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混乱の淵に立てば ー別世界への転移編ー
第3話:政府の悩み 改稿その8
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_キスカアイランド作戦第一段階実施より約五時間後、エルディアン連邦 首都エルディアンDCでは 午後9:00
以前はアメリカ合衆国の首都、ワシントンDCとして機能した地域。世界有数の経済大国として名を上げたそこには、新たに『エルディアンDC』という、国名をそのまま移植したような首都圏が構成されていた。
ワシントンDCの保有していた地下鉄や学校と言った公共機関はそのまま流用していたが、同時に郊外には毎日のように快適な暮らしを求めて移住してくる移民受け入れのために建設された数多のマンションが乱立。
首都全体の規模はすでに中国の首都北京を軽く超え、住民は3000万を超える勢いだった。
そして、ここに住む住人たちは、今自分たちの身に起きていることを案じていた。政府から続々と寄せられる現在の国家状況よりも心配なもの。それがあったからだった。それは何かと言うと……。
_テレビで放送中のとあるニュース番組
「さて、次のニュースですが……」
ニュースキャスターの顔が一瞬曇ったかと思うと、何事もなかったかのような表情で続ける。
「私たちの見慣れた月が……『赤く発光する月』に豹変したとのことです」
_同首都、ホワイトハウスこと大統領府では
「皆様お揃いのようなので、これより第49回国家方針決定会議を行わせていただきます」
毎年3回行われることが通例となっている国家方針決定会議。『国家の方針を決める会議』と言う名前の通り、基本的に国家全体の方針を決める。この会議が行われる際には各担当大臣のほとんど、もしくは代理が出席することになっている。
今までいくつもの会議を打ち立ててきたこの会議で今回議題とされたもの。それは大きく分けて2つ。『他国との通信が取れないこと』と『突如として西部の町、ドライ市を奇襲、虐殺を行なった国籍不明軍について』だった。
「まず各担当大臣、それぞれ調査結果をご報告ください」
司会がそう言った直後、国土交通担当大臣のキリシマが手を上げる。
10年前に移民政策を本格的に稼働させるに当たっていくつかの法改正等が行われた。その一つが彼のような、東洋人であろうがどこであろうが出生国を問わない、優秀な人材をと要すると言う政策だった。もちろん愛国心があるか、と言う点は問われるがその政策を打ち出してから、国内からは優秀な政治家などが多数輩出。国力増強急務だった時代には、非常に心強い味方となりそれを裏から支えた。
「まずは国土交通担当府から。我が府が調査を実施した結果、国内の交通インフラは完全に麻痺。特に影響著しいのが航空機で、国際空港にて離陸準備、またはすでに離陸を終えた国際便も原因不明の衛星利用機器の不調を訴え、状況が確認できるまでは現状国内線の一部のみが飛行しているにとどまっています」
キリシマは『さらに、』と付け加え重々しい口調で語りを続ける。
「これは推測ですが……衛星は文字どおり『消滅』した可能性が高いです」
キリシマからの言葉に大統領も、その場に居合わせた大臣も誰もが驚愕する。
現代社会において衛星が生み出している恩恵というものは非常に大きい。GPS衛星しかり、気象衛星もしかり。どの衛星だって我々になんらかの恩恵を与えている。
約100年前に誕生したと言ってもいい技術《えいせい》は各分野で応用・使用され、我々の生活を日々変えてきた。同時にそれは、衛星無しで現代社会は維持できないという意味にも置き換えることができる。現代社会は、衛星に依存しすぎたのだ。
「キリシマ大臣が発表しているところ申し訳ないが……我々気象担当府もそう考えている」
「……私もだ」
次に重々しく口を開いた人物。それは気象担当大臣のジェイソンと経済担当大臣のフランクリンだった。
彼らはキリシマの述べた『衛星の消滅』に関して、具体的な説明を開始する。
「まず、気象担当府が確認している情報では、本来宇宙に展開している静止軌道上の衛星も、それ以外の全ての衛星とも交信ができない状況にあります。……もしこれが事実なら、我々人類が打ち上げ、稼働させていた総勢1500基近い衛星が全て消えたということになりますがね」
