裏ルート攻略後、悪役聖女は絶望したようです。

濃姫

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思惑(しわく)は交わる

その後の彼ら…【ラクロス視点】

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 「へぇ…、で、その男がシルティナに掴みかかったんだね」
 「つ、掴みかかったと申しますか…、そのっ」

 深夜を超えた時間だというのに、通信魔道具を用いて画面越しに報告を行っていた護衛。もちろんその通信相手とは主君(しゅくん)であるオルカのことであり、今まさに彼は命がけの報告を行っていた。

 オルカの駒となる際に刻まれた刻印(こくいん)により虚偽(きょぎ)の報告をすれば直ぐ様オルカに伝わる仕組みになっているため、今日起きた全てをありのままに伝えなければならない。

 しかしそれは結局の所自分の死へと繋がる内容を報告すること同等(どうとう)でしかないのだ。全てはオルカの采配によって決まる。男は心臓の拍音(はくおん)をハッキリと聞き取ることが出来る程に緊張していた。

 「なに? ハッキリ言ってくれなきゃ困るんだけど」
 「…、聖女様に対し『薄汚いガキ』、『ぶっ飛ばす』、『ゴミ溜めに投げ捨てる』等の万死に値する罵詈雑言(ばりぞうごん)を吐き捨てました」

 ビキッ…ツ……、、

 通信魔道具を介してですら伝わる神力の波動(はどう)に圧倒される。魔道具越しですらそうなのだろうか、直接波動を受けたあちら側の様子は言うまでもないだろう。

 「もちろん殺したんだよね…?」

 主君の問いに用意していた答えが声に出ない。もしここで「いいえ」などと答えればその時点で廃棄処分が決まるだろう。何とか許される免罪符を加えなければ…、

 「処理しようと構えた所、聖女様が二度静止なされ叶いませんでした」
 「ふぅん…、シルティナがねぇ…」
 
 仮にも聖女の名前を神官がさも当然かのように呼ぶことにもはや違和感はない。考え込む様子を見せるオルカに対して、男は何とかして命を繋げたとドッと汗を吹き出していた。

 男のそんな状態などどうでもいいのか、オルカはじっと男を見つめ廃棄処分するかで悩んでいった。シルティナを罵倒した人間を即座に処分しなかった無能さには腹が立つが、シルティナ自らが静止したとなれば話は別だ。

 「…シルティナの様子は?」
 「門番に呼び止められてからは常時静観なされておいででした。しかし後ろで入場を控えていた貴族の少女を見かねて静止なさいました」
 「あぁ、なるほどね」

 きっとシルティナは自分がわざと招待状を渡さなかったことに気づき余計な努力はしたくなかったのだろう。彼女の考えが手に取るように分かり自分に怒りを感じているだろう彼女をとても愛おしく思う。

 しかしその一方、シルティナを罵倒し追い払った門番、しいてはそのカジノ会場への怒りは募(つの)る。報告が終えた後、通信魔道具を切ると続いてあるへと回線を繋げる。

 自らが手を下(くだ)して生(い)き埋(う)めにしてやりたいが、こういうものはその分野の人間に任せるに限る。その分シルティナへ構う時間が増えるのもまた事実だ。

 ジーー…、ジジッ、ぽわんっ

 相手の画面が提示され、その画面の背景があいも変わらず血で染まっていたことに眉を顰(ひそ)める。そして相手も同様。通信に応じた割に露骨に毛嫌(けぎら)うような顔を見せた。

 「いい加減身綺麗ぐらい覚えろ。視界が汚れる」
 「ハッ、よく言うよね。自分だって大して変わんないもんいつも見てんでしょ」

 ラクロス・フェルナンド。奴の口先に乗る訳では無いが、苛立ちは当然募る。お互いが同じだけに感じてしまう、同族嫌悪。

 シルティナのような幸福感を与えてくれるわけでもなければ、他の雑多のように無の感情とも違う。存在するだけで不快感を覚えなければならない使いにくい人間だ。

 「戯言(ざれごと)はいい。お前如きに使う時間もない。アドマニア領地にある裏カジノを明日までに消せ」

 「理由は?」
 「シルティナを罵倒(ばとう)した門番がいる。それと招待状を持っていないという下(くだ)らない理由で追い払った」
 「へぇ…、ナニソレ。最高にムカつくじゃん」

 報告を受けた時のオルカと同様、怒りを滾(たぎ)らせたラクロスは丁度手に持っていた雑党(ざっとう)の残りの頭を潰し脳の残骸を巻き散らかした。

 奴独特の戦闘スタイルは自分と相性が悪く、豪快に相手を殺し後先を考えないその手刀(しゅとう)にはほとほと嫌悪が湧き上がる。

 「お前の私情(しじょう)はどうでもいい。さっさと動け」
 「はいはい。言われなくてもやるって。てか、下手(ヘタ)に手下(てした)動かせない分際は指くわえて黙っといてくれる?」

 あからさまな挑発と言えど、気持ちの良いものではない。奴の言う事が的を得ているということもあるが、単純にコイツに挑発された事実が気に食わない。

 「…お前との関係は折(おり)を見て精算するつもりだったが、今すぐ立場を分からせてやろうか?」

 「うっわぁー、仮にも聖職者(せいしょくしゃ)が言っていい言葉じゃないでしょ。まぁ安心してよ。その時が来たら|《俺》が分からせてあげるからさ」

 軽口(かるくち)で返されるが、その実何方も本気で考えているのだからある意味お似合い同士だろう。

 今はただお互い使から放置しているだけで、時期を見れば消すつもりでいる。そもそもシルティナに恋慕(れんぼ)している時点で消したいというものだ。

 互いに生産性のない会話が生まれる脳のなさを感じ、ブチッ…と少々乱暴に通信を切る。後始末は全て奴に押し付けて自分はシルティナの帰りを待とうと机に溜まっていた書類へ手を付けた。

 夜も遅く手元の灯(あか)りに照らされながら、無事帰ってきたシルティナへの躾に身を馳(は)せながら…。
 
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