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お前が欲しい
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身体が熱い。熱ったような感覚に身体の奥がムズムズして何を自分が求めているのかが嫌でも理解できてしまって舌打ちをしたくなった。
――まだ一日しか経っていないじゃないか。
自然と捜してしまう彼、宮崎を見つけてはこの身体の疼きと先ほどから格闘している。ふと、視線を感じてか宮崎がこちらに顔を向けた。目が合った瞬間ドクン、と心臓が強く胸を打ち熱がガッと上がっていく。顔を背けてすぐに逸らしたが、胸の鼓動の速さはすぐには落ち着いてくれない。それどころか、目が合ったことで余計に身体に熱がこもって色んなところが疼き始めた。服の中では両方の粒がツンと存在を主張しているし腹の奥はヒクヒクと疼いている。目の前にある仕事に集中しないといけないと思いながらも頭の中では宮崎にこの疼く身体をめちゃくちゃにしてもらいたいという欲望でいっぱいだった。乳首に触れてほしい、思い切り吸って舐めてほしい。腹の奥を乱暴に突いて熱い液体を注いでほしい。
「柿本」
自分の名前を呼ばれてビクッと大袈裟に身体が揺れた。仕事中に変な妄想していたのもあるが、その声で誰に呼ばれたのかもすぐ理解できてしまったからだ。変な汗も滲んできたが、なんともない顔を装って呼ばれた方に視線を向ける。
「疲れてるんじゃない? 休憩しよう」
にこりと爽やかに笑ってそう言ったのは、こうなった原因である宮崎だ。こいつが近くにいるだけでより身体が変になるから必要最低限は近づかないでもらいたい。いや、遠くても目に入った瞬間に変になってしまうのだからもうどうしようもないのかもしれない。
「……今日中に終わらせたいものがある」
「別に今すぐ必要なものでもないよね。休憩してからの方が効率上がるんじゃない?」
確かに今の自分では集中力が欠けている。最もなことを言われて了承の意を込めて小さく頷いた。休憩スペースでコーヒーでも飲みながらこの熱が落ち着くのを待とう、と席を立ち目的へ向かって歩くが、なぜか後ろから宮崎も付いてくる。
「お前も休憩か?」
「そうだよ」
そうか、と納得したがこいつが傍にいたら落ち着く熱も落ち着かない。こうなったらトイレに引きこもるか。
そう考えていたところで急に腕を強く引っ張られ、近くでガチャンと扉が閉まる音が響いた。
パチリとつけた明かりは古いからかそれでも薄暗く感じる。独特の古い紙の匂いがしてここが資料室だと気づいた。デジタル化して今では使用頻度が少なくかなり古い資料を見たい時くらいしか訪れたりしない。何事かと押し込めた張本人である目の前の男に向かって口を開こうとしたができなかった。顔が急に近づいたかと思えばヌルッとしたもので塞がれたからだ。急なことなのにそれがなんだかすぐに理解でき身体は喜びに震えた。何度も角度を変えて薄い皮膚を擦り、そして遠慮なく舌を絡ませた。ニチャッとした音とお互いの荒くなっていく息が狭い空間だからやけに耳に響いて届く。舌を吸われたり歯をなぞられるたびに身体の奥が疼きもっと目の前の男が欲しくなる。
「わざとやってる?」
唇が離れて息を整えていると唐突に宮崎が口を開いた。
「なんの、ことだ?」
「今日、ずっと俺のこと物欲しそうな目で見てたよ」
言われて、カアーッと顔が熱くなる。疼く身体をなんとかしたくて気づいたら宮崎を捜して見ていたことは事実だった。だからと言って会社で満たしてほしいなんて考えてはいなかったが。
「しかも、色気ムンムンで見てきて俺のこと試してるのかなって思った」
「ち、違う」
「だろうね、でも柿本は無意識でも俺を誘ってたよね。ずっと甘い匂いで誘惑してきてたし」
「ゆ、誘惑だなんて」
「結構、距離があってもたまに柿本の匂いこっちまで香ってきたよ。そんな時絶対柿本と目が合ってた」
そう言われて今日一日のことを思い返す。もしかして、頻繁に目が合っていたのは視線を感じたからではなく俺が欲情するたびに漂うという匂いでなのか。そこまで考えて更に身体に熱がこもった。酷く恥ずかしい。
「今も、匂いがすごい」
スンスンと俺の首筋に鼻を擦りつけて嗅いでいる宮崎は当たり前かのようにそこに唇を落とし吸い付いた。
「あっ」
ちゅ、ちゅ、と何度も吸われ、期待から身体が疼く。こんなところで駄目だと言う自分と早く敏感なところに触れて気持ちよくして欲しいと言う自分がいる。宮崎に触れられるたびに前者の自分がどんどん小さくなっていく。
「ああっ」
すりっと既に反応している胸の粒を指先で擦られて甘い痺れが走る。指先が動くたびに堪えられず声も漏れた。
――乳首、気持ちいい。
初めは優しかったそれも調子を良くしたのか大胆に両方の粒を擦ったりカリッと爪の先で掻いてきた。
「あああっ」
敏感な先を両方擦られてビクビクと反応してしまう。あまりの気持ち良さに無意識に胸を突き出して宮崎の指を受け止めていた。コリコリ、カリカリと乳首を刺激されるたびになんとも言えない快感が下半身に向かって走る。
「ああ、も、吸って、吸ってくれ」
気持ちはいいがこれだけでは決定打な快感にはならず、どうにもならない深い快感が溜まっていく一方だ。たまらずシャツに手をかけインナーをたくし上げた。
「自分からしてってやっぱり誘ってる」
だって、もう自分でもどうしようもない。宮崎に触れられてから俺の身体はおかしい。奥が疼いて毎日でも宮崎のが欲しくてたまらなくなってしまった。
「お前のせいだ。お前が俺をこうした」
「それを言うなら俺だって柿本のせいでこうなってるんだけどね」
お互いのせいにしながら、こうなってしまったことの発端を思い出す。
その日、柿本は参加する予定のなかった親睦会という名のストレス発散会に無理矢理連れていかれた。初めは隅でただ烏龍茶をちびちび飲んで時間を潰していたがそれにも飽きてきて帰ろうかと思い始めていた頃、あの低いトーンで声をかけられた。いい声だと何人かの女性が騒いでいたが、なるほど近くで聞けば確かにいい声だ。低すぎず高すぎず聞き取りやすい声。それに負けないルックスが更に人気を高めているのだろう。女性にいつも囲まれているその理由がなんとなくわかった気がした。どうであれ自分には関係ないことだが。
「向こうで飲まないの?」
「……酒は苦手だし、大勢の人と話すのも苦手だ」
特にあんなに騒いでいる空間は、どうすればいいのかもわからない。すぐ去るだろうと思っていた男は何を思ったのか、柿本の隣に腰を下ろした。
「確かに人と話すの体力使うもんな」
驚いて思わず宮崎をじっと見つめてしまう。
「何、どうした?」
「いや、意外だと思って……」
いつも人に囲まれているような人間だから息をするように会話ができてしまう人種なのだと勝手に思っていた。
「俺でも人と話すの疲れるなって思うときあるよ。ただ表に出さないだけ」
「そうか」
「その点、柿本の隣はいいね」
言っている意味がわからずまたもやじっと見つめる。
「落ち着く」
「そ、れは……ありがとう?」
今まで会話らしい会話をしてこなかったように思うが、落ち着くと言われて嫌な気持ちにはならない。なぜそう思うのか不思議ではあるが一応礼を言うと「なんで疑問系」と小さく笑われた。
「そういえば前から気になってたんだけど」
「なんだ?」
「柿本って何か香水つけてる? 甘いやつ」
「甘い? たまにつけたりはするがどれもスッとした香りだが」
他の人がつけている香水と間違えているのではないだろうか。
「そっか、ちなみに今は?」
「つけていない」
つけるとしたら完全にプライベートで出かけるときだ。職場では基本つけない。匂いが嫌いな人もいるし、合わない人は周りの香水で体調を崩すこともあると聞いてから職場では無臭の制汗剤以外はつけないようにしている。これは完全に自己満足だが自分がつけた香水で不快にさせるよりはいいと思っている。
「汗臭いか?」
朝の支度で制汗剤はつける。だが時間が経てば経つほど効果は薄れてくるものだ。パッケージに記載されてある二四時間効果にどのくらいの信頼性があるのかは謎だ。
「ち、違う違うっ!」
訊ねれば、宮崎は慌てたように手を大袈裟に左右に振った。
「逆だよ。柿本はいつもいい匂いがするから……今も」
そんなことを言われたのは初めてで、なんと返したらいいのかわからず、烏龍茶を飲んでから「それは、ありがとう?」とつまらない返事をした。優しさなのか宮崎はまた小さく笑った。
それから話が弾むわけでもなく、宮崎は騒いでいる誰かに名前を呼ばれ「じゃあ」と離れて行った。その後すぐ帰ればよかったものの、なぜか俺は何度目かの烏龍茶を注文した。
それからそんなに時間がかからず解散となったが、いつも中心にいる宮崎の姿が見当たらず気になって周りを見渡す。
――トイレか?