ジェイソンは『絶望的な状況になる可能性は高い』と言いたげな表情で苦笑いする。
「気象予報も一応できますが……その精度は気象衛星を利用したそれに大きく劣る。天気予報はほぼ機能しなくなると言っても過言ではないでしょう」
大臣らの顔は、皆一同揃って絶望に打ちひしがれた顔でそれをただ聞き続ける。
「続けて我々経済担当府が確認している情報ですが……この際はっきり言います。通信網は破綻寸前、金融機関も壊滅的な被害を受けており、テレビ通信も地上波はまだなんとかなりますが、BSなどは全て機能しない可能性が非常に高い。また衛星がなくなったことにより取引記録の記録が必要な銀行などは莫大な資金流失を予想し、すでにいくつかの銀行ではクレジットカードなどでの支払いを凍結しているはずです」
フランクリンはすでに精神が再起不能な状態にまで陥っている大臣らを尻目に、さらに続ける。
「長期的に見れば……国内にある有数の観光地は観光客の入手が困難になり、このまま放置すれば観光産業もそのうち大打撃を被ることは避けられません」
フランクリンの発言に、大臣らはことごとくうなだれる。
産業分野でも気象分野でもこれだけの問題が発生しているのだ。他の分野でもどれだけの被害が発生しているか……彼らは、今一度『衛星』の便利さを痛感する。
「……皆様が絶望の淵に立っているところ申し訳ないが……こちらも問題を抱えている」
資源エネルギー担当大臣のサントスは暗い顔で言う。
「我々が現在陥っている問題……それはエネルギー問題です。現在各地域に点在する風力発電施設や波力発電施設は原因不明のエラーにより稼働を停止。……現在は如何にかこうにか原子力発電所や水素発電所、バイオ発電所に水力発電所等を利用しやりくりしていますが、このままでは電力不足に陥ることは確実……。安価かつ場所の選択肢が多いと言う理由から大量に製造した波力発電施設や風力発電所が、仇になりました」
大臣たちは、もはや驚く気力すら残していない。彼らの現在の思考はただ、悪い報よりも良い報が聞きたい。その一心だった。
「計画停電を行い電力消費量を抑制。その間になんとか対抗策を考察しますが……うまくいくかどうか」
『うん、もういいよ』と言いたげな顔で大臣達はサントスの報告を聞き続ける。
「やはり……環境問題の推進をするとして使用しなかった火力発電所……及び、『シェールガス』の使用を再開すべきかと」
「うぅぅむ……」
ニッソン大統領は、しばらく悩んだ後、こう答えた。
「明日議会に相談してみる。おそらく条件付き……例えば使用期限を設ける、とかだろうが使用許可は降りるはずだ」
大統領がそう言い終え、サントスが席に着席したことを確認すると次の大臣が立つ。
「さて……今度は我々、環境担当府からの報告ですな」
アラブ系民族のアサドはそう言うと、静かに席を立つ。
嫌な予感しかしない。特に『環境担当』なら特にそうだ。大臣達は覚悟を決める。
「良いニュース、悪いニュース。その2つがあるわけですが……先ずは良いニュースから」
大臣達の心情は一転、希望に胸を膨らませるような目でアサドを見る。
『なんと……今まで緩やかな増加傾向にあった酸素が……突如、大気組成率の4割を占めていることが判明しました!!』
大臣達は、その思いがけなかった『良いニュース』に目を丸くする。
酸素の増加。それすなわち、地球温暖化問題への本格的な解決の見通しがついたと言うこと。今まで努力して環境問題に取り組んで着た甲斐があったと言うものだ。
だが彼らは気づいていない。大気組成率の『4』割を占めていると言う点に。
「……そして悪いニュースですが……北部地域全域で……最高気温……27度を……確認……しました」
『……は?』
うん。何を言っているのかわからない。
彼の言い分が正しいとすれば?『地球温暖化の解決に至っていない』では無いか。それどころか……北極の氷も、南極の氷も、アラスカの雪も、すべて海に溶け出してしまうことは明白だ。
つまり……酸素濃度の問題は解決したが、代わりに気温が上がる……±ゼロということになる。いや、実質的に地球温暖化問題は解決すらしていないことになるのだ。
「……いくらなんでも、冗談だろう?」
「冗談ではありません!現に近海で漁をしていた漁師から『見慣れないカラフルな魚がたくさん獲れているんだけど……これ食べれる?』という通報が何件も寄せられているんですッ!」
