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——国難の始まり——
第一話:First encounter is —— (最初の出会いは——) 1
しおりを挟む「——カシャッ……」
静かな空間。それを壊すように、誰かが自らの持つスマートフォンのシャッターが、体感通常よりも大きな音で周囲に響く。
展望台にいた人々は、初めこそ動揺していたものの、次第に状況を把握した。
物珍しさ・好奇心故に写真家はそのまま持参のカメラで、カップル等々はポケットやバックに入っていたスマートフォンを手に取り、木造船舶向けてシャッターを切る。
一個人レベルまでスマートフォンが普及した現在、彼らの欲求・好奇心は、もはや本能である『未知の物を恐れる』と言う概念を消滅させていた。
_???視点
ネオ・クレセント・シティ沖合いに浮かぶ木造船舶の一隻。
甲板で船員達が来るべき上陸に備えて準備を行う中、派手な装飾が施されたコートを着込む男が、側近の筋肉モリモリマッチョマン2人を引き連れ、船団中に響かんとするほどの大声で、船員たちに呼びかける。
「皆の者ッ!!よく聞けぇッ!!」
船員たちは甲板一杯に広がる大声を聞き、各々の手を止めてじっとその男に視線を向ける。
「我々は、遂にデルタニウス王国の目と鼻の距離まで、何の被害も無く近づくことに成功した!」
だが、船員達は知っている。この船団に乗り込む総数2万5千の軍勢の内、1000名程は病で、この日を、この土地を、見る事無く無残に死んでいった事を。
「そして今日!遂に野蛮国家デルタニウス王国本土に対する鉄槌を下す事と成ろう!」
そして、船員達は知っている。彼らが上陸する予定のあの街でこれから、何が起こるのかを。
「さぁ、行こうではないか!敵の市民は、今日から奴隷だッ!金品は、我々ダーダネルスーザ人の物にッ!!」
『『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』』
だが、船員達はそれを気にしない。
道中で死んでいった者達は皆この日、勝つための生贄として捧げられたと考える。
あの街で見るであろう、出会うであろう物物は全て、彼らの、自分たちのものだと考える。
躊躇も、何も必要ない。エルディアン連邦市民は、この軍勢にとって、ただの蛮族に過ぎないのだから。
「出撃準備の鐘を鳴らせッ!蛮族に鉄槌をッ!!」
『『 蛮 族 に 鉄 槌 を ッ ! ! ! ! 』』
だが、彼らは知らなかった。この土地が、彼らの知る土地では無い事に。
カーン……カーン……
海上に浮かぶ30隻余りの戦列艦を除けば、一切何もない海上一帯に、出撃準備を知らせる鐘の音が高く鳴り響く。
——彼らは躊躇無く出撃の鐘を鳴らした。
_視点をカーラに戻す
「ねぇねぇ見て見て。こんなに高評価されてるよ!」
ベンチに座る女性はそう言い、スマートフォンに映し出されたSNSの画面を彼女の隣に座る、彼氏に見せる。
「おー、ほんとじゃん。……にしても、こんなに再生されるとはなぁ」
一方の彼氏も、驚愕を隠しきれない表情でそれを見つめている。
「んー……でもさぁ。あれってなんなんだろう?」
「映画の撮影かなんかじゃ無いか?それだったらここが有名になってくれて嬉しいけどな」
沖に30ほどの木造船舶が現れ、しばらくして鐘が鳴るような大きな音が鳴って以降はあれらの音沙汰が途切れた。
それから数分が経過した現在、この街の人々は職業年齢問わず、主に好奇心で各種SNS及びインターネット上の情報機関にあれらを撮影した動画・写真を掲載・提供。それは瞬く間にエルディアン連邦全土に波及。AI管理型情報統制・記事記載システムにより瞬く間に編集されたこの情報はすぐさま検索プラットフォームなどで記載、今や国一番の大ニュースと化している。
感嘆や驚き、興味を寄せるコメントなどが記事などに記載される一方、中には木造船舶の危険性を訴えるコメントや、沿岸警備隊が一切処置を施していないという事を危惧したコメントが挙げられていたが、それらは少数の人間の目に止まるだけで押し寄せる大量のコメントの前には無力。無数の塵の中に埋もれてしまっていた。
「お母さん!あの船かっこいいね!」
「そ、そうね……」
ジョニーからの興奮を交えた発言に、カーラは若干の戸惑いを交えながらも表面上は賛同する。
「——おい!見ろ、あれ!」
カメラ片手に沖合に浮かぶ木造船舶を撮影していた男がそう言い、木造船舶らを指差し、全員の視線が集まる。
見てみれば木造船舶の両舷から、8メートルにも満たない、これまた木製の小舟が顔を出していた。
今まさに、その小舟に映画で出てくるような青と白を基調とした軍服を着る十数名の人間が乗り込んでいる。やはり、映画の撮影か何かなのだろうか。
またそれと並行して木造船舶は、帆を大きく広げ岸に片舷を見せるように移動を開始する。
——遂に、奴らは動く。蛮族に鉄槌を下さんとする為に。
_首都プレイディアル 大統領府
ニッソンが忙しい手つきで各府要人に招集をかける中、さらなる悲報が舞い込む。
ピロンッ
「ん?なんだ?」
ニッソンの眼前にあるPCが、一つの通知音を鳴らす。どうやらAI管理型情報統制・記事記載システムが新たに記載した記事のようだった。題名は……『ネオ・クレセント・シティに出現、国籍・船種不明の木造船』。
「……は?」
ニッソンは、先ほどまで忙しく動いていた手を止め、その記事を漠然と眺めていた。
コンコン
「ぁ——入りたまえ」
ニッソンはノック音で我に帰り、執務室への入室を許可する。
「だ、大統領!失礼致します!」
ドアから入ってきたのは大統領補佐官のクレイグだった。
彼の顔には若干の汗が浮き出て、緊迫した表情で件《くだん》の話について述べる。
「ネオ・クレセント・シティ沖合に国籍船種不明の木造船が——」
「それは既に知っているさ」
ニッソンは腕をぶらんぶらんと振り、表示された記事を見せる。
「これは……とてつもなく大変な事態になるぞ……」
「はい、確かにこれは国籍も船種も不明なわけですし……」
「いや、そういう意味じゃない」
「は……?」
「我々が未だかつて経験したことがない……究極の”国難”の始まりになる……かもしれない、という意味だ」
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