いつもなら気にせず帰るだろう。だが、先ほど会話した宮崎を思い出してなんとなく俺はトイレに向かった。
「大丈夫だから」
「でも」
奥から宮崎と女性の声が聞こえて足が思わず止まる。
「気持ち悪いんでしょ? 送るよ」
どこか甘さを含んだ声はアルコールだけのせいではないだろう。一体どこに送る気なのか、わざとらしさに嫌気がする。それには宮崎もわかっているらしい。先ほどから「大丈夫、一人で帰れるよ」を何度も繰り返している。女性からの誘いにホイホイついていくような男ではないことになんだか少し安心した。
「なら俺が送っていこう」
流石に断り続けて疲れが見えている宮崎がかわいそうになり、ついしゃしゃり出てしまった。突然の登場に驚いた表情でこちらを見る二人にもう一度同じことを繰り返す。
「俺が送ろう。男性を送るのは女性では大変だろう」
「え、で、でも」
「あ、そうだね。柿本に頼むよ」
宮崎はすぐさま状況を理解し、俺の元へ近づいてくる。
「心配してくれてありがとうね。柿本が送ってくれるからもう大丈夫だよ」
そう言って笑顔を向ける宮崎はやはりどこかしんどそうだ。
俺が出てきたことで強く誘えなくなってしまったのだろう。女性は渋々ながらその場を離れていった。
はあ、と隣から大きなため息がこぼれるのを耳にした。
「柿本、本当ありがとう」
ホッとしたのかしゃがみ込む宮崎の顔色は先ほどより悪い。
「大丈夫なのか?」
その様子に流石に心配になり俺もしゃがんで宮崎の背中をさする。
「ん、アルコールだけならよかったんだけど、あの子香水がきつくてそれで変に酔ったみたい。一気に来ちゃった」
「なるほど」
確かに結構香りがきつかったな。去って行った彼女から人工的に作られた甘い香りがした。
「ごめん、寄りかかっていい?」
「ああ」
了承すると肩に遠慮がちな重みが加わる。
「あー、やっぱり柿本いい香り」
「……気持ち悪くならないか?」
「逆だよ。すごく落ち着く」
「それならいいが」
回復するならいいが、しかし先ほどからわかるほどスンスン嗅がれると何やら羞恥心が込み上げてくる。
「あ、汗をかいているから臭いと思うのだが」
「……言ったじゃん。いい香りだって、本当に何もつけてないの?」
「つけていない。あ、いや制汗剤はしている」
「でもこれは作った香りじゃない。すごく、甘い」
「一応、無臭なんだが……先ほども言っていたな。甘いのか?」
「ん、すごく甘くて……たまらない」
「宮崎?」
最後の言葉が小さすぎて聞き取りづらい。まだ店内なのでそれなりに騒がしいので声を出さないと届かない。聞き直そうと口を開こうとしたところで、何か生ぬるい感触が首筋をなぞった。ぞわり、と首から全体に向かって奇妙な感覚が走った。
「みや、ざき?」
「ねぇ、本当これ何?」
はぁはぁ、と息を荒げながら顔を上げた宮崎は先ほどまで真っ青だった顔が嘘のように赤く染まっていた。その瞳には先ほどまでにはなかった熱が込められているように見える。
「な、にとは……」
「柿本の匂い。落ち着くのに嫌に身体が熱くなる」
それは飲食していたアルコールのせいだと思うが。
「酒じゃない。柿本だ。いつも、そう……柿本の匂いが甘くて美味しそうで、おかしく、なるっ」
最後、若干叫ぶように言われてかと思えば、勢いよく宮崎の顔が迫ってきた。
「んっ」
ぬるっとした感触が今度は唇を何度もなぞっているのがわかる。宮崎のやけに高い体温と微かに香るアルコール。そして口内に侵入しては何度も舌先でいろんなところを乱暴になぞるそれに今まで体験したことのないゾクゾクとした快感が駆け巡った。
「はっ」
唇を離して大きく酸素を取り込む。お互い荒い息のまま宮崎が耳元で囁いた。
「ごめん、柿本。俺もう限界なんだ。柿本が欲しい」
何を言っているのかさっぱりわからない。わからないのに目の前にいる男に触れられている部分が熱くて熱くてたまらない。ゴリっと当てられている下半身の熱の存在は嫌でも予想がついてしまう。そして信じられないことに先ほどのキスで自分のまで同じように熱を灯してしまっているそれがヒクンと反応したのがわかった。
そこからどうやって行ったのかはっきりと思い出せない。気づけば広いベッドに押し倒され先ほどより荒々しく唇を交わしお互いの唾液を交換しながら乱暴に遮っている服を脱いだ。
「はっ、ああ」
宮崎が触れたり唇や舌でなぞってくるたびに言いようのない快感が自分の身体をグズグズにしていくのがわかる。こんなことは変だ。そうわかっているのに身体が言うことを聞かない。
「柿本、本当に甘くてどこもかしこも美味しい」
「んっ、そこは」
興奮からか、すでに軽く立っている乳首はまさに男のそれだ。女みたいに膨らんでもいなければ柔らかくもない。ただ、小さく主張しているそれを宮崎は当たり前かのように口に含んで転がした。
「ふっ、ああっ、ま、待て」
思ってもいなかった強い快感に身体が、下半身が揺れる。その小さな突起にこれだけの快感があるだなんて今まで知らなかった。舌先で粒を捏ねられては強く吸われ容赦なく甘噛みをしてきたその快感にみっともなく女みたいに声をこぼしてしまう。
「ああ、それだめだ。強い」
クニっと片方の乳首は指先で摘まれコリコリと刺激される。片方は舌で片方は指先で愛撫され初めての快感に気づけば涙をこぼしていた。気づいた宮崎がそれすらも舌で掬う。
「柿本は涙も甘いんだね」
そんなわけがない。そんなはずがない。涙は誰だって塩っぱい。もちろん自分のだってそうだ。宮崎の味覚がおかしいに決まっている。
「知らなかった。柿本がこんな甘くていやらしい乳首を持っていたなんて」
酷い誤解だ。俺の乳首は一般的な男の乳首だしもちろん甘くなんてない。なのにうっとりとした顔で宮崎はまたもや俺の乳首に吸い付いてきた。
「ふっ、ああ」
「どんどん甘くなる」
コリコリと刺激された粒はすでにピンと尖っており、更に快感を拾いやすくなった気がした。先ほどから与えられるビリビリとした快感に下半身の熱がどんどん溜まっていくのを感じる。
「ああ、両方は……」
両方の乳首を刺激されると更に快感が強まる。下半身から液体がこぼれ下着にシミをつけているであろうことがわかってしまう。乳首ばかりはおかしくなる。下にも刺激が欲しい。奥が酷く疼いてたまならい。
「気持ちいい? ここも物欲しそうにしているね」
「あっ、あああ」
既に完勃ちしているそこを下着越しとはいえカリカリと爪先でなぞられる。その快感に大きく声をこぼしながらガクガクと腰を揺らした。
「も、無理。奥、奥が切ない」
先ほどからずっと疼いて訴えかけているそこが不思議と湿っているのがわかる。早く欲しいと急かすようにヒクついている。
「奥? ……柿本ってもしかして男性が恋愛対象? 初めてじゃないの?」
少し硬くなった宮崎の声にどうしてだか不安を覚える。
「なんのこと……」
「もしかして、この甘い香りで他のやつも誘惑してこういうことしてるの?」
キュッと乳首を強くつねられる。
「ああ、何」
「だからここもこんなに敏感なんだ?」
キュ、キュ、と両方の乳首をつねられ先を爪でカリッと引っかかれる。
「ひっ、ああっだめ、それ」
乳首の先にダイレクトに刺激が加わり、その強い快感にみっともなく腰を揺らして喘ぐ。
「それ強い、からへん、になるっ」
「なりなよ。他のやつの前でもなってるんでしょう?」
「ああああっ」
バチバチと迫ってくる強い刺激に頭が沸騰しそうになる。疼いていた奥が更に疼き何かが弾けそうで怖い。
「ああ、くる……何かくるぅ、ちくび、くる……ああああっ」
止まらない刺激に溜まっていた何かがバチっと弾け、その拍子に何かがピュッと溢れでた気がした。息をみだしガクガク身体を震わせてなかなか消えない快感に酔いしれる。
「……柿本、お前の乳首から何か出て来たんだけど」
落ち着かない余韻の中、宮崎が何を言っているのか理解できなかった。
「ね、吸ってみてもいいよね」
俺が返答する間も無く宮崎はまた先を口に含む。
「ああ、も、ちくびだめ」
ぬるぬると舌がまとわり付き吸い付いてくる。それと同時に何かが吸い取られている感覚。それがまたビリビリと刺激してきて下半身を疼かせる。
「あああ、ちくびへん。ああああっ」
吸われるたびにまたもや熱くなっていく身体。終わりが見えない快感におかしくなりそうだ。
「柿本のミルク甘くて美味しい」
チューチュー吸いながら宮崎が何かおかしなことを口にする。だが、今の俺はそれすらもどうでもいいと思えた。
「み、やざき……た、のむ」
下着をずらし、ヒクついているであろうそこを差し出す。
「も、むり。奥が切なくてたえられない」
「はっ、すごいトロトロ……こんなにヒクついて男なら誰でもいいんだ?」
「し、らない。誰ともこんなことしていない……初めてだ」
「え、だってこんな……」
「お前が、初めてだ」
ジッと宮崎を見つめて言うと、何かを堪えるように黙り小さく「ごめん」と口にした。
「触るよ」
先ほどまで何処か硬かった声に優しさが戻り、ゆっくり慎重にその長い指先を中をなぞる。縁をなぞられているだけなのにゾクゾクとした快感に涎が垂れ落ちる。
「すごい。熱くてトロトロだ」
「ああっ、ああああ」
宮崎の指先は抵抗もなくあっさり俺の中に迎入れられた。指先で奥を何度かなぞられたまらない快感にだらしない声を漏らす。
「なんか慣らさなくても入りそうだけど……」
「いい。挿れて、宮崎っ、奥に……奥くれ」
もっと熱くて長くて硬い。そんなものを今まで求めたことなんてないのに、今は酷くそれが欲しくてたまらない。まるでずっとそれを求めていたみたいに。
「……後悔するなよ」
ゴムを装着しようとする宮崎を見て俺は咄嗟にその手を止めた。
「それはいらない、そのまま」
「え、でも……」
躊躇している宮崎に「たのむ」と口にすれば何かを決心したかのようにそのまま熱を当ててきた。抵抗もなく入ってきた熱は容赦なく中を刺激していく。
「ふ、ああああ、これっああすごい。気持ちいいっ」
バチバチと先ほどより強い快感が身体中を駆け抜ける。こんなの知らない。こんな快感は初めてだ。
「はっ、柿本の中すごい。熱くてとろけて、なのに強く締め付けてくる」
「お、く……奥が」
「いいよ」
宮崎は腰を引いたかと思えば、グッとその熱い棒でずっと疼いてたまらなかった奥を打ち付けた。
「ああああ、いいっ、そこいい」
「は、本当に初めてなの?」
「初めて……初めてだ、こんなの知らない、ああああっ」
「なのにここで快感拾えるってすごいね」
「ああああっ、もっともっと」
バチバチと快感が走るたびに俺のペニスからピュッピュッと何度も白い液体が溢れる。何度も甘イキを繰り返しては宮崎の熱をもっと飲み込もうと必死に自らも腰を振る。
「柿本、柿本」
宮崎も限界が近いのかどんどんスピードが上がってきている。
「あああ、いい。奥きて、出して」
「……出していいの?」
「出してっ出してっ、宮崎の奥に欲しいっ」