「は、はぁ……?それじゃ……」
彼らの脳裏に、毎年行われる温暖化がこのまま進行した場合どうなるか、というシュミレート実験での考察結果が脳裏に浮かぶ。
海面水位の上昇はもちろんのこと、熱帯地域にしか生息しない生物……詳しく言えば、熱帯地域にしか生息しないはずのウイルスや細菌類の本土への上陸、パンデミックが起こる可能性が想定されていた。
そして、同時にある土地の名前が彼らの脳内に偶然発生する。その土地の名前は……『南アメリカ大陸』。
「が、外務担当大臣ッ!南アメリカ大陸は!?南アメリカ大陸からの連絡はどうなっているんですか!?」
気象担当大臣のジェイムズが外務担当大臣のジェイムズに問いかける。
ジェイムズは一瞬濁ったような表情を見せると、まるでなだめるかのような口調でこう答えた。
「……南アメリカ大陸との連絡は……一切合切取ることができない状況にあります。もちろん、世界中にある大使館とも……ね」
「そ……そんな……」
「それに……この手の質問に関しては、国土交通担当大臣のキリシマ殿の方がよく把握しているはずだ」
大臣らの視線が、大統領の視線がキリシマ一点に注がれる。
「そ、そんな……我が担当府にはまだそんな情報は届いていないはずだ……!」
キリシマは慌てた形相で周囲を見渡すと、一番近くにいた部下に至急以南地域の状態の調査報告書を南部地域の職員に提出せるように命じる。
「ま、まぁこれでおそらくすぐに南部地域の情報が回ってくるはず……。はぁ……衛星が使えればなぁ」
キリシマはそういうと、じっと黙秘を続ける軍務担当大臣のロバーツを見つめる。
軍務担当大臣……いや、軍務担当府はその名の通り軍を司るが、同時に衛星の打ち上げや細かな軌道修正等も行う。特に最近は国営宇宙旅行プロジェクトが軌道に乗り始めたこともあり『予備衛星の打ち上げを検討しているだろう』と言った魂胆で彼はロバーツを見つめたのだった。
「そろそろ自分の番だとは思っていたが……いいでしょう。まず皆様が一番心配している『衛星消滅問題』ですが……」
ロバーツは呼吸を整え、続ける。
「すでに試作段階に入った新型地球=月間往復旅行可能ロケットを用いれば、理論上アポロ11号を月まで運んだサターンVロケットの搭載可能重量を超える6万トンが月軌道までのルートであれば搭載可能、静止軌道上であれば8万トン、低軌道上であれば13万トンが搭載可能です。それ以外にも地球=静止軌道旅行可能ロケットなども使用できますが……そちらは未だ製造途中の段階なので、まだ発射できるとは言えません」
ロバートは『そして』と続け、遂に本題の『衛星問題』について言及する。
「我々軍務担当府としても衛星使用機器の復活は急務。なので国内のヴェンチャー企業に衛星の製作を依頼します。こうすれば我々としては衛星を迅速に宇宙に打ち上げることができ、なおかつ彼らからすれば貴重なノウハウを得ることができ、さらに貴重な技術者を『失業』と言う形で失うこともない」
ヴェンチャー企業が宇宙空間に衛星を宇宙に打ち上げることは未だ叶っていない。そういう点から見れば彼らにとって見れば好都合。国にとっても好都合。まさにwinwinな関係だ。
「依頼する内容としては主に一つの機能に限定した超小型衛星。昔と比べ稼働時間や安全性等も向上しているので、スペースデブリ化(宇宙のゴミ。だいたい10センチくらいの破片が宇宙船に当たっても致命的なダメージを与える)する可能性は抑えられているはずです。重量は通常100キロ~100キロ以下。スペースが許すのであれば低軌道に投入する場合おおよそ……1400基が搭載可能です。もちろん、そんな数の量の衛星は搭載できないので実際はその半分から半分以下でしょうが」
大臣たちは思わず目を白くする。たった1基。それも、再利用可能なロケットをたった1基使用するだけで理論上700基程度の衛星が打ち上げれるというのは、あまりにも衝撃的だ。これが宇宙開発技術の最先端を行く国なのか、と。
もちろん国が打ち上げる衛星と比べると使える機能は限定されるだろうし、GPS関係に関しては本格的な衛星を打ち上げなければ難しいだろう。だが、これで十分だ。
「超小型衛星打ち上げは製作期間的に1年以内にかと思われますが……その間、我々は盲目状態になる。そのため、またこちらも試作段階の宇宙偵察・爆撃機SR/BP-1を先んじて宇宙に打ち上げます」
