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始まりの新学期
カワウソの縫いぐるみ
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「お帰りお帰りお帰り!」
「尻尾が見える。犬になったん?」
「そうだよっ、もう犬でいいよー。寂しかった!」
明日を始業式に控えた今日、叶羽が帰省から戻ってきた。
寮の入り口で待ち構えて叶羽が幾つか抱えている大きな荷物のうち1つを手伝う。
帰省から戻ったら管理人に報告し、窓口にある専用の用紙に記入することになっているため二人で窓口を訪れた。
「こんにちは。戻りました。」
「お、佐野が帰ってきたか。陽太良かったな、寂しそうだったもんな。」
「はい~。嬉しくて犬になりそうです。」
本当は貴方の犬になりたいとは口が裂けても言えない。
今日も話せた事が嬉しい。
最近ではメールのやり取りが増え、叶羽が居ないから寂しい事を伝えると夜寝る時間帯に動物の動画などを送ってくれる。
めっちゃ優しくない?
この人絶対Sじゃなくない?
むしろMっぽくない?
ねぇ、どう思う皆さん。
「今度陽太と一緒にちょっと遅い初詣行くんですけど、朝日さんは今年は彼女と初詣ですか?」
叶羽が用紙に記入しながら、しれっと問いかける。
叶羽と初詣に行く予定は立てていない。
匠だ!恋の匠!
この前、朝日さんに恋人居るのか気になるけど聞けないからカワウソの縫いぐるみ相手に練習してるってメールした事を気にしてくれていたのだろう。
「初詣か。俺は彼女居ないし、この前ジョギングがてら近所で済ませたよ。」
「そうなんすね。彼女居そうなのに。」
「まあ、そういうのは暫くは要らないな。」
途端に萎れる心の尻尾。
表面上平気な顔を作って心の尻尾はしょぼくれる。
用紙の記入が終わり、その場を離れた。
荷物を叶羽の部屋に運び入れ、そのまま当然のごとく居座る。
「暫くいいって言ってたね。」
「なんか余計な事聞いてごめん。」
「ううん、むしろありがとう。もうカワウソに向かって練習しなくて済むよ。」
「それな。想像した絵面が、あんまりにも切な過ぎてさ。もう、どうにか俺が代わりに聞いてやろうって思って。失敗したけど。」
「いやいや、失敗じゃないよ、恋人居ないのは分かったし!」
本当にありがとう。
それにしても。
暫くっていつまでの事だろう。
まあまあ、暫く、曖昧な表現が多すぎる。
難易度が高くて分からない。
「拙者もう、あの人の事は分からぬ!まあまあとか暫くとか、分からぬ!」
「落ち着けよ。」
「うぬ…これが落ち着いていられようか。」
「…じゃあ、マジで明日学校終わった後にでも初詣行くか?おみくじ引こう。」
「行く行く!!!やったー!!あ、今さらだけど、明けましておめでとう!!」
新年を迎えたからといって劇的に何か変わるわけではない。
俺の不安定な欲望の問題も変わらないし、叶羽も辛い帰省だっただろう。
こうやって自分達で自分達を奮い立たせて、日々をどうにか過ごす。
変わらない楽しい毎日がまたやってくる。
「尻尾が見える。犬になったん?」
「そうだよっ、もう犬でいいよー。寂しかった!」
明日を始業式に控えた今日、叶羽が帰省から戻ってきた。
寮の入り口で待ち構えて叶羽が幾つか抱えている大きな荷物のうち1つを手伝う。
帰省から戻ったら管理人に報告し、窓口にある専用の用紙に記入することになっているため二人で窓口を訪れた。
「こんにちは。戻りました。」
「お、佐野が帰ってきたか。陽太良かったな、寂しそうだったもんな。」
「はい~。嬉しくて犬になりそうです。」
本当は貴方の犬になりたいとは口が裂けても言えない。
今日も話せた事が嬉しい。
最近ではメールのやり取りが増え、叶羽が居ないから寂しい事を伝えると夜寝る時間帯に動物の動画などを送ってくれる。
めっちゃ優しくない?
この人絶対Sじゃなくない?
むしろMっぽくない?
ねぇ、どう思う皆さん。
「今度陽太と一緒にちょっと遅い初詣行くんですけど、朝日さんは今年は彼女と初詣ですか?」
叶羽が用紙に記入しながら、しれっと問いかける。
叶羽と初詣に行く予定は立てていない。
匠だ!恋の匠!
この前、朝日さんに恋人居るのか気になるけど聞けないからカワウソの縫いぐるみ相手に練習してるってメールした事を気にしてくれていたのだろう。
「初詣か。俺は彼女居ないし、この前ジョギングがてら近所で済ませたよ。」
「そうなんすね。彼女居そうなのに。」
「まあ、そういうのは暫くは要らないな。」
途端に萎れる心の尻尾。
表面上平気な顔を作って心の尻尾はしょぼくれる。
用紙の記入が終わり、その場を離れた。
荷物を叶羽の部屋に運び入れ、そのまま当然のごとく居座る。
「暫くいいって言ってたね。」
「なんか余計な事聞いてごめん。」
「ううん、むしろありがとう。もうカワウソに向かって練習しなくて済むよ。」
「それな。想像した絵面が、あんまりにも切な過ぎてさ。もう、どうにか俺が代わりに聞いてやろうって思って。失敗したけど。」
「いやいや、失敗じゃないよ、恋人居ないのは分かったし!」
本当にありがとう。
それにしても。
暫くっていつまでの事だろう。
まあまあ、暫く、曖昧な表現が多すぎる。
難易度が高くて分からない。
「拙者もう、あの人の事は分からぬ!まあまあとか暫くとか、分からぬ!」
「落ち着けよ。」
「うぬ…これが落ち着いていられようか。」
「…じゃあ、マジで明日学校終わった後にでも初詣行くか?おみくじ引こう。」
「行く行く!!!やったー!!あ、今さらだけど、明けましておめでとう!!」
新年を迎えたからといって劇的に何か変わるわけではない。
俺の不安定な欲望の問題も変わらないし、叶羽も辛い帰省だっただろう。
こうやって自分達で自分達を奮い立たせて、日々をどうにか過ごす。
変わらない楽しい毎日がまたやってくる。
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