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まどろみと企み
幽霊の脱出
しおりを挟む二人が出ていって何日経ってたのかは分からないけれど、もう心身共にボロボロだった。
身体には力が入らないし、ふらふらだし、家を出て独りになって怖いし、悲しくて、何処に行けばいいのか分からなくて、ただただ目の前の道を歩いた。
「そしたら公園があって。そこの噴水で親子が遊んでた。でも俺は、楽しそうとかより、噴水の水が、とにかく美味しそうで。」
渇ききった身体は無意識に動き、気がついた時には噴水の水を這いつくばって舐めていた。
それを不審に感じた親子が警察に通報して保護されたのは幸運だった。
「そこで通報してくれた人が、今の母親と姉ちゃん。不憫に思って養子にしてくれた。」
「ずっと気になってたけど、柚木って、まさか本当に、あの柚木か?」
「うん。あの柚木家です。引き取られたら、凄い裕福な家で驚いた。」
「そりゃあ、すごいな。」
養子に迎えてくれた柚木家は世界有数の財閥だった。
日本有数ではない、世界だ。
さすがに朝日さんも驚いているようだった。
「後で調べて分かったんたけど、俺、戸籍も無かったみたいで。本当に存在してない事になってたんだって知って。ゾッとした。」
本当に幽霊だったのだ。
「それから暫くして、出て行った母親が小宮って人と再婚したらしいって事を人伝に聞いた。その再婚相手が生徒会長のお父さんみたい。」
「それで、あんなに突っかかってくるのか。」
「うん。なんか、俺が家出したりとか施設に入ったとか言ってたけど、多分母親が嘘ついてるんだと思う。」
なんとも乱暴な嘘だ。
家出したのは、そっちだろう。
俺を捨てて自分の事だけ考えて勝手に出ていったのは、そっちじゃないか。
子供もを捨てて、嘘まで吐いて、そこまでして幸せになりたかったのか。
俺が、どんなに酷い母親でも捨てきれず、どれだけ縋って、どんな気持ちで待っていたかも知らずに。
姉曰く、噴水で水を舐めていた俺は、それわもう酷くやつれていたそうだ。
頬はこけて目は窪んで手足は骨と皮だけ、髪はベタベタのパサパサで。
目に生気がなかったらしい。
俺は覚えていないが、姉が何か困ってないかと俺に声をかけたら、返事はするんだけど声が全然出ていなくて。
かろうじて聞き取れた言葉が、
「見てくれてありがとう。って言ったらしいです。」
「見てもらえない、存在を認めてもらえない、目が合わないって事が1番辛かったんだろうな。」
「うん。それは今でも嫌だなぁって思う。無視されたり、俺の気持ちとか話を聞いてそうで全く聞いてない人とか、話が通じない人とか、ほんと無理で、怖くなる。存在を無視される事と似てるから。」
「なるほど。」
だから、こうやって向き合って、しっかり目を合わせて話を聞いてくれる事が、どんなに嬉しいか。
「ほんとうに、今、恵まれてるなぁって思ってて…。」
「本来なら、目を合わせて話をしたり、相手の感情を汲み取ったり、そういったお互いを認め合うコミニュケーションというか…そういった物は当たり前の事なんだけどな。当たり前だからこそ、陽太にとって重要な事なんだろうな。」
「そうですね。」
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