細胞がはじけた時が噛み頃です。

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夜のカフェテラス

姫の気まぐれ

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その人を形容するならば、狼だろう。
背が高く凛々しい目。
固めの髪質が更に狼を連想させる。
ただ、印象とは裏腹に声はとても穏やかで、ありがとうと笑って出来た目尻の皺は人の良さを表している。
ブルーのストライプシャツにジーンズというラフな格好はどう見ても生徒ではない。
この学園の用務員兼、寮の管理人の朝日克己。
確か、そんな名前だったはずだ。
借りていた専門書を返しに来たらしい。
サンタクロースを作るのに夢中な犬飼の代わりに返却手続きを行う。
貸し出しカードの記録を見る限り彼は第二図書室の常連のようだ。
今返却されたのは脳と精神という分厚い本。
難しい本を読む人なのだなと感心しつつ、力作のポツポツ髭サンタを見つけて神妙な顔になっている朝日に貸し出しカードを返す。


「はい、どうぞ。」
「可愛いサンタだな。」
「ワイルドサンタです!」

ドヤッてみたら我慢できなかったのか目尻をクシャと寄せ笑われた。
朝日がいつも寮の窓口に居るのは知っていたが、行く機会が無かったので話をしたことはない。
噂ではとても面倒見の良い優しい人だと聞いていたが、どうやら間違いではなさそうだ。


「あ、そうだ。陽太、朝日さんと行けば?」
「どこに?」
「あほ。ゴッホ展だよゴッホ展。」
「え?いや、それはちょっと。急過ぎて申し訳ないよ。」
「俺には急に声かけて来たくせに?」
「犬飼君はいいの!友達だから!」


作業に集中していた犬飼が口を開いたかと思えば、そんな事を言ってきた。
名指しされた朝日は不思議そうな顔をしてる。
ほぼ初対面と言ってもいい人に、そんな急用は頼めないだろう。


「朝日さん、今週末陽太とゴッホ展一緒に行ってやってよ。こいつ友達居なくて1人で行こうとしてんだ。かわいそうに。」


友達二人は居るからね。
声を大にして弁解したいが、余計傷付きそうなためグッと我慢する。
申し訳ないと言ってもおきながら、もし朝日が一緒に行ってくれるのなら助かる。
先生の大事なチケットを無駄にしたくない。


「ゴッホ展?」
「あ、はい、チケット二枚貰って。今週末までだから行きたいなあって。犬飼君誘ったんですけど、用事あるみたいで。」
「今週末か…。」


朝日さんが、ちょっと思慮している。
やはり急過ぎただろうか。


「俺は構わないけど、クリスマスなのに俺と一緒で大丈夫?」
「大丈夫どころじゃないです!ありがたいです。むしろ、こちらこそ大事なクリスマス俺と一緒で申し訳ありませんって感じです。」

人気者のチャラふわ堕天使が言うと嫌味でしかないと犬飼に揶揄されたが、聞こえないふりをした。
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