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番外編

番外編①-3

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「いいか、絶対に声をかけられてもついていくんじゃないぞ。サーシャが話してもいいのは子供と、騎士団の団員だけだ」

 肩を掴み、何度も言い聞かせるラインハルトに溜め息が零れそうになる。そんな子供じゃないんだから、という言葉は飲み込んだ。
 何がスイッチになるかわからないから迂闊なことは喋れなかった。

 ついこないだなんて、「街へ行ってくる」と言っただけで「俺を置いて行くのか。誰のところに行くんだ。どうして俺から離れるんだよ。俺はサーシャがいなくちゃ生きていけないのに。サーシャは俺がいなくても云々かんぬん」と情緒不安定になるものだから、ラインハルトが寝付くまで付き添っていたら結局街にも行けず寝落ちしてしまった。

 世間では、ラインハルトみたいなのをヤンデレというらしい。街娘のマリンダが教えてくれた。
「監禁されてないだけいいじゃん」的なことを言われたが以前監禁されましたが何か。これ以上はいけない、と耳を塞いで情報をシャットアウトしたが、ヤンデレは何がきっかけで発動するかわからないトラップだと思えと言われた。

 どうして恋人といるのにそんなトラップを気にしなくてはいけないんだ。
 言いたいことも言えない関係を恋人と呼んでいいのだろうか。ラインハルトの壊れ具合をサーシャは発作と呼んでいる。監禁されるくらいなら別にいいかな、と思い始めているあたり末期である。

「それは何度も聞いたわ。それより……お揃いなのに、褒めてくれないの?」

 青と黒を基調としたワンピースドレスは、スタイルの良さを強調し、サーシャにとっても良く似合っていた。ふんだんにフリルとレースをあしらわれたドレスは深海の花のようで、ところどころに小さな宝石がちりばめられてきらきらと光る。
 黒髪を複雑に編みこんでアップにされた髪には一輪の蒼い花が飾られている。王国騎士団を表す鷲のモチーフが胸もとのリボンにピンで留められ、普段はノーメイクのサーシャもうっすらと化粧を施され、宝石の原石が磨かれたように美しかった。

「……やっぱり、部屋に閉じ込めて」
「嫌よ。私もパレードに行きたいわ。それに、お揃いよ、ふふっ、レイの団服もよく似合っているわ」

 着飾ったラインハルトの隣に並ぶのが聖女様なのが、すこしばかり思うところはあるけれど。

 隊の風紀を乱すから、表立って並んで歩けない。サーシャは副団長の秘書官で、ラインハルトは誰もが憧れる騎士団副団長。
 心の中には未だに、聖女様の「つりあってない」という言葉が残っている。
 いくら綺麗に身形を整えたった、サーシャは副団長の斜め後ろに控える秘書官でしかない。

 晴れて恋人同士となっても、ろくにデートなんてできず、前なら我慢できた気持ちが我慢できなくなっている自分に嫌気が差す。

「サーシャ?」

 伸ばされた手に、ハッとして後ろへと下がった。

「……」
「ぁ、えっ、あの、……誰が見てるかもわからない場所での接触は、あまり良くないと思うの」
「……ふぅん」

 あからさまに声のトーンが下がったラインハルトに冷や汗が伝う。

「俺はこんなにも、サーシャに恋焦がれて触れ合いたいと思っているのに」

 くん、と腰を掬われ、口付けられる。
 たっぷり十秒間、キスをされたサーシャの顔は真っ赤に染まった。

「ばかっ」と罵りそうになった言葉は二度目のキスで飲み込まれる。
 誰に見られるかわからない、と言ったのは自分なのに、甘い触れるだけのキスに酔いしれているのも自分だ。
 文句も言えず、キスを受け入れ、スカートの裾から滑り込んだ手のひらが太ももを撫でつけるのに気づいて、ようやくラインハルトの胸を叩いた。

「ばっ、ばか! レイのおばか!」
「なんだよ、嬉しそうにしてたくせに」
「ッ……!」

 真っ赤な林檎のように顔を染め上げたのは羞恥か怒りか。

 サーシャの様子に機嫌を直したラインハルトは喉を転がして笑い、艶やかな黒髪を掬い挙げ、口付けをする。

「警護が終わったら、一緒に街を回ろう」

 ――後にそれをフラグと言う。

 

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