「ああもう、他のやつには絶対そんなこと言わないでよ」
「言わないっ。宮崎だけだからぁ、ああああっ」
「はぁ、出る。柿本出すよ、奥に俺の」
「出して、出してっ」
ビュルっと勢いよく俺の中を打ち付ける宮崎の精液に俺はガクガク身体を震わせて飲み込む。
――ああ、これだ。宮崎と口付けをしてから俺はずっとこれが欲しかったんだと理解した。ギュウっと中を締め付け宮崎のを無駄にしなようにと全て飲み込もうとする身体。ずっと身体がこれを求めていた。飢えていた部分がまるで満たされたような心地のいい感覚。
――ああ、幸せだ。
そのまま重くなる瞼。だが、そのまま閉じる間も無く、再度敏感なままの中を刺激される。
「ああっ」
「ごめん、柿本。柿本の中気持ち良すぎてまだ終われない」
射精したはずなのに、もう硬さを取り戻している宮崎のそれ。あられもない恥ずかしい音を躊躇なくこぼして快感を貪る。
「あ、そっそんな、頭変になるっ」
「なってよ、俺はとっくに変だよ」
「ああっ、イクの、止まんない」
「中ずっと痙攣しているね。ああ、気持ちいいよ柿本」
「イク、イクーっ、あああ、まて、イッてる、あああああっ」
止まらない快感に身体はより敏感になり頭はもう酸欠やら激しい感覚に受け止めきれず、何も考えられなくなってきた。
「ああ、いい。気持ちいい、ああっそこ好き」
ゴリゴリ中を擦られながらビンビンに立っている乳首を捏ねられる。その拍子にさっきからポタポタ溢れていた白い液体がピュルッと勢いよく溢れた。その出てくる感覚が酷く気持ちよくてそれだけでまた果ててしまう。
「ああああ、ちくびいいっ好きっ、奥ゴリゴリ好き。もっと、みやざきぃもっと」
止まらない絶頂にもう何を口走っているのかほとんど理解はしていない。ただその快感がたまらなくてもっと欲しくて目の前にいる男にねだってしまう。
「はぁ、柿本なんでそんなエロいの? さっきから萎えないし、止まらないんだけど。柿本、柿本っ。はぁ、また出す、出すよ」
「ああああっだ、して、な中だしてぇ」
そうやって一晩中、宮崎に耳元で飽きるくらい名前を呼ばれ濃厚な口付けを交わしながら何度も中に熱い液体を注がれては果てた。そしてそれがどうしようもなく幸せでたまらなかった。
あの後、空気と欲望にのまれてあんなことになってしまったのを酷く悔いたのに。
その日からおかしくなってしまった。宮崎に快感を覚えさせられたせいか、それともあの強すぎる快感が自分の身体に変化を生じたせいか、兎にも角にもその日から宮崎が近くにいるだけでその存在を感じてしまうだけで自分の身体は意志とは関係なく勝手に奥が疼き始めるようになってしまった。駄目だとわかっているのに、どうしても欲しくなってしまう。あの強い快感を思い出しては身体が熱をもつ。
「吸ってもいいけど、また言うの?」
スリッと乳首の下側を指先で撫でられて、切ない吐息が溢れる。
「忘れてくれって」
「はっ、ああっ」
スリスリと乳首を直接擦られて身体が快感に震える。
――忘れてくれ。
確かにあの後、目が覚めた宮崎に一番に告げた言葉はそれだ。
自分でも酷いと思うが、あんな破廉恥ではしたない自分をなかったことにしたかった。いくら強い快感だったとしても同性相手に何度も催促をして求めてあられもない声をこぼしてしまうなんて自分のしてしまったことが信じられなかった。
自分でマスターベーションをしないことはないが、ほとんどしないと言ってもいい。それも周りが言っているほど気持ちよくなく、自分の中であまり燃え上がらず終わることの方が多いからだ。なのでその行為事態、途中からやめてしまった。男は溜まるというがそれは自分には全く当てはまらないことだった。
悩まなかったことはない。自分の身体がどこかおかしいのかもと思ったが、中には性に興味がない男性もいると聞いて、きっと自分はそれなんだと勝手に思っていた。
あの日、宮崎に触れられるまで――。
「い、言わない。言わないから」
恥ずかしすぎるあの過去を忘れてもらいたい。だけど、今またあの快感を得られるというのならもう忘れてくれとは言わない。早くその赤く尖った先を宮崎の舌で舐めて吸って噛んでほしい。もうどうしようもなく宮崎から得られる快感にどっぷり浸かってしまっている。
「ふーん?」
まだどこか納得できていない顔をして宮崎はそれでも俺の願いを叶えてくれた。
ツンとく目立つそこに軽く唇を当てたと思ったら、すぐぬるっとした舌先をだしてペロペロと硬い粒と遊び始めた。
「は、ああっ、あっ」
ぬるぬるした舌先が気持ちいい。先も尖って敏感になっているからかより快感を拾ってしまう。しばらくペロペロした後、ジュッと強く吸われてそれにも大きく反応してしまう。欲しかった快感にどんどん貪欲になって目の前の男から貰える刺激を求めてしまう。
「ああ、いい。先、気持ちいい」
「柿本は快感に弱いね」
軽く触れただけで顔を蕩けさせて足もガクガク揺れているよ、と胸の先を両方コリコリと指先で擦りながらそんなことを囁いてくる。
「ああ、だって気持ちいい」
自分でしたってここまで気持ちいいことはなかった。何が気持ちいいのかずっと理解できなかった。それをやっと理解できた。できてしまった。この男のせいで。こんなこと一度知ったらやめられるわけがない。
「あ、もっともっと」
もっと強い快感がほしい。またあの時みたいに腹の奥が疼く。既に硬く反応している下半身を宮崎に当てて先をねだった。
「本当誘うの上手いね」
乳首を口に含んで吸われたと思えば、ぬるぬると刺激してくる。
「ああっ、いいっ」
片方は指の腹で擦られ、片方は口に含まれ刺激される。両方の刺激がたまらず、またどうしようもない声をこぼしてしまう。
「きもち、あああっ」
深い快感がどんどん腹に溜まっていく感覚。それが乳首を刺激されるたびにどんどん深く強くなっていく。
「はっ、あああっ」
カリッと優しく歯で乳首を甘噛みされて、反射で身体が大きく跳ねた。それと同時に乳首が熱くなにかが出てきそうな感覚に落ちる。
――ああこれ、くる。
ジュルジュルと厭らしい音を立てながら乳首を吸われ、もう一つは爪でカリカリと刺激され無意識にカクカクと腰を揺らして快感を追い求めてしまう。
「きもちっ、ああでるっでるっ」
乳首と下半身がどんどん熱くなり、その先が近いことをなんとなく察してしまう。
「ああっ、乳首イク、イクッイクッ」
そう告げたからか宮崎が更に強く吸い付いてきた。それと共に乳首から熱い何かが溢れ出る感覚。それを抵抗もなく目の前の男は夢中になってゴクゴク飲み込んでいる。その吸われる感覚も気持ちよく酷く高揚してしまう。口に含まれていない片方はキュッと指先で摘まれそこからポタポタ溢れて宮崎のスーツに染みを作っていっているのをボーッと見つめていた。
「は、甘い」
乳首からやっと唇を離したかと思えば、宮崎はスリスリと自分の顔を擦り付け、スンスンと匂いを嗅いできた。その拍子にグリッと足に当たった宮崎のソレにズクンと腹の奥が切なく反応した。
「みや、ざき」
欲しくて名前を呼べばどうしようもなくその声は艶にまみれていた。
「#会社_ここ__#でここまでするつもりなかったんだけどな」
そう言いながらも宮崎は硬くなったそこを擦り付けるのをやめない。
「い、挿れてくれ」
その熱に、身体の疼きに、耐えられずとうとう欲を口にしてしまった。
「あの時もそう言ってたね。……本当に誰にでも言ってるわけじゃないの?」
見つめてくる宮崎の目に熱いくらいの欲情を感じる。それがなぜか酷く嬉しくてたまらない。
「誰にだ? 俺はお前しか知らない」
自分からも宮崎に寄りかかり、真似てスリスリと擦り付けてみる。
「俺だけ?」
「ああ、宮崎だけだ」
「……じゃあ、柿本俺のものになってよ」
――宮崎のもの?
顔を上げれば、さらに熱のこもった目で見つめられる。
「俺のものになってくれるなら、毎日気持ちよくしてあげる」
スリッと敏感な乳首を撫でられ、キュッとつねられる。
「あっ」
「ここも俺のでたくさん擦って気持ちよくしてあげる」
腹を優しく撫でられお互い反応して硬くなっているそれをゴリっと擦り付けてきた。
「ああっ」
想像してお腹がキュウと反応した。
「どうする?」
ごくりと、大きな唾を飲み込む。
「宮崎のものになったら、その……俺の中で」
言いにくくて言葉を濁すと察した宮崎がああ、と頷いた。
「柿本の中に注いであげる。俺の精子をいっぱい」
そう囁かれてキュンキュンと期待からまた腹の奥が切なく反応した。思わず宮崎のその無防備に近づけられた唇に吸い付く。
「なるぅ、宮崎のもの、になるから」
俺も宮崎がほしい。俺が今まで知らなかったこの激しい欲望を満たして埋めてほしい。誰でもない宮崎に。
「本当、俺の柿本は最高にエロくてかわいいね」
そう言って笑った宮崎はいつも周りに見せている笑顔より自然で酷く優しかった。
「母さん、もう一度言ってくれないか」
乳首から溢れ出る白い液体が怖くて、本当なら病院に行くべきだがやめた。あのあと検証してみたがどうやら宮崎によって絶頂させられた時にしか乳首から液体が溢れでることがないとわかったからだ。そんなこと証明するために病院でするわけにはいかないし、別に生活に問題ないならいいと思っていた。
だが、ここで問題も生まれた。
飲むのだ。宮崎が美味しそうにそれはもうゴクゴクと。
今のところ身体に異常は見られないが、男の胸から出てくる液体なんて怖すぎる。飲むのはやめてくれと言ってみたが、宮崎にとっては甘く美味しいらしく、むしろ定期的に飲みたいとまで言ってきた。それでも怖いので液体を保存して、ツテを辿って成分を内密に調べてもらうことにした。宮崎は酷く嫌がったが、調べないならもう飲ませないと強く言えば、仕方なく折れてくれた……そんなに飲みたいのかナゾ液体。
結果、特に変な成分はなく母乳に近いと言われたがよくわからない成分がいくつか見られ、一つはどうも興奮させる作用のあるものが入っているらしい。
言われてみれば、宮崎があの液体を飲んだ後は激しく興奮していたように思う。何度果てても萎えずに連続してできていたのは、なるほどそういう事かと思ったが、しかし、なんでそんなものが俺の胸から出てくるんだとという疑問にぶつかり、あまり期待はせずに家族に電話でそれとなく聞いてみることにしたわけだが――。
「だからインキュバスよ」
「ちょっと待ってくれ母さん。なんだそのインキュバスって」
「え、知らない? ほら夢の中に現れてエッチなことする悪魔よ」
――正直、母親の口からエッチとか聞きたくない。
「いや、その存在は知っている。その悪魔がなんなんだ」
「だから、我が家ってそのインキュバスの血が混じってるのよ」
母が言っていることの意味がさっぱりわからない。
「いや、でも夢の中で、その、そういうことは今までなかったが」
誰かの夢に侵入したことがなけれが、そういう性に関する夢を見たことがない。元々、夢はあまり見ない方だ。なのにインキュバスとは?
