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(20日目)誤字報告から始まるストーカーストーリー
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僕はweb小説投稿サイトである小説を読んでいる。
もしかするといちばん熱心な読者かも知れない。
その作者は小説にあった誤字を教えて上げると、『作者の近況ノート』と言うページでお礼を言ってくれるのだが、どうやら誤字報告をしているのは僕だけだからだ。
(※web小説投稿サイトには小説の誤字を作者に報告できる機能があるところがある)
誤字報告する度に丁寧なお礼を書いてくれる。
僕はますます熱心に小説を読み込んだ――ちょっとあら探ししているようで恐縮でもあったが、誤字も目を皿のようにして探した。
そんなとき、一つの誤字を見つけた。
〈誤字〉 → 〈直し〉
秋田 → 飽きた
僕は『もしかして、この人は秋田県の人なのかな』と思った。
と言うのは、自分のスマホで試してみると、『あきた』を変換すると一番に出てくるのは『飽きた』だからだ。
『秋田』は出てこない。
だから、その人は普段から『秋田』と言う変換を良くしている人なのでは、と思ったのだ。
つまりは秋田県の人。
そのときは普通に、流した。
微笑ましい間違いではあるけど、自分も気を付けなければならないな、とも思った。
予測変換とかで、不適切な漢字などを書いてしまう可能性は自分にもあった。
――
それから、しばらく、
『秋田県の人、かもしれない』
と思いながら、その作者の小説の誤字報告をする変わらない日々を送っていたが……
また予測変換間違いで『地名』を出した感じ、の誤字があった。
僕はまた、その誤字報告をして、その後、ふと、そこまで深い考えもなく『web検索』してみた。
秋田県 〇〇(その作者が誤字で書いた地名らしき単語)
実際にあった……。
僕はその作者は秋田県の人と断定した。ほぼ。
――
その後も、地名っぽい、固有名詞っぽい誤字が続き……
僕はとうとう『彼女』の名前まで、突き止めてしまった。誤字で。
何故『彼女』と分かったか……
名前を検索すると、顔写真が見つかったのだ。
どこかの賞に入ったときの写真のようだ。
可愛い子だった。
高校名までわかった……
ツイッターも、わかった……
僕は彼女のツイッターをwatchし始めた。
とても良い子だった。
小説を読むだけで良い子だとわかっていたが、さらに好きになった。
――
ある日、ツイッターで、彼女があるイベントへ行く、と言うツイートを見て、僕もそこへ行ってみようと思った。
僕は彼女の顔を知っている。
会えるかも知れない。
声をかけるつもりはなかったが。
実際に、この目で見てみたいと思った……一度だけでも。
イベント当日。
思ったより人がいて、これは無理だな、と思った。
この中から一人の女の子に出会う。
無理に決まっている。
それで良かったのかも知れない。
声を掛けるつもりはなかったけど。
十分ストーカーだ。
これに懲りて、もう、こんなことはやめようと思った。
今の自分はおかしい。
と、そのとき……
ドン、と人にぶつかった。
「きゃ……」と言う声がする――女の子だ。
「すみません!」慌てて振り返ると……
彼女がいた。
「あ……」
あんまりビックリしたので、呆然と見つめてしまう。
彼女は訝しげに僕を見つめ返した。
「知り合い?」彼女の隣の女の子――おそらく友達――が彼女に尋ねる。
「ううん」彼女は首を振った。
「知らない人……」
僕は慌てて、不躾な視線を投げてしまったことを謝ろうと思った。
がその前に彼女は友達に言った。
「ちょっと先に、行っていて」
「う、うん……」
友達は不思議そうな顔をすると僕に一瞥をくれて、立ち去った。
謝るタイミングを逃した僕が軽くパニクっていると、彼女は僕の真ん前まで歩みを進め、
「もしかして……〇〇さん?」
僕の名前を告げた。
僕の名前――小説を読むときのハンドルネーム。
「何で……わかった……んです……か?」
挙動不審状態ながらも聞くと、
「だって」
彼女は微笑んだ。
「私のことを知っている、私が知らない人。
……で、いちばんに思い付いたのが、あなただったから」
「え……」僕はうろたえた。
「何故僕が、あなたのことを知っているとわかって……」
「誤字」彼女は僕を見つめた。
「誤字で情報を送ったでしょう?