SR/BP-1。ロケットに搭載して、宇宙空間より敵国を偵察、また必要であれば爆撃を行えるという画期的(?)なコンセプトで作られた、所謂《いわゆる》『宇宙偵察機』だ。すでに試験飛行までを終えたこの機体には、宇宙空間からでも撮影できる偵察衛星に搭載される高精度カメラ1基を搭載し、搭乗員の2名分の食料が尽きるまでと言う時間的制約はあるものの、それさえ除けば軍事偵察衛星とほぼ遜色ない性能を発揮する。
「こちらの機体を使用し、2週間後ロケットに搭載し静止軌道へと打ち上げ、周辺地域を撮影。我が国の現在の状態を、これにより徹底的に暴きます」
軍務担当大臣は続けざまに『そして、』と付け加える。
「もし我々が危機的状況に陥っていた場合、大統領の合意のもと国内全体に非常事態宣言を発令します」
大臣たちは、もはや先程までの絶望にまみれた顔ではなく希望に満ち溢れた顔だった。衛星の復活。それすなわち現代社会を取り戻すと言うことに繋がる。
「また、周辺地域に何か異常が発生した場合に備えて軍に即応部隊を臨時結成。有事の際にはこの部隊を出動させます」
大臣らは完全に落ち着きを取り戻す。安堵の表情で内心『これなら何かあっても問題ないだろう』、と。
「なんと言うか……仕事が早いな。軍務担当大臣」
大統領のニッソンが、圧巻の表情で呟く。
「これが……仕事ですから」
軍務担当大臣は、清らかな笑顔でそう答えた。
その後、外務大臣等の報告を聞き、財務担当大臣との予算割り当て等を話し合ったところで会議は終わった。
「各大臣……くれぐれも、過労死しない程度での執務を頼むぞ」
『『御意!』』
エルディアン連邦その国は、大きなハンデを背負いながらも、正真正銘の化け物国家として、行動を開始した。
______
SR/BP-1の元ネタ:X-20
これ、実際にアメリカが作ろうとしたわけですが予定では偵察機としてだけではなく敵国に『核』爆弾を落とせる設計にもするつもりだったとか。
今回予想以上に長くなりました……。元あった第3話の海戦パートが大体3000文字くらい……なので大体2倍ほど文字数が増えたことになりますね。……こんなのがあと55話近く待機しているわけですが()。
以前はアメリカ合衆国の首都、ワシントンDCとして機能した地域。世界有数の経済大国として名を上げたそこには、新たに『エルディアンDC』という、国名をそのまま移植したような首都圏が構成されていた。
ワシントンDCの保有していた地下鉄や学校と言った公共機関はそのまま流用していたが、同時に郊外には毎日のように快適な暮らしを求めて移住してくる移民受け入れのために建設された数多のマンションが乱立。
首都全体の規模はすでに中国の首都北京を軽く超え、住民は3000万を超える勢いだった。
そして、ここに住む住人たちは、今自分たちの身に起きていることを案じていた。政府から続々と寄せられる現在の国家状況よりも心配なもの。それがあったからだった。それは何かと言うと……。
_テレビで放送中のとあるニュース番組
「さて、次のニュースですが……」
ニュースキャスターの顔が一瞬曇ったかと思うと、何事もなかったかのような表情で続ける。
「私たちの見慣れた月が……『赤く発光する月』に豹変したとのことです」
_同首都、ホワイトハウスこと大統領府では
「皆様お揃いのようなので、これより第49回国家方針決定会議を行わせていただきます」
毎年3回行われることが通例となっている国家方針決定会議。『国家の方針を決める会議』と言う名前の通り、基本的に国家全体の方針を決める。この会議が行われる際には各担当大臣のほとんど、もしくは代理が出席することになっている。
今までいくつもの会議を打ち立ててきたこの会議で今回議題とされたもの。それは大きく分けて2つ。『他国との通信が取れないこと』と『突如として西部の町、ドライ市を奇襲、虐殺を行なった国籍不明軍について』だった。
「まず各担当大臣、それぞれ調査結果をご報告ください」
司会がそう言った直後、国土交通担当大臣のキリシマが手を上げる。
10年前に移民政策を本格的に稼働させるに当たっていくつかの法改正等が行われた。その一つが彼のような、東洋人であろうがどこであろうが出生国を問わない、優秀な人材をと要すると言う政策だった。もちろん愛国心があるか、と言う点は問われるがその政策を打ち出してから、国内からは優秀な政治家などが多数輩出。国力増強急務だった時代には、非常に心強い味方となりそれを裏から支えた。
