細胞がはじけた時が噛み頃です。

三角

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初恋

痛み

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「疲れたっ」


横になったベッドがギシッと悲鳴をあげる。
寮の自室に帰ってきた。
帰りの車内では直ぐに寝てしまい起きたらもう学園の駐車場だった。
運転してもらったのに隣で寝るという大変失礼な事をしてしまったので、物凄く謝って帰ってきた。
今日は本当に助かった。
朝日には今度何かお礼をしたい。


「楽しかったなあ。」


ふと腕が疼く。
最悪だ。
まただ。
人に優しくしてもらうと足りなくなる。
最低だ。
ただ、もう、早く痛みが欲しい。
もう無理だ。
乱暴に包帯をほどく。
噛みたい。


「っう…んぐ…いたい…んっ…ふぅ…ん、ん」


皮膚が抉れるくらいに強く噛む。
痛みが頭と身体を巡って、ぼぅっとしてくる。
噛んだ所に血が集まり熱を発する。
自分が生きている事を実感出来る。
もっと欲しい。
ガブリと身体中を噛んで支配して欲しい。
もっと痛くして。


「いっ…んぅぅ…ぁ…ぃたぁ…」


何度も噛む。
噛みやすい手首を中心に噛む。
何度も何度も噛む。
頭の隅に追いやられた理性が止めろと言ってくるが、やめられない。


「なんで…ぜんぜん、たりないや…」


呼吸も鼓動も早い。
吐き出す息は熱い。
腕の痛みは脈打っている。
久しぶりに、たくさん噛んだのに。
高まった自分の熱い物も一緒に処理してみたが、達することさえ出来ない。
もどかしさと虚しさに涙が滲んだ。
歪んだ欲情が憎い。
なんて愚かで醜い自分。
腕には鬱血した歯形が有り得ないほど追加されている。


「あー明日が怖いなあ…」












「この馬鹿野郎。いや、大馬鹿野郎だな。信じられんくらいの馬鹿。」


怖い。顔が怖すぎて泣きそう。
次の日噛みすぎたと保健室で謝ったら、治療中に鬼束先生にしこたま叱られた。
そりゃそうだ。
昨日行き場のない欲をぶつけた腕は、酷い状態になってしまっていた。
特に集中的に噛んだ手首は広い範囲で真紫に変色している。
どうやら昨日朝日と出掛けた事は学校中に広まっているらしく、鬼束先生の耳にも入っていたようで。


「昨日朝日と出掛けたらしいな?」
「はい、楽しかったです。」
「そうか。楽しくてテンション上がったから噛みすぎたのか?」
「うーん…優しさに当てられたというか、なんというか…」


我ながらハッキリしない答え。
でも自分でも良く分かってないのだから、答えようがない。
大きめな溜め息を吐き出した鬼束先生に明日も明後日も明明後日も来いと念を押されて、保健室を出る。
確かに大馬鹿野郎だなあ。
鬼束先生に言われたことを噛み締める。


「困ったなあ。」


酷く噛み過ぎた事を叶羽にどう説明したらよいか。
部室に向かうため廊下を歩いていたら背後から手首を物凄い勢いで掴まれた。
噛みすぎて痛めている手首を、大きな手で力いっぱい掴まれている。


「痛っ…」


びっくりした。何事か。
掴んでいる大きな手の主は全く面識の無い知らない坊主の人だった。
ユニホームを着ている。
野球部だろう。
え、誰ですか?
あまりに突然の事で声も出ない。
坊主の人も喋らない。
ギリギリと握られる手首が痛い。
いったいなんなんだ。この状況。


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