殺伐とした別世界に、突如として変態なる国家が並行世界より来たる

ELDIAN

文字の大きさ
上 下
52 / 63
大陸の覇者の没落 ー辺境の地の帝国の来訪編ー

第54話:猛虎の進軍 v0.0

しおりを挟む
_ダーダネルス帝国北部、最北端属領の国境


 遅滞戦闘中の北部方面帝国軍と、突如として属領内に侵攻を開始したヴァルティーア帝国との間では、平原をまたいで熾烈な戦闘が行われている。

 「行けぇッ!行けぇッ!」

 『ウゥゥゥラァァァァァァァァァァァァッ!』

 ヴァルティーア帝国軍将校の突撃の号令で、薄い緑色のヘルメットをつけたヴァルティーア帝国兵たちは急造の塹壕から一斉に飛び出し対峙するダーダネルス帝国軍へと突っ走っていく。付近に散乱する味方兵士だったものの肉塊を踏み越え、ただただ突撃のみを敢行する。見てみれば、彼らの手にはドラムマガジン付きのサブマシンガンが握られている。

 「ま、魔導師ィッ!大規模魔法だ!それに魔導バリアも展開ッ!」

 3回目の大群衆による突撃を確認したダーダネルス帝国軍指揮官は、後方に展開する魔導師たちに魔法展開を要請する。

 「はぁ・・・はぁ・・・りょ、了解ッ!」

 疲労困憊の様子で、総勢2000名にも満たない魔導師たちは魔法の詠唱を開始する。

 「くっ!間に合わんか!」

 司令官は恐れをなさず突撃を続ける敵兵士たちに内心恐怖を覚える。すでに相手との距離は10リージ(50メートル)を切っており、このままではこの第五防衛ラインが突破されてしまうのは目に見える。そうなれば、残される最終ラインはるか後方にある城塞都市エリスのみだ。今日だけで数回にわたる戦闘をしてきた我々に、そこまで体力が持つ保証はない。

 「第一列銃兵隊!前へ!」

 指揮官は『やむなし』と言いたげな顔をすると、待機中だったマスケット銃を所持する総勢100名の第一列銃兵隊を前に出す。

 「構えェッ!」

 赤い服を身にまとった銃兵隊たちは、司令官の声とともに一斉にマスケット銃を敵兵に向けて構える。

 「___撃てェッ!」

 有効射程距離に敵が入った瞬間、司令官は銃兵隊たちに発砲の指示を出す。

 パァンッ!__パンッパンッパンッパンッ!

 銃兵隊の持つマスケット銃は発砲とともに大量の白い硝煙を排出。周囲をその硝煙が包み込む。

 「第二列、前へ!」

 過去に行われたダーダネルス=ヴァルティーア帝国戦争。その時の教訓として、銃兵隊は全員を一斉に使うのではなく、数部隊に分けて運用すると言うものが得られた。それを今、彼らは見習い、実行に移していた。

 「構えッ!」

 司令官は第一列銃兵隊を後方に退避させると、第二銃兵隊を前衛に移動さ、硝煙が晴れていない今のうちにマスケット銃を構えさせる。

 「よーし・・・いつでも撃てるように!」

 硝煙が風に乗り、視界が戻る__その時だった。

 パパパパパパパパッ!

 「ぬッ!?」

 敵の居る方向から、多数の光る矢がこちらに向かってやってくる。それはあっという間に距離を詰めると、マスケット銃を構えていた第二列銃兵隊を次々と撃ち抜いていく。

 「て、敵の装填速度は化け物かッ!?」

 第二列銃兵隊の兵たちが次々と倒れ伏していく中、司令官は驚愕の顔を隠せず、ただただ見ることしかできない。

 「ま、魔導師ッ!魔導シールド展開はまだかッ!?」

 「あ、あともう少しです!」

 魔導師は司令官からの問いに、汗水を大量に垂らして言う。

 「早く!早くするんだ!このままでは!」

 ドーン...ドーン...ドーン...

 「ッ!死の咆哮かッ!」

 死の咆哮。これが戦場に鳴り響いたあとやってくる風切り音を聞いた時、一瞬にして爆裂魔法があちこちに発生。大地を揺るがすほどの大爆発により大量の兵士たちを爆殺すると言われるものだ。今回も、この死の咆哮だけでどれだけの兵士が死んだか、想像したくもない。

 ヒュゥゥルルルルルルルルル...

 妙な風切り音が戦場にこだまする。

 「く、くるぞ!全員伏せろぉぉぉぉッ!」

 兵士たちが次々と地面に伏せる。

 _ドガァァァァンッ!ドガァァァァンッ!

 伏せたと同時に、辺り一面に次々と大爆発が発生。土砂や人間の一部が辺り一面に散らばる。

 『ウゥゥゥゥゥゥラァァァァァァァァァァァァァァッ!』

 敵兵の一部もこちらと同様に爆発に巻き込まれていたが、それを物ともせず奴らは雄叫びをあげて着々とこちらとの距離を詰めてくる。

 「ま、まずいッ!魔導師!早く魔導バリア・・・を・・・?」

 司令官が後ろを振り向く。そこに魔導師の姿はなく、残っていたのは彼らの四肢胴体であろうものと、羽織っていたローブ。そして、巨大なクレーターのみであった。

 「く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 パァァァンッ!

 まるで帝国が滅亡へと走って居るのを象徴するかのように、司令官は敵の放った凶弾により命を散らした。
 大物量と新型兵器で攻めてきた敵軍に、北部方面はなすすべなく敗退。この日だけでダーダネルス帝国の属領と化していた数にして50もの属領の内、15以上の属領が独立を果たし、ヴァルティーア帝国軍は破竹の進軍を続けるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...