを中心に、「SAVE the CHILDREN 頑張ろう「こども食堂」!」キャンペーンに参加しています!
私に出来ることという事で、「なつ&陽菜「悪魔飯!」」に寄せられた投稿インセンティブをこども食堂に寄付します。
赤井翼先生の「偽りのチャンピオン~アナザー・ストーリー」と共に「エール」で応援いただきましたら幸いです!
皆さんの善意を「子供達」に届けさせてください!
では、「稀世ちゃんシリーズ」、「なつ&陽菜犯科帳」、「なつ&陽菜勉強会」でおなじみの「なっちゃん」&「陽菜ちゃん」が「予算」の無い「こども食堂」&「高齢者配食」で知恵を絞って頑張ります!
「金をかけずに旨いもの!」をテーマに頑張る2人を応援してください!
それではよーろーひーこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
Cheetah's buddy 〜警察人外課の獣たち〜
秋月真鳥
BL
人間に紛れて、獣の本性を持つ人外が暮らす世界。
人外は獣の本性に戻ってしまうと防犯カメラにも映らず、普通の人間からは認識することができなくなる。
その人外の犯罪を取り締まるために、合衆国の州警察には人外課という人外で構成された課があった。
人外課に勤める若い人外、ルーカスは、相棒を顧みることなく置いて行って、これまでに何度も相棒から関係の解消を申し入れられていた。そんなルーカスがまた相棒に関係を解消される。
警察官は二人ペアでないと行動してはいけないことになっているので、現場に出たいルーカスは、上司のジャンルカの紹介する新しい相棒、エルネストと組むことになる。エルネストはずっと組んでいた相棒が怪我で現場に出られなくなって、隣りの州からやってきたのだった。
最初はエルネストのことを今までの相棒と同じように思っていたルーカスだったが、エルネストはルーカスと協力して事件を解決しようとする気持ちを見せてくる。
小さいころに人身売買組織に売られそうになって、施設で育ったルーカスは、エルネストの優しさに心溶かされて恋心を抱いていく。
孤独なチーターの人外ルーカスと愛情深い狼の人外エルネストのボーイズラブ。
【ショートショート】ひとつまみ シュールにドアをノックして
ロボモフ
現代文学
短いお話
エッセイ・ノベル
シュール・ショート
言葉遊び
散文詩
いずれにせよ面白おかしく
書いていきたい
今日も
明日も
そして明後日は
少し休むかも
短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)
本野汐梨 Honno Siori
ホラー
あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。
全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。
短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。
たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
★恋ほど切ない恋はない
菊池昭仁
現代文学
熟年離婚をした唐沢は、40年ぶりに中学のクラス会に誘われる。
そこで元マドンナ、後藤祥子と再会し、「大人の恋」をやり直すことにした。
人は幾つになっても恋をしていたいものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる