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夜のカフェテラス
哀愁チケット
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「これ、やる」
萱島先生から差し出されたのは二枚のチケット。
受け取って見てみると有名なゴッホの自画像が印刷されており、最近話題のゴッホ展のチケットのようだと分かる。
やるよとの事だが、これは萱島先生が行く予定の物ではなかっただろうか。
数日前に、有名な【夜のカフェテラス】が日本で見れるぞ、と先生が珍しくテンションを上げて嬉しそうにしていたのを覚えている。
しかも二枚あるのだから、誰かと一緒に行く予定だったのだろう。
「今週末までなのに行けなくなった。仕事で。」
疲れた顔で一言告げて、炬燵のテーブルに突っ伏す先生からは落胆の色が伺える。
あんなに楽しみにしていたのに。
忙しい日々の心の拠り所だったに違いない。
なんて世界は理不尽なんだ。
可哀想過ぎて、何も言えない。
いつも以上にくたびれている萱島先生を見て、社会人って大変だなあと実感する。
叶羽が丁寧に剥いた蜜柑を「食え。」と先生に渡し、それを貪った先生は沁みるわーと味わった。
「叶羽は人混み苦手だから行かねぇだろ?だから陽太にやるよ。好きだろ、そういうの。」
確かに絵を見たりするのは好きだが、本当に良いのだろうか。
「これ…先生が大事にしてたチケットなのに。誰かと一緒に行く予定だったんでしょ?」
「まあな、でも、どうせ俺も連れも行けずに紙切れになるだけだ。」
それでも、なんだか申し訳ない。
少し皺の入ったチケットは、先生のくたびれ感と相まって妙な哀愁に溢れているように感じられた。
本当に貰っても良いのだろうか。
叶羽を見ると貰っとけと目で合図される。
「ええっと、それじゃあ、いただきます。ありがとうございます。先生の分まで楽しんできます。」
「ああ、そうしてくれ。感想教えてくれよ。」
萱島先生はヨロヨロと炬燵を出て部室をフラフラ後にした。
その背中のなんと痛ましい事か。
これは先生の大事なチケットだったのに。
手の中の二枚のチケットが非常に重く感じる。
責任持って、しっかり見て、しっかり感想を伝えないといけない。
「陽太、もう一枚どうすんの?」
「…っ!!!」
炬燵に入っている筈なのに、纏う空気が一瞬凍った。
衝撃を受けた俺の顔はさぞ悲壮感に溢れているだろう。
そうだ、俺って結構ぼっちの人だった。
クラスからは浮いているため仲の良い人は居ない。
「申し訳ないけど俺は人混みは無理だ、ごめん。」
「それは良いんだよ!全然!こっちこそ友達少なくてごめん。」
申し訳なさそうに謝る叶羽に要らぬ心配をかけたくない。
強がって口から出た友達少ない発言が自分を傷つけた。
心配しないで誰かと一緒に行くからと意気込んだはいいが、思い当たる人が今のところ1人しか居ない。
むしろ1人は居て良かった。本当に。
「犬飼君を誘ってみるよ。」
「あーなるほど、いいかもな。委員会が同じなんだっけ?」
「そう。多分、絵とか好きだと思う。」
同じ図書委員会の友人、犬飼とは入学当初から仲が良い。
はずだ。
だめだ自信がなくなってきた。
とにかく誘ってみないことには始まらない。
なんとしても、この哀愁チケットを使って先生の分まで楽しまないといけないのだから。
萱島先生から差し出されたのは二枚のチケット。
受け取って見てみると有名なゴッホの自画像が印刷されており、最近話題のゴッホ展のチケットのようだと分かる。
やるよとの事だが、これは萱島先生が行く予定の物ではなかっただろうか。
数日前に、有名な【夜のカフェテラス】が日本で見れるぞ、と先生が珍しくテンションを上げて嬉しそうにしていたのを覚えている。
しかも二枚あるのだから、誰かと一緒に行く予定だったのだろう。
「今週末までなのに行けなくなった。仕事で。」
疲れた顔で一言告げて、炬燵のテーブルに突っ伏す先生からは落胆の色が伺える。
あんなに楽しみにしていたのに。
忙しい日々の心の拠り所だったに違いない。
なんて世界は理不尽なんだ。
可哀想過ぎて、何も言えない。
いつも以上にくたびれている萱島先生を見て、社会人って大変だなあと実感する。
叶羽が丁寧に剥いた蜜柑を「食え。」と先生に渡し、それを貪った先生は沁みるわーと味わった。
「叶羽は人混み苦手だから行かねぇだろ?だから陽太にやるよ。好きだろ、そういうの。」
確かに絵を見たりするのは好きだが、本当に良いのだろうか。
「これ…先生が大事にしてたチケットなのに。誰かと一緒に行く予定だったんでしょ?」
「まあな、でも、どうせ俺も連れも行けずに紙切れになるだけだ。」
それでも、なんだか申し訳ない。
少し皺の入ったチケットは、先生のくたびれ感と相まって妙な哀愁に溢れているように感じられた。
本当に貰っても良いのだろうか。
叶羽を見ると貰っとけと目で合図される。
「ええっと、それじゃあ、いただきます。ありがとうございます。先生の分まで楽しんできます。」
「ああ、そうしてくれ。感想教えてくれよ。」
萱島先生はヨロヨロと炬燵を出て部室をフラフラ後にした。
その背中のなんと痛ましい事か。
これは先生の大事なチケットだったのに。
手の中の二枚のチケットが非常に重く感じる。
責任持って、しっかり見て、しっかり感想を伝えないといけない。
「陽太、もう一枚どうすんの?」
「…っ!!!」
炬燵に入っている筈なのに、纏う空気が一瞬凍った。
衝撃を受けた俺の顔はさぞ悲壮感に溢れているだろう。
そうだ、俺って結構ぼっちの人だった。
クラスからは浮いているため仲の良い人は居ない。
「申し訳ないけど俺は人混みは無理だ、ごめん。」
「それは良いんだよ!全然!こっちこそ友達少なくてごめん。」
申し訳なさそうに謝る叶羽に要らぬ心配をかけたくない。
強がって口から出た友達少ない発言が自分を傷つけた。
心配しないで誰かと一緒に行くからと意気込んだはいいが、思い当たる人が今のところ1人しか居ない。
むしろ1人は居て良かった。本当に。
「犬飼君を誘ってみるよ。」
「あーなるほど、いいかもな。委員会が同じなんだっけ?」
「そう。多分、絵とか好きだと思う。」
同じ図書委員会の友人、犬飼とは入学当初から仲が良い。
はずだ。
だめだ自信がなくなってきた。
とにかく誘ってみないことには始まらない。
なんとしても、この哀愁チケットを使って先生の分まで楽しまないといけないのだから。
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