51 / 84
沼に落ちた
きっかけ
しおりを挟む
孤独な色をしている。
目を見た時、そう感じたことを覚えている。
毎日同じように仕事をこなす。
本職はフリーのライターなのだが、知り合いに頼まれ副業として学校の寮管と用務員を担っている。
「朝日さん、おはようございます。」
「おはよう。」
「おはようございまーす。」
「おはよう。よそ見してると転ぶぞ。」
朝は寮から登校する生徒たちを窓口から見送る。
見送らないといけないという決まりはないが着任してからの日課にしており、ルーティーンとなっている。
それに、先日新学期を迎えたばかりのため、慣れない学校生活に体調を崩ず生徒も多い。
「朝日さん202号室のやつ体調わりぃから今日休むって!伝言頼まれました~。」
声をかけてきたのは告げられた部屋の隣の生徒だ。
女子と見間違えるほどの男子と話題の犬飼という生徒。
初めて会話をした時は感じていた印象と随分と違い、驚いた。
本人にとってはそれが至って普通なのだから、周囲が過剰に外見に反応しているだけなのだろう。
了解した旨を伝えると、犬飼は本を開き読みながら去っていく。
口を開かなければ確かに一国の姫のようだ。
なるほど、狂犬姫。
言い得て妙かもしれない。
午前中の仕事を終え校内を見回る。
設備管理の確認は勿論だが、風紀の監視も兼ねている。
校内が広く死角が多いためだ。
それは敷地内の花壇を見て回っている時だった。
念の為、校内の一番端の校庭も見回っておくかと足を運んだ時。
高くもなく、低くもない。
透き通るような声が聞こえた。
「どうしたの。」
しゃがみ込み花壇に向かって話しかけている一人の生徒。
通常時は殆ど人気のない東館の庭に聞こえてきた突然の人の声に驚く。
その不審者感溢れる佇まいに、思わず立ち止まってしまった。
「子猫ちゃん。お母さんかお父さんはどこですか?」
その問いかけに、か細い子猫特有の声が返される。
ここからは見えないが花壇に子猫が居るのだろう。
生徒は、怖くないよ、大丈夫だよ、と声をかけ続けている。
そうしているうちに子猫は花壇の中を巧みに移動し、姿を消してしまったようだ。
生徒は立ち上がり心なしか残念そうに立ちすくむ。
立ち上がったため顔がよく見えた。
今思えば、この時の衝撃は一目惚れに近いものがあったのかもしれない。
透明感と艶のある肌。
人形のように整った顔立ち。
黒髪だが色素が薄いのだろう、太陽光に照らされた髪の色は紺色に近いものがあった。
天然だろうか、ふわっとした緩めのパーマが本来人間にあるはずの重力を無重力化しているようにさえ感じる。
そして何よりも気になったのは。
孤独が色付いたような瞳だった。
一見すると明るい茶色がかった瞳だが、奥に感じられる孤独に沈んだ瞳を覆い隠しているように見えた。
魅入っているうちに少年は立ち去っていた。
こちらには気づかなかったようだ。
この時の少年が「堕天使」と呼ばれている生徒だと知るまでには、そう時間はかからなかった。
目を見た時、そう感じたことを覚えている。
毎日同じように仕事をこなす。
本職はフリーのライターなのだが、知り合いに頼まれ副業として学校の寮管と用務員を担っている。
「朝日さん、おはようございます。」
「おはよう。」
「おはようございまーす。」
「おはよう。よそ見してると転ぶぞ。」
朝は寮から登校する生徒たちを窓口から見送る。
見送らないといけないという決まりはないが着任してからの日課にしており、ルーティーンとなっている。
それに、先日新学期を迎えたばかりのため、慣れない学校生活に体調を崩ず生徒も多い。
「朝日さん202号室のやつ体調わりぃから今日休むって!伝言頼まれました~。」
声をかけてきたのは告げられた部屋の隣の生徒だ。
女子と見間違えるほどの男子と話題の犬飼という生徒。
初めて会話をした時は感じていた印象と随分と違い、驚いた。
本人にとってはそれが至って普通なのだから、周囲が過剰に外見に反応しているだけなのだろう。
了解した旨を伝えると、犬飼は本を開き読みながら去っていく。
口を開かなければ確かに一国の姫のようだ。
なるほど、狂犬姫。
言い得て妙かもしれない。
午前中の仕事を終え校内を見回る。
設備管理の確認は勿論だが、風紀の監視も兼ねている。
校内が広く死角が多いためだ。
それは敷地内の花壇を見て回っている時だった。
念の為、校内の一番端の校庭も見回っておくかと足を運んだ時。
高くもなく、低くもない。
透き通るような声が聞こえた。
「どうしたの。」
しゃがみ込み花壇に向かって話しかけている一人の生徒。
通常時は殆ど人気のない東館の庭に聞こえてきた突然の人の声に驚く。
その不審者感溢れる佇まいに、思わず立ち止まってしまった。
「子猫ちゃん。お母さんかお父さんはどこですか?」
その問いかけに、か細い子猫特有の声が返される。
ここからは見えないが花壇に子猫が居るのだろう。
生徒は、怖くないよ、大丈夫だよ、と声をかけ続けている。
そうしているうちに子猫は花壇の中を巧みに移動し、姿を消してしまったようだ。
生徒は立ち上がり心なしか残念そうに立ちすくむ。
立ち上がったため顔がよく見えた。
今思えば、この時の衝撃は一目惚れに近いものがあったのかもしれない。
透明感と艶のある肌。
人形のように整った顔立ち。
黒髪だが色素が薄いのだろう、太陽光に照らされた髪の色は紺色に近いものがあった。
天然だろうか、ふわっとした緩めのパーマが本来人間にあるはずの重力を無重力化しているようにさえ感じる。
そして何よりも気になったのは。
孤独が色付いたような瞳だった。
一見すると明るい茶色がかった瞳だが、奥に感じられる孤独に沈んだ瞳を覆い隠しているように見えた。
魅入っているうちに少年は立ち去っていた。
こちらには気づかなかったようだ。
この時の少年が「堕天使」と呼ばれている生徒だと知るまでには、そう時間はかからなかった。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる