細胞がはじけた時が噛み頃です。

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好きだよ

伝わってる

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管理人室か俺の部屋に行くのかと思っていたら、他の生徒に見られないよう裏口から朝日さんの住居スペースに入れてくれた。
玄関で脱いだ靴を揃えて、お邪魔しますと部屋に入る。


「座って待ってて。」
「あ、はい…。」


初めて入ったけど普通の2LDKのマンションのような造りだ。
ソファーに座って待っていたらココアを作ってきてくれた。
隣に座った朝日さんのコップにもココアが入っているようで、周囲に甘くてホッとする香りが漂う。


「寒くてごめん。すぐ暖房効いてくると思うから。」
「ありがとうございます。なんか…すみません。」
「間に合って良かった。ほんとに。」


俺との電話が突然切れた後、すぐに萱島先生の携帯にブザーの通知が入ったそうだ。
萱島先生と通知場所を確認して、二人で急いできてくれたらしい。


「ありがとうございました。」
「いいから、ほら冷めないうちに飲みな。落ち着くから。」


ペコリとお礼をして、ココアを一口飲む。
少し熱めのココアが食道を通る。
ほろ苦いけど甘い。
美味しい。


「美味しい…」
「だろ。」


身体全体が弛緩する。
無意識に力が入っていたんだろう。


ふと、目に入った物が俺の心臓を抉る。
破けた制服。
廊下に転がって画面の割れた携帯。
そしてグシャグシャになった紙袋。
理不尽な暴力の結果だ。


折角ずっと我慢していたのに。
ココアで弛緩した涙腺はもう制御が出来なかった。
ポロっと涙がこぼれた。
悔しくて悔しくて、本音を吐き出してしまいそうだ。
せめて、みっともない泣き顔は見せたくない。
ギュッと膝を抱え込んで、顔を隠して泣く。


「陽太。」
「制服、破けるし…」
「うん。」
「また買って貰うの申し訳ない…っ、」
「そうか。」
「携帯も…あれ、姉ちゃんが買ってくれたのにっ…壊れたっ…」
「うん。」
「綺麗に、出来たのにっ…」
「ん?」
「あのチョコっ…紙袋のっ」
「ああ、あれか。」
「朝日さんに作ったのに、渡して、ちゃんと言おうと思ってたのに…」
「俺に作ってくれたんだ?」
「うん…。」


優しく頭を撫でてられる。
思わず顔を上げてしまった。
優しい目をした朝日さんと目があう。


やっぱり好きだな。
凄く好きだ。


この優しい人に、きちんとした場できちんとした言葉を送りたかった。
せっかく、ちゃんと言おうと思ってたのに。
こんな風に言うはずじゃなかったのに。


「好きですって…、すごくすごく好きですって…気持ちをっ、つ…伝えたかったのに…ッなのに、こんなっ…ふっ…ぅっ…、ッ…っ…」


ちゃんと伝えたかったのだと訴えた。
くしゃあっと顔が歪むのが自分でわかった。
ポロポロと流れていた涙が、更にブワッと溢れ、目から零れ落ちる。
手で目を擦るけど意味がない。
ひくひくと跳び跳ねる息が止まらない。


「陽太。」
「え?」


涙で朝日さんの顔が見えないため必死に目を擦った。
手を取られ、ぐいっと引き寄せられる。
身体が暖かい。
朝日さんに抱き締められている。
そう気付いたら心臓が跳ねた。


「陽太。」


ぎゅうって。
ぎゅうってされてる。
驚きで涙が少しだけ引っ込んだ。


「陽太、大丈夫。伝わってる。」
「…ほん、と?」
「十分だ。伝わってるよ、ありがとう。」
「好きって、伝わった?」
「ああ、だからもう泣くな。可愛すぎるから。」


伝わった。
良かった。
ぜんぜん思ってたようにはいかなかったけど、伝わったんだ。
それに、ぎゅうってして貰えてる。
嬉しい。
良かった。
嬉しくて、ぎゅっと抱きつく。


「俺も好きだよ。」


…へ?
聞き間違い?
思わず身体をガバッと離して、問いかける。


「今なんて…?」
「俺も陽太が好きだよ。」
「…う、嘘だあ…」
「なんで俺が嘘吐くんだよ。」


俺の目の縁の涙を拭いながら、ふふっと笑う。



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