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本編

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 熱く、感情の滾る瞳は、ラインハルトとはまったく違う色をしていた。

「――……私は、」

 ここまで来て、考えるのは寂しがりやで、人一倍頑張りやな幼馴染のこと。
 嗚呼、やっぱり私はラインハルトのことが好きで、諦めるなんてできないんだ。

 恋人関係になったとき、覚悟していた。いつか別れなければいけないときが来ると。
 けれど、恋人として、甘い時間を、大切なひと時過ごしてしまえば、もう後戻りはできなかった。欲張りになってしまった自分に、溜め息を吐く。

「私は、貴方とは結婚できません」
「――この子は、俺のだ」

 重なったふたつの声に、サーシャは目を見開き、アロイスは唖然とした。

 見合いの場に、乱入者だ。

「レ、イ」

 深い青に、金の装飾の施されたジャケット。真っ白いパンツは純潔の白だ。胸もとにはいくつもの称号は階級の高さを表した。
 膝下まである編上げの皮のブーツはよく磨かれ、踵を鳴らしてサロンに入ってきた男――ラインハルトは腕の中にサーシャを引き入れる。

「な、なにを」
「申し訳ないが、この子は、サーシャは俺のものだ。貴殿にはやれない」

 碧玉の瞳は爛爛と輝いて、アロイスを貫く。
 眼光の鋭さにたじろぎ、言葉を飲み込んだ見合い相手。

「……貴方は誰だ。ケルル嬢を物扱いするような輩に、」
「物扱いじゃない。サーシャと俺が出会ったときから、今まで、サーシャは俺のモノなんだよ。ポッと出の見合い相手になんかやれるわけない」

 低く、唸るような声にアロイスの顔付きも険しくなる。

 目を白黒とさせて、サーシャは息を飲んだ。

 金の装飾の施された真っ青なナポレオンジャケットに、純白のパンツ。騎士団の正式装束で、正式な公の場でなければ身につけることを許されない衣装だ。
 常であればさらさらと風に流れる金髪は、整髪料でオールバックにされて、額が露わになり整った顔が曝け出されている。

 ほう、と魅入って呆けるサーシャに、アロイスは呆然と言葉を失う。

「同じ土俵に上がってから出直してくることだ」

 結婚式で浚われる花嫁のように、ラインハルトの腕に抱かれてサロンから連れ出される。
 近くに繋がれていた馬は黒毛の艶々としたラインハルトの愛馬だ。

「レイ、初めからこのつもりだったのね」

 不思議と、声色は穏やかだった。

「当たり前だ。俺は、サーシャを離すつもりなんかない。見合いを中止させられないのなら、ぶち壊してしまえばいいんだ」

 あっけらかんと言い放った

「きっと、お父さんに怒られるわ」
「その時も一緒だ。――これからもずっと、一緒にいてほしい」

 満天の星空のように、蒼い瞳をきらきらと見開いて、サーシャは頷いた。

 
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