「時が経つにつれそこはどんどん変わってきたんでしょうね。今じゃもうその血も薄くて普通の人間として生活してるし。ただ、稀にインキュバスの力を持った先祖返り? みたいな子が生まれてくることもあるらしくて……ほら小さい時教えたでしょう? 私たちインキュバスの血が混じってるからねって」
「……知らない」
「あんた信じてなかったもんねー」
到底、現実とは思えないことを電話口で言われ身体が違う意味で震えてくる。横で聞いていた宮崎はそんな俺を安心させるためか俺のコメカミに唇を落としながら背中を優しく撫でてくれた。
「そうね、聞いた話だと相性のいい相手を誘惑したり……ああ、あと相手の体液で体力や生命力が回復するって聞いたわね。そこはインキュバスっぽいけど、でもそれも人伝だからとこまで信憑性があるかは謎よね」
「その、言いにくいんだが胸から何か出てくるとか聞いてないか?」
「胸から? なぁに、おっぱいでも出たの? ……なんて冗談よー」
黙っている俺の様子に母はこの冗談はウケなかったと捉えたのだろう。だが実際の俺は驚きすぎてただ固まっていた。
「そうね、小さい頃に聞いたからうろ覚えだけど、そういえば相性がいいとたまに相手をその気にさせるために女性みたいにおっぱいが出るって言っていたかもねぇ」
「それは……」
すごく納得がいく。俺は無意識に宮崎を誘い、断れない状況に持っていくために興奮作用のあるミルクを胸から出していたということか。酷い事実だが納得ができてしまう。そして一番の納得は、宮崎に奥深く挿れられ中に出された時だ。あのなんとも言えない満たされたような感覚あれはそういうそういうことなのかもしれない。
ただ、引っかかる点が一つある。
「その、インキュバスってその性行為をして相手の生命力とか吸い取るんじゃないのか?」
だったら宮崎が危ない。あれからほとんど毎日と言っていいほど致している。生命力を奪っているのだとしたら、最悪早死になるのでは?
そこまで考えて恐ろしさに目の前が真っ暗になった。
「あら、相手の生命力を奪ったりなんてインキュバスにはできないわよ」
「え?」
「インキュバスの力って相手をそういう気持ちにさせるのが上手いだけなのよ。それも誰でも良いわけじゃないの。相手を選ぶから相性がいい人に巡り合えなければ力なんて使わないまま生涯を終えることだってあるのよ」
「え、でも母さんさっき生命力を吸うとか……」
「いやあね、吸うなんて言ってないわよー。回復するって言ったの。でもそれ多分思い込みなんじゃないかしらって思うのよね」
――お、思い込み……。
「相性がいいとすごく満たされた幸せいっぱいって気持ちになるらしくて……それを良いように捉えて何かが回復したんだって思い込んだんじゃないかなって思うのよ。だって生命力が回復しただなんて証明のしようがないじゃない」
――い、言われてみれば確かにそうだ。
「それに本当に生命力が回復したんだとしたら今も死なないで私たちのご先祖さま生きていないとおかしいでしょう?」
それすらどこにも確証はないが確かに母の言う事の方がなんとなく納得できてしまう。自分がそうであってほしいと思っているからかもしれないが。しかし、そうかだったら宮崎は大丈夫なんだなとホッと胸を下ろす。そんな俺の様子に宮崎はまた唇を落としてきた。安心させたいからなのかもしれないが、そろそろ変な気持ちになってくるからやめてほしい。電話の向こうにはこれからも付き合いのある親がいるんだぞ。
「大丈夫よ。だからもし、そんな運命の人に出会えたなら大事にしなさいな」
最後にそう笑いながら締めくくられ少し考えたのちに深く頷いた。もちろん大事にするに決まっている。しかし、それを母親に告げるのも色々堪えられないので黙っておく。
「ちなみに母さんは女性だからインキュバスじゃなくてサキュバスなんだけどね。自覚ないからなんちゃってサキュバスー」
楽しそうに電話の向こうで笑っている母に若干呆れるが昔からこうなので既に諦めている。
軽く礼を告げてまた連絡することを約束させられ通話を終えた。なんというか今までで一番濃い会話だった気がする。
「インキュバスって?」
先ほど聞いた内容を告げるべきか一瞬迷ってしまう。もしインキュバスの血のせいで宮崎が一緒にいてくれているのだとしたら、いつかその力が薄れたとき宮崎は俺から離れて行ってしまうのだろうか。
「そ、そのすまない。どうやら宮崎が変に興奮するのは俺の体質のせいらしい」
そこから、大体の説明をしたが宮崎はそうなんだ、と頷いてあまり強く興味を示さなかった。
「い、嫌じゃないか? 気持ち悪いとか」
こんな体質でなければ、宮崎は普通の生活を送り恋人ができて結婚をしていたかもしれない。
「あのさ、俺柿本だけなんだよね。こんなに一緒にいられて生活できるのって」
少し暗い表情をする宮崎の顔が辛くて思わず腕を伸ばして抱き締める。
「柿本が変だと言うなら俺だって変な体質だよ。他人の香りが本当にしんどくて子供の頃は今よりもっと酷かったんだ」
相変わらずスンスンと隠すことなく匂いを嗅ぐ宮崎は小さくそれでもはっきりした声で告げた。
「吐いたことも少なくなかったよ。しかもそれ、家族ですら受け入れられなかったからね」
そうして諦めてすぐに一人暮らしを始めた。だけどそれも難しかった。
「安いアパートを借りたんだ。お金なかったし。でも今度は、その部屋の香りが無理だった」
絶望したと泣きそうな声で漏らした宮崎を俺はたまらず強く抱きしめた。
「それでも人の中に入らないと生活できないから頑張ったんだ。匂いになれるために色んなの嗅いだよ」
何度も吐いていっそ死んだ方がいいのではと考えたこともあったと言う。
「かなり病んでたんだろうね。他の人には理解されないことだし自分が我慢するしかないって思い込んでた。でも柿本が違うって教えてくれたんだよ」
「……俺が?」
「たわいのない会話だった。俺がついきつい香りがダメで吐いちゃうこともあるって言ったとき、みんな驚いてはいたけどそこまで深く気にしてなくて。柿本だけだったんだ、次の日から香水つけるのやめてくれたの」
「……気づいていたのか」
「すぐ気づいたよ。柿本は近くにはいたけど、話に加わってなかった。なのに俺のそんな話を聞いて行動を変えてくれた。すごく嬉しかったんだ。それから柿本は俺の特別」
そう微笑まれて、なんだかどうしようもなく口付けをしたくなった。宮崎もそんな俺に気づいて受け入れるように瞳を閉じる。柔らかな感触を薄い皮膚で堪能し離れてはくっつき離れてはくっつきと甘い唇を堪能する。
「……でも途中から、柿本から甘い香りがしてくるようになって、また香水をつけ始めたのかなと思ったんだ。でもそれはやけに甘くて全然気持ち悪くもならない。むしろ変に高揚して……もしそんな香りがあるなら教えてもらおうってずっと機会を伺ってた」
「それであの時聞いてきたのか」
「結果は残念だったけどね、柿本の体臭ならもうずっと俺のそばに柿本がいてくれないと無理ってことだし」
グイッと押し倒され俺は重力に逆らうことなく座っていたソファの上に倒れる。
「宮崎?」
「だからインキュバスとか俺にとってはどうでもいいんだよ。俺を救ってくれたのはインキュバスじゃなくて柿本だから」
そう宮崎に言われた瞬間、今までの面白味のない自分でもいいんだと、何度も後悔していた自分が救われた気がした。
「しかし、インキュバスとはさすが柿本。予想の斜め上をいくよね」
「いや、これは俺のせいでは」
「まあ、そうなんだけどでもそうか。そうなると俺はずっと柿本に誘惑されてたってことだよね」
「そ、それは……む、無意識なんだ。わざとでは」
「いいんだよ、嬉しいから」
そんな宮崎は本当に嬉しそうに俺に何度も唇を落としてきた。
「俺は一生、誰かと一緒になれないって思っていたから。他の誰かじゃなくて俺を誘惑してくれて嬉しいんだ、誰でもない柿本に」
舌が唇をなぞり、うっすら開けばすぐその隙間からヌルッとした舌が侵入してくる。相手を求めてどんどん激しく貪る口内に息が乱れ熱も同じように高まっていく。
「はっ、柿本はやっぱり全部甘くて美味しいしね」
「んっ」
いつの間にか宮崎の手が胸元に移動し、すぐに俺の弱点を見つけ集中してそこを擦り上げては刺激してくる。
「ああっ、みや、ざきっ」
「ほらここ擦っただけで更に甘い匂いで誘惑してくる」
シャツの上からなのに硬い宮崎の指先が敏感な胸の先を何度も擦り上げてくるたびに脳が痺れて快感に簡単に呑まれてしまう。わかりやすくそこはぷっくり膨れ更に摘みやすいように形を変えている。
「ああ、だめだ、そこ……んっんっ」
「なんで気持ちいいでしょう?」
「気持ちいい、から。ああっ、駄目だ欲しくなる」
先をグニュグニュと潰されるたびに甘い刺激が下半身へとすぐ降りてしまう。腰がブルブル震え腹の奥はさっきからキュンキュン反応して宮崎の熱を求めてしまっている。
「いいよ、もっと欲しがってよ。柿本は俺のもので俺は柿本のものなんだから」
「あ、あああああ、だめイクっ、乳首イクっ」
尖っている先を容赦なくコスコスと扱かれ、シャツの上からだというのに俺はあられもなく簡単に果ててしまった。ジワっと胸もとが湿りそれに気づいた宮崎が「もったいない」とシャツの上からジュッと吸ってきた。
「ああ、あっ熱い。そんな強く吸われたらまたイクっ」
宮崎はいつもしこいくらい乳首を刺激してくる。そのおかげなのか今では宮崎に刺激されるとすぐ乳首で果ててしまう身体になってしまった。
「ああ、奥、奥が切ない」
「いいよ、たくさんあげる」
唇で何度も首筋に吸い付きながら優しい手つきで下を降ろし、既にヒクついてトロトロなそこを指先でなぞる。
「もうトロトロだ。そういえばローションを今まで使ったことがないけれど、これもインキュバスだからなのかな」
「んっ、もう挿れ、てぇ」
