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悪役聖女の今際(いまわ)
小さな灯火
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「くっ…、ッはぁ。シルティナ…っは、くッ」
魔法で灯された光だけが地下の部屋に存在し、照らされた箇所には鎖で繋がれ男達に貪り喰らわれる少女が啼(な)いている。
「やぁ…あ。いやっ、もうやめて…ぇ」
もう嫌だ。やめてほしい。これ以上私の身体を汚さないで…っ。そう幾ら願っても、星に願いは届かない。幾日も幾日も、身体の内側から犯されていく。
複数人の男の手が肌を這えずり、私を溶かしていく。身勝手な熱に焦がされ、塵となるまで燃やす。魔法で作られた首輪が私を繋ぎ、暗い地下が私の居場所。私は、ただ平凡に生きたかっただけなのに…。
#####
爆発的な大ヒットを記録した恋愛小説『アルティナの真珠』。若い年代に広まりアニメ化、漫画化が次々に決まった。
取り替えられた本物の王女が、本来あるべき立場に立ち複数のキャラに寵愛を受けるストーリー。様々な悪役が刺激を入れ困難を乗り越えハッピーエンドを迎える。
妹の強い薦めで読まされていた小説だったけど、どのキャラもあまり好きにはなれなかった。私の好みは片田舎で皆に頼りにされている人だ。顔が整っていなくても、出自が高貴じゃなくても、一途に愛してくれる人がいい。
そんな『純粋』な愛を夢見ていた私は、突然の腫瘍癌で二十歳で亡くなった。怖くなかったと言えば嘘になる。それでも、家族にか囲まれて死ねたんだから大きな後悔はない。
そして何の因果か、私は転生した。それも『アルティナの真珠』の悪役キャラ、聖女シルティアラに…。このキャラの設定は世界唯一宗教とされるメシア教の教皇が後継人に、最も神力を持つ女性であり、王女が本物であることの証人として立ち向かう役割を持つ。
だけどこのキャラの重要性はそこじゃない。彼女は幼い頃から聖女とした教会に囚われ、自由がなかった。そんな彼女は自由気ままな王女に憧れを抱き、遂には彼女になりたいとすら思ってしまう。
そして教会の不正と共にその場で生きたまま焼き殺されるのだ。誰も彼女の死を悲しまなかった。『完璧』でない聖女など、道端の石より存在価値は低いのだ。
誰もが誇るよう言ったシルクの髪も、録に日光に当てられなかった白肌も、全てが焼き爛え、人として死なせてもらえなかった。
最初は分からなかった。ただ全く異なる世界に記憶を持ったまま誕生したことによる不安があっただけ。それでもまだ怖かったけど、五歳の頃偶然教皇の目に止まってしまったことで自分の運命(さだめ) を知った。
それからは今にも餓え死にそうな孤児院から豪華絢爛な教会本拠地に暮らすようになったけど、死ぬと決まっている未来にいつも怯えていた。
毎夜悪夢に怯え、食事も満足に通らない。一日が過ぎるごとに、死の感覚が鋭くなっていく。願いとは裏腹に増え続ける神力も、恩人と慕う人達も、全て投げ出してしまいたい。
私が否定し続けても、物語が始まってしまえば衝動に駆られてしまうかもしれない。生きたまま焼き殺されるも、誰も私の死を看取ってくれないのも、…嫌だよっ。
この世界は命が軽い。寄付金を積んだ貴族は瀕死の患者より優先される。小説で王女が湖に落ちた際緊急で私を呼びつけたけど、ずっと前から私を待っていた人がその間に何人と死んだことだろうか。
孤児の命は書類上の数字で、貴族子息の命は宝石より重い。私は孤児出身だけど類い稀なる神力でこの座に座っている。
存在を神格化され、息を休める暇がない。こんなの、何処が生きているというのだろうか。まるで生き人形だ。いつ捨てられるかわからない恐怖に、愛想笑いを浮かべながら誰も信じられない。こんな地獄が、あと何年続くのだろう…。