――私の情報」
そうか。と思った。
わかっていて、やっていたのか……
「何で、そんな回りくどいことを……」
僕とリアルでも連絡を取りたいなら、他に方法があるはずだ。
「だって」彼女は微笑んだ。
「わかりにくいメッセージを受け取ってくれた方が。
ロマンチックでしょう?」
――終――
もしかするといちばん熱心な読者かも知れない。
その作者は小説にあった誤字を教えて上げると、『作者の近況ノート』と言うページでお礼を言ってくれるのだが、どうやら誤字報告をしているのは僕だけだからだ。
(※web小説投稿サイトには小説の誤字を作者に報告できる機能があるところがある)
誤字報告する度に丁寧なお礼を書いてくれる。
僕はますます熱心に小説を読み込んだ――ちょっとあら探ししているようで恐縮でもあったが、誤字も目を皿のようにして探した。
そんなとき、一つの誤字を見つけた。
〈誤字〉 → 〈直し〉
秋田 → 飽きた
僕は『もしかして、この人は秋田県の人なのかな』と思った。
と言うのは、自分のスマホで試してみると、『あきた』を変換すると一番に出てくるのは『飽きた』だからだ。
『秋田』は出てこない。
だから、その人は普段から『秋田』と言う変換を良くしている人なのでは、と思ったのだ。
つまりは秋田県の人。
そのときは普通に、流した。
微笑ましい間違いではあるけど、自分も気を付けなければならないな、とも思った。
予測変換とかで、不適切な漢字などを書いてしまう可能性は自分にもあった。
――
それから、しばらく、
『秋田県の人、かもしれない』
と思いながら、その作者の小説の誤字報告をする変わらない日々を送っていたが……
また予測変換間違いで『地名』を出した感じ、の誤字があった。
僕はまた、その誤字報告をして、その後、ふと、そこまで深い考えもなく『web検索』してみた。
秋田県 〇〇(その作者が誤字で書いた地名らしき単語)
実際にあった……。
僕はその作者は秋田県の人と断定した。ほぼ。
――
その後も、地名っぽい、固有名詞っぽい誤字が続き……
僕はとうとう『彼女』の名前まで、突き止めてしまった。誤字で。
何故『彼女』と分かったか……
名前を検索すると、顔写真が見つかったのだ。
どこかの賞に入ったときの写真のようだ。
可愛い子だった。
高校名までわかった……
ツイッターも、わかった……
僕は彼女のツイッターをwatchし始めた。
とても良い子だった。
小説を読むだけで良い子だとわかっていたが、さらに好きになった。
――
ある日、ツイッターで、彼女があるイベントへ行く、と言うツイートを見て、僕もそこへ行ってみようと思った。
僕は彼女の顔を知っている。
会えるかも知れない。
声をかけるつもりはなかったが。
実際に、この目で見てみたいと思った……一度だけでも。
イベント当日。
思ったより人がいて、これは無理だな、と思った。
この中から一人の女の子に出会う。
無理に決まっている。
それで良かったのかも知れない。
声を掛けるつもりはなかったけど。
十分ストーカーだ。
これに懲りて、もう、こんなことはやめようと思った。
今の自分はおかしい。
と、そのとき……
ドン、と人にぶつかった。
「きゃ……」と言う声がする――女の子だ。
「すみません!」慌てて振り返ると……
彼女がいた。
「あ……」
あんまりビックリしたので、呆然と見つめてしまう。
彼女は訝しげに僕を見つめ返した。
「知り合い?」彼女の隣の女の子――おそらく友達――が彼女に尋ねる。
「ううん」彼女は首を振った。
「知らない人……」
僕は慌てて、不躾な視線を投げてしまったことを謝ろうと思った。
がその前に彼女は友達に言った。
「ちょっと先に、行っていて」
「う、うん……」
友達は不思議そうな顔をすると僕に一瞥をくれて、立ち去った。
謝るタイミングを逃した僕が軽くパニクっていると、彼女は僕の真ん前まで歩みを進め、
「もしかして……〇〇さん?」
僕の名前を告げた。
僕の名前――小説を読むときのハンドルネーム。
「何で……わかった……んです……か?」
挙動不審状態ながらも聞くと、
「だって」
彼女は微笑んだ。
「私のことを知っている、私が知らない人。
……で、いちばんに思い付いたのが、あなただったから」
「え……」僕はうろたえた。
「何故僕が、あなたのことを知っているとわかって……」
「誤字」彼女は僕を見つめた。
「誤字で情報を送ったでしょう?
――私の情報」
そうか。と思った。
わかっていて、やっていたのか……
「何で、そんな回りくどいことを……」
僕とリアルでも連絡を取りたいなら、他に方法があるはずだ。
「だって」彼女は微笑んだ。
「わかりにくいメッセージを受け取ってくれた方が。
ロマンチックでしょう?」
――終――
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