「まずは国土交通担当府から。我が府が調査を実施した結果、国内の交通インフラは完全に麻痺。特に影響著しいのが航空機で、国際空港にて離陸準備、またはすでに離陸を終えた国際便も原因不明の衛星利用機器の不調を訴え、状況が確認できるまでは現状国内線の一部のみが飛行しているにとどまっています」
キリシマは『さらに、』と付け加え重々しい口調で語りを続ける。
「これは推測ですが……衛星は文字どおり『消滅』した可能性が高いです」
キリシマからの言葉に大統領も、その場に居合わせた大臣も誰もが驚愕する。
現代社会において衛星が生み出している恩恵というものは非常に大きい。GPS衛星しかり、気象衛星もしかり。どの衛星だって我々になんらかの恩恵を与えている。
約100年前に誕生したと言ってもいい技術《えいせい》は各分野で応用・使用され、我々の生活を日々変えてきた。同時にそれは、衛星無しで現代社会は維持できないという意味にも置き換えることができる。現代社会は、衛星に依存しすぎたのだ。
「キリシマ大臣が発表しているところ申し訳ないが……我々気象担当府もそう考えている」
「……私もだ」
次に重々しく口を開いた人物。それは気象担当大臣のジェイソンと経済担当大臣のフランクリンだった。
彼らはキリシマの述べた『衛星の消滅』に関して、具体的な説明を開始する。
「まず、気象担当府が確認している情報では、本来宇宙に展開している静止軌道上の衛星も、それ以外の全ての衛星とも交信ができない状況にあります。……もしこれが事実なら、我々人類が打ち上げ、稼働させていた総勢1500基近い衛星が全て消えたということになりますがね」
ジェイソンは『絶望的な状況になる可能性は高い』と言いたげな表情で苦笑いする。
「気象予報も一応できますが……その精度は気象衛星を利用したそれに大きく劣る。天気予報はほぼ機能しなくなると言っても過言ではないでしょう」
大臣らの顔は、皆一同揃って絶望に打ちひしがれた顔でそれをただ聞き続ける。
「続けて我々経済担当府が確認している情報ですが……この際はっきり言います。通信網は破綻寸前、金融機関も壊滅的な被害を受けており、テレビ通信も地上波はまだなんとかなりますが、BSなどは全て機能しない可能性が非常に高い。また衛星がなくなったことにより取引記録の記録が必要な銀行などは莫大な資金流失を予想し、すでにいくつかの銀行ではクレジットカードなどでの支払いを凍結しているはずです」
フランクリンはすでに精神が再起不能な状態にまで陥っている大臣らを尻目に、さらに続ける。
「長期的に見れば……国内にある有数の観光地は観光客の入手が困難になり、このまま放置すれば観光産業もそのうち大打撃を被ることは避けられません」
フランクリンの発言に、大臣らはことごとくうなだれる。
産業分野でも気象分野でもこれだけの問題が発生しているのだ。他の分野でもどれだけの被害が発生しているか……彼らは、今一度『衛星』の便利さを痛感する。
「……皆様が絶望の淵に立っているところ申し訳ないが……こちらも問題を抱えている」
資源エネルギー担当大臣のサントスは暗い顔で言う。
「我々が現在陥っている問題……それはエネルギー問題です。現在各地域に点在する風力発電施設や波力発電施設は原因不明のエラーにより稼働を停止。……現在は如何にかこうにか原子力発電所や水素発電所、バイオ発電所に水力発電所等を利用しやりくりしていますが、このままでは電力不足に陥ることは確実……。安価かつ場所の選択肢が多いと言う理由から大量に製造した波力発電施設や風力発電所が、仇になりました」
大臣たちは、もはや驚く気力すら残していない。彼らの現在の思考はただ、悪い報よりも良い報が聞きたい。その一心だった。
「計画停電を行い電力消費量を抑制。その間になんとか対抗策を考察しますが……うまくいくかどうか」
『うん、もういいよ』と言いたげな顔で大臣達はサントスの報告を聞き続ける。
「やはり……環境問題の推進をするとして使用しなかった火力発電所……及び、『シェールガス』の使用を再開すべきかと」
「うぅぅむ……」
ニッソン大統領は、しばらく悩んだ後、こう答えた。
