上 下
39 / 63
始めようか、戦争を ー敵地侵攻編ー

第41話:歓迎されぬ訪問者達(1) v0.0

しおりを挟む
_帝都南部、1キロ地点 城壁


 主に巨蟲や森に住む魑魅魍魎の魔物達を帝都に入れないために作られたここ南部城壁。数メートル近い厚さと、数十メートルもある高さが売りのここで働く警備兵はいつも何も起こらないので決まって仕事をしない。

 「・・・はぁ」

 城壁の上から森を眺める一人の警備兵もそうだ。

 「お、どうしたのさ?」

 「いやね・・・なんと言うか暇」

 「そう言うことは言わない方がいいと思うがね?」

 同僚は向こうに立つ黒いローブを羽織った人物を指差す。

 「あー・・・あいつか」

 昨日起きた帝都襲撃事件(仮)で帝都防衛施設が全滅。敵の本格的侵攻に備えてこの南部城壁には数万人が動員・即時戦闘可能の状態になっている。黒いローブを羽織った男はスパイや不穏分子の駆除のために派遣された者で、帝国に対して何か一言でも都合の悪いことを言えば理不尽にも瞬殺されてしまう。故に彼らは派遣された兵士からも、元いた警備兵達からも毛嫌いされた存在となっている。

 「せめて仕事してるよー感は出さないとな・・・」

 警備兵は長い槍を担ぐと、黒いローブを羽織った男の反対方向に向かうことにした。

 「にしてもさ、聞いたか?」

 「ん?」

 「これって噂なんだけどな・・・あの帝国さ?ここ最近やばいらしいんだよ」

 警備兵はピンときたかのような顔になる。

 「第五文明大陸統一・・・か?」

 ここ最近巷でも噂になっているヴァルティーア帝国による第五文明大陸統一計画。あくまでも噂なのでこれの出どころも信憑性もない。それでもあの帝国はダーダネルス帝国にとって点滴のような存在なので、一応国民達も警戒程度はしている。

 「そうだ。まぁ、あそこは島国みたいなもんだしきっと島国生活に飽きたんだろうなぁ・・・」

 「てことはここに増員されたのもそれが原因なのか?」

 「いや、ここに増員されたのは違う理由らしい」

 「違う理由・・・なんなんだろ・・・」

 警備兵は頭を抱えて悩む。

 パパパパパパパパパ...

 「・・・ん?」

 どこからともなく突然、奇妙な音が鳴り始める。

 「なんだなんだぁ?」

 警戒兵は目を凝らして辺りを見渡す。城壁の内側で待機している兵士たちもそれに気づいたようで、続々と壁の上に登って様子を見に来た。

 「一体なんだろうな?」

 同僚も目を凝らして辺りを見渡す。

 バババババババババ...

 「・・・あっちか!」

 徐々に音が大きくなるにつれて、南から音が出ていることが判明する。

 「うーん・・・ん?」

 警戒兵が目を凝らして南側の森を凝視すると、何か違和感を覚える。

 「あの木・・・浮いてる・・・」

 林の上に幾つかの緑色の物体が浮いている。一体なんだろう、とさらに目を凝らす。

 「・・・!?」

 徐々に近づくにつれて露わになるそのシルエット。それを見た警戒兵は、驚愕した。

 「ま、魔導師ィッ!帝都防衛部隊に報告ッ!敵、確認せりィッ!」

 警備兵の目には、低空ギリギリを常識外の速度で飛翔する何かが見えていた。なぜだかわからないが危機感を感じた警戒兵は魔導師に魔導電信で報告を行うように伝える。その時だった。

 ババババババババババババババババババッ!

 「うわぁっ!」

 城壁の上にいくつもの土埃と城壁を構成する石の欠けたものが飛散する。中にはそれに巻き込まれたのか、城壁の内側に血を撒き散らしながら落ちる者も発生した。

 「ふ、伏せろぉっ!」

 兵士の一人がとっさに叫ぶ。兵士たちはそれに呼応するかのように次々とうずくまる形で姿勢を低くした。

 ババババババババババババババババババババババババババババッ!

 その瞬間、頭上を何かが尋常ではない量通過する。

 「な、なんだったんだ...?」

 轟音がだんだん治っていくのを確認した兵士たちは顔を上げる。

 「・・・!おい、あれを見ろ!」

 兵士の一人が後ろを指差す。兵士たちは一斉に後ろを振り向く。

 「・・・ッ!」

 兵士たちの目には、土埃を舞い上げ轟音を響かせながら飛び去ったそれが一直線に帝都へと向かっていることのみが確認できた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

終末の雪崩 ~アイス・スノーボード~

名探偵プリンス
ファンタジー
何万年に1回起こるとされている、文明を全て飲み込み破壊しつくす未曾有の大災害【大雪崩】・・・ 雪山に住む民の【武器】は【雪板】だけ・・・ これは、生き残った少年たちと、大災害との対決の物語である・・・・ 【作者から】 私のTwitterで、この小説の漫画を掲載しています。 是非、立ち寄ってください。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

処理中です...