細胞がはじけた時が噛み頃です。

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純正な涙に触れる

姫の助言

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もし嫌だと言われたら、怖い。


「さっきの男前は何処行った?行方不明か?へっぽこなんか?」
「うっ」
「俺だったら渡す。貴方に好意があるんですよて知って欲しいじゃん。」
「確かに…。」
「な?ただの意思表示だって。付き合うとかは置いとけばよくね?」
「なるほど…。」
「それを迷惑だって思うような人間じゃなくね?朝日さんって。」
「うん。」


意思表示。
付き合う付き合わないを願い出ず、貴方の事が好きなんですよって知ってもらうという事か。


「…それなら出来るかも。」
「だろ?まあ強制はしねぇけどな。俺だったら渡すって話。そのうち言おうって躊躇してるうちに言えなくなるような事は避けたい。」


犬飼がアドバイスをしてくれるとは思わなかった。
てっきり面白がって言ってるだけかと疑ったが、どうやらそうでは無いらしい。
伺い見た表情は俺が思っていたより、ずっとずっと真剣だ。
きっと何か思うところがあって背中を押してくれているのだろう。


「チョコ渡して伝えるだけならいいよね…」
「お、その気になった。」
「作ってみようかな。」
「今度一緒に作ろーぜ。」
「え、いいの?やった!」


伝えよう。
涙を拭って貰った日以降、好意が溢れて溺れそうなんだ。
本当に苦しい。
会っていない時には気持ちを呑み込んでいられるが、少しでも話すと好きだと口走りそうになる。
自分がこんな風になるとは思わなかった。
控えめに、ひっそり想う。
そんなタイプだろうと予想していた。
だけれど、よくよく考えたら自分はとても欲の深い人間だった事を思い出す。
貪欲なドMが控えめなわけがない。
付き合って下さいというお願いは止めよう。
俺のような業が深すぎる人間は、何処かで自分でブレーキをかけないと欲張りに拍車がかかってしまい、あれが欲しいこれが欲しいと迷惑をかけるに決まってる。
今はただ。
とにかく。
あの人がとても好きだ。



そして週末。
朝9時。
寮の一階に入っている大手のスーパーでチョコレートの材料を揃えるため、エントランスのソファーで犬飼と待ち合わせている。
週末の寮のスーパーは、昼になると買い物をする寮生で混雑するため早めの集合時間になった。
それでも、だんだんと人が増えてくる。
犬飼に許可を得て叶羽を誘ってみたが人混みが苦手だからと、買い物には不参加。
犬飼の部屋でチョコレートを作る時は来てくれるらしい。
暫く待っていると周囲がざわつき始める。
エレベーターを降りた怠そうな人が、こちらに歩いてくる。
ペッタペッタと足音がしてきた。


「くそ寝みぃ。くそ寒ぃ。」


くあっと欠伸をする。
ダルダルなジャージとサンダル。
ボサボサの頭とショボショボの目。
そんな出で立ちで登場した狂犬姫に皆驚いているようだ。
犬飼はとにかく朝が弱い。
とくに休日の前夜は夜更かしするため、こうなるそうだ。
以前この状態の犬飼を見かけた時は、半分寝てる状態でもっと酷かった。
今日は喋れているため、まだマシな方だ。


「顔洗った…歯も磨いた。褒め称えろ。」
「え、凄い頑張ったね。奇跡じゃん。」
「お前は朝から小綺麗にしてんな。」
「え、俺も寝起きだよ。着替えて手櫛で髪直しただけ。」
「嫌味かよ。黙れよ。」
「なんで!?」
「うるせぇ。」


スーパーに行くためにはエントランスを横切り管理人窓口の前を通るのだが、犬飼がニヤニヤして俺を見るため、寄らないよ!と強がって素通りした。
それに朝日さんに会ったら、チョコを渡す前に好きだと口走りそうになるだろう。
今は我慢して、ちゃんと準備して、きちんと場を整えて気持ちを伝えよう。
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