待てなくて腰を揺らしてヒクついているそこが見えやすいように指先で開く。
「本当に誘惑が上手だね、さすがインキュバス」
「ちが、う。これはお前の、せい」
はしたない声をこぼし恥ずかしげもなく刺激をねだり、激しく求めてしまうのは全部全部。
「お前の、せいだ。お前のこと、欲しすぎる、せい、あああつ」
ヒクついているそこに硬い熱が入ってくる感覚。待っていた刺激に快感に溺れた声をこぼす。
「俺を何度も誘惑して、本当にたまらない」
「ああ、いいっ。奥ゴリゴリ気持ちいいっ」
ぐちゃぐちゃと卑劣な音を立てて、宮崎のモノが出たり入ったりしている。その度にいい所を擦っていくからたまらない。自分からも腰を振って更に快感を求めてしまう。
「ああ、すごい柿本の中。吸い付いて俺の放してくれないよ」
「だって、ああっいい。気持ちいいっ」
いくっ、いくっ、と強くなる絶頂感に甘い声をこぼす。
「俺も、出すよ柿本の好きなのここに注ぐよ」
「あ、ああ、きてっ、宮崎の出して……ああああああっ」
腹の奥が熱いモノで満たされていく。中にたくさん出され、その快感でも更に果ててしまう。何度も止まらず迎える絶頂に喘ぎながら何度も宮崎の名前を呼び、また彼も俺の名を呼びながら熱い飛沫を放つ。快感でとろける脳内で、きっと俺もインキュバスなんていう血筋がなくても宮崎を選ぶんだろうなと、強く握ってくる手を握り返しながらそう思った。
――まだ一日しか経っていないじゃないか。
自然と捜してしまう彼、宮崎を見つけてはこの身体の疼きと先ほどから格闘している。ふと、視線を感じてか宮崎がこちらに顔を向けた。目が合った瞬間ドクン、と心臓が強く胸を打ち熱がガッと上がっていく。顔を背けてすぐに逸らしたが、胸の鼓動の速さはすぐには落ち着いてくれない。それどころか、目が合ったことで余計に身体に熱がこもって色んなところが疼き始めた。服の中では両方の粒がツンと存在を主張しているし腹の奥はヒクヒクと疼いている。目の前にある仕事に集中しないといけないと思いながらも頭の中では宮崎にこの疼く身体をめちゃくちゃにしてもらいたいという欲望でいっぱいだった。乳首に触れてほしい、思い切り吸って舐めてほしい。腹の奥を乱暴に突いて熱い液体を注いでほしい。
「柿本」
自分の名前を呼ばれてビクッと大袈裟に身体が揺れた。仕事中に変な妄想していたのもあるが、その声で誰に呼ばれたのかもすぐ理解できてしまったからだ。変な汗も滲んできたが、なんともない顔を装って呼ばれた方に視線を向ける。
「疲れてるんじゃない? 休憩しよう」
にこりと爽やかに笑ってそう言ったのは、こうなった原因である宮崎だ。こいつが近くにいるだけでより身体が変になるから必要最低限は近づかないでもらいたい。いや、遠くても目に入った瞬間に変になってしまうのだからもうどうしようもないのかもしれない。
「……今日中に終わらせたいものがある」
「別に今すぐ必要なものでもないよね。休憩してからの方が効率上がるんじゃない?」
確かに今の自分では集中力が欠けている。最もなことを言われて了承の意を込めて小さく頷いた。休憩スペースでコーヒーでも飲みながらこの熱が落ち着くのを待とう、と席を立ち目的へ向かって歩くが、なぜか後ろから宮崎も付いてくる。
「お前も休憩か?」
「そうだよ」
そうか、と納得したがこいつが傍にいたら落ち着く熱も落ち着かない。こうなったらトイレに引きこもるか。
そう考えていたところで急に腕を強く引っ張られ、近くでガチャンと扉が閉まる音が響いた。
パチリとつけた明かりは古いからかそれでも薄暗く感じる。独特の古い紙の匂いがしてここが資料室だと気づいた。デジタル化して今では使用頻度が少なくかなり古い資料を見たい時くらいしか訪れたりしない。何事かと押し込めた張本人である目の前の男に向かって口を開こうとしたができなかった。顔が急に近づいたかと思えばヌルッとしたもので塞がれたからだ。急なことなのにそれがなんだかすぐに理解でき身体は喜びに震えた。何度も角度を変えて薄い皮膚を擦り、そして遠慮なく舌を絡ませた。ニチャッとした音とお互いの荒くなっていく息が狭い空間だからやけに耳に響いて届く。舌を吸われたり歯をなぞられるたびに身体の奥が疼きもっと目の前の男が欲しくなる。
「わざとやってる?」
唇が離れて息を整えていると唐突に宮崎が口を開いた。
「なんの、ことだ?」
「今日、ずっと俺のこと物欲しそうな目で見てたよ」
言われて、カアーッと顔が熱くなる。疼く身体をなんとかしたくて気づいたら宮崎を捜して見ていたことは事実だった。だからと言って会社で満たしてほしいなんて考えてはいなかったが。
「しかも、色気ムンムンで見てきて俺のこと試してるのかなって思った」
「ち、違う」
「だろうね、でも柿本は無意識でも俺を誘ってたよね。ずっと甘い匂いで誘惑してきてたし」
「ゆ、誘惑だなんて」
「結構、距離があってもたまに柿本の匂いこっちまで香ってきたよ。そんな時絶対柿本と目が合ってた」
そう言われて今日一日のことを思い返す。もしかして、頻繁に目が合っていたのは視線を感じたからではなく俺が欲情するたびに漂うという匂いでなのか。そこまで考えて更に身体に熱がこもった。酷く恥ずかしい。
「今も、匂いがすごい」
スンスンと俺の首筋に鼻を擦りつけて嗅いでいる宮崎は当たり前かのようにそこに唇を落とし吸い付いた。
「あっ」
ちゅ、ちゅ、と何度も吸われ、期待から身体が疼く。こんなところで駄目だと言う自分と早く敏感なところに触れて気持ちよくして欲しいと言う自分がいる。宮崎に触れられるたびに前者の自分がどんどん小さくなっていく。
「ああっ」
すりっと既に反応している胸の粒を指先で擦られて甘い痺れが走る。指先が動くたびに堪えられず声も漏れた。
――乳首、気持ちいい。
初めは優しかったそれも調子を良くしたのか大胆に両方の粒を擦ったりカリッと爪の先で掻いてきた。
「あああっ」
敏感な先を両方擦られてビクビクと反応してしまう。あまりの気持ち良さに無意識に胸を突き出して宮崎の指を受け止めていた。コリコリ、カリカリと乳首を刺激されるたびになんとも言えない快感が下半身に向かって走る。
「ああ、も、吸って、吸ってくれ」
気持ちはいいがこれだけでは決定打な快感にはならず、どうにもならない深い快感が溜まっていく一方だ。たまらずシャツに手をかけインナーをたくし上げた。
「自分からしてってやっぱり誘ってる」
だって、もう自分でもどうしようもない。宮崎に触れられてから俺の身体はおかしい。奥が疼いて毎日でも宮崎のが欲しくてたまらなくなってしまった。
「お前のせいだ。お前が俺をこうした」
「それを言うなら俺だって柿本のせいでこうなってるんだけどね」
お互いのせいにしながら、こうなってしまったことの発端を思い出す。
その日、柿本は参加する予定のなかった親睦会という名のストレス発散会に無理矢理連れていかれた。初めは隅でただ烏龍茶をちびちび飲んで時間を潰していたがそれにも飽きてきて帰ろうかと思い始めていた頃、あの低いトーンで声をかけられた。いい声だと何人かの女性が騒いでいたが、なるほど近くで聞けば確かにいい声だ。低すぎず高すぎず聞き取りやすい声。それに負けないルックスが更に人気を高めているのだろう。女性にいつも囲まれているその理由がなんとなくわかった気がした。どうであれ自分には関係ないことだが。
「向こうで飲まないの?」
「……酒は苦手だし、大勢の人と話すのも苦手だ」
特にあんなに騒いでいる空間は、どうすればいいのかもわからない。すぐ去るだろうと思っていた男は何を思ったのか、柿本の隣に腰を下ろした。
「確かに人と話すの体力使うもんな」
驚いて思わず宮崎をじっと見つめてしまう。
「何、どうした?」
「いや、意外だと思って……」
いつも人に囲まれているような人間だから息をするように会話ができてしまう人種なのだと勝手に思っていた。
「俺でも人と話すの疲れるなって思うときあるよ。ただ表に出さないだけ」
「そうか」
「その点、柿本の隣はいいね」
言っている意味がわからずまたもやじっと見つめる。
「落ち着く」
「そ、れは……ありがとう?」
今まで会話らしい会話をしてこなかったように思うが、落ち着くと言われて嫌な気持ちにはならない。なぜそう思うのか不思議ではあるが一応礼を言うと「なんで疑問系」と小さく笑われた。
「そういえば前から気になってたんだけど」
「なんだ?」
「柿本って何か香水つけてる? 甘いやつ」
「甘い? たまにつけたりはするがどれもスッとした香りだが」
他の人がつけている香水と間違えているのではないだろうか。
「そっか、ちなみに今は?」
「つけていない」
つけるとしたら完全にプライベートで出かけるときだ。職場では基本つけない。匂いが嫌いな人もいるし、合わない人は周りの香水で体調を崩すこともあると聞いてから職場では無臭の制汗剤以外はつけないようにしている。これは完全に自己満足だが自分がつけた香水で不快にさせるよりはいいと思っている。
「汗臭いか?」
朝の支度で制汗剤はつける。だが時間が経てば経つほど効果は薄れてくるものだ。パッケージに記載されてある二四時間効果にどのくらいの信頼性があるのかは謎だ。
「ち、違う違うっ!」
訊ねれば、宮崎は慌てたように手を大袈裟に左右に振った。
「逆だよ。柿本はいつもいい匂いがするから……今も」
そんなことを言われたのは初めてで、なんと返したらいいのかわからず、烏龍茶を飲んでから「それは、ありがとう?」とつまらない返事をした。優しさなのか宮崎はまた小さく笑った。
それから話が弾むわけでもなく、宮崎は騒いでいる誰かに名前を呼ばれ「じゃあ」と離れて行った。その後すぐ帰ればよかったものの、なぜか俺は何度目かの烏龍茶を注文した。
それからそんなに時間がかからず解散となったが、いつも中心にいる宮崎の姿が見当たらず気になって周りを見渡す。
――トイレか?
