5 / 84
始まる
行き場の無い欲
しおりを挟む
先生の軟膏を塗る手が一瞬止まったように感じた。
伺いみると、ひどく驚いている。
当たり前だ。
自分で言うのも何だが、それなりに酷い傷が出来ていて、とても自傷だとは思えないレベルに達しているからだ。
「誰かにやられたんだろうと思っていたが、自分で噛んだのか。」
「はい。俺、被虐願望が強めみたいで。優しさも勿論欲しいんですけど同じくらい酷いこともして欲しい。そういう性癖なんです。」
初めて他人に自分の拗れに拗れた欲を打ち明ける。同時に少々吐き気を伴った。
自分の醜い部分を吐露するのは、なかなか緊張するものだ。
「だからって誰でも良いってわけじゃなくて。ちゃんと好きな人としたいんだけど、俺、初恋もまだだから当然相手も居ないし。寂しい時とか気持ちが不安定な時にムラッとしやすくて、どうしても我慢出来ないと、こう、自分で、ガブガブッと噛んじゃうんですよね…。」
「お、おぉ、そうか。」
先生が物凄く戸惑っていて、ちょっと面白い。
軟膏を塗り終わったので今度は腕に包帯を巻きつけてくれていたのだけれど、動揺してグルグル巻きつけ過ぎたのか、一旦全部解く。
気を取り直し処置を再開する頃には、俺も一気に話し過ぎたかなと恥ずかしくなっていた。
「痛みで自分を落ち着かせるのか。」
「はい。」
ふーん、と気の抜けた返事とともに、巻き直した包帯が完成する。
何を言おうか考えているのだろう、先生は静かに道具を片している。
色々考えてくれているのが伝わってくるため嫌な静寂ではない。
「医療従事者として身体大事にしろって頭ごなしに言う事は簡単なんだけどな。性癖なら、しょうがないよな。酷くならないように、ほどほどにしとけ。」
道具を片し終えた先生は、そう静かに俺に向き合った。
てっきり自分で自分を傷つけるのはやめなさいと諭されると構えていたのに。
信じられないと拒絶される覚悟もしていたのに。
しょうがないよなと肯定してくれる大人がこの世に居るのか。
やはり自分は世間知らずの子供なのだなあと自覚する。
気の抜けた間抜けな小さな声で、はい、とだけの返事になってしまった。
小さな返事に少し笑ったように見えた先生だったが、すぐさま顔を鬼に進化させるのだから、とても怖い。
相当怖い。
何度でも言う、本当に怖い。
「とりあえず、なんか傷作ったら隠さず直ぐに保健室に来る事。そんで現状、腕の状態が酷いから、明日から一週間毎日保健室来い。」
「毎日。」
「毎日だ。絶対に。」
「はい喜んで!。」
毎日は少し面倒だと顔に出ていたらしく、更に鬼に進化した顔で絶対にと念を押された。
伺いみると、ひどく驚いている。
当たり前だ。
自分で言うのも何だが、それなりに酷い傷が出来ていて、とても自傷だとは思えないレベルに達しているからだ。
「誰かにやられたんだろうと思っていたが、自分で噛んだのか。」
「はい。俺、被虐願望が強めみたいで。優しさも勿論欲しいんですけど同じくらい酷いこともして欲しい。そういう性癖なんです。」
初めて他人に自分の拗れに拗れた欲を打ち明ける。同時に少々吐き気を伴った。
自分の醜い部分を吐露するのは、なかなか緊張するものだ。
「だからって誰でも良いってわけじゃなくて。ちゃんと好きな人としたいんだけど、俺、初恋もまだだから当然相手も居ないし。寂しい時とか気持ちが不安定な時にムラッとしやすくて、どうしても我慢出来ないと、こう、自分で、ガブガブッと噛んじゃうんですよね…。」
「お、おぉ、そうか。」
先生が物凄く戸惑っていて、ちょっと面白い。
軟膏を塗り終わったので今度は腕に包帯を巻きつけてくれていたのだけれど、動揺してグルグル巻きつけ過ぎたのか、一旦全部解く。
気を取り直し処置を再開する頃には、俺も一気に話し過ぎたかなと恥ずかしくなっていた。
「痛みで自分を落ち着かせるのか。」
「はい。」
ふーん、と気の抜けた返事とともに、巻き直した包帯が完成する。
何を言おうか考えているのだろう、先生は静かに道具を片している。
色々考えてくれているのが伝わってくるため嫌な静寂ではない。
「医療従事者として身体大事にしろって頭ごなしに言う事は簡単なんだけどな。性癖なら、しょうがないよな。酷くならないように、ほどほどにしとけ。」
道具を片し終えた先生は、そう静かに俺に向き合った。
てっきり自分で自分を傷つけるのはやめなさいと諭されると構えていたのに。
信じられないと拒絶される覚悟もしていたのに。
しょうがないよなと肯定してくれる大人がこの世に居るのか。
やはり自分は世間知らずの子供なのだなあと自覚する。
気の抜けた間抜けな小さな声で、はい、とだけの返事になってしまった。
小さな返事に少し笑ったように見えた先生だったが、すぐさま顔を鬼に進化させるのだから、とても怖い。
相当怖い。
何度でも言う、本当に怖い。
「とりあえず、なんか傷作ったら隠さず直ぐに保健室に来る事。そんで現状、腕の状態が酷いから、明日から一週間毎日保健室来い。」
「毎日。」
「毎日だ。絶対に。」
「はい喜んで!。」
毎日は少し面倒だと顔に出ていたらしく、更に鬼に進化した顔で絶対にと念を押された。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる