細胞がはじけた時が噛み頃です。

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始まりの新学期

風邪の僥倖

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「はー…だる…」

歩いてるうちに怠さが増していた。
身体が発熱し目の奥まで熱い。
なんとか寮に戻ってきた。
鬼束先生が出してくれた処方箋を寮の管理人に渡すと、代理で学園近くの薬局に薬を取って来てくれるようになっている。
管理人窓口で朝日を呼んだら、すぐに来てくれた。

「さっき鬼束から電話きてな。待ってた。風邪だってな。」
「はい。なのでコレお願いします。スミマセン、仕事増やしてしまって。」

処方箋を渡し軽く一礼する。
顔を上げたら、おでこを触られた。


「…結構熱いな。後で部屋に薬持っていくから。そのときに何か他に要るもの無いか?」
「ううん、大丈夫。」


っびっくりしたぁ。
おでこに朝日の手が。
ちょっと冷たくて気持ちが良い。
でも一気に心拍数上がって苦しい。


「とりあえず、ゆっくり休めよ。」
「はい。」


頭をポンポンされた。
思わぬ形で願い事が叶う。
神様ありがとう。
頭を撫でてもらえた事が嬉しく、熱で働いていない頭が、よりポワンとして機能を止めている。

がしゃん

後ろで何かが倒れた音がした。
見やるとエントランスのソファー近くにある植木鉢が倒れて割れている。
勝手に倒れたのかな。

「割れてる…」
「俺が後で直しておくよ。それより、陽太は早く帰りな。」
「はい。それじゃあ。宜しくお願いします。」

夢心地でその場を去り自室に帰ってきた。
重い身体を無理やり動かし、制服を脱いで部屋着に着替える。
吐き出す息が熱い。

「さむ…あつ…」

ベッドに潜り込んだが、寒いのか暑いのか分からない。
節々が痛い。
これは熱が上がったな…
計って確かめたいが体温計を持っていない。

「寝れない…」

とりあえず寝ようと試みたけれど、節々の痛さで寝付けない。
見舞いに来てくれるという旨の叶羽からのメールに返信していた時だった。
インターホンが鳴る。
モニターには朝日が映っている。
おそらく薬を届けに来てくれたのだろう。
玄関を開け、出迎える。


「スミマセン、ありがとうございます。」
「あとはコレも。」
「え?」


渡されたのはビニール袋。
中にはペットボトルとかアイスとかゼリーとか、たくさん入っている。


「うわ、たくさん。」
「陽太の好みが分からなくてな。無駄に量多くて悪いな。」
「いえ、助かります、嬉しいです。」
「良かった。じゃあ、何かあったら遠慮なく連絡くれな。」


そう言って熱が上がるといけないからと、すぐ帰ってしまった。
たくさん入ったビニール袋に彼なりの気遣いが詰まっているように感じられ、とても嬉しかった。

ほぼ入れ違いに叶羽が心配そうな顔をして来てくれた。
部屋に招き入れ、お茶でも飲むかなと準備しようとしたら叱られる。


「いいから寝てろ。」
「うん、ごめんねー。」
「なにも悪い事してないから謝んな。」
「うん、ありがとう。」
「熱は?少しは下がったか?…このビニール袋の中身は冷蔵庫に入れて良いのか?」
「うん、助かる。熱はね、俺、体温計持ってないから分かんない。」
「まじか、体温計無いのか。後で部屋から俺の持ってくるわ。」
「え、いいの?ありがとう。」

袋の中身を冷蔵庫と冷凍庫に入れて、叶羽がベッドの側に来てくれる。
ペットボトルを持ってきてくれたようだ。
枕元に置いてくれた。

「ありがと。」
「あれ、陽太が買ってきたのか?陽太ゼリーあんま買わんよな?」
「朝日さんがねー、薬のついでに持ってきてくれた。」
「ああ、そう言いえば、ここ来る時すれ違ったな。」
「優しいよねー。朝日さんに頭ポンポンして貰えたし叶羽ちゃんも来てくれたし、たまには風邪も良いかも…」

思わず鼻の下が伸びる。
馬鹿言ってないで寝ろと笑われた。
叶羽は、自分の体温計を部屋から持ってきてくれたり、後でこれ食べろよと卵入りお粥を作ったり。
甲斐甲斐しく看病してくれ「絶対噛んだりするなよ。」と鬼束先生と同じような事を言って帰っていった。
正直身体が怠くてどころではない。
信用ないなあ…とちょっと笑えた。


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