細胞がはじけた時が噛み頃です。

三角

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純正な涙に触れる

障りあり

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二人で喋りながらテレビなどをみていたら、あっという間に昼前。
何か作るかと叶羽がキッチンで冷蔵庫を漁っている時、カタンと玄関の郵便受け口に何か投函された音がした。

見てみると手のひらに収まる位の薄めの小さな箱だ。
なんだろう?
包装もされていない、ただの箱。
何も深く考えずに箱を開けた。

開けると、ツンと漂う異臭。


「くさっ…なにっ…」



箱の中身は、まだ時間が経っていないだろう、ドロドロの精液まみれのゴミだった。


「ぇ…」

あまりの事に絶句する。


「どうした?」


キッチンから叶羽が此方にくる。
だめだ!


「叶羽ちゃん、こっち来たら駄目!」
「なんだ?……ッ!?」


遅かった。
叶羽が箱の中身と臭いに気付く。
顔が真っ青になった叶羽はトイレに駆け込み、盛大に吐いた。

人に触られるのが苦手な叶羽の背中を摩るのは逆効果かもしれない。
それでも背中を摩った。
どうしたらいいか分からなかったから。

何度か吐いた叶羽は力尽きたようにトイレの床に座り込んで、陽太ごめんって言って、そのまま気を失った。

どうしよう
どうしよう
どうしよう

気づいたら朝日さんに電話していた。


「どうした?熱下がったか?」
「朝日さん、叶羽ちゃんがっ」

動揺していて、うまく話せない。

「今、陽太の部屋か?」

察したのだろう、落ち着かせるように、ゆっくり話しかけてくれる。


「うんっ…」
「すぐ行く。電話切るなよ。」
「うんっ」
「大丈夫だ。もう向かってる。」
「うん、」
「もう直ぐだから。大丈夫。」
「うん。」


声かけを繰り返してくれる。
頷きだけの返事を繰り返していたら、本当にすぐに来てくれた。


「叶羽ちゃんが吐いて、そのままっ」


トイレで座り込んで気を失ったままの叶羽を確認する。


「息はしてる…陽太、鬼束に連絡出来るか?」
「出来る。」


なんとか電話で鬼束先生を呼んだ。
そうだよ、なんですぐに鬼束先生を呼ばなかったんだろう。
俺は馬鹿だ。
鬼束先生がくるまでに、叶羽をリビングに移動させて寝かせた。


「意識は無いが呼吸は出来てるし、大丈夫だ。」
「うん…っ…」


涙が溢れそうになる。
叶羽の口を綺麗に拭く。
吐いた物で汚れた服を拭う。
叶羽の顔は真っ青だ。
何も出来ない自分に腹が立ち、唇を噛んだ。
俺が泣いている場合じゃない。
血が出そうになるくらい唇を噛んで、どうにか涙を引っ込めた。



その後、走って来たのだろう息を切らせた鬼束先生が叶羽ちゃんを見てくれた。


「熱は無い。吐瀉物も詰まってない。血圧も大丈夫だ。脈が少し早いが、これはいつもの事だからな…。おそらく心因性のショックだろう。自己防衛で気を失っただけだ。…叶羽がこうなるような事があったな?」
「うん。…これ。」


鬼束先生に例の箱を見せ、説明した。
朝日さんには鬼束先生を待っている間に説明済みだ。


「なるほど。こりゃあ叶羽の傷口に塩塗るみたいなもんだな。倒れてもおかしくないな。」
「うん…。」


昔トラウマになるような事があり、今回それを思い出したからショックを受けたんだと思う。
鬼束先生は叶羽の事情を知っている。
朝日は知らないが察してくれているのだろう、事情を深くは聞いてこない。

それにしても。
精液まみれのゴミなんて、俺が見ても気持ちが悪い。吐きそう。


「なんで、こんなもの…」
「嫌がらせだろうな。陽太を狙ったのか、佐野を狙ったのか。」
「どっちしろ質が悪い。俺は萱島に報告しに行ってくる。叶羽は大丈夫だから、ゆっくり寝かせてやれ。そのうち起きる。起きたら明日保健室に来いと伝えてくれ。」
「うん、分かった。鬼束先生ありがとう。」


先生はついでに俺の風邪の診察までしてくれて、喉の腫れも引いて熱も無いから、ぶり返さないようにと注意して出て行った。

気持ちの悪い箱は臭いが嫌でジッパー付きのビニール袋に入れた。
叶羽はベッドに寝せたが、顔色は戻らず、少し額に冷や汗をかいている。

悔しい。
なんで叶羽ちゃんが、こんな目に。
なんで。

「…このゴミ、おみくじだな。」

え?
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