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始めようか、戦争を ー敵地侵攻編ー

第52話:皇城脱出 v0.0

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 『魔女だ!』

 隊員たちは一斉に叫ぶ。彼らの目には、よく架空の物語などで目にする『箒にまたがり黒いローブを羽織った黒いとんがり帽子をかぶった魔女』そのものが、部屋の上をホバリングしている。

 「全く・・・警備部隊は何をしてるの!?」

 魔女は大声でそう言うと、胸元から数本のナイフを取り出し、投擲の構えをする。

 「__ッ!避けろォッ!」

 隊員の叫びで一斉に回避機動を取る。その直後

 __ドッガァァァンッ!

 『ッ!?』

 隊員達の立っていた赤い絨毯に、突如として巨大な爆音、爆風とともに大きなクレーターが形成される。石をそこら中に撒き散らし形成されたクレーターは、明らかに人間業では無い。

 「な、なんて威力だ!バケモンか!?」

 隊員が悲痛の叫びを言い放つ。

 「各員応射!応射しろ!今後は俺が指揮を執る!」

 隊長の次に階級の高い隊員が、苦しむ隊長を尻目に部隊の指揮権を受け継ぐ。

 『了解ッ!』

 パパパパパッ!パンッ!パンッ!

 隊員達は空を飛ぶ魔女に向けて射撃を開始。ホバリング中の魔女に命中し続ける銃弾は、確実に魔女を仕留める。

 「やったか!?」

 はずだった。

 「あらぁ・・・?少し痒いわ?」

 発砲炎が晴れた時、現れたのは全くもって無傷の魔女だ。魔女は背中をぽりぽりと手で掻くと、空中に浮遊する銃弾を一つ右手でひょいと掴む。

 「お・返・しするわねぇ!」

 魔女は右手に少し力をこめたかと思うと、一瞬で銃弾を投擲する。

 「なッ!?」

 右手から投擲された銃弾は少し滞空したかと思うと、一瞬にして超加速する。

 「い、一体ど」

 _ヒュンッ!_ドガッ!

 「ッ!?」

 臨時隊長の鼻先を何かが通過したか。そう思った瞬間、背後に立っていた隊員が『ドサッ』と言う音を立てて倒れる。

 「だ、大丈夫か!?」

 隊員がそばに立ち寄り、脈を確認する。

 「だ・・・だめだ。死んでる・・・」

 見てみれば、頭のあたりから赤い水たまりが形成されている。その時だった。

 「ば、ば、化け物めぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 すっかり影の薄くなった痩せた風体の男__アロンソ隊員が、手に何かを構える。

 「ッ!?お前!待て!それは!」

 隊員が静止するため近付く__が一足遅かった。

 __ポンッ!

 アロンソ隊員がスコープを覗き、トリガーを引いたかと思うとアロンソ隊員の持つ銃の銃口から30ミリ弾が放たれる。

 「し、し、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 ___ガッァァァァァァンッ!

 今度は突如として、魔女のすぐ近くで巨大な爆煙が発生。その爆風により隊員達は床に思いっきり叩きつけられる。

 「ぐぅっ!」

 アロンソ隊員が使った銃の名前は『PPGL--30』。セミオートでポンと30ミリグレネード弾が発射できる銃だ。レーザーレンジファインダーを使用し、指定の距離に到達すると自動で爆発する機能を持つロマン兵器だ。
 今回アロンソ隊員が使ったのは使用可能弾種の中でも最狂と使用した隊員から言われる『燃料気化弾』だ。燃料気化弾は、燃料を気化させた後着火させることにより生じる強力な爆風で敵兵を殲滅すると言うなかなかやばいコンセプトで作られた燃料気化爆弾を超小型化し、少々威力を抑えた物だ。__それでも周囲1メートルの兵士を一瞬で圧死させる性能があるので、基本使うのは屋外だ。そんなものを屋内で使おうとした__というか使ったので、隊員が制止しようとするのも当然だ。

 キィィィィィン...

