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沼に落ちた
葛藤
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あの嫉妬心が芽生えた数日後に多忙な萱島と久しぶりに話をした時に、陽太と佐野は萱島が作った部の部員なのだと聞き納得した。
だから毎日一緒に過ごしているのだろう。
萱島が言うには色々と危なっかしいから保護しているとの事だった。
やはり何か抱えきれない物を隠している。
それ丸ごと俺に預けてくれないだろうか。
そんな風に考える。
話したこともない生徒に感情移入している自分が不思議でならないが、其れ程あの校庭での衝撃が強かったという事だろう。
だが、気になり好いていると自覚していても大人として対応しなければならないという理性は捨てずにいる。
陽太が佐野と行動するようになって数ヶ月がたった今も、極力接触しないよう気を配って過ごしている。
今日は第二図書室に本を返すだけのはずだったのだが。
何故だろうか。
いつも居る犬飼だけではなく、珍しくカウンターには陽太がいる。
なにやら二人で喋りながらカウンターで何かを作っているらしかった。
絶対に近づかないようにしようと決めていたはずが、本を返すだけだと自分に言い訳をしカウンターに向かう。
「あ、すみません。どうぞ。」
「ありがとう、邪魔して悪いな。」
初めて間近でみる陽太は、想像を遥かに越えてきた。
まつ毛が長い。
指が長い。
涙袋が大きい。
小さめな薄い黒子が案外多い。
本の返却手続きをやっている彼の手元には、ブツブツと髭の生えた珍妙なサンタクロース。
これをさっきから作っていたのか。
可愛いサンタだなと揶揄すると、不貞腐れるでもなく。
「ワイルドサンタです!」
そうドヤる彼が愛おしい。
物静かだと聞いていたが違うようだ。
こんなに惹かれるとは自分でも思っていなかった。
やはり近づいてはいけなかった。
早々に後悔する。
「朝日さん、今週末陽太とゴッホ展一緒に行ってやってよ。こいつ友達居なくて1人で行こうとしてんだ。かわいそうに。」
犬飼の一言が耳に飛び込んできた。
脳内で理性と欲望がひしめき合う。
「ゴッホ展?」
やめろ話に乗るな。
これ以上近づいてはいけない。
頭と裏腹に言葉が出ていく。
「あ、はい、チケット二枚貰って。今週末までだから行きたいなあって。犬飼君誘ったんですけど、用事あるみたいで。」
本当に困っているように見える。
揺らぐ。
関わってしまいたい。
思い切り可愛がってやりたい。
まて。
駄目に決まっているだろう。
最低な人間なのだから。
汚してしまう前に、立ち去れ。
断れ。
「俺は馬鹿か。」
結局断れず、連絡先まで交換してしまった。
図書室から管理人室に戻ってきて酷い後悔に襲われる。
困っている様子が、どうしても放って置けなかったのだ。
断ったら、おそらく本当に一人で行っていたに違いない。
それをどうして断れようか。
陽太が居ることに気づいていたのにカウンターに近づいたのがいけなかった。
絶対に近づいてはいけないと決心していたはずなのに、このざまだ。
自分の事を制御出来ない事など今まで無かった。
かつてない困難に見舞われている。
頭を抱えていると携帯に通知が届き、目を通す。
先程から陽太と待ち合わせ時間などのやり取りを行っている。
了解と喋っているカワウソのスタンプが届いていた。
思わず顔が緩む。
駄目だ。
顔を緩ませている場合ではない、気を引き締めて当日に挑もう。
これ以上深みにはまらぬよう。
絶対に落ちないよう。
だから毎日一緒に過ごしているのだろう。
萱島が言うには色々と危なっかしいから保護しているとの事だった。
やはり何か抱えきれない物を隠している。
それ丸ごと俺に預けてくれないだろうか。
そんな風に考える。
話したこともない生徒に感情移入している自分が不思議でならないが、其れ程あの校庭での衝撃が強かったという事だろう。
だが、気になり好いていると自覚していても大人として対応しなければならないという理性は捨てずにいる。
陽太が佐野と行動するようになって数ヶ月がたった今も、極力接触しないよう気を配って過ごしている。
今日は第二図書室に本を返すだけのはずだったのだが。
何故だろうか。
いつも居る犬飼だけではなく、珍しくカウンターには陽太がいる。
なにやら二人で喋りながらカウンターで何かを作っているらしかった。
絶対に近づかないようにしようと決めていたはずが、本を返すだけだと自分に言い訳をしカウンターに向かう。
「あ、すみません。どうぞ。」
「ありがとう、邪魔して悪いな。」
初めて間近でみる陽太は、想像を遥かに越えてきた。
まつ毛が長い。
指が長い。
涙袋が大きい。
小さめな薄い黒子が案外多い。
本の返却手続きをやっている彼の手元には、ブツブツと髭の生えた珍妙なサンタクロース。
これをさっきから作っていたのか。
可愛いサンタだなと揶揄すると、不貞腐れるでもなく。
「ワイルドサンタです!」
そうドヤる彼が愛おしい。
物静かだと聞いていたが違うようだ。
こんなに惹かれるとは自分でも思っていなかった。
やはり近づいてはいけなかった。
早々に後悔する。
「朝日さん、今週末陽太とゴッホ展一緒に行ってやってよ。こいつ友達居なくて1人で行こうとしてんだ。かわいそうに。」
犬飼の一言が耳に飛び込んできた。
脳内で理性と欲望がひしめき合う。
「ゴッホ展?」
やめろ話に乗るな。
これ以上近づいてはいけない。
頭と裏腹に言葉が出ていく。
「あ、はい、チケット二枚貰って。今週末までだから行きたいなあって。犬飼君誘ったんですけど、用事あるみたいで。」
本当に困っているように見える。
揺らぐ。
関わってしまいたい。
思い切り可愛がってやりたい。
まて。
駄目に決まっているだろう。
最低な人間なのだから。
汚してしまう前に、立ち去れ。
断れ。
「俺は馬鹿か。」
結局断れず、連絡先まで交換してしまった。
図書室から管理人室に戻ってきて酷い後悔に襲われる。
困っている様子が、どうしても放って置けなかったのだ。
断ったら、おそらく本当に一人で行っていたに違いない。
それをどうして断れようか。
陽太が居ることに気づいていたのにカウンターに近づいたのがいけなかった。
絶対に近づいてはいけないと決心していたはずなのに、このざまだ。
自分の事を制御出来ない事など今まで無かった。
かつてない困難に見舞われている。
頭を抱えていると携帯に通知が届き、目を通す。
先程から陽太と待ち合わせ時間などのやり取りを行っている。
了解と喋っているカワウソのスタンプが届いていた。
思わず顔が緩む。
駄目だ。
顔を緩ませている場合ではない、気を引き締めて当日に挑もう。
これ以上深みにはまらぬよう。
絶対に落ちないよう。
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