上 下
56 / 88
上司がぐいぐいきます。

竜の武器

しおりを挟む

 料理はどれもおいしかった。
 会席というのだろうか。お造り、煮物、焼き魚、蒸し物、ご飯に赤だしのお味噌汁、香の物、そしてデザートと、凝ったお皿に手間暇をかけた料理が並んでいて、六華は一口食べては感心し、しっかりとすべてを味わいつくして箸を置いた。

「ごちそうさまでした。口がずっと幸せでした……」

 さすが山尾の選んだ店だ。お給料を頂戴したら家族で来ようと心に決めながら、お茶を飲む。

「お前、ほんとうにうまそうに食うよな」

 少し先に箸を置いていた大河が、どこか感心したようにつぶやいた。彼は六華ほどこの料理に感動していないらしい。

「いや、うまそうにもなにも、めちゃくちゃおいしかったじゃないですか!」

 なにを言っているのかと、思わず大きな声が出てしまった。

「まぁ、メシがうまいっていうのは元気がある証拠だよ」
「元気って……人を小学生みたいに」
「むくれるなって。褒めてるんだ」

 大河は珍しく楽しそうに笑って、それから腕時計に目を落とした。

「時間もちょうどよかったな」
「あ……」

 言われて時計を見れば、あと十五分でお昼休みが終わる。
 食べている最中はどうでもいいおしゃべり(主に六華のくだらない失敗談や面白トーク)で終始六華がしゃべり倒していたのだ。
 本当は六華だって、久我大河の内面に近づけるような話をしたいと思っていたはずなのに、なかなかうまくいかないものだ。

(だけど、久我大河が私の話で笑ってくれるとそれはそれで嬉しいのよね……)

 だがふたりきりで話せるチャンスなどそうそうあるとは限らない。
 六華は背筋を伸ばして、「あの、ひとつお聞きしていいですか?」と大河を正面から見つめた。

「ん?」

 大河は優雅な手つきでお茶を飲み、目を伏せる。

「晩さん会の時のことです。私、ずっと気になっていて」
「――」

 六華が疑問を口にした瞬間、ぴんと空気が張り詰めた気がした。
 だがここで自分の気持ちを引っ込めては、彼との関係を進めることはできないはずだ。
 六華は一歩も引かないという気持ちを込めて、膝の上でこぶしを握った。

「隊長、あの時は武器を持っていませんでしたよね。だから私、どこかに暗器を隠し持っているんだろうって思っていたんです。でも鵺(ぬえ)を倒した後も、あなたはずっと手ぶらだった……。どうやってあやかしを――鵺を倒したんですか?」

 大河が目を伏せると、長いまつ毛が頬に影を落とす。
 神経が張り詰めているせいか、ちくたくと、時計の秒針が時を刻む音がやたら大きく聞こえてしまう。

(……なにか言って、久我大河……)

 以前彼のプライベートに悪気なく踏み込んだ時は即座に拒まれたが、今は違う。
 きっと心を開いてくれると六華は信じたかった。

「――お前は」
「え?」
「お前は、自分が入隊時に与えられた珊瑚のことを、どれだけ知っている?」
「珊瑚のことをですか……?」

 六華はとっさに、腰に差したままの珊瑚に指先で触れた。

「――竜の鍛冶職人が鍛えた、神の力を帯びた剣だと聞いています。だからただの武器では太刀打ちできない『陰の気』やあやかしを切ることができるんですよね」
「ああ、そうだな」

 大河はそこでようやく顔を上げた。

「ではなぜ、珊瑚含めて、圧倒的に数が少ないと思う?」
「どういうことでしょうか」

 六華は大河の意図がつかめず、首をかしげる。

「強力な武器なら、たくさんつくればいい。三番隊だけではなく、国中の防衛のかなめに応用するべきだろう」
「たしかに――そういわれれば……」

 六華はふむ、と顎先に指を乗せた。

 三番隊には三十人程度の隊士がいる。
 例えば六華の珊瑚、大河の金剛。そして玲の紅玉(こうぎょく)。
 隊士全員に武器が与えられ、同じ刀は二振りとない。

「やはり刀鍛冶がそれほど数がいないからでは」

 鍛冶師がどこの誰かは知らないが、やはり量産できるものではないのだろう。六華は正解を言い当てた気になったが、大河はゆっくりと首を振った。

「竜の一族は二千年前からこの国に君臨しているのに?」
「あ……」

 大河の言うとおり、この国は竜王によって平和が保たれている。世界的にも最も安定した国家といえるはずだ。なのになぜ竜の武器が少ないのか――。

「……どういうことなんでしょうか」

 そこでようやく、六華は大河の問いかけの真意に気が付いた。

(久我大河は、自分が持っている『金剛』がどんな存在なのか、知っているんだ……!)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

好きすぎて、壊れるまで抱きたい。

すずなり。
恋愛
ある日、俺の前に現れた女の子。 「はぁ・・はぁ・・・」 「ちょっと待ってろよ?」 息苦しそうにしてるから診ようと思い、聴診器を取りに行った。戻ってくるとその女の子は姿を消していた。 「どこいった?」 また別の日、その女の子を見かけたのに、声をかける前にその子は姿を消す。 「幽霊だったりして・・・。」 そんな不安が頭をよぎったけど、その女の子は同期の彼女だったことが判明。可愛くて眩しく笑う女の子に惹かれていく自分。無駄なことは諦めて他の女を抱くけれども、イくことができない。 だめだと思っていても・・・想いは加速していく。 俺は彼女を好きになってもいいんだろうか・・・。 ※お話の世界は全て想像の世界です。現実世界とは何の関係もありません。 ※いつもは1日1~3ページ公開なのですが、このお話は週一公開にしようと思います。 ※お気に入りに登録してもらえたら嬉しいです。すずなり。 いつも読んでくださってありがとうございます。体調がすぐれない為、一旦お休みさせていただきます。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。

花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。 フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。 王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。 王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。 そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。 そして王宮の離れに連れて来られた。 そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。 私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い! そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。 ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...