細胞がはじけた時が噛み頃です。

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初恋

恋ばな

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なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
答えはひとつ。
ダッシュで部室にきた。
激しい息切れを隠さずにソファに突っ伏す。
心配そうに叶羽が声をかけ頭を撫でてくれる。


「よーた、どした?なんかあったか?」


気遣う優しい叶羽の声に、また泣いてしまいそうだ。
もう無理だ、衝撃が凄すぎて一人では処理しきれない。
今しがた自覚したことを、この親友に報告しよう。


「恋に落ちた。」
「え?」

撫でてくれていた手が止まる。
顔を上げてソファに座りなおすと、驚愕の表情を浮かべた叶羽が俺を見ている。


「俺、朝日さんが好きみたい。」
「まじか。」
「まじです。」
「初恋もまだだったのに?」
「だから、さっき、ついさっき、恋に落ちたんだよお!」


悲鳴をあげるような声で、恋に落ちたと訴えたのだった。






赤い実はじけた。
初恋の瞬間をそのように比喩している本を読んだことがある。
爽やかで瑞々しく、どこかもどかしい。
そんな甘酸っぱさを想像させるその表現に惹き付けられ憧れたのを覚えている。
だが自らの初恋は、そんな爽快さとはかけ離れたものだった。
もっと激しくて頭も身体もおかしくなってしまうような、そんな初恋だと誰が予想出来ただろう。


「おめでとう?でいいんだよな。良かったな。とりあえず紅茶飲んで落ち着け。」


事のあらましを聞き状況を理解した叶羽は、変にからかう事もなく冷静に受け止めてくれた。
興奮気味に捲し立て話した内容は、おそらく支離滅裂だったに違いない。
少し渋みが強めの熱い紅茶を一口飲んだら、なんだか急に申し訳なさと恥ずかしさに襲われる。
冷静な人の側に居ると自分も冷静になれるようだ。
一人で恋愛ハイに陥って空回りする愚かな事態にはならずに済んだ。


「はあ、ちょっと落ち着いた。」
「スゴい勢いで話してたな。」
「うん。今めっちゃ恥ずかしい。ごめんよ。」
「これからどうするんだ?」
「そうだなあ。どうしたらいいのかなあ。」
「陽太が、朝日さんと、どうなりたいかによるだろうな。」


どうなりたいか。
考えれば考えるほど欲ばかりが出てくる。
もっと話してみたい。
もっと色々知りたい。
出来る事なら付き合いたい。
付き合うために、気持ちを伝えたい。
告白しないといけない。
そして恋人になりたい。
俺を特別にして欲しい。
あわよくば酷いこともしてほしい。
なんかもう。
欲ばかりだ。
こういう思考の自分が恥ずかしい。
普段から噛まれたい酷いことされたいとか、もっとずっと卑猥で恥ずかしい事を考えているような人間のくせに。
今は脳内で「恋人」という単語を思い浮かべるだけで恥ずかしい。
全身が痒くなる。
恋をすると感情が忙しい事を思いしる。

「頑張って告白は出来たとして…そのあとドMな事も言ったら引かれるかなあ。」
「あー…。安易に大丈夫だろって言えない問題だな。」
「そうだよね。なんで俺ドMなんだろう。」

このような性癖に辿り着いた原因は明確に分かっている。
自分ではどうしようもない避けようのない事だった。
幼い自分を守るためには、保つためには、しょうがない事だった。
それでも何故避けられなかったのかと後悔する。


「まあ、それより前にフラれる可能性もあるもんな。」
「怖っ。うう、想像しただけで泣ける。」


結局その日は、出来る事を頑張って駄目だった時は部室でクッキーパーティーしようという話で落ち着いた。
まさか庶務部で恋ばなをする日がくるとは、人生何があるか分からないものだ。




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