いつもなら気にせず帰るだろう。だが、先ほど会話した宮崎を思い出してなんとなく俺はトイレに向かった。
「大丈夫だから」
「でも」
奥から宮崎と女性の声が聞こえて足が思わず止まる。
「気持ち悪いんでしょ? 送るよ」
どこか甘さを含んだ声はアルコールだけのせいではないだろう。一体どこに送る気なのか、わざとらしさに嫌気がする。それには宮崎もわかっているらしい。先ほどから「大丈夫、一人で帰れるよ」を何度も繰り返している。女性からの誘いにホイホイついていくような男ではないことになんだか少し安心した。
「なら俺が送っていこう」
流石に断り続けて疲れが見えている宮崎がかわいそうになり、ついしゃしゃり出てしまった。突然の登場に驚いた表情でこちらを見る二人にもう一度同じことを繰り返す。
「俺が送ろう。男性を送るのは女性では大変だろう」
「え、で、でも」
「あ、そうだね。柿本に頼むよ」
宮崎はすぐさま状況を理解し、俺の元へ近づいてくる。
「心配してくれてありがとうね。柿本が送ってくれるからもう大丈夫だよ」
そう言って笑顔を向ける宮崎はやはりどこかしんどそうだ。
俺が出てきたことで強く誘えなくなってしまったのだろう。女性は渋々ながらその場を離れていった。
はあ、と隣から大きなため息がこぼれるのを耳にした。
「柿本、本当ありがとう」
ホッとしたのかしゃがみ込む宮崎の顔色は先ほどより悪い。
「大丈夫なのか?」
その様子に流石に心配になり俺もしゃがんで宮崎の背中をさする。
「ん、アルコールだけならよかったんだけど、あの子香水がきつくてそれで変に酔ったみたい。一気に来ちゃった」
「なるほど」
確かに結構香りがきつかったな。去って行った彼女から人工的に作られた甘い香りがした。
「ごめん、寄りかかっていい?」
「ああ」
了承すると肩に遠慮がちな重みが加わる。
「あー、やっぱり柿本いい香り」
「……気持ち悪くならないか?」
「逆だよ。すごく落ち着く」
「それならいいが」
回復するならいいが、しかし先ほどからわかるほどスンスン嗅がれると何やら羞恥心が込み上げてくる。
「あ、汗をかいているから臭いと思うのだが」
「……言ったじゃん。いい香りだって、本当に何もつけてないの?」
「つけていない。あ、いや制汗剤はしている」
「でもこれは作った香りじゃない。すごく、甘い」
「一応、無臭なんだが……先ほども言っていたな。甘いのか?」
「ん、すごく甘くて……たまらない」
「宮崎?」
最後の言葉が小さすぎて聞き取りづらい。まだ店内なのでそれなりに騒がしいので声を出さないと届かない。聞き直そうと口を開こうとしたところで、何か生ぬるい感触が首筋をなぞった。ぞわり、と首から全体に向かって奇妙な感覚が走った。
「みや、ざき?」
「ねぇ、本当これ何?」
はぁはぁ、と息を荒げながら顔を上げた宮崎は先ほどまで真っ青だった顔が嘘のように赤く染まっていた。その瞳には先ほどまでにはなかった熱が込められているように見える。
「な、にとは……」
「柿本の匂い。落ち着くのに嫌に身体が熱くなる」
それは飲食していたアルコールのせいだと思うが。
「酒じゃない。柿本だ。いつも、そう……柿本の匂いが甘くて美味しそうで、おかしく、なるっ」
最後、若干叫ぶように言われてかと思えば、勢いよく宮崎の顔が迫ってきた。
「んっ」
ぬるっとした感触が今度は唇を何度もなぞっているのがわかる。宮崎のやけに高い体温と微かに香るアルコール。そして口内に侵入しては何度も舌先でいろんなところを乱暴になぞるそれに今まで体験したことのないゾクゾクとした快感が駆け巡った。
「はっ」
唇を離して大きく酸素を取り込む。お互い荒い息のまま宮崎が耳元で囁いた。
「ごめん、柿本。俺もう限界なんだ。柿本が欲しい」
何を言っているのかさっぱりわからない。わからないのに目の前にいる男に触れられている部分が熱くて熱くてたまらない。ゴリっと当てられている下半身の熱の存在は嫌でも予想がついてしまう。そして信じられないことに先ほどのキスで自分のまで同じように熱を灯してしまっているそれがヒクンと反応したのがわかった。
そこからどうやって行ったのかはっきりと思い出せない。気づけば広いベッドに押し倒され先ほどより荒々しく唇を交わしお互いの唾液を交換しながら乱暴に遮っている服を脱いだ。
「はっ、ああ」
宮崎が触れたり唇や舌でなぞってくるたびに言いようのない快感が自分の身体をグズグズにしていくのがわかる。こんなことは変だ。そうわかっているのに身体が言うことを聞かない。
「柿本、本当に甘くてどこもかしこも美味しい」
「んっ、そこは」
興奮からか、すでに軽く立っている乳首はまさに男のそれだ。女みたいに膨らんでもいなければ柔らかくもない。ただ、小さく主張しているそれを宮崎は当たり前かのように口に含んで転がした。
「ふっ、ああっ、ま、待て」
思ってもいなかった強い快感に身体が、下半身が揺れる。その小さな突起にこれだけの快感があるだなんて今まで知らなかった。舌先で粒を捏ねられては強く吸われ容赦なく甘噛みをしてきたその快感にみっともなく女みたいに声をこぼしてしまう。
「ああ、それだめだ。強い」
クニっと片方の乳首は指先で摘まれコリコリと刺激される。片方は舌で片方は指先で愛撫され初めての快感に気づけば涙をこぼしていた。気づいた宮崎がそれすらも舌で掬う。
「柿本は涙も甘いんだね」
そんなわけがない。そんなはずがない。涙は誰だって塩っぱい。もちろん自分のだってそうだ。宮崎の味覚がおかしいに決まっている。
「知らなかった。柿本がこんな甘くていやらしい乳首を持っていたなんて」
酷い誤解だ。俺の乳首は一般的な男の乳首だしもちろん甘くなんてない。なのにうっとりとした顔で宮崎はまたもや俺の乳首に吸い付いてきた。
「ふっ、ああ」
「どんどん甘くなる」
コリコリと刺激された粒はすでにピンと尖っており、更に快感を拾いやすくなった気がした。先ほどから与えられるビリビリとした快感に下半身の熱がどんどん溜まっていくのを感じる。
「ああ、両方は……」
両方の乳首を刺激されると更に快感が強まる。下半身から液体がこぼれ下着にシミをつけているであろうことがわかってしまう。乳首ばかりはおかしくなる。下にも刺激が欲しい。奥が酷く疼いてたまならい。
「気持ちいい? ここも物欲しそうにしているね」
「あっ、あああ」
既に完勃ちしているそこを下着越しとはいえカリカリと爪先でなぞられる。その快感に大きく声をこぼしながらガクガクと腰を揺らした。
「も、無理。奥、奥が切ない」
先ほどからずっと疼いて訴えかけているそこが不思議と湿っているのがわかる。早く欲しいと急かすようにヒクついている。
「奥? ……柿本ってもしかして男性が恋愛対象? 初めてじゃないの?」
少し硬くなった宮崎の声にどうしてだか不安を覚える。
「なんのこと……」
「もしかして、この甘い香りで他のやつも誘惑してこういうことしてるの?」
キュッと乳首を強くつねられる。
「ああ、何」
「だからここもこんなに敏感なんだ?」
キュ、キュ、と両方の乳首をつねられ先を爪でカリッと引っかかれる。
「ひっ、ああっだめ、それ」
乳首の先にダイレクトに刺激が加わり、その強い快感にみっともなく腰を揺らして喘ぐ。
「それ強い、からへん、になるっ」
「なりなよ。他のやつの前でもなってるんでしょう?」
「ああああっ」
バチバチと迫ってくる強い刺激に頭が沸騰しそうになる。疼いていた奥が更に疼き何かが弾けそうで怖い。
「ああ、くる……何かくるぅ、ちくび、くる……ああああっ」
止まらない刺激に溜まっていた何かがバチっと弾け、その拍子に何かがピュッと溢れでた気がした。息をみだしガクガク身体を震わせてなかなか消えない快感に酔いしれる。
「……柿本、お前の乳首から何か出て来たんだけど」
落ち着かない余韻の中、宮崎が何を言っているのか理解できなかった。
「ね、吸ってみてもいいよね」
俺が返答する間も無く宮崎はまた先を口に含む。
「ああ、も、ちくびだめ」
ぬるぬると舌がまとわり付き吸い付いてくる。それと同時に何かが吸い取られている感覚。それがまたビリビリと刺激してきて下半身を疼かせる。
「あああ、ちくびへん。ああああっ」
吸われるたびにまたもや熱くなっていく身体。終わりが見えない快感におかしくなりそうだ。
「柿本のミルク甘くて美味しい」
チューチュー吸いながら宮崎が何かおかしなことを口にする。だが、今の俺はそれすらもどうでもいいと思えた。
「み、やざき……た、のむ」
下着をずらし、ヒクついているであろうそこを差し出す。
「も、むり。奥が切なくてたえられない」
「はっ、すごいトロトロ……こんなにヒクついて男なら誰でもいいんだ?」
「し、らない。誰ともこんなことしていない……初めてだ」
「え、だってこんな……」
「お前が、初めてだ」
ジッと宮崎を見つめて言うと、何かを堪えるように黙り小さく「ごめん」と口にした。
「触るよ」
先ほどまで何処か硬かった声に優しさが戻り、ゆっくり慎重にその長い指先を中をなぞる。縁をなぞられているだけなのにゾクゾクとした快感に涎が垂れ落ちる。
「すごい。熱くてトロトロだ」
「ああっ、ああああ」
宮崎の指先は抵抗もなくあっさり俺の中に迎入れられた。指先で奥を何度かなぞられたまらない快感にだらしない声を漏らす。
「なんか慣らさなくても入りそうだけど……」
「いい。挿れて、宮崎っ、奥に……奥くれ」
もっと熱くて長くて硬い。そんなものを今まで求めたことなんてないのに、今は酷くそれが欲しくてたまらない。まるでずっとそれを求めていたみたいに。
「……後悔するなよ」
ゴムを装着しようとする宮崎を見て俺は咄嗟にその手を止めた。
「それはいらない、そのまま」
「え、でも……」
躊躇している宮崎に「たのむ」と口にすれば何かを決心したかのようにそのまま熱を当ててきた。抵抗もなく入ってきた熱は容赦なく中を刺激していく。
「ふ、ああああ、これっああすごい。気持ちいいっ」
バチバチと先ほどより強い快感が身体中を駆け抜ける。こんなの知らない。こんな快感は初めてだ。
「はっ、柿本の中すごい。熱くてとろけて、なのに強く締め付けてくる」
「お、く……奥が」
「いいよ」
宮崎は腰を引いたかと思えば、グッとその熱い棒でずっと疼いてたまらなかった奥を打ち付けた。
「ああああ、いいっ、そこいい」
「は、本当に初めてなの?」
「初めて……初めてだ、こんなの知らない、ああああっ」
「なのにここで快感拾えるってすごいね」
「ああああっ、もっともっと」
バチバチと快感が走るたびに俺のペニスからピュッピュッと何度も白い液体が溢れる。何度も甘イキを繰り返しては宮崎の熱をもっと飲み込もうと必死に自らも腰を振る。
「柿本、柿本」
宮崎も限界が近いのかどんどんスピードが上がってきている。
「あああ、いい。奥きて、出して」
「……出していいの?」
「出してっ出してっ、宮崎の奥に欲しいっ」
