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まどろみと企み

おだやかに

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シャワーを借り、昨日の激動で飽和していた頭がスッキリした。

「…うーわ…やば…」

鏡に映った自分の顔が酷過ぎて引く。
泣き過ぎた。
スッキリした脳味噌とは対照的に目が腫れぼったい。
こんなに目が腫れるまで泣いたのは初めてかもしれない。
夕方には斗羽が迎えに来るため、心配させないよう目の腫れを治めたい。
とにかく、まずは髪を乾かそう。
脱衣場で鏡を見ながら急いでドライヤーで髪を乾かしていると、徐に朝日さんがやってきた。


「俺にやらせて?」


そう言われドライヤーを渡すと、ダイニングに移動し、ソファーに座らされ、髪にブラシを通しながら丁寧に乾かしてくれる。


「あー…なんか、凄いサラサラ…」
「熱くないか?」
「うん。だいじょうぶ。」


ブラシ通しながら乾かすなんて手間かけてやった事無かったけど、これだけで全然違う。
サラサラになってる気がする。
髪に広がる少し熱めの風が気持ちが良い。
仕上げの地肌を乾かす時は冷風を使ってくれて、それはそれで冷たさが心地よかった。


「俺のシャンプーだと陽太の髪質に合わないな…俺とした事が…。まだヘアオイルも届いて無い。俺とした事が…。」


朝日さんが何かブツブツ言ってるけどドライヤーの音で良く聞こえなかった。


保冷剤とタオルを借りた。
包んで両目に当てる。
何も見えないが、朝日さんの楽しそうな声は聞こえる。
とてもご機嫌な声。


「やっと出来る。いやー、よく我慢したよ。俺は。」


ソファーに座ってオットマンに置いている俺の足を、念入りに何かを塗りながらマッサージしてる。
サラサラとヌルヌルの中間くらいの感触だ。
指先から太腿の付け根まで、少しだけ強い力で揉みほぐしてくれる。
その表情は見えないが、声はニッコニコだ。


「肌に良いマッサージオイルなんだけど、香り、嫌じゃないか?」
「良い匂い。柑橘系の香り好きです。」


あまり強い花の香りは苦手なのだけれど、これは柑橘系の好きな匂いだ。
鼻腔の奥から身体の隅々まで広がるよう。
癒される。


「グレープフルーツと杏仁の香りらしい。」
「あんにん…」


なんか、よく分からないけど、なんだか。


「高そう…」
「どうだったかな。忘れた。」
「えぇ…?」


高いんだな。多分。
まあ、いいか、何故だか凄くご機嫌だし、ありがたくマッサージされておこう。


それにしても気持ちが良い。
目は冷やされて揉みほぐされた足は暖かい。
良い匂いがして、おだやかで。
何だろう。
これ。


「幸せ過ぎる…」
「それは良かった。俺も幸せ。」
「えぇ…?」


何で?マッサージしてる事が?


「陽太を甘やかす事が俺の幸せなんだよ。」
「えぇ…?」
「さっきから、えぇ?しか言ってないな。」


ちょっと笑われた。
だって良く分からない事を言っているから。
困惑する。


「いいんだよ。俺の好きにさせてくれ。」
「…はぁい。」


朝日さんが良いなら、いいや。
大人しくしておこう。
穏やかな静寂が流れる。
保冷剤を当て目を閉じていると、何だか泣けてきた。
こんなに心穏やかに過ごせる日が来るなんて。
当てたタオルに、じんわり涙が沁みた。
それは、とても暖かく、沁みた。

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