教会の信者にどれだけ崇められようと、私の心はいつも恐怖に縛り付けられている。神力のせいで体調を崩すこともできず、心の疲労だけが溜まる。
綺麗な衣装を纏い、黄金の髪飾りを身につけ、最高峰の宝石をはめようと、その分だけ重りが乗せられたようになる。誰も私を対等には扱ってくれない。『神の代理人』として崇めるか、『商品』として価値を推し量るか。
あぁ、なんて酷い世界だろうか。最近は疫病に苦しむ人を見ても心が動じなくなってしまった。私が作り替えられていく。消耗しきった心が悲鳴を上げて、泣いている。
#####
聖女に就任して五年。聖地巡りが終わり、一年ぶりの休みですら何をしていいか分からず教会の庭園を散策する。御付きの人の視線が痛い。息苦しい。
ピィ…ッ、ピィイ…。
草影から聴こえた弱った鳴き声の方へ足を変える。掻き分けて進むと致命傷を負った蒼い鳥。鳥の部類だと大きい方だろうか。最初は興味半分だった。だけど、死に際ですら折れない鬱金(うこん)の瞳に、久しぶりに心が揺れ動かされた。
「…大丈夫だよ。助けるから」
思えば自分から神力を使ったのはこらが初めてな気がする。いつもは教皇陛下の指示のまま、従っていたから。みるみるうちに傷は塞がり、自慢の蒼い羽に光が戻ったいく。まだ警戒心があるのか用意には近づいてこないけど、その距離感が私は心地よかった。
「もう自由だよ。飛んでお行き」
蒼い鳥を抱き抱え、天に向けて手を離す。するとどうだろうか。太陽の光を反射させて、その蒼い翼を大きく広げた。
眩しくて思わず右手で遮ったけど、本当に綺麗だと思った。きっとあの蒼い鳥が、私の永遠の『憧れ』になることを何故だか予感できている。
たとえ運命に流されようと、小さな抵抗の火が消えませんように。そう祈って、私は部屋に戻った。
魔法で灯された光だけが地下の部屋に存在し、照らされた箇所には鎖で繋がれ男達に貪り喰らわれる少女が啼(な)いている。
「やぁ…あ。いやっ、もうやめて…ぇ」
もう嫌だ。やめてほしい。これ以上私の身体を汚さないで…っ。そう幾ら願っても、星に願いは届かない。幾日も幾日も、身体の内側から犯されていく。
複数人の男の手が肌を這えずり、私を溶かしていく。身勝手な熱に焦がされ、塵となるまで燃やす。魔法で作られた首輪が私を繋ぎ、暗い地下が私の居場所。私は、ただ平凡に生きたかっただけなのに…。
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爆発的な大ヒットを記録した恋愛小説『アルティナの真珠』。若い年代に広まりアニメ化、漫画化が次々に決まった。
取り替えられた本物の王女が、本来あるべき立場に立ち複数のキャラに寵愛を受けるストーリー。様々な悪役が刺激を入れ困難を乗り越えハッピーエンドを迎える。
妹の強い薦めで読まされていた小説だったけど、どのキャラもあまり好きにはなれなかった。私の好みは片田舎で皆に頼りにされている人だ。顔が整っていなくても、出自が高貴じゃなくても、一途に愛してくれる人がいい。
そんな『純粋』な愛を夢見ていた私は、突然の腫瘍癌で二十歳で亡くなった。怖くなかったと言えば嘘になる。それでも、家族にか囲まれて死ねたんだから大きな後悔はない。
そして何の因果か、私は転生した。それも『アルティナの真珠』の悪役キャラ、聖女シルティアラに…。このキャラの設定は世界唯一宗教とされるメシア教の教皇が後継人に、最も神力を持つ女性であり、王女が本物であることの証人として立ち向かう役割を持つ。
だけどこのキャラの重要性はそこじゃない。彼女は幼い頃から聖女とした教会に囚われ、自由がなかった。そんな彼女は自由気ままな王女に憧れを抱き、遂には彼女になりたいとすら思ってしまう。