「明日議会に相談してみる。おそらく条件付き……例えば使用期限を設ける、とかだろうが使用許可は降りるはずだ」
大統領がそう言い終え、サントスが席に着席したことを確認すると次の大臣が立つ。
「さて……今度は我々、環境担当府からの報告ですな」
アラブ系民族のアサドはそう言うと、静かに席を立つ。
嫌な予感しかしない。特に『環境担当』なら特にそうだ。大臣達は覚悟を決める。
「良いニュース、悪いニュース。その2つがあるわけですが……先ずは良いニュースから」
大臣達の心情は一転、希望に胸を膨らませるような目でアサドを見る。
『なんと……今まで緩やかな増加傾向にあった酸素が……突如、大気組成率の4割を占めていることが判明しました!!』
大臣達は、その思いがけなかった『良いニュース』に目を丸くする。
酸素の増加。それすなわち、地球温暖化問題への本格的な解決の見通しがついたと言うこと。今まで努力して環境問題に取り組んで着た甲斐があったと言うものだ。
だが彼らは気づいていない。大気組成率の『4』割を占めていると言う点に。
「……そして悪いニュースですが……北部地域全域で……最高気温……27度を……確認……しました」
『……は?』
うん。何を言っているのかわからない。
彼の言い分が正しいとすれば?『地球温暖化の解決に至っていない』では無いか。それどころか……北極の氷も、南極の氷も、アラスカの雪も、すべて海に溶け出してしまうことは明白だ。
つまり……酸素濃度の問題は解決したが、代わりに気温が上がる……±ゼロということになる。いや、実質的に地球温暖化問題は解決すらしていないことになるのだ。
「……いくらなんでも、冗談だろう?」
「冗談ではありません!現に近海で漁をしていた漁師から『見慣れないカラフルな魚がたくさん獲れているんだけど……これ食べれる?』という通報が何件も寄せられているんですッ!」
「は、はぁ……?それじゃ……」
彼らの脳裏に、毎年行われる温暖化がこのまま進行した場合どうなるか、というシュミレート実験での考察結果が脳裏に浮かぶ。
海面水位の上昇はもちろんのこと、熱帯地域にしか生息しない生物……詳しく言えば、熱帯地域にしか生息しないはずのウイルスや細菌類の本土への上陸、パンデミックが起こる可能性が想定されていた。
そして、同時にある土地の名前が彼らの脳内に偶然発生する。その土地の名前は……『南アメリカ大陸』。
「が、外務担当大臣ッ!南アメリカ大陸は!?南アメリカ大陸からの連絡はどうなっているんですか!?」
気象担当大臣のジェイムズが外務担当大臣のジェイムズに問いかける。
ジェイムズは一瞬濁ったような表情を見せると、まるでなだめるかのような口調でこう答えた。
「……南アメリカ大陸との連絡は……一切合切取ることができない状況にあります。もちろん、世界中にある大使館とも……ね」
「そ……そんな……」
「それに……この手の質問に関しては、国土交通担当大臣のキリシマ殿の方がよく把握しているはずだ」
大臣らの視線が、大統領の視線がキリシマ一点に注がれる。
「そ、そんな……我が担当府にはまだそんな情報は届いていないはずだ……!」
キリシマは慌てた形相で周囲を見渡すと、一番近くにいた部下に至急以南地域の状態の調査報告書を南部地域の職員に提出せるように命じる。
「ま、まぁこれでおそらくすぐに南部地域の情報が回ってくるはず……。はぁ……衛星が使えればなぁ」
キリシマはそういうと、じっと黙秘を続ける軍務担当大臣のロバーツを見つめる。
軍務担当大臣……いや、軍務担当府はその名の通り軍を司るが、同時に衛星の打ち上げや細かな軌道修正等も行う。特に最近は国営宇宙旅行プロジェクトが軌道に乗り始めたこともあり『予備衛星の打ち上げを検討しているだろう』と言った魂胆で彼はロバーツを見つめたのだった。
「そろそろ自分の番だとは思っていたが……いいでしょう。まず皆様が一番心配している『衛星消滅問題』ですが……」
ロバーツは呼吸を整え、続ける。
「すでに試作段階に入った新型地球=月間往復旅行可能ロケットを用いれば、理論上アポロ11号を月まで運んだサターンVロケットの搭載可能重量を超える6万トンが月軌道までのルートであれば搭載可能、静止軌道上であれば8万トン、低軌道上であれば13万トンが搭載可能です。それ以外にも地球=静止軌道旅行可能ロケットなども使用できますが……そちらは未だ製造途中の段階なので、まだ発射できるとは言えません」