「ああもう、他のやつには絶対そんなこと言わないでよ」
「言わないっ。宮崎だけだからぁ、ああああっ」
「はぁ、出る。柿本出すよ、奥に俺の」
「出して、出してっ」
ビュルっと勢いよく俺の中を打ち付ける宮崎の精液に俺はガクガク身体を震わせて飲み込む。
――ああ、これだ。宮崎と口付けをしてから俺はずっとこれが欲しかったんだと理解した。ギュウっと中を締め付け宮崎のを無駄にしなようにと全て飲み込もうとする身体。ずっと身体がこれを求めていた。飢えていた部分がまるで満たされたような心地のいい感覚。
――ああ、幸せだ。
そのまま重くなる瞼。だが、そのまま閉じる間も無く、再度敏感なままの中を刺激される。
「ああっ」
「ごめん、柿本。柿本の中気持ち良すぎてまだ終われない」
射精したはずなのに、もう硬さを取り戻している宮崎のそれ。あられもない恥ずかしい音を躊躇なくこぼして快感を貪る。
「あ、そっそんな、頭変になるっ」
「なってよ、俺はとっくに変だよ」
「ああっ、イクの、止まんない」
「中ずっと痙攣しているね。ああ、気持ちいいよ柿本」
「イク、イクーっ、あああ、まて、イッてる、あああああっ」
止まらない快感に身体はより敏感になり頭はもう酸欠やら激しい感覚に受け止めきれず、何も考えられなくなってきた。
「ああ、いい。気持ちいい、ああっそこ好き」
ゴリゴリ中を擦られながらビンビンに立っている乳首を捏ねられる。その拍子にさっきからポタポタ溢れていた白い液体がピュルッと勢いよく溢れた。その出てくる感覚が酷く気持ちよくてそれだけでまた果ててしまう。
「ああああ、ちくびいいっ好きっ、奥ゴリゴリ好き。もっと、みやざきぃもっと」
止まらない絶頂にもう何を口走っているのかほとんど理解はしていない。ただその快感がたまらなくてもっと欲しくて目の前にいる男にねだってしまう。
「はぁ、柿本なんでそんなエロいの? さっきから萎えないし、止まらないんだけど。柿本、柿本っ。はぁ、また出す、出すよ」
「ああああっだ、して、な中だしてぇ」
そうやって一晩中、宮崎に耳元で飽きるくらい名前を呼ばれ濃厚な口付けを交わしながら何度も中に熱い液体を注がれては果てた。そしてそれがどうしようもなく幸せでたまらなかった。
あの後、空気と欲望にのまれてあんなことになってしまったのを酷く悔いたのに。
その日からおかしくなってしまった。宮崎に快感を覚えさせられたせいか、それともあの強すぎる快感が自分の身体に変化を生じたせいか、兎にも角にもその日から宮崎が近くにいるだけでその存在を感じてしまうだけで自分の身体は意志とは関係なく勝手に奥が疼き始めるようになってしまった。駄目だとわかっているのに、どうしても欲しくなってしまう。あの強い快感を思い出しては身体が熱をもつ。
「吸ってもいいけど、また言うの?」
スリッと乳首の下側を指先で撫でられて、切ない吐息が溢れる。
「忘れてくれって」
「はっ、ああっ」
スリスリと乳首を直接擦られて身体が快感に震える。
――忘れてくれ。
確かにあの後、目が覚めた宮崎に一番に告げた言葉はそれだ。
自分でも酷いと思うが、あんな破廉恥ではしたない自分をなかったことにしたかった。いくら強い快感だったとしても同性相手に何度も催促をして求めてあられもない声をこぼしてしまうなんて自分のしてしまったことが信じられなかった。
自分でマスターベーションをしないことはないが、ほとんどしないと言ってもいい。それも周りが言っているほど気持ちよくなく、自分の中であまり燃え上がらず終わることの方が多いからだ。なのでその行為事態、途中からやめてしまった。男は溜まるというがそれは自分には全く当てはまらないことだった。
悩まなかったことはない。自分の身体がどこかおかしいのかもと思ったが、中には性に興味がない男性もいると聞いて、きっと自分はそれなんだと勝手に思っていた。
あの日、宮崎に触れられるまで――。
「い、言わない。言わないから」
恥ずかしすぎるあの過去を忘れてもらいたい。だけど、今またあの快感を得られるというのならもう忘れてくれとは言わない。早くその赤く尖った先を宮崎の舌で舐めて吸って噛んでほしい。もうどうしようもなく宮崎から得られる快感にどっぷり浸かってしまっている。
「ふーん?」
まだどこか納得できていない顔をして宮崎はそれでも俺の願いを叶えてくれた。
ツンとく目立つそこに軽く唇を当てたと思ったら、すぐぬるっとした舌先をだしてペロペロと硬い粒と遊び始めた。
「は、ああっ、あっ」
ぬるぬるした舌先が気持ちいい。先も尖って敏感になっているからかより快感を拾ってしまう。しばらくペロペロした後、ジュッと強く吸われてそれにも大きく反応してしまう。欲しかった快感にどんどん貪欲になって目の前の男から貰える刺激を求めてしまう。
「ああ、いい。先、気持ちいい」
「柿本は快感に弱いね」
軽く触れただけで顔を蕩けさせて足もガクガク揺れているよ、と胸の先を両方コリコリと指先で擦りながらそんなことを囁いてくる。
「ああ、だって気持ちいい」
自分でしたってここまで気持ちいいことはなかった。何が気持ちいいのかずっと理解できなかった。それをやっと理解できた。できてしまった。この男のせいで。こんなこと一度知ったらやめられるわけがない。
「あ、もっともっと」
もっと強い快感がほしい。またあの時みたいに腹の奥が疼く。既に硬く反応している下半身を宮崎に当てて先をねだった。
「本当誘うの上手いね」
乳首を口に含んで吸われたと思えば、ぬるぬると刺激してくる。
「ああっ、いいっ」
片方は指の腹で擦られ、片方は口に含まれ刺激される。両方の刺激がたまらず、またどうしようもない声をこぼしてしまう。
「きもち、あああっ」
深い快感がどんどん腹に溜まっていく感覚。それが乳首を刺激されるたびにどんどん深く強くなっていく。
「はっ、あああっ」
カリッと優しく歯で乳首を甘噛みされて、反射で身体が大きく跳ねた。それと同時に乳首が熱くなにかが出てきそうな感覚に落ちる。
――ああこれ、くる。
ジュルジュルと厭らしい音を立てながら乳首を吸われ、もう一つは爪でカリカリと刺激され無意識にカクカクと腰を揺らして快感を追い求めてしまう。
「きもちっ、ああでるっでるっ」
乳首と下半身がどんどん熱くなり、その先が近いことをなんとなく察してしまう。
「ああっ、乳首イク、イクッイクッ」
そう告げたからか宮崎が更に強く吸い付いてきた。それと共に乳首から熱い何かが溢れ出る感覚。それを抵抗もなく目の前の男は夢中になってゴクゴク飲み込んでいる。その吸われる感覚も気持ちよく酷く高揚してしまう。口に含まれていない片方はキュッと指先で摘まれそこからポタポタ溢れて宮崎のスーツに染みを作っていっているのをボーッと見つめていた。
「は、甘い」
乳首からやっと唇を離したかと思えば、宮崎はスリスリと自分の顔を擦り付け、スンスンと匂いを嗅いできた。その拍子にグリッと足に当たった宮崎のソレにズクンと腹の奥が切なく反応した。
「みや、ざき」
欲しくて名前を呼べばどうしようもなくその声は艶にまみれていた。
「#会社_ここ__#でここまでするつもりなかったんだけどな」
そう言いながらも宮崎は硬くなったそこを擦り付けるのをやめない。
「い、挿れてくれ」
その熱に、身体の疼きに、耐えられずとうとう欲を口にしてしまった。
「あの時もそう言ってたね。……本当に誰にでも言ってるわけじゃないの?」
見つめてくる宮崎の目に熱いくらいの欲情を感じる。それがなぜか酷く嬉しくてたまらない。
「誰にだ? 俺はお前しか知らない」
自分からも宮崎に寄りかかり、真似てスリスリと擦り付けてみる。
「俺だけ?」
「ああ、宮崎だけだ」
「……じゃあ、柿本俺のものになってよ」
――宮崎のもの?
顔を上げれば、さらに熱のこもった目で見つめられる。
「俺のものになってくれるなら、毎日気持ちよくしてあげる」
スリッと敏感な乳首を撫でられ、キュッとつねられる。
「あっ」
「ここも俺のでたくさん擦って気持ちよくしてあげる」
腹を優しく撫でられお互い反応して硬くなっているそれをゴリっと擦り付けてきた。
「ああっ」
想像してお腹がキュウと反応した。
「どうする?」
ごくりと、大きな唾を飲み込む。
「宮崎のものになったら、その……俺の中で」
言いにくくて言葉を濁すと察した宮崎がああ、と頷いた。
「柿本の中に注いであげる。俺の精子をいっぱい」
そう囁かれてキュンキュンと期待からまた腹の奥が切なく反応した。思わず宮崎のその無防備に近づけられた唇に吸い付く。
「なるぅ、宮崎のもの、になるから」
俺も宮崎がほしい。俺が今まで知らなかったこの激しい欲望を満たして埋めてほしい。誰でもない宮崎に。
「本当、俺の柿本は最高にエロくてかわいいね」
そう言って笑った宮崎はいつも周りに見せている笑顔より自然で酷く優しかった。
「母さん、もう一度言ってくれないか」
乳首から溢れ出る白い液体が怖くて、本当なら病院に行くべきだがやめた。あのあと検証してみたがどうやら宮崎によって絶頂させられた時にしか乳首から液体が溢れでることがないとわかったからだ。そんなこと証明するために病院でするわけにはいかないし、別に生活に問題ないならいいと思っていた。
だが、ここで問題も生まれた。
飲むのだ。宮崎が美味しそうにそれはもうゴクゴクと。
今のところ身体に異常は見られないが、男の胸から出てくる液体なんて怖すぎる。飲むのはやめてくれと言ってみたが、宮崎にとっては甘く美味しいらしく、むしろ定期的に飲みたいとまで言ってきた。それでも怖いので液体を保存して、ツテを辿って成分を内密に調べてもらうことにした。宮崎は酷く嫌がったが、調べないならもう飲ませないと強く言えば、仕方なく折れてくれた……そんなに飲みたいのかナゾ液体。
結果、特に変な成分はなく母乳に近いと言われたがよくわからない成分がいくつか見られ、一つはどうも興奮させる作用のあるものが入っているらしい。
言われてみれば、宮崎があの液体を飲んだ後は激しく興奮していたように思う。何度果てても萎えずに連続してできていたのは、なるほどそういう事かと思ったが、しかし、なんでそんなものが俺の胸から出てくるんだとという疑問にぶつかり、あまり期待はせずに家族に電話でそれとなく聞いてみることにしたわけだが――。
「だからインキュバスよ」
「ちょっと待ってくれ母さん。なんだそのインキュバスって」
「え、知らない? ほら夢の中に現れてエッチなことする悪魔よ」
――正直、母親の口からエッチとか聞きたくない。
「いや、その存在は知っている。その悪魔がなんなんだ」
「だから、我が家ってそのインキュバスの血が混じってるのよ」
母が言っていることの意味がさっぱりわからない。
「いや、でも夢の中で、その、そういうことは今までなかったが」
誰かの夢に侵入したことがなけれが、そういう性に関する夢を見たことがない。元々、夢はあまり見ない方だ。なのにインキュバスとは?
