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保健室の鬼
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目が覚めたら、鬼に顔を覗き込まれていました。
目が覚めて、頭を動かすと頬に当たる適度に冷たい枕。
どうやら此処は保健室のベッドのようだ。
保健室独特の消毒液の匂いを感じる。
エアコンが適度に効いていて涼しい。
「あーきもちー…」
身体が冷えすぎないように掛けてくれているのだろう、薄手のブランケットが体温で程よく温められていて気持ちが良い。
その心地よさに頭まで潜り込みなおす。
声を出して気がついたが、口の中が乾ききっていてカピカピになっている。
ひどく喉が渇いた。
「のどかわいたなあ。」
思いっきり平仮名発音で独り言を言ってみると、潜り込んでいる頭をタオルケット越しに軽く叩かれた。
きっと今叩いた人物は、さっき起きた時に見た物凄く顔をしかめた怖い鬼だ。そうに違いない。
何で保健室に鬼が居るのだろうか。
いや、あの鬼は、鬼のような顔つきをしている保健の先生だということは、ちゃんと分かっている。
自分の考えが、とんでもなく失礼だという事も自覚している。
それでもあの顔は鬼そのものだったと確かめるように、恐々とタオルケットから顔を出してみた。
「少し身体起こせ。飲めるか。軽い熱中症だったから水分とれ。」
鬼は身体を起こすのを手伝ってくれ、優しくコップを差し出してくれた。
「ありがとうございます。」
顔は怖いけど優しい。
鬼だけど、鬼じゃなかった。
コップには常温の水。
キラキラ揺れる水面。
こんなに水が美味しそうに見えたのは、あの夏以来だ。
口に含むと水分が身体に沁み渡る感覚が堪らない。
思わず喉を鳴らし勢いよく飲み干す。
飲んで分かったが、水ではなく経口補水液のような味がした。
もっと飲めと追加された分は、時間をかけて、ゆっくり飲み干した。
「あー生き返る。」
「そりゃあ良かったな。」
そう笑った先生は、どうやら元々強面で、顔をしかめると鬼に進化するらしいということが観察していて分かった。
俺の脈や体温や血圧を確かめ、気分悪かったら言えよと様子を見てくれる先生はとても優しい。
「細い腕だな。お前ちゃんと飯食べてんのか。」
「それなりに。けど今日は朝食べ損ねました。」
「朝は遅刻してでも食えよ馬鹿野郎が。」
「はい、すみませんでした。」
ぐうの音も出ない。その通りだ。
今朝は寝坊して何も口にせず登校した。
倒れて下さいといっているようなものだ。
反省しよう。
血圧などは問題なかったらしく、今度は腕に軟膏を塗ってくれている。
しかめた顔とは相反する優しい手つきは、慣れない保健室に緊張していた気分を落ち着かせた。
遠くで野球部が練習をしている音が聞こえ、もう放課後だという事に気が付く。
放課後に静かな保健室で手当をうけている。
何だか青春してるなあと、この状況が少しだけくすぐったい。
「先生、何でそんなに顔しかめてるんですか。」
くすぐったい空気を紛らわすように問いかけてみると先生は少し驚いた顔をして、更に顔をしかめた。
「熱中症になりかけて倒れたうえ、こんな状態になるまで保健室に来なかったお前が悪い。」
ん?
状態?何の?
問いかけるように先生の顔を見つめると、先生は今まさに軟膏を塗ってくれている俺の腕に目線を向けた。
その目線を追いかけるように、自分の腕を視界に入れる。
心臓が跳ねた。
何故今の今まで忘れていたのだろうか。
とんでもない事を思い出した。
気づいたところでもう遅い。
目が覚めて、頭を動かすと頬に当たる適度に冷たい枕。
どうやら此処は保健室のベッドのようだ。
保健室独特の消毒液の匂いを感じる。
エアコンが適度に効いていて涼しい。
「あーきもちー…」
身体が冷えすぎないように掛けてくれているのだろう、薄手のブランケットが体温で程よく温められていて気持ちが良い。
その心地よさに頭まで潜り込みなおす。
声を出して気がついたが、口の中が乾ききっていてカピカピになっている。
ひどく喉が渇いた。
「のどかわいたなあ。」
思いっきり平仮名発音で独り言を言ってみると、潜り込んでいる頭をタオルケット越しに軽く叩かれた。
きっと今叩いた人物は、さっき起きた時に見た物凄く顔をしかめた怖い鬼だ。そうに違いない。
何で保健室に鬼が居るのだろうか。
いや、あの鬼は、鬼のような顔つきをしている保健の先生だということは、ちゃんと分かっている。
自分の考えが、とんでもなく失礼だという事も自覚している。
それでもあの顔は鬼そのものだったと確かめるように、恐々とタオルケットから顔を出してみた。
「少し身体起こせ。飲めるか。軽い熱中症だったから水分とれ。」
鬼は身体を起こすのを手伝ってくれ、優しくコップを差し出してくれた。
「ありがとうございます。」
顔は怖いけど優しい。
鬼だけど、鬼じゃなかった。
コップには常温の水。
キラキラ揺れる水面。
こんなに水が美味しそうに見えたのは、あの夏以来だ。
口に含むと水分が身体に沁み渡る感覚が堪らない。
思わず喉を鳴らし勢いよく飲み干す。
飲んで分かったが、水ではなく経口補水液のような味がした。
もっと飲めと追加された分は、時間をかけて、ゆっくり飲み干した。
「あー生き返る。」
「そりゃあ良かったな。」
そう笑った先生は、どうやら元々強面で、顔をしかめると鬼に進化するらしいということが観察していて分かった。
俺の脈や体温や血圧を確かめ、気分悪かったら言えよと様子を見てくれる先生はとても優しい。
「細い腕だな。お前ちゃんと飯食べてんのか。」
「それなりに。けど今日は朝食べ損ねました。」
「朝は遅刻してでも食えよ馬鹿野郎が。」
「はい、すみませんでした。」
ぐうの音も出ない。その通りだ。
今朝は寝坊して何も口にせず登校した。
倒れて下さいといっているようなものだ。
反省しよう。
血圧などは問題なかったらしく、今度は腕に軟膏を塗ってくれている。
しかめた顔とは相反する優しい手つきは、慣れない保健室に緊張していた気分を落ち着かせた。
遠くで野球部が練習をしている音が聞こえ、もう放課後だという事に気が付く。
放課後に静かな保健室で手当をうけている。
何だか青春してるなあと、この状況が少しだけくすぐったい。
「先生、何でそんなに顔しかめてるんですか。」
くすぐったい空気を紛らわすように問いかけてみると先生は少し驚いた顔をして、更に顔をしかめた。
「熱中症になりかけて倒れたうえ、こんな状態になるまで保健室に来なかったお前が悪い。」
ん?
状態?何の?
問いかけるように先生の顔を見つめると、先生は今まさに軟膏を塗ってくれている俺の腕に目線を向けた。
その目線を追いかけるように、自分の腕を視界に入れる。
心臓が跳ねた。
何故今の今まで忘れていたのだろうか。
とんでもない事を思い出した。
気づいたところでもう遅い。
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