細胞がはじけた時が噛み頃です。

三角

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初恋

弾け飛んだ細胞

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「あのっ…俺、俺は、俺…」


新手のオレオレ詐欺ですか。
やっと喋ったと思ったらオレオレ繰り返すばかりだ。
しかもオレオレ繰り返すたびに手首に力が入り、より痛い。
ギリギリと骨が軋み圧迫されて激痛が走る。
痛いのは好きだけど、知らない人からの、こういった理不尽な痛みは本当に苦手だ。
痛すぎて泣きそう。


「俺だって、いや、あの…俺の方が!」
「ぃっ…っ」


あ、無理だ。
泣きそう。
嫌だ泣きたくない。
ふぇっと顔が歪むのが分かった。
もう泣く。


「陽太。どうした?」


声の主が乱暴な手を退かしてくれた。
朝日だ。
痛みで麻痺した頭で、どうして此処にいるのだろうかと不思議に思ったが、どうやら書類を何処かに持っていく途中のようだと理解した。
左の脇に書類の束を抱えている。


「お前っ…邪魔しやがって…」


坊主の人は震えていた。


「俺だって…俺だってクリスマスデートしたかったんだよ!!俺の堕天使を奪いやがって!ばーか!!今に見てろ!」


涙目で朝日を睨み付け、そう吐き捨てて走り去っていく。
いったい何だったんだ。
痛みから解放された手首は痺れていて力が入らない。
痛さで頭がボンヤリしていたが手首が暖かいものに包まれたと気付いて覚醒した。
朝日が優しく様子を伺うように手首を撫でてくる。


「あいつ多分お前のファンだな。昨日の事が学校中に広まって、デートだったとデマが回ってるらしい。…手首大丈夫か?」
「あ、大丈夫、です。ちょっとだけ痛かったのと、ビックリしただけで…ぜんぜん、へいき。」


撫でられる感触に対する動揺と、カーディガンと包帯で隠れてはいるものの噛み痕がバレてしまいそうな恐怖で少し声が震えた。


「泣きそうだったのに?」


涙が溜まってると目尻を親指で拭われ、手首は優しく、そろりと摩られる。
触られた所に広がる甘く深い痺れ。
身体が震えそうになるのを必死に我慢するが、出来ているかは、もう自分では分からない。


「陽太。本当に、大丈夫なのか?」


真意を確かめるような鋭い目線から逃れたい。
腹底の奥の何かが沸騰しているように熱い。
心臓が跳んで何処かに行きそうだ。
脈をうつ全身に力が入りすぎて息が出来ない。
目線が絡む。



身体中の細胞が弾け飛んで血液を駆け巡った。



「だ、だだ大丈夫です!助けてくれてありがとうございました!ではこれにてサヨウナラ!ばいばい!」


言い逃げダッシュという姑息な手段しか浮かば無かった。
動揺して変な事を口走っていたような気がするが、どうか聞き流していて欲しいと願う。



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