「時が経つにつれそこはどんどん変わってきたんでしょうね。今じゃもうその血も薄くて普通の人間として生活してるし。ただ、稀にインキュバスの力を持った先祖返り? みたいな子が生まれてくることもあるらしくて……ほら小さい時教えたでしょう? 私たちインキュバスの血が混じってるからねって」
「……知らない」
「あんた信じてなかったもんねー」
到底、現実とは思えないことを電話口で言われ身体が違う意味で震えてくる。横で聞いていた宮崎はそんな俺を安心させるためか俺のコメカミに唇を落としながら背中を優しく撫でてくれた。
「そうね、聞いた話だと相性のいい相手を誘惑したり……ああ、あと相手の体液で体力や生命力が回復するって聞いたわね。そこはインキュバスっぽいけど、でもそれも人伝だからとこまで信憑性があるかは謎よね」
「その、言いにくいんだが胸から何か出てくるとか聞いてないか?」
「胸から? なぁに、おっぱいでも出たの? ……なんて冗談よー」
黙っている俺の様子に母はこの冗談はウケなかったと捉えたのだろう。だが実際の俺は驚きすぎてただ固まっていた。
「そうね、小さい頃に聞いたからうろ覚えだけど、そういえば相性がいいとたまに相手をその気にさせるために女性みたいにおっぱいが出るって言っていたかもねぇ」
「それは……」
すごく納得がいく。俺は無意識に宮崎を誘い、断れない状況に持っていくために興奮作用のあるミルクを胸から出していたということか。酷い事実だが納得ができてしまう。そして一番の納得は、宮崎に奥深く挿れられ中に出された時だ。あのなんとも言えない満たされたような感覚あれはそういうそういうことなのかもしれない。
ただ、引っかかる点が一つある。
「その、インキュバスってその性行為をして相手の生命力とか吸い取るんじゃないのか?」
だったら宮崎が危ない。あれからほとんど毎日と言っていいほど致している。生命力を奪っているのだとしたら、最悪早死になるのでは?
そこまで考えて恐ろしさに目の前が真っ暗になった。
「あら、相手の生命力を奪ったりなんてインキュバスにはできないわよ」
「え?」
「インキュバスの力って相手をそういう気持ちにさせるのが上手いだけなのよ。それも誰でも良いわけじゃないの。相手を選ぶから相性がいい人に巡り合えなければ力なんて使わないまま生涯を終えることだってあるのよ」
「え、でも母さんさっき生命力を吸うとか……」
「いやあね、吸うなんて言ってないわよー。回復するって言ったの。でもそれ多分思い込みなんじゃないかしらって思うのよね」
――お、思い込み……。
「相性がいいとすごく満たされた幸せいっぱいって気持ちになるらしくて……それを良いように捉えて何かが回復したんだって思い込んだんじゃないかなって思うのよ。だって生命力が回復しただなんて証明のしようがないじゃない」
――い、言われてみれば確かにそうだ。
「それに本当に生命力が回復したんだとしたら今も死なないで私たちのご先祖さま生きていないとおかしいでしょう?」
それすらどこにも確証はないが確かに母の言う事の方がなんとなく納得できてしまう。自分がそうであってほしいと思っているからかもしれないが。しかし、そうかだったら宮崎は大丈夫なんだなとホッと胸を下ろす。そんな俺の様子に宮崎はまた唇を落としてきた。安心させたいからなのかもしれないが、そろそろ変な気持ちになってくるからやめてほしい。電話の向こうにはこれからも付き合いのある親がいるんだぞ。
「大丈夫よ。だからもし、そんな運命の人に出会えたなら大事にしなさいな」
最後にそう笑いながら締めくくられ少し考えたのちに深く頷いた。もちろん大事にするに決まっている。しかし、それを母親に告げるのも色々堪えられないので黙っておく。
「ちなみに母さんは女性だからインキュバスじゃなくてサキュバスなんだけどね。自覚ないからなんちゃってサキュバスー」
楽しそうに電話の向こうで笑っている母に若干呆れるが昔からこうなので既に諦めている。
軽く礼を告げてまた連絡することを約束させられ通話を終えた。なんというか今までで一番濃い会話だった気がする。
「インキュバスって?」
先ほど聞いた内容を告げるべきか一瞬迷ってしまう。もしインキュバスの血のせいで宮崎が一緒にいてくれているのだとしたら、いつかその力が薄れたとき宮崎は俺から離れて行ってしまうのだろうか。
「そ、そのすまない。どうやら宮崎が変に興奮するのは俺の体質のせいらしい」
そこから、大体の説明をしたが宮崎はそうなんだ、と頷いてあまり強く興味を示さなかった。
「い、嫌じゃないか? 気持ち悪いとか」
こんな体質でなければ、宮崎は普通の生活を送り恋人ができて結婚をしていたかもしれない。
「あのさ、俺柿本だけなんだよね。こんなに一緒にいられて生活できるのって」
少し暗い表情をする宮崎の顔が辛くて思わず腕を伸ばして抱き締める。
「柿本が変だと言うなら俺だって変な体質だよ。他人の香りが本当にしんどくて子供の頃は今よりもっと酷かったんだ」
相変わらずスンスンと隠すことなく匂いを嗅ぐ宮崎は小さくそれでもはっきりした声で告げた。
「吐いたことも少なくなかったよ。しかもそれ、家族ですら受け入れられなかったからね」
そうして諦めてすぐに一人暮らしを始めた。だけどそれも難しかった。
「安いアパートを借りたんだ。お金なかったし。でも今度は、その部屋の香りが無理だった」
絶望したと泣きそうな声で漏らした宮崎を俺はたまらず強く抱きしめた。
「それでも人の中に入らないと生活できないから頑張ったんだ。匂いになれるために色んなの嗅いだよ」
何度も吐いていっそ死んだ方がいいのではと考えたこともあったと言う。
「かなり病んでたんだろうね。他の人には理解されないことだし自分が我慢するしかないって思い込んでた。でも柿本が違うって教えてくれたんだよ」
「……俺が?」
「たわいのない会話だった。俺がついきつい香りがダメで吐いちゃうこともあるって言ったとき、みんな驚いてはいたけどそこまで深く気にしてなくて。柿本だけだったんだ、次の日から香水つけるのやめてくれたの」
「……気づいていたのか」
「すぐ気づいたよ。柿本は近くにはいたけど、話に加わってなかった。なのに俺のそんな話を聞いて行動を変えてくれた。すごく嬉しかったんだ。それから柿本は俺の特別」
そう微笑まれて、なんだかどうしようもなく口付けをしたくなった。宮崎もそんな俺に気づいて受け入れるように瞳を閉じる。柔らかな感触を薄い皮膚で堪能し離れてはくっつき離れてはくっつきと甘い唇を堪能する。
「……でも途中から、柿本から甘い香りがしてくるようになって、また香水をつけ始めたのかなと思ったんだ。でもそれはやけに甘くて全然気持ち悪くもならない。むしろ変に高揚して……もしそんな香りがあるなら教えてもらおうってずっと機会を伺ってた」
「それであの時聞いてきたのか」
「結果は残念だったけどね、柿本の体臭ならもうずっと俺のそばに柿本がいてくれないと無理ってことだし」
グイッと押し倒され俺は重力に逆らうことなく座っていたソファの上に倒れる。
「宮崎?」
「だからインキュバスとか俺にとってはどうでもいいんだよ。俺を救ってくれたのはインキュバスじゃなくて柿本だから」
そう宮崎に言われた瞬間、今までの面白味のない自分でもいいんだと、何度も後悔していた自分が救われた気がした。
「しかし、インキュバスとはさすが柿本。予想の斜め上をいくよね」
「いや、これは俺のせいでは」
「まあ、そうなんだけどでもそうか。そうなると俺はずっと柿本に誘惑されてたってことだよね」
「そ、それは……む、無意識なんだ。わざとでは」
「いいんだよ、嬉しいから」
そんな宮崎は本当に嬉しそうに俺に何度も唇を落としてきた。
「俺は一生、誰かと一緒になれないって思っていたから。他の誰かじゃなくて俺を誘惑してくれて嬉しいんだ、誰でもない柿本に」
舌が唇をなぞり、うっすら開けばすぐその隙間からヌルッとした舌が侵入してくる。相手を求めてどんどん激しく貪る口内に息が乱れ熱も同じように高まっていく。
「はっ、柿本はやっぱり全部甘くて美味しいしね」
「んっ」
いつの間にか宮崎の手が胸元に移動し、すぐに俺の弱点を見つけ集中してそこを擦り上げては刺激してくる。
「ああっ、みや、ざきっ」
「ほらここ擦っただけで更に甘い匂いで誘惑してくる」
シャツの上からなのに硬い宮崎の指先が敏感な胸の先を何度も擦り上げてくるたびに脳が痺れて快感に簡単に呑まれてしまう。わかりやすくそこはぷっくり膨れ更に摘みやすいように形を変えている。
「ああ、だめだ、そこ……んっんっ」
「なんで気持ちいいでしょう?」
「気持ちいい、から。ああっ、駄目だ欲しくなる」
先をグニュグニュと潰されるたびに甘い刺激が下半身へとすぐ降りてしまう。腰がブルブル震え腹の奥はさっきからキュンキュン反応して宮崎の熱を求めてしまっている。
「いいよ、もっと欲しがってよ。柿本は俺のもので俺は柿本のものなんだから」
「あ、あああああ、だめイクっ、乳首イクっ」
尖っている先を容赦なくコスコスと扱かれ、シャツの上からだというのに俺はあられもなく簡単に果ててしまった。ジワっと胸もとが湿りそれに気づいた宮崎が「もったいない」とシャツの上からジュッと吸ってきた。
「ああ、あっ熱い。そんな強く吸われたらまたイクっ」
宮崎はいつもしこいくらい乳首を刺激してくる。そのおかげなのか今では宮崎に刺激されるとすぐ乳首で果ててしまう身体になってしまった。
「ああ、奥、奥が切ない」
「いいよ、たくさんあげる」
唇で何度も首筋に吸い付きながら優しい手つきで下を降ろし、既にヒクついてトロトロなそこを指先でなぞる。
「もうトロトロだ。そういえばローションを今まで使ったことがないけれど、これもインキュバスだからなのかな」
「んっ、もう挿れ、てぇ」
待てなくて腰を揺らしてヒクついているそこが見えやすいように指先で開く。
「本当に誘惑が上手だね、さすがインキュバス」
「ちが、う。これはお前の、せい」
はしたない声をこぼし恥ずかしげもなく刺激をねだり、激しく求めてしまうのは全部全部。
「お前の、せいだ。お前のこと、欲しすぎる、せい、あああつ」
ヒクついているそこに硬い熱が入ってくる感覚。待っていた刺激に快感に溺れた声をこぼす。
「俺を何度も誘惑して、本当にたまらない」
「ああ、いいっ。奥ゴリゴリ気持ちいいっ」
ぐちゃぐちゃと卑劣な音を立てて、宮崎のモノが出たり入ったりしている。その度にいい所を擦っていくからたまらない。自分からも腰を振って更に快感を求めてしまう。
「ああ、すごい柿本の中。吸い付いて俺の放してくれないよ」
「だって、ああっいい。気持ちいいっ」
いくっ、いくっ、と強くなる絶頂感に甘い声をこぼす。
「俺も、出すよ柿本の好きなのここに注ぐよ」
「あ、ああ、きてっ、宮崎の出して……ああああああっ」
腹の奥が熱いモノで満たされていく。中にたくさん出され、その快感でも更に果ててしまう。何度も止まらず迎える絶頂に喘ぎながら何度も宮崎の名前を呼び、また彼も俺の名を呼びながら熱い飛沫を放つ。快感でとろける脳内で、きっと俺もインキュバスなんていう血筋がなくても宮崎を選ぶんだろうなと、強く握ってくる手を握り返しながらそう思った。
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