 「っ・・・」

 耳鳴りがする中、臨時隊長は頭を押さえてゆっくりと腰を上げる。

 「__はっ!味方は!?味方は!?」

 ホルスターに入ったハンドガンを力強く握りしめると、顔を動かし周囲を見渡す。

 「う、うわ・・・こりゃひどい・・・」

 隊員達のいた部屋の外壁はどれもこれも無茶苦茶にされ、ステンドグラスのほとんどは粉々に割れている。爆圧で壊れたのか、天井には大きな穴が空いておりそこからほのかに差し込む太陽光がなんとも幻想的だ。

 「ってそうじゃないそうじゃない!」

 臨時隊長は腰をゆっくりとあげると、周囲にいるであろう隊員を探す。

 「おーい!いるかー?」

 周囲に転がる瓦礫を時折押しのけ、隊員の安否を確認する。

 「じ、自分はなんとか・・・」

 隊員の一人が瓦礫の山から顔を出す。

 「おぉ!よかった!」

 臨時隊長は隊員の元へ駆け寄ると、手を差し出す。

 「よっと・・・」

 臨時隊長はゆっくりと隊員を持ち上げる。

 「・・・何が起きたんですか?」

 まだまだ爆風の影響が残っているのだろうか。隊員がボケーっとした顔で臨時隊長に尋ねる。

 「アロンソの馬鹿野郎が燃料気化弾を使ったんだよ・・・!」

 臨時隊長は舌打ちすると、上にぽっかりと空いた大穴を見つめる。

 「・・・回収部隊を呼べ!この作戦は失敗だ!」

 「りょ、了解!」

 隊員は地面に落ちていた無線機を拾うと、電源が点くか確認する。

 「電源は・・・点くな」

 隊員は無線を口元に近づけると、ボタンを押して司令部につなぐ。

 「こちら第一陸戦隊__こちら第一陸戦隊。司令部、応答願う」

 しばらく待つと、司令部から返答がやってくる。

 『こちら司令部、どうぞ』

 「こちら第一陸戦隊。作戦は失敗、繰り返す。作戦は失敗。敵が今回の作戦実施を察知していた可能性がある」

 『__ッ!?了解した。一番近くにいる陽動部隊回収機を向かわせる。場所はフレアで教えてくれ』

 「感謝する」

 隊員は無線を切ると、無線機を瓦礫に放り投げる。

 「隊長、他の隊員は見つかりました?」

 隊員はフレアを焚いて風通しの良さそうなところに放り投げると、臨時隊長のいる方向を向く。

 「まぁ・・・なんとか、だがな!」

 足の骨を折った隊員を担いだ臨時隊長が言う。見てみれば、背後には瓦礫から続々と這い出る隊員達がいる。その中にはなぜか無事なアロンソ隊員や筋肉バカのバスケス隊員も混じっている。彼らは不死身なのだろうか。

 「それはよかった___それで・・・『魔女』はどうでした?」

 隊員が臨時隊長に尋ねると、『そうだそうだ思い出した』と言った顔で臨時隊長が口を開く。

 「『魔女』は・・・まぁ、死んでいたよ。丸焦げでな」

 臨時隊長の顔が険しくなる。あの至近距離で燃料気化弾をまともに食らったのだ。死んでいて当然だろう。

 「そうですか」

 パラパラパラパラパラ・・・

 遠くからやってくるティルトローター機の放つ風切り音が部屋の中にこだまする。

 「結局、作戦は失敗ですか」

 「あぁ・・・そうだな」

 臨時隊長は早期講和を持ち込めたらどれだけ良かったか、と思う。

 「長期戦は・・・ごめんだな」

 屋根にぽっかりと空いた穴の上でホバリングするティルトローター機を見て呟く。

 「ま、頑張りましょうよ」

 「そうだな」

 数分後、第一陸戦隊の生存者その亡骸。その全ての回収を終えたティルトローター機は特に追っ手に出会うこともなく高速で皇城を去って行った。
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