ロバートは『そして』と続け、遂に本題の『衛星問題』について言及する。
「我々軍務担当府としても衛星使用機器の復活は急務。なので国内のヴェンチャー企業に衛星の製作を依頼します。こうすれば我々としては衛星を迅速に宇宙に打ち上げることができ、なおかつ彼らからすれば貴重なノウハウを得ることができ、さらに貴重な技術者を『失業』と言う形で失うこともない」
ヴェンチャー企業が宇宙空間に衛星を宇宙に打ち上げることは未だ叶っていない。そういう点から見れば彼らにとって見れば好都合。国にとっても好都合。まさにwinwinな関係だ。
「依頼する内容としては主に一つの機能に限定した超小型衛星。昔と比べ稼働時間や安全性等も向上しているので、スペースデブリ化(宇宙のゴミ。だいたい10センチくらいの破片が宇宙船に当たっても致命的なダメージを与える)する可能性は抑えられているはずです。重量は通常100キロ~100キロ以下。スペースが許すのであれば低軌道に投入する場合おおよそ……1400基が搭載可能です。もちろん、そんな数の量の衛星は搭載できないので実際はその半分から半分以下でしょうが」
大臣たちは思わず目を白くする。たった1基。それも、再利用可能なロケットをたった1基使用するだけで理論上700基程度の衛星が打ち上げれるというのは、あまりにも衝撃的だ。これが宇宙開発技術の最先端を行く国なのか、と。
もちろん国が打ち上げる衛星と比べると使える機能は限定されるだろうし、GPS関係に関しては本格的な衛星を打ち上げなければ難しいだろう。だが、これで十分だ。
「超小型衛星打ち上げは製作期間的に1年以内にかと思われますが……その間、我々は盲目状態になる。そのため、またこちらも試作段階の宇宙偵察・爆撃機SR/BP-1を先んじて宇宙に打ち上げます」
SR/BP-1。ロケットに搭載して、宇宙空間より敵国を偵察、また必要であれば爆撃を行えるという画期的(?)なコンセプトで作られた、所謂《いわゆる》『宇宙偵察機』だ。すでに試験飛行までを終えたこの機体には、宇宙空間からでも撮影できる偵察衛星に搭載される高精度カメラ1基を搭載し、搭乗員の2名分の食料が尽きるまでと言う時間的制約はあるものの、それさえ除けば軍事偵察衛星とほぼ遜色ない性能を発揮する。
「こちらの機体を使用し、2週間後ロケットに搭載し静止軌道へと打ち上げ、周辺地域を撮影。我が国の現在の状態を、これにより徹底的に暴きます」
軍務担当大臣は続けざまに『そして、』と付け加える。
「もし我々が危機的状況に陥っていた場合、大統領の合意のもと国内全体に非常事態宣言を発令します」
大臣たちは、もはや先程までの絶望にまみれた顔ではなく希望に満ち溢れた顔だった。衛星の復活。それすなわち現代社会を取り戻すと言うことに繋がる。
「また、周辺地域に何か異常が発生した場合に備えて軍に即応部隊を臨時結成。有事の際にはこの部隊を出動させます」
大臣らは完全に落ち着きを取り戻す。安堵の表情で内心『これなら何かあっても問題ないだろう』、と。
「なんと言うか……仕事が早いな。軍務担当大臣」
大統領のニッソンが、圧巻の表情で呟く。
「これが……仕事ですから」
軍務担当大臣は、清らかな笑顔でそう答えた。
その後、外務大臣等の報告を聞き、財務担当大臣との予算割り当て等を話し合ったところで会議は終わった。
「各大臣……くれぐれも、過労死しない程度での執務を頼むぞ」
『『御意!』』
エルディアン連邦その国は、大きなハンデを背負いながらも、正真正銘の化け物国家として、行動を開始した。
______
SR/BP-1の元ネタ:X-20
これ、実際にアメリカが作ろうとしたわけですが予定では偵察機としてだけではなく敵国に『核』爆弾を落とせる設計にもするつもりだったとか。
今回予想以上に長くなりました……。元あった第3話の海戦パートが大体3000文字くらい……なので大体2倍ほど文字数が増えたことになりますね。……こんなのがあと55話近く待機しているわけですが()。
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
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