そして教会の不正と共にその場で生きたまま焼き殺されるのだ。誰も彼女の死を悲しまなかった。『完璧』でない聖女など、道端の石より存在価値は低いのだ。
誰もが誇るよう言ったシルクの髪も、録に日光に当てられなかった白肌も、全てが焼き爛え、人として死なせてもらえなかった。
最初は分からなかった。ただ全く異なる世界に記憶を持ったまま誕生したことによる不安があっただけ。それでもまだ怖かったけど、五歳の頃偶然教皇の目に止まってしまったことで自分の運命(さだめ) を知った。
それからは今にも餓え死にそうな孤児院から豪華絢爛な教会本拠地に暮らすようになったけど、死ぬと決まっている未来にいつも怯えていた。
毎夜悪夢に怯え、食事も満足に通らない。一日が過ぎるごとに、死の感覚が鋭くなっていく。願いとは裏腹に増え続ける神力も、恩人と慕う人達も、全て投げ出してしまいたい。
私が否定し続けても、物語が始まってしまえば衝動に駆られてしまうかもしれない。生きたまま焼き殺されるも、誰も私の死を看取ってくれないのも、…嫌だよっ。
この世界は命が軽い。寄付金を積んだ貴族は瀕死の患者より優先される。小説で王女が湖に落ちた際緊急で私を呼びつけたけど、ずっと前から私を待っていた人がその間に何人と死んだことだろうか。
孤児の命は書類上の数字で、貴族子息の命は宝石より重い。私は孤児出身だけど類い稀なる神力でこの座に座っている。
存在を神格化され、息を休める暇がない。こんなの、何処が生きているというのだろうか。まるで生き人形だ。いつ捨てられるかわからない恐怖に、愛想笑いを浮かべながら誰も信じられない。こんな地獄が、あと何年続くのだろう…。
教会の信者にどれだけ崇められようと、私の心はいつも恐怖に縛り付けられている。神力のせいで体調を崩すこともできず、心の疲労だけが溜まる。
綺麗な衣装を纏い、黄金の髪飾りを身につけ、最高峰の宝石をはめようと、その分だけ重りが乗せられたようになる。誰も私を対等には扱ってくれない。『神の代理人』として崇めるか、『商品』として価値を推し量るか。
あぁ、なんて酷い世界だろうか。最近は疫病に苦しむ人を見ても心が動じなくなってしまった。私が作り替えられていく。消耗しきった心が悲鳴を上げて、泣いている。
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聖女に就任して五年。聖地巡りが終わり、一年ぶりの休みですら何をしていいか分からず教会の庭園を散策する。御付きの人の視線が痛い。息苦しい。
ピィ…ッ、ピィイ…。
草影から聴こえた弱った鳴き声の方へ足を変える。掻き分けて進むと致命傷を負った蒼い鳥。鳥の部類だと大きい方だろうか。最初は興味半分だった。だけど、死に際ですら折れない鬱金(うこん)の瞳に、久しぶりに心が揺れ動かされた。
「…大丈夫だよ。助けるから」
思えば自分から神力を使ったのはこらが初めてな気がする。いつもは教皇陛下の指示のまま、従っていたから。みるみるうちに傷は塞がり、自慢の蒼い羽に光が戻ったいく。まだ警戒心があるのか用意には近づいてこないけど、その距離感が私は心地よかった。
「もう自由だよ。飛んでお行き」
蒼い鳥を抱き抱え、天に向けて手を離す。するとどうだろうか。太陽の光を反射させて、その蒼い翼を大きく広げた。
眩しくて思わず右手で遮ったけど、本当に綺麗だと思った。きっとあの蒼い鳥が、私の永遠の『憧れ』になることを何故だか予感できている。
たとえ運命に流されようと、小さな抵抗の火が消えませんように。そう祈って、私